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こわい話にはウラがある?
大注目の【第10回角川つばさ文庫小説賞《特別賞》受賞作】をどこよりも早くヨメルバで大公開!
アンケートもあるので、ぜひ、連載を読んで、みんなの感想を聞かせてね!
『学校の怪異談 真堂レイはだませない』は2022年12月14日発売予定です! お楽しみに♪
表紙・もくじページ
【1-7 さあ考えよう。どうして幽霊は泣いているのか】
屋上へとつづく階段、理科室の奥にある準備室、水の張っていないプール――学校のひとけのない場所を、わたしと先輩はいくつもめぐった。
そして、
「先輩、いました……!」
校舎(こうしゃ)わきの、使われていない焼却炉(しょうきゃくろ)の裏に、幽霊さんは身を隠(かく)すようにしてうずくまっていた。
幽霊さんの顔は、いまも涙でぬれている。
「そうか、そこにいるのか」
「先輩には、視(み)えませんか?」
「うむ。なにも視えないよ」
先輩は残念そうに言った。それを聞いて、わたしも残念だった。
やっぱり、わたしの世界と先輩の世界は、交わらないんだ。
……いや、いまは残念がってるときじゃない。
わたしは幽霊さんのほうに向きなおって、大きく息を吐いてから、
「あ、あのっ」
と呼びかけた。
ビクッと肩を震(ふる)わせる幽霊さんを見て、わたしの胸にヒビが入ったかのような痛みが走る。幽霊さんはきっと、だれかに見つけられるたびに、あんな風におびえていたんだ。
「ま、まってください! 行かないで!」
逃げだそうとする幽霊さんに、わたしは必死で呼びかけた。だけどその必死さが、よけいに彼女をおびえさせてしまう。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
このままじゃ、わたしのせいで。わたしの、わたしのせいで――
「ちがうだろ、柊(しゅう)」
先輩が、焦(あせ)ってとり乱すわたしの肩に、そっと手を置く。
「その言葉はちがう。そうじゃなかったはずだ」
先輩の声が、耳から入り、全身にひびく。わたしの中にあった焦りが、魔法のように消える。
そうだ。この言葉はちがう。胸に手を当て、わたしは長く息を吐く。
……よし。
「Just a moment please(待ってください).」
わたしがそう言うと、ふたたび幽霊さんはビクッと肩を震わせた。
さっきとちがうのは、おびえているのではなく、たぶんおどろいているのだということ。
「Just a moment please.Please listen to me(待ってください。話を聞いてください).」
幽霊さんはあきらかに、わたしの言葉に耳をかたむけている。
先輩の言ったとおりだ。やっぱり幽霊さんは、日本語がわからなかったんだ。
前もって用意しておいた英文を読みながら、わたしは幽霊さんにうったえつづけた。
さっきはひどいことを言ってごめんなさい。あなたを傷(きず)つけるつもりはありませんでした。わたしはあなたに、伝えたいことがあります。
あなたはすでに亡(な)くなっているんです。だから、隠れる必要はありません。
あなたを傷つけていた人たちは、みんないなくなりました。だから、あなたにはもう、学校にとらわれる理由がないんです。
「I'll help you too(ボクも手伝うよ).」
先輩も幽霊さんに呼びかける。姿が見えていないので、目線はおかしな方向を向いていた。
「I pray for your soul may rest in peace(キミの冥福をボクは祈るよ).」
「m、me too(わ、わたしも)!」
幽霊さんは、わたしと先輩を交互(こうご)に見る。その目にはもう、涙を浮かべてはいなかった。
「Sara(サラ)」
やがて、そっとつぶやく幽霊さん。
「サラ……そっか、サラっていうんですね? あなたの名前はサラさん。えーっと、グ、グッド、good name(グッドネーム)です!」
必死に言葉をつむぐわたしがおかしかったのか、サラさんの表情が、フワッと花が咲くようにほころんだ。
と、思った、そのとき。
目の前のサラさんが、一瞬で消えてしまった。
なんの前ぶれもなく、なんの痕跡(こんせき)も残さないで。サラさんはわたしたちの前からいなくなってしまった。
「柊、どうしたんだい?」
「……サラさんが、消えてしまいました」
「そっか。いってしまったんだね」
わたしは空を見上げた。抜けるような青空が、どこまでも広がっていた。
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<第9回は2022年11月29日更新予定です!>
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・伝承等とは一切関係ありません。
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