4 科目男子あらわる!
「ちょっと! ねぇ! はなしてよ、算数くん!」
「ケイとよべ。そして目的地に到着するまではなすつもりはない。以上」
以上じゃないよ! なにも解決してないってば!
道行くおばさまがたに「あらあら」「青春ねぇ」って笑われるし~!
はずかしさと恐怖で必死に抵抗するけど、力ではかなわない。
ずるずると引きずられるように道を歩きながら、けんめいに頭を回転させる。
「じゃ、じゃあ、ケイ……くん? いや、ケイさん?」
「さんをつけるな! つぎ、そうよんだらタダじゃおかないからな!」
「えぇっ!?」
「オレたちのことは全員下の名前でよべ。ややこしくてかなわん」
オレたち? たちってだれ?
もう~~~っ、なんなのこの人!?
話、ぜんぜんつうじない!
優ちゃんが前に言ってたアレだよ、「イシのソースがでない」ってやつ!
(それを言うなら「意思の疎通ができない」だね!)
「わかった、ケイ! わたしをどこへ連れてくつもり? そのくらい教えてよ!」
「おまえのせいで時間がないんだぞ! こっちは説明してる時間もおしいんだ!」
だから、わけわかんないってば~!
ぎゃあぎゃあ話していたら、わりとうちの近くまで来ていることに気づく。
よし。いざとなったら猛ダッシュして、家にかけこもう。
で、おばあちゃんに警察よんでもらって……。
頭のなかでシミュレーションしていると、ケイが、ようやく足を止めた。
「……ん?」
見なれた門柱に、見なれた表札がふたつ。
『大福』『花丸』
大福はおばあちゃんの苗字で、花丸は……わたし。
「ここ……うちなんですけど……」
「知ってる」
ケイの言葉に、ぞわっと背筋が凍る。
「な、なんで、うちを知ってるの……!?」
「知ってるにきまってるだろ。近くで、ずっと見てたんだから」
「近くで、ずっとって……」
はっ! まさか。ススス、ストーカー!?
わたしみたいな平凡地味子に? そんなことある?
いや……でも世の中、もの好きもいるって言うからね(自分で言っといてちょっとかなしい)。
よし、きめた。
「通報します!」
「は?」
「ぶっそうな世の中、自分の身は自分で守ろうと思いますので! ではっ!」
「おい、なにする気だ、やめろ!」
「はなしてっ!」
「──ケイ」
そのとき、うしろからだれかの声が聞こえた。
もみあっていたわたしとケイは、同時にふりかえる。
「こわがっていますよ。手をはなしてください」
場の空気をガラリと変えるような、すんだ声だった。
サラサラの黒髪に、知的な瞳の男の子。
顔を見て、ハッとする。
「あ、転校生の……!」
そこには、話題の「四人のイケメン転校生」、のこり三人の姿があった。
クラスの女子が一日中さんざん話してたから、もうフルネームまで頭に入ってる。
重そうな本を持ってる黒髪の子が、一組の、国語カンジくん。
白衣がトレードマークの小柄な子は、三組の、理科ヒカルくん。
スタイルがよくて大人っぽい子が、四組の、社会レキくん。
みんなそろって変わった名字で、全員、超がつくイケメン。
そんな男子が四人も同じ日に転校してくるんだから、世の中、不思議なこともあるもんだ。
「……あの、助けてくれてありがとう」
ケイの手からようやく解放されたわたしは、すぐに黒髪のカンジくんにお礼を言った。
彼はおだやかな笑みをうかべ、首を横にふる。
「いえ。『とりつく島もない』ケイの態度では、だれだって戸惑います」
「とりつくしま?」
とり、つくね……焼き鳥の話?
ぽかんとしていると、カンジくんはやさしく目を細め、手に持った本を見せてくれた。
重そうだと思ってたら、それ、辞書だったんだ。
「慣用句ですよ。話そうとしても相手がつめたく、会話にならないことを言います。ケイのことだから、なにも説明しないで無理やり連れてきたんでしょう。彼の無礼、俺がかわりにおわびします」
きちんとお辞儀をするカンジくん。
丁寧な言葉づかいに、おだやかな笑顔。
不安でいっぱいだった心が、すこしだけ落ちつきをとりもどす。
(素敵だなぁ、カンジくん。やさしいし礼儀正しくて……)
ドキドキしながら見ていると、ケイがふんと鼻をならした。
「コイツの行動は予測不能だぞ。つかまえとかないと、なにをしでかすかわからん」
「あ~、たしかに! いきなり教科書全捨てはスゴイよな~!」
声をあげたのは、おしゃれ男子のレキくん。
人なつっこい笑顔で、ケラケラ笑う。
「まるちゃんは、破天荒さでいうと伊達政宗タイプだね。政宗くん、よく茶碗ブチ割ってたな~」
「ま、まさむねくん?」
お友だち?
しかも、いま、わたしのこと「まるちゃん」って……?
不思議。まるで、昔からの知り合いみたいにあだ名でよぶんだもん。
首をかしげながら、ふと横を見──、
「ギャーーーーーッ!!」
びっくりしておもわずのけぞる。
わたしの肩に、トカゲみたいな生き物が!?
「ト、トカゲが! やだ、とって! こわいっ!」
「カメレオンのカッちゃんだよ」
ボソッと言ったのは、小柄男子のヒカルくんだった。
「は虫類トカゲ目だからトカゲの仲間。でも、大丈夫、かんだりしない」
ヒカルくんは、じーっとカメレオン……カッちゃんを見つめながら言う。
おとなしそうな雰囲気だけど、その瞳はキラキラかがやいてる。
……動物、好きなのかな?
「まるまるは、きっとカッちゃんといいお友だちになれるよ」
「えっ、そ、そう……?」
ヒカルくんはうれしそうにうなずきながら、カッちゃんをだきかかえる。
「ん? ……まるまるって、わたしのこと?」
ヒカルくんも、わたしのことあだ名でよぶんだ。
話したの、今日がはじめてなのに……。
自由にしゃべる男子たちにとまどっていると、ふたたびケイが「おい」と声をあげる。
「現時点で五分十二秒もムダにしてる。さっさとはじめるぞ」
「だ、だから、はじめるってなにを!?」
わたしが聞くと、ケイはカッと目をむく。
「勉強にきまってるだろ!」
えぇっ、ナゼ!?
なんで、ここで勉強の話が出てくるの!?
まっっっったく意味がわかりませんけど!!
声にならないさけびをあげていると、レキくんがススッと近づいてくる。
「まーまー、落ちつけって。ケイ、まずは自己紹介だろ?」
「おまえらは余裕があるからそんな態度なんだ! オレには、あと七日しかないんだぞ!」
七日? ……いったいなんの話?
「でもさ。まるちゃんだって、おれたちの正体も知らないままじゃ、そりゃ混乱するよね?」
言いながら、レキくんはさりげなく、わたしの肩に手をまわしてくる。
うわ、めっちゃなれた手つきだ。
これはチャラいぞ……!
「あ、あはは……そうなんだよね、混乱しちゃって……」
あいそ笑いをうかべつつ、そっと手をひきはがす。
ついでに、右へ、すすっと距離をとろうとしたら、
「わっ!」
目の前にカメレオン。
いそいでさらに右へ。
ササッ
いちばん信用できそうな、カンジくんのうしろにかくれさせてもらう。
「せ、説明してください! いったいなにがおきてるのか!」
さけぶわたしに、ケイはいらだった表情をむける。
「言わなくたって、もうわかってるだろ。こっちには時間がないんだぞ!」
「わからない! ワタシ、ナニモワカラナイヨ!」
ブンブン首を横にふる。
「まったく、カンのわるいやつだな。この程度の推測ができないようじゃ先が思いやられ……」
じろーん
男子三人プラスわたしの視線が、ケイにそそがれる。
「…………」
ケイはしぶい顔をしたあと、大きくため息をついた。
「わかった。一度しか言わないから、よく聞け」
わたしはごくりとつばを飲みこみ、耳をかたむける。
これだけもったいぶっていばってるんだから、きっとスゴイことを言うはずだ。
ドキドキドキ……
ケイは表情を変えず、じっとわたしを見て。
言った。
「オレたちは────おまえが捨てた、教科書だ」
『時間割男子① わたしのテストは命がけ!』
第2回へつづく
書籍情報
最新20巻 7月8日発売予定!
- 【定価】
- 880円(本体800円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046324085