3 算数なんかだいっきらい!
意味不明なイケメン転校生は、ようやくおとなしくなった。
こんどはノートにむかって、一心不乱になにか書きこんでる。
はぁ……なんかつかれちゃったなぁ。
ヘンな転校生に、ニガテな算数の授業……。
わたしは両手で頭をかかえて、目をとじた。
(気分が落ちこむ……こんなときは……やっぱ、アレしかないよね!)
妄想スイッチ──ON!
頭のなかに広がるのは、見わたすかぎりの花畑。
風はそよそよ、やさしく髪をゆらして、甘いかおりが鼻をくすぐる。
ここは、わたしの脳内妄想世界。
今日は仲よしの動物たちと、たのしいお茶会なの! ウフフ。
ネコとウサギ、リス、キツネ、ネズミ。そしてわたし。
みんなであつまって、おやつを食べながらおしゃべりするのがいつものパターン。
「さ~て、きょうのおやつは……?」
ワクワクと胸をおどらせてテーブルを見ると。
そこには、バケツでつくったみたいな、ジャンボプリンが!
なめらかでぷるんぷるん、うすたまご色のボディー。
まるで王冠のようにてっぺんで輝く、琥珀色のカラメルソース。
あぁ、これはぜったいおいしい。まちがいない!
見ているだけで、幸せな気持ちにみたされていく。
ウフフ。ウフフフフ。
「──待って、ちゃんと六人分に取り分けなきゃ」
スプーンをのばそうとしたら、ネコさんに止められた。
「一グラム単位で正確にわける。きっかり平等になるまでプリンはおあずけだ」
「えぇっ!? そんなの無理だよ~」
「算数を習ってれば簡単だ、このくらい」
はやくとりわけなきゃ、プリンが食べられない!
……でも、六等分ってどうすればできるの?
スプーンで少しずつすくって、重さをはかる?
ケーキみたいに切りわける?
でも、ここは森の花畑。はかりもなければ包丁もない。
それにわたし、計算が超ニガテだし……一グラム単位でわけるなんて、無理に決まってるよ!
イライラしてきて、スプーンをギギギとつよくにぎる。
(あぁ、もう! プリン……はやく食べたいのに……!)
それもこれも、算数のせいだ。
算数なんか……。
「算数なんか、だいっきらいなんだから~~~~~っ!!」
「──おい、おまえっ!!」
とつぜん、目の前にぬっと、鬼の顔があらわれた。
「わぁぁっ!?」
プリンが鬼になった!?
…………って、ちがう。鬼じゃなくて算数くんだ。
そうだ。すっかりボーッとしてたけど、授業中でした。
「算数がきらい……? よくもそんなことを!」
立ち上がってつめよってくる算数くん。
その手は、ぷるぷると怒りにふるえている。
「えっ!?」
(も、もしかして、さっきの心のさけび、声に出ちゃってた!?)
うわ~っ、はずかしすぎる!
っていうか、それ以上に、こわすぎる~~っ!!
ふるえながらちぢこまっていると、川熊先生があわてたように止めに入る。
「おいおい、算数、落ちつけ。花丸も急に大声出してどうした?」
「すみません、ちょっと寝ぼけて……」
苦笑いでごまかすと、先生は「集中しろよ」と言いながら、算数くんの肩に手をのせる。
「どうした。なにかあったのか?」
算数くんはなにか言いたげに歯を食いしばっていたけど、しばらくして、
「……いえ。すみませんでした」
ドカッと自分の席に座った。
となりからは、あいかわらずピリピリした空気がとんでくる。
ひ、ひえええ……こわいよぉ……。
おびえながら首をちぢめていると。
「……花丸、おまえ大丈夫か?」
先生が声をひそめて耳打ちしてきた。
「大変なことがあったあとだし、もし体調が悪いなら、ムリしなくていいぞ」
気づかわしげな目。
胸にモヤッとわきあがる痛みを押しこめて、わたしは、パッと笑みをつくった。
「いえ……大丈夫です! こないだのテストの点が悪すぎて、ガッカリしてただけです」
「ぎゃはは! 7点じゃ、そりゃガッカリするよな~!」
うしろの席の男子が笑いながら言った。
「花丸が赤点なのはいつものことじゃん!」
「たしかに!」
「コラッ! クラスの仲間をバカにするのはゆるさんぞ!」
先生は男子たちを注意すると、「じゃあ説明にもどるぞー」と教卓へもどっていった。
それからも、転校生の算数くんは、不機嫌なオーラをわたしにむけまくってきた。
(もしかすると……『算数なんかだいっきらい』って言ったの、自分のことだと思ったのかな?)
科目の算数のことで、算数くんのことではないんだけどなぁ。
ゴカイ、といておいたほうがいいかな?
でも、あの人コワイし。わたし、きらわれてるっぽいし……。
なんて、なやんでいるあいだに、あっというまに一日がすぎていった。
(とにかく……今日はつかれたから、考えるのは明日にしよう!)
そうきめて、放課後になるなり、ダッシュで下駄箱へ。
帰ったら、プリン食べて元気だそう。
昨日、四個入りのやつをおばあちゃんに買ってもらったばかりなんだ!
イヤなことがあった日は、妄想とプリン。これっきゃないね!
よ~~~し!
「おい待て!」
「えっ?」
よびとめられてふりむく。
──そこには、鬼がいた。
キッと目をつりあげ、髪の毛が逆立つくらいにメラメラと怒りをたぎらせる、算数くん。
彼はわたしの腕をがっちりつかみ、カッと目を見ひらく。
「オレが言いたいことはわかるな? 責任はとってもらうぞ!!」
「えっ? えっ?」
な、なんなの~~~~~~~~~~っ!?