テストの点数=寿命!? 勉強しないと殺人犯!?
科目男子とのトキメキ(!?) おべんきょ生活、スタート!
(全5回・毎週月・金曜更新予定)(公開期限:2026年1月12日(月)23:59まで)
※これまでのお話はこちらから
目次
人物紹介
わたし、花丸円(はなまる・まどか)。
「こんなもの、いらないッ!」
ゴミ捨て場に教科書を投げ捨てた、次の週――。
なんと…!捨てたはずの算国理社の教科書が、4人の男子になってやってきた!?
5 勉強しないと殺人犯!?
「どうしたの~、まるちゃん? いっしょにおやつ食べよ~」
あれっ、森の仲間たち!
気がつくと、そこは森のなかだった。
ネコさん、ウサギさん、リスさん、キツネさん。みんながやさしくわたしをとりかこむ。
「元気ないね?」
「プリン食べれば元気が出るんじゃない?」
え~、プリン食べた~い! どこにあるの?
ウフフフフ。
エヘヘヘヘ。
「──おい」
とつぜん、やさしい世界に似つかわしくない、低い声が聞こえた。
森の景色を切りさくように、ぬうっとあらわれる、男子の顔。
「わあっ!?」
「白目をむいて現実逃避するのはやめろ!」
氷みたいにつめたい言葉。
ケイの顔を見たら、一気に現実にひきもどされた。
景色は森じゃなく、わたしの部屋。
そして、ずらりとそろって座る、転校生の男子、四人。
(そうだった……まだ、話は途中だったんだっけ……)
でも、いきなり家に押しかけられて、そのうえ、「俺たちは教科書だ」とかワケわかんないこと言われたら、そりゃ現実逃避したくもなるよ……。
なんやかんや、部屋のなかまで入られちゃったし……。
「そ、それで……なにが目的なんですか?」
気をとりなおして、おそるおそるたずねる。
「うちは見てのとおりフツーの家だし、わたしは特別な才能も特技もなーんにもない、平凡女子。なにが目的でわたしをストーカーしてるのか、サッパリわかりません」
「ストーカー?」
眉をひそめるケイ。
「あははっ! おれらストーカーか! おもしろいな~!」
レキくんがおなかをかかえて笑う。
バカにされた気がして、カーッと顔が熱くなる。
「だ、だって、わたしの名前とか家とか知ってたじゃん!」
「ま~、それはね。ここはおれたちの家でもあるからさぁ」
「は、はぁぁ?」
ヘンなこと言わないで! ここは正真正銘、わたしの家だもん!
物心ついてから、男子と暮らしたことなんて一度たりともないし!
わけのわからないことばかり言う男子たちに、プンスカ怒っていると。
「大丈夫、俺たちはあなたに害をあたえるつもりはまったくありませんから」
カンジくんのやさしい声で、なんとか冷静さをたもつ。
まぁ……ワケわかんないことにはかわりないんだけど……。
うつむくわたしを、カンジくんは心配そうにのぞきこむ。
「急に信じろというのは、ムリがあるかもしれません。でも……俺たちがあなたの教科書だというのは、本当です。だから俺たちはまどかさんの名前や住所も知っているし、ここが俺たちの家だというのも、ウソではないんですよ」
うぅ。カンジくんまで、そんなこと言ってさ……。
教科書、って言われても。
言われても…………。
そんなワケわかんないこと、信じられるわけないよ。
「こまりましたね。どう説明したら信じてもらえるのか……」
腕組みをしてうつむくカンジくん。
やさしいカンジくんをこまらせちゃうのは心苦しいけど、わからないものは、わからないもん。
「──そうだ。アレ見せてやれよ、ケイ!」
ふいに、レキくんがぽんとひざをうった。
ケイはぎょっとしたように顔をしかめる。
「おい、アレってまさか……」
「たしかに、アレを見れば、まどかさんも信じてくれるでしょう」
「うん。アレはインパクトあるよね」
うなずく男子たち。
ア、アレとは……?
わたしが身がまえていると、ケイはますますしかめっつらで、フンと鼻を鳴らす。
「断る。なぜオレが──」
瞬間、ヒカルくんがぴらっとケイのシャツをまくった。
目の前に。
おなか。
男子の。
「キャーーーッ!」
「ギャーーーッ!」
わたしとケイが同時にさけぶ。
「いや~~~っ! ヘンタイ!」
「ゴカイをまねく発言はやめろ! オレも被害者だ~~~~っ!」
ケイはじたばたと必死に抵抗するけど、レキくんとカンジくんにがっちりおさえられてうごけない。
わたしはいそいで両手で顔をおおった。
カーッと頭に血がのぼる。やばい、体が熱い!
「は、はやくしまって!」
「まどかさん、大丈夫ですよ」
カンジくんの声。
「俺を信じて、目をあけてください」
澄んだおだやかな声に、すこしだけ混乱がおさまる。
(うぅ、カンジくんが言うなら……ちょっとだけ……)
そっと目をあけると──目の前に、ケイのわき腹。
ヤダ、やっぱしまってないじゃん!
と、思った瞬間──わたしはあるものにくぎづけになった。
さっきは気がつかなかったけど、おなかに、文字が書かれてる。
イレズミ?
ううん、ちがう……。
「う、そ……」
ぽかんと口がひらく。
その文字には、はっきりと見覚えがあった。
『ニガテな科目も好きになれるように、教科書におまじない書いといてあげるね──』
これって、あの日、ママが書いてくれたヒミツのおまじない……!?
でも、あのおまじないは、さいごのページのすみに書いてあって。
ほかのだれにも、優ちゃんにさえ見せたことなかったのに!
ケイに近づいて、まじまじと見る。
まちがいない……ママの文字だ!
「なんで、ママの字が、ここに……?」
信じられない。
でも。
──信じれば、すべて説明がつく。
ゴミ捨て場に捨てた四冊の教科書がなくなって、四人があらわれたこと。
転校生なのに、わたしの名前や家を知ってたこと。
ケイが授業で教科書を見ずにページの文章を言い当てたこと。
四人の苗字が、科目とおなじ変わった苗字なこと。
そして……ケイのわき腹の文字。
「じゃあ……本当にみんなは、わたしの教科書……!?」
ふるえる声で言いながら、四人の顔をゆっくりと見る。
カンジくんは、国語。ヒカルくんは理科で、レキくんは社会。
ケイは、算数……。
でも。教科書が人間の姿になるなんて──そんなの、アリ!?
「オレたちは教科書として、ずっとおまえを見てきた。そしてとつぜん、この姿をあたえられたんだ。小五の、男子の姿をな」
ケイがゆっくりと話しだす。
「……だが、オレたちは、まだ人間じゃない」
「えっ、そうなの?」
おどろいて聞きかえす。
どこからどう見ても、ふつうの人間に見えるけど……。
「オレたちが人間とはちがうところ……それは、自分の〝寿命〟がわかるってことだ」
「寿命?」
「そ。おれらの命は、期限つきってこと」
レキくんがこまったようにほほをかく。
「いや~、ほんとイヤな話なんだけどさ。おれたち、自分がいつ〝消える〟のか、だいたいわかるんだよね。ちなみに、おれはのこり十五日~」
レキくんが言うと、ほかの男子たちも口々に言う。
「俺は十八日です」
「僕、十六日」
「……そして、オレは七日だ」
おもわず、えっ、と声が出る。
みんな思った以上に短いけど……ケイだけ、やたら短くない?
「おかしいと思うだろ? タイムリミットには四人でばらつきがある。同時に生まれたのに、だ。そこで、オレはあらゆる視点から要因をさぐり、考察した。その結果……」
ケイはそこまで言って、目をカッと見ひらく。
「オレたちの寿命は、おまえの前回のテストの点数と、完全一致するんだよ!」
「えぇ~~~~っ!?」
テストの点数が、男子たちの寿命に!?
大あわてで、机から、しまいこんでいたテストをひっぱりだしてくる。
社会、15点。国語、18点、理科、16点。
そして──算数、7点。
「ほ、ほんとだ……!」
さっきみんなが言った寿命と、おなじ!
「これでわかっただろ? おまえのせいで、今、オレは死にかけてるんだよ!」
ケイは目を血走らせて、バンッと机をたたく。
「7点だぞ! 100点満点中、7点! ふざけてるだろ!」
「えぇっ? ふざけてないよ。これはぜんぶ一生懸命やった結果で……」
「今日、授業中にやらせたテスト、小二レベルで20点満点中13点だ。これがふざけてないでなんだっていうんだ? 『3×9=21』? どういうことか説明しろ!」
うっ。
そ、それはちょっとしたミスというか……。
「で、でも13点は13点でしょ? ケイの寿命、すこしはのびたんじゃないの?」
「それが可能なら、今からおまえに山ほどのテストをとかせるところなんだがな。オレの寿命はあいかわらず七日だ」
そんな……なんで? テストの点が寿命なんでしょ?
混乱していると、カンジくんが説明してくれる。
「どうやら自作の模擬テストのようなものでは、寿命に影響はないようです。もっと公の、ほかのみんなといっしょに受けるようなテストじゃないといけないのでしょうね」
え~、そうなの?
残念がるわたしを見て、ケイはピキッと青筋を立てる。
「だから、ボーッとしてるヒマはないんだ! いいか? 七日後、来週の月曜日、学校で実力テストがあるよな? そこでおまえがいい点をとらなければ、オレは死ぬんだ! そうなったら、おまえは『殺人犯』だからな!!」
さ……殺人犯っ!?
シゲキのつよい言葉。
つめたくちぢむ心臓を、服の上からぎゅっとおさえる。
「わ、わたし……べつに、なにもしないよ。それを殺人とはいわないよね?」
「ん~、自分の行動によって相手が死ぬとわかっていながら、その行動──つまりここでは『勉強をしない』という行動──をとった場合は、『未必の故意』という考え方にもとづき、殺人罪がみとめられちゃうんだな~、これが」
レキくんが、むずかしい言葉をならべて説明するけど、サッパリわからない!
カンジくんたすけて!
視線をむけると、カンジくんは残念そうな表情でうつむく。
「『往生要集』という本によると、人を殺めたものは地獄に落ちると言われています。『等活地獄』とよばれる浅い場所でも、9125万年にわたり拷問されつづけるとか……」
「ひぇぇ……」
ふるえあがって、ヒカルくんを見る。
ヒカルくんはカメレオンのカッちゃんを抱いたまま、しょんぼりと肩を落とす。
「僕……消えるの?」
そっ……そんな目で見ないで……っ!
胸が痛い!
「──勉強、するよな?」
じいっと、みんなの視線。
プレッシャーに、ごくりとつばをのみこむわたし。
(勉強は、しない。勉強はもうしない。そう、きめたんだ……)
心のなかでとなえるわたしにしびれをきらしたのか、ケイが、カッと目を見ひらいた。
「いいから返事ぃぃぃぃ!!」
「はっ、はいいいいいいっ!!」
こうして、わたしと科目男子四人の、命がけのお勉強ウィークがスタートしたのだった。