テストの点数=寿命!? 勉強しないと殺人犯!?
科目男子とのトキメキ(!?) おべんきょ生活、スタート!
(全5回・毎週月・金曜更新予定)(公開期限:2026年1月12日(月)23:59まで)
※これまでのお話はこちらから
目次
人物紹介
わたし、花丸円(はなまる・まどか)。
算国理社の教科書が、4人の男子になってやってきた!?
しかも、彼らの寿命は、わたしのテストの点数で決まるっていわれて!?
学校の実力テストまで、命がけのお勉強ウィークがスタートしたのだけど……。
8 【水曜日・国語】ドキドキの漢字練習!
「ふぁぁ~~~~~~~~~~……」
次の日の昼休み。
わたしは大きなあくびをすると、ヘロヘロと机につっぷした。
けっきょく、昨日は十二時ギリギリまでプリントをとかされつづけたの。
もう数字がこわすぎて、黒板の日付を見るだけでも鳥肌が立つ……。
「まる、大丈夫? 顔色わるいわよ」
「ちょっと数字アレルギーが悪化して……うぅ、頭痛が……」
うしろの席に座って、心配そうに背中をさすってくれる優ちゃん。
そのやさしさに、すこし心がいやされる。
「……あら、なにかしら」
ふと、優ちゃんが声をあげた。
顔をあげて、優ちゃんの視線の先を追うと、廊下の一角に人だかりができていた。
その中心にいるのは……。
「カンジくん?」
わたしはショボショボする目をこらす。
人だかりのむこうにチラッと見えたのは──おだやかに笑うカンジくんの横顔。
カンジくんは転校三日目にして、もう「読書プリンス」ってあだ名がついてる人気者。
みんなにおすすめの本を教えてくれて、それを読むと、今まで朝読で居眠りしてた男子でさえ、本が大好きになっちゃうんだって。
わたしも、元気があるときに、なにかおすすめしてもらおうかな……元気があるときに……。
「まるって、昔はけっこう国語得意だったわよね」
「ん~、得意ってほどじゃないけど、妄想が好きだから物語を読むのは好きだったな。でも、漢字が覚えられなくなってから、ふりがなのある本しか読めなくなっちゃって……」
ふりがなって、ありがたいよね。
すべての本にふりがながあるといいのになぁ~。
数字アレルギーからくる頭痛とたたかってるうちに、あっというまに、放課後になった。
今日はケイがうるさく言ってくることもなく、いつもどおりフツーにすごすことができた。
『科目勉強のときは、家庭教師の言うことは絶対。ほかの男子はいっさい口を出さない』
あのとりきめを、いちおう守ってるみたい。
わたしはポケットに入れたスケジュール表を開く。
今日の科目は、国語。
カンジくんも、あんなにやさしそうだけど、勉強のときはこわいのかな……?
「ただいま~」
家に帰ると、すごくしずかだった。
男子たちはまだ帰ってなくて、おばあちゃんも出かけてるみたい。
(どっちにしろ、ケイが帰ってないみたいでよかった)
昨日のトラウマで自分の部屋にもどるのがなんとなくイヤで、ランドセルをおろしながら居間へ行く。
冷蔵庫、オープン!
(う~ん、やっぱ、プリンはないかぁ……)
ハァ。ため息をつきつつ、とぼとぼ歩いていると。
ふと、心地よい風が顔をなでた。
(あれ? おばあちゃん、もしかしてガラス戸あけっぱなしで行っちゃった?)
あきれつつ縁側を見ると──。
そこには、ごろんと寝転ぶ男の子がひとり。
(わっ! カンジくん、いたんだ!)
ドキドキしながら、そろ~り、近づいていく。
どうやら、寝てるみたい。
(キレイな寝顔……)
白いほほにかげをおとすような、長いまつげ。
おもわず見とれていると、彼は「うーん」とうなって……そっと目をあけた。
「ご、ごめん、起こしちゃった?」
「ああ、すみません。本を読みながら居眠りしてしまいました。ぽかぽか気持ちよくて、つい」
カンジくんは気持ちよさそうに伸びをして、おきあがった。
のんびりした空気に、わたしも心がなごむ。
「まどかさんも、おとなりいかがですか?」
「いいの?」
「ええ。どうぞ」
で、では、お言葉にあまえて……。
そっと横に腰かけると。
「わぁ」
自然と感動の声がもれた。
明るい太陽の光に、そこぬけの青空。
まだ残暑であついけど、ほどよく日陰になってて、風が気持ちいい。
こうして縁側に座ったのなんて、ひさしぶりかも。
「カンジくん、なんの本読んでたの?」
わたしがたずねると、カンジくんはほほえんで、横に置いてあった本をさしだした。
表紙を見て、ぎょっとする。
「じ、辞書!?」
「言葉を知ると世界が広がって、すごくたのしいんですよ」
ニコニコ、とても素敵な笑顔。
う~ん、辞書かぁ。残念だけどわたしはニガテだな……。
「では、ぼちぼちはじめましょうか」
カンジくんが言った。
わたしはつい緊張して、ぐっと息をのむ。
うぅ……いよいよ、今日の勉強がはじまっちゃうのかぁ……。
「……じゃあ、わたしの部屋に行く?」
おそるおそる聞くと、カンジくんは首を横にふった。
「いえ、今日はここでやりましょう。せっかくのいいお天気ですし」
「えっ、いいの?」
「もちろん。勉強はどこでだってできるものですよ」
よかったぁ!
ホッとして、足をなげだす。
「今回は勉強時間に限りがあります。テスト範囲のなかから、ニガテ分野にしぼって対策していきましょう。前回のテストを見せていただいて、俺なりに分析してみたんですけど……」
言いながら、カンジくんは辞書をパッとひらいた。
彼が指さした場所にある言葉は。
【漢字】
「まどかさんのニガテ分野は──ずばり、漢字ですね」
うっ、超図星!
低学年のころはけっこう覚えられたんだけど、学年があがるにつれてどんどん複雑になるし、数は増えるし……ここ二、三年は、本当に漢字が覚えきれなくなっちゃったんだよね。
「漢字が読めないと文章も読みづらくなりますし、読むことそのものがイヤになってしまいますよね。結果として、国語のテスト全体の点数が下がってしまう」
カンジくんの話を聞きながら、コクコク首をタテにふる。
小さいころは絵本を読んでもらうのが大好きだったの。妄想も好きだし。
でも、自分で読むようになると、漢字でつっかえることが多くなって、イヤになっちゃって。
テストには集中できないし、問題もぜんぜんとけなくてさ……。
うつむいていると、カンジくんがパタンと辞書をとじた。
「これまで、漢字の勉強はどのようにしてきましたか?」
「えっと、基本的には書きとり、かなぁ……ちょっと待ってて!」
わたしは玄関にほうりだしたランドセルを持ってきて、漢字練習ノートをカンジくんに見せる。
ノートに、ひたすら同じ字を書いていく「書きとり」。
これがもう、低学年のころから、大のニガテ。
三文字目くらいから、自分がいったいなにをしているのか、そもそもこの線のあつまりがなんなのかわからなくなって、気づくと、ふわ~っと妄想の世界へ。
そしてノートには、いつ書いたのか覚えてないような、森の仲間たちと、プリンが……。
「いやぁ、ダメだってわかってはいるんだけど……書きとりって、きらいで……」
ポリポリ頭をかいていると、カンジくんが「ふむ」と腕を組む。
「では、やめてしまいましょう」
「へっ!?」
目がまんまるになる。
「いいの?」
「はい」
カンジくんはケロッとした表情で、漢字練習ノートを閉じて、横においた。
「十人十色。人にはそれぞれ、『その人に合った学び方』があります。まどかさんには書きとりという方法が合っていなかったというだけで、それを引け目に感じる必要はありませんよ。一緒に『ムリなく覚えられる方法』を考えましょう」
やさしい言葉に、胸がじーんとする。
昨日、ケイにさんざんしぼられてうちのめされたあとだから、ちょっとやさしくしてもらえるだけで泣いちゃいそうになるよ。
「ためしに、こんなのはどうでしょう。漢字を分解し、絵のようなイメージで覚える方法です」
「えっ、イメージ?」
「まどかさんは、物語を考えるのが得意なのでしょう? 想像力が豊かな人は、国語が得意になる才能のある人です」
「そんな、わたしなんか……っ」
言いかけたわたしのくちびるに、そっとあてられたひとさし指。
「いけません。言葉には『言霊』が宿ります。自らをおとしめるような言葉をつかうと、本当にそうなってしまいますよ」
至近距離でのぞきこまれて、心臓がドッキーンととびはねた。
やばい、超ドキドキするっ!
カクカクとぎこちなくうなずくと、カンジくんもこくりとうなずく。
「まずは、部首を意識してみましょう」
「部首?」
「はい。部首には、『へん』『つくり』『かんむり』『あし』『たれ』『にょう』『かまえ』の七種類あります。とくに多いのは、『へん』ですね」
うーん、なんとなく前にならったような……?
「木」はきへん、「氵」はさんずい、とか、そういうことだよね?
あと、「へん」は左側で、「つくり」は右側、とか……?
「まどかさんは、成績の『績』を『積』と書いたり、複雑の『複』を礻で書いていたりと、せっかく文字のイメージは覚えられているのに、部首の覚えまちがいで点数がもらえなくなっています。このミスを減らすだけでも点数はぐっとアップできますよ」
「あっ、ほんとだ!」
カンジくんに言われて前のテストを見てみると、けっこう、「へん」をまちがえてるミスが多いみたい。
だって、ややこしいんだもん。
おなじ「セキ」って読むし、右側は「責」で一緒。
テストで書こうとしてせっかくイメージがうかんでも、「あれ? 糸(イトヘン)だっけ? 禾(ノギヘン)だっけ?」って、ぜんぜんピンとこないの。
「どうやったら、部首をまちがえないようになるかな?」
「そうですね。覚えにくい漢字は、ゴロやだじゃれで覚えちゃいましょうか」
「えっ、だじゃれ? 勉強なのに、いいのかな?」
つい、きょとんと聞き返す。
川熊先生は、「根性だ! くりかえして体に覚えこませろ!」ってよく言ってるけど……。
「勉強だからこそ、たのしいほうがいいじゃないですか。理論や知識は、興味がわいたあとなら、自然と身につくものですから」
「たのしいほうが、いい……?」
カンジくんの言葉は、わたしにとって意外なものだった。
勉強は、好きじゃないけどやるもの。
おもしろくないけど、ムリしてがんばるもの、って思ってた。
でも……勉強って、たのしくても、いいの?
ゴロやだじゃれで覚えても、いいものなの……?
あっけにとられたまま、カンジくんを見ていると。
「では。俺のとっておき、成績の「績」の覚え方を伝授します……」
カンジくんは、コホンとせきばらいをして。
とつぜん。
「成績あがらにゃ、つまんないし~!」
大声でさけんだ。
「…………へっ?」
ぽかーんと、目と口がひらきっぱなしになる。
そんなわたしの表情を見て、カンジくんはおかしそうに笑った。
「ふふ。では、説明しましょう」
カンジくんはノートのあたらしいページに、「積」と「績」という字を書いた。
「まず、右側の『責』ですが、この、上の部分はトゲ、下の貝は財産をあらわす形なんです。税や借金などの金品を責めもとめる、という意味からなりたった漢字だといわれています」
「なんで、貝が財産なの?」
「古代の中国では、実際に貝がらがお金のかわりにつかわれていたんです」
へぇ! そうなんだ!
トゲとお金かあ……。
わたしは、トゲをもった借金とりが、相手をツンツンつつく姿をイメージした。
「ここで、左側の部首に注目です。糸(イトヘン)は、糸や繊維、布に関するイメージ。禾(ノギヘン)は、『穂を実らせた穀物』のイメージです。もともとは、税でおさめる穀物を『積』、織物を『績』といったようですね」
「ってことは、どっちの漢字も税をあらわしてるってこと?」
「そのとおり。こうやって、へんのイメージをつかむことで、文字全体の意味が見えてきませんか? 禾(ノギヘン)の『積』は重たい米俵がたくさんかさなっている、『積む』。糸(イトヘン)の『績』は、糸をつむいでできたやわらかい布です」
糸(イトヘン)は布に関係してて、禾(ノギヘン)は、お米とか穀物に関係してる。
そうやって考えると、ふたつの字のイメージって、けっこうちがうかも。
「では、ここで、先ほどの『成績あがらにゃ、つまんないし~!』について、説明します」
わっ、待ってました!
つい身をのりだす。
おだやかなカンジくんがさけんだ、あの言葉。
どういう意味か気になってしょうがないよ!
「……ようは、だじゃれです」
だじゃれ?
「『つまんない』は、『つまない』。つまり『積まない』、『積む』ではない、という意味。そして『し~』は、『糸~』です。糸(イトヘン)である、ということです」
「あははっ! そうだったんだ!」
まさか、だじゃれだったなんて!
成績あがらにゃ、つまんないし~! か。
ふふっ。おもしろいなぁ!
「『おもしろい!』と笑いながら覚えたことは、そう簡単に忘れないものです。これで、成績の『セキ』はぜったいにまちがえなくなりますよ」
カンジくんはうれしそうにほほえんで、わたしに、鉛筆をわたしてくれた。
「一度、声に出しながら一緒に書いてみましょう」
カンジくんは立ち上がってうしろにまわると、鉛筆を持つわたしの右手に、そっと手を重ねた。
「へっ?」
な、なにこの状況!?
近いし! 手、ふれあってるし!
うしろから抱きしめられてるっぽい体勢だし!
なんか、ちょっといいニオイするし~~~~~っ!
「では、いきますよ。まどかさん」
やばい、ドキドキする!!
わたしはカチコチになりながら、こくりとうなずいた。
すーはー、息を整えて、ノートに鉛筆の先を置く。
まずは糸(イトヘン)。
そして、トゲ、そのあと、お金の貝っと……。
「「成績あがらにゃ、つまんないし~!」」
ぴったり声がかさなった。
わたしたちは顔を見合わせて、アハハと笑った。
カンジくんとの勉強は、時間がたつのがあっというまだった。
夕ご飯のときは、レキくんやヒカルくんも一緒になって、漢字だじゃれを考えてくれたりして。
これが本当に「勉強」になってるのかな? って、心配になるくらい。
そのくらい、たのしかった。
夜の勉強が終わって、ノートを片づけてたら。
「〝かんじ〟のこと、好きになってもらえましたか?」
ふいにカンジくんがわたしの顔をのぞきこんできた。
(えぇっ!?)
どきっと、心臓がはねる。
「か、漢字のことだよね! カンジくんじゃなくて、漢字……」
いたずらっぽく笑うカンジくん。
なんか、からかわれた気がする!
赤く火照った顔をさましながら、ノートに目を落とす。
「ニガテだったけど……すこし、おもしろいなって思った……かな」
わたしが言うと、カンジくんはキラキラと目をかがやかせて、笑った。
「よかった。うれしいです」
どきっ
その笑顔がとても素敵で、つい、ときめいちゃった。
ふしぎだなぁ。
昨日の夜は、ヒーヒー悲鳴をあげながら、ベッドにたおれこんだのに。
今日はきっと、ドキドキと胸を高鳴らせながら、一緒に話した漢字のことを思いかえすと思う。
おなじ「勉強」でも、こんなにちがうんだ。
こういう勉強なら、毎日するのも、ぜんぜんイヤじゃないかも!