テストの点数=寿命!? 勉強しないと殺人犯!?
科目男子とのトキメキ(!?) おべんきょ生活、スタート!
(全5回・毎週月・金曜更新予定)(公開期限:2026年1月12日(月)23:59まで)
目次
人物紹介
わたし、花丸円(はなまる・まどか)。勉強が超超超ニガテなんだけど、
大好きなママのために、毎日猛勉強しているんだ。
なのに――ママが死んじゃって、心は真っ暗。
もう、勉強なんてどうでもいい……。
1 もう勉強なんてしない
ただでさえ気が重い、九月のとある土曜日。
「わあっ!?」
ずざーっ
下校中にぼんやり歩いてたら、思いっきりコケた。
ロックをかけてなかったランドセルから教科書がとびでて、そこら中にちらばる。
(あいたたた……)
だれかに見られたかな、と思ったけど、さいわい、校門のまわりにはだれもいない。
放課後の校庭から、サッカー部が練習する声が聞こえるだけだ。
「…………はぁ」
ひざをさすりながら、ため息。
しかたなく、一冊ずつ教科書をひろいあつめる。
国語、理科、社会。
そして、算数……。
ぎゅっと、指に力がはいる。
毎日くりかえしめくったせいで、どれもページがボロボロになっているけど……。
──本当は、勉強なんてぜんぜん好きじゃないんだ。
よくわからないし、おもしろくないし。成績もずっとペケ。
今日返ってきたテストだって、ぜんぶサイアクで。
なかでも算数なんか、まさかの7点……。
しょうじき、超へこむけど。
それでも、わたしが今までがんばってきたのは──、
「いつもがんばってえらいね~!」
どきっとして顔をあげる。
校門近くの道路を、五歳くらいの女の子とお母さんが手をつないでとおりすぎていった。
お母さんがちいさな女の子を見つめる、やさしい瞳。
「…………」
無意識に、ギリッと、くちびるをかみしめた。
──いつも勉強がんばってえらいね!
頭のなかでひびく、ママの声。
……わたしが勉強をがんばれたのは、ママがほめてくれるのがうれしかったから。
よろこぶママの顔を想像すれば、どんなにニガテな勉強でも、がんばれた……。
だけど、もう──いないんだ。
ママは一か月前、とつぜん、天国へいってしまったから。
(……もういい。もう、どうだっていい)
首を、ブンブン横にふる。
勉強したって、意味ないもん。
ほめてくれる人が、よろこんでくれる人がいないなら。
──もう、勉強なんてしない!
四冊の教科書をかかえて、来た道をずんずん引きかえす。
昇降口の前で右に曲がり、校舎の裏手へ。
日当たりの悪い裏庭。
学校中のゴミをあつめるゴミ捨て場の前で、足を止める。
「……こんなもの、いらないッ!」
つみあがったゴミ袋にむかって、教科書を力いっぱい投げつけた。
ドガッ
「むぎゃっ」
えっ。
なに? 今、ゴミのなかから悲鳴みたいなものが聞こえたような……?
(ネコでもいたのかな。悪いことしちゃったな……)
はらはらと足下を見つめるけど、それらしきカゲは見えない。
(気のせい……か)
ハァと息をつき、ゴミ捨て場にちらばった四冊の教科書に、そっと目を落とす。
裏表紙に大きく書かれた、自分の名前。
四月──五年生になりたてのころ。
まあたらしいピカピカの教科書を持ち帰って、ママといっしょに書いた名前……。
『円ってね、まんまるで、かけたところがないって意味なのよ。花丸円。100点満点のいい名前でしょ?』
『でも、わたし100点とったことないよ。テストはペケだらけだし……』
『あら。ママにとって、円はいるだけで満点だからいいのよ。勉強はこれからがんばろう!
そうだ、ニガテな科目も好きになれるように、教科書におまじない書いといてあげるね──』
ずきんっ
胸に走った痛みをふりはらうように、頭をつよく横にふる。
(もう教科書はいらない。もう……勉強なんて、しない!)
ぜったいにするもんか!
ぐっとこぶしをかためて、駆けだした。
──背中で、からっぽのランドセルが、カタカタ鳴った。