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9 だれも信じられない
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部屋にもどった春馬は、ベッドに寝ころがった。
このあとの予定は聞いていないが、なにかあったらマギワが呼びにくるだろう。
「いつもなら、こんな時間に眠くないんだけどな」
命をかけたゲームは想像以上に体力を奪う。
それに、精神的なダメージも大きい。
ここあ、猛士、文子、直人の4人が脱落した。彼らは殺された。
次は、ぼくかもしれないんだ。
どうすれば無事に帰れるかな。大会を終了させられたらいいんだけど……。
春馬が考えていると、ドアがノックされた。
「だれだろう?」
ドアを開けると、麗華が立っている。
「おじゃましてもよろしいかしら?」
「あっ、うん。どうぞ……」
部屋に入ってきた麗華は、ソファーに座ると大きなため息をついた。
「この館、長居をしたら危険だと思いますのよ」
あらためて言われなくても、十分にわかっている。
「ぼくに、なにか用事?」
「もちろん、用事があるから、でむいてまいりましたのよ」
でむいたというほどの距離じゃないだろう。
「それで、どういう用事?」
「その態度はどういうことですの? もしかして、わたくしの訪問が迷惑でした?」
本当は迷惑だった。
1人で考えていたかった。でも、言えないよな。
「いや、迷惑だなんてことは……」
「そうですわよね。わたくしのような美少女が部屋を訪ねてきて、迷惑なわけありませんわよね」
「はやく用事を教えてもらえないかな」
「せっかちですわね。まぁ、いいでしょう。用事というのは……」
「うん」
「この大会を終わらせてくださらない?」
「えっ、ぼくが?」
「あなたなら、みなさんを説得できると思うのよ」
「そうしたいけど、難しいかな」
「どうしてですの?」
「未奈は1億円が必要みたいだし」
「あの人は思い込みが激しそうですわね。わたくしも苦手ですわ」
春馬は腕組みをした。
「わたくし、ここから無事に出られるなら……。もう、お金はいりませんわ」
「映画を作るんじゃないの?」
「死んだら元も子もありませんでしょ。ゲームが終わるなら彼女にお金をさしあげてもいいわ」
「お金をわたすと言っても、おそらく彼女は信じないよ」
「どうしてですの?」
「一番信頼していた直人が噓つきだったから、もうだれも信用しないんじゃないかな」
「あなたなら、なんとかできるんじゃありませんの?」
なんで、そんなふうに思うんだろう。
「ムリだよ」
春馬が断わると、麗華が目に涙をためる。
「そこをなんとかしてくださらない? ……このままなら、わたくしは死んでしまいます」
麗華が涙を流しながら訴える。
こまった。目の前で女子に泣かれるなんて、はじめてだ。
しかも、こんな美少女に。
「わかったよ。たのむだけたのんでみるから」
「本当? 本当におねがいできます?」
あれ、泣いていたはずが笑顔になっている。噓泣きというか、芝居だったのか?
自称、女優だからな。
「それでは、おねがいしますわね」
ぼくは利用されたみたいだ。
「では、まいりましょう」
麗華に言われて、春馬は部屋を出た。
「いやよ」
未奈は無愛想に言った。
「そこをなんとか……。このままゲームをつづけたら、みんな、殺されちゃうよ」
春馬が言うが、未奈の冷たい態度は変わらない。
「あなたって、本当にお人好しね。あの女にたのまれたんでしょう」
未奈は廊下のすみにかくれている麗華を指さした。
「たのまれたのは確かだけど、大会を終わらせたい気持ちは同じだ」
「あたしはもうだまされない。あの女もなにを考えているのか、あやしいわ」
「本当にいいの?」
ドアを閉めようとした未奈に、春馬が言った。
「ゲームで負けたら、きみだって死ぬかもしれないんだよ。そうしたら妹を助けることは……」
「──小学生が命をかけずに1億円を手に入れる方法がほかにあるなら、教えて」
ピシャリと、未奈がさえぎる。
その目はかたい決意に満ちていた。
絶対に、説得できそうにない。
「……わかったよ。それなら、おたがい……」
がんばろうと言う前に、未奈はバタンとドアを閉めた。
「……なんだよ。人の話は最後まで聞くようにって教わらなかったのか」
部屋にもどろうとした春馬の前に、麗華がやってくる。
「ダメだったようですわね」
「この状況だったら、だれでも疑りぶかくなるよ」
「しかたありませんわ」
もどろうとした麗華だが、未奈の『206』という部屋番号を見て首をひねる。
「どうかしたの?」
「206号室ですわ」
「そうだよ。ぼくは203号室だ」
「おかしいわね。わたくしの部屋は888号室ですのよ」
「208じゃないの?」
「ここですわ」
麗華の部屋の前にいく。ドアに『888』とプレートがついている。
となりは『207』なのに、麗華の部屋だけ、なぜか『888』だ。
「どうして、8が3つなんだ?」
春馬が考えていると、マギワがやってくる。
「夕食の時間や。1階の食堂、デーニングルームに集まってや」
「マギワさん、どうしてここだけ888号室なんですか?」
「それは……、知らん。それより、夕食やで」
マギワはほかの部屋に知らせにいく。
第3回へつづく(4月22日公開予定)
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