
友だちのもとに届いた、謎めいた招待状。ケガをした友だちのかわりに出むいた春馬は、「絶体絶命ゲーム」に参加することに…! 集められていた10人の少年少女。賞金は1億円! 勝つのはただ1人。負ければ……死!?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
※これまでのお話はコチラから
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10 毒入り料理を見つけだせ!
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ドアにかけられているプレートには『ダイイングルーム』と書かれている。
それを確認して、春馬は食堂に入った。
10の席は4席空いて、春馬、未奈、麗華、草太、亜久斗、カツエの6人だけだ。
「……書きまちがいじゃなかったんだ」
春馬がつぶやいた。
「どういうことですの?」
となりの席に座った麗華が聞いた。
「ドアのプレートが『ダイイングルーム』になっているんだ」
「直訳しますと、死にかけの部屋ですわね」
「ミステリー小説に『ダイイングメッセージ』って言葉があるんだ。被害者が死のまぎわに……」
「ウチのこと呼んだぁ?」
マギワが部屋に入ってきた。
「今、死野マギワって言ったやろ」
「そうだけど、そうじゃありません。ダイイングメッセージの話をしていたんです」
「死のまぎわに書かれたメッセージのことやな。そして、この部屋は『ダイイングルーム』で『死のまぎわの部屋』という意味や。実際、宮野ここあにはそうなったわけや」
春馬が言おうとしたことを、マギワが横取りした。
「それで、ドアのプレートはまちがいじゃなかったというわけですのね」
麗華が納得する。
春馬たちが話をしていると、怨田と鬼崎がメニューを配る。
① イタリア風の本格ピザ
② 旬の魚を使った江戸前寿司
③ 博多名物の豚骨アーメン
④ 肉汁たっぷりの最高級ハンバーグ
⑤ 昔ながらのオムライス
⑥ 牛肉がごろごろ入ったカレーライス
⑦ 最高級の鶏肉を使用した唐揚げ定食
※料理はそれぞれ1人分しか用意していません
※2人が同じものを注文することはできません
昼のメニューとはところどころちがっている。
「第4ゲーム、洞察力を試すゲームのスタートやぁぁぁぁ」
マギワがいつもの元気で言う。
「これもゲームか」と春馬。
「この中に、毒入りが1つあるから気をつけてな」
マギワは怖いことを平気な顔で言った。
春馬はメニューに視線を落とす。
6人に7つの料理。毒入りが1つか……。
「ぼぼぼ……ぼく、まだおなか、すいてないな……」
そう言った草太だが、おなかがグーと鳴った。
「噓つきは脱落や」とマギワが笑顔で言った。
「えええええっ……、ででででで……でも……、ぼぼぼ……ぼく……」
草太は激しく動揺する。
「冗談や。それより、選べないようなら、ウチが選んでやろうか?」
「そそそそ……それは……じじじ……自分で選べます」
そのとき、外で雷鳴が轟いた。
「うわぁ、ウチは雷は苦手や」
マギワがうんざりしたように言った。
ザーッと激しい雨が降ってくる。
「天気予報は晴れと言うてたのに、山の天気は変わりやすいなぁ」
外を見たマギワは、うかない顔をしている。
「雨が嫌いなんですか?」と春馬が聞く。
「えっ、なんや?」
マギワはとりつくろうように笑った。
春馬はそれが妙に気になった。
「雨が降ると、都合の悪いことでもあるんですか?」
「いいや。それより、はよう料理を決めてな」
春馬は首をひねりながら、メニューを見た。
「ぼぼぼ……ぼく、くじ運は悪いんだよ……」
草太が頭を抱えている。
「運なら、ぼくも悪い。あれっ? それなら、おかしいぞ」
春馬が考えこむ。
「なにか気になるの?」と聞いたのは未奈だ。
「どの料理に毒が入っているかわからないなら、洞察力ではなく運だ」
そう言って春馬はマギワを見た。彼女はそっぽをむく。
「──そうか。やっぱり、そうなんだ」
「ねぇ、1人で納得しないで、みんなにも説明して」
未奈に言われて、春馬は顔をあげて説明する。
「洞察力のテストなら、よーく観察したら毒入りがどれかわかるってことだ」
「それで、どれが毒入りなの?」
すかさず未奈が質問した。
「うん、問題はそれなんだよな」
春馬は考える。
勉強は苦手だけど、クイズやなぞなぞなら得意だ。これは、なぞなぞみたいなものだ。
「わかりましたわ!」
麗華が大きな声を出した。
「料理の匂いですわ。毒入りはきっと臭いんですわ」
「それだと、料理をたのんだあとじゃないとわからないでしょ」
未奈が言うと、麗華は口をとがらせる。
「料理をたのむ前に、毒入りを見つける方法があるはずだ」
「そうだとしたら、メニューじゃないの」
そうか、昼食はサンドイッチが毒入りだった。
昼食のメニューのサンドイッチの部分を見れば、ヒントがあるかもしれない。
「マギワさん、昼食のメニューを見せてもらえませんか?」
マギワは怨田に指示して、昼のメニューを持ってこさせた。
① 博多名物の豚骨ラーメン
② ご飯がパラパラの高級チャーハン
③ 牛肉がごろごろ入ったカレーライス
④ こだわりの豚肉を使ったカツ丼
⑤ 最高級の鶏肉を使用した唐揚げ定食
⑥ イタリア風の本格ピザ
⑦ 肉汁たっぷりの最高級ハンバーグ
⑧ 昔ながらのオムライス
⑨ 旬の野菜と海老の天丼
⑩ 名門店のそば
⑪ ヘルシーで女性に人気のサンドクイッチ
※料理はそれぞれ1人分しか用意していません
※2人が同じものを注文することはできません
「毒入りは⑪のサンドイッチだったな」
春馬はメニューを確認して、はっとなった。
「これサンドイッチじゃないぞ!」
「サンドクイッチになってるわ」
同時に気がついた未奈が言った。
「ドクが入ってたわけか。それなら……」
春馬は夕食のメニューを見た。
ほかの参加者も、メニューをのぞきこむ。
しかし、料理にドクの文字が入ったものはない。
「アタリは③だわ!」
最初に見つけたのは未奈だ。春馬も気がついた。
「ラーメンのどこに毒が入っているんですの?」と麗華が聞いた。
「よく見て、これはラーメンじゃない。アーメンだ」
メニューは達筆で読みにくいが、『③博多名物の豚骨アーメン』になっている。
「アーメンはキリスト教徒が祈りの最後に言う言葉だ。だから、これを食べたら命がなくなって、アーメンって言われるということだ」
「あんたら、はよ、決めてや」
マギワがいらだったように言った。
そのとき、グ────ッという音が部屋に響いた。
音のぬしは、カツエの胃袋だった。
「な、なによ。腹がへってるのよ! 本当に、ラーメン以外ならだいじょうぶなんだろうね!?」
アタリは『③博多名物の豚骨アーメン』だ。まちがいない。
でも、いざ注文するには度胸がいる。はずれていたら毒入りを食べることになる。
「……そうだと思うけど」
「はよう決めてぇーな。タイムオーバーで失格にするでぇ。制限時間はあと1分や」
いきなり言われて、みんなの目の色が変わる。
「あたしの長所は度胸と直感力。④の最高級のハンバーグ」
未奈が腹をくくって言った。
「ぼくも度胸をみせないとな。⑥のカレーライスにするよ」
春馬が言うと、みんなもつぎつぎと料理をたのむ。
「わたくしはピザ」と麗華。
「ぼぼぼ……ぼくはオムライス」と草太。
「唐揚げ定食をちょうだい」とカツエ。
「……寿司で」と亜久斗。
すぐに、怨田と鬼崎が料理を運んでくる。
みんなのおなかの鳴る音が聞こえるが、それでも、食べるのをためらっている。
「たのんだものは残さないで食べなー、あかんでぇ」
マギワに言われて、6人は覚悟を決めて料理を口に運ぶ。
料理はくわしくないけど、春馬のカレーには高級な食材が使われているようだ。
香りもいいし、食感だっていい、味も最高のはずだけど……。
おいしいとは思えない。
これなら、家族で食べたファミレスのカレーライスのほうが100倍もおいしい。
食事は味だけじゃないんだ。だれと食べるか、どういう気持ちで食べるかによるんだ。
また、家族であのファミレスにいきたい。
春馬は両親や友だちが懐かしくなった。
みんなも同じ気持ちなのかな。
春馬が視線をあげると、ある人物がこちらを見ていた。
三国亜久斗だ。
彼は観察するように、みんなを見ている。
めだたない存在だけど、確実にゲームで勝ち残っている。
あなどれない人物だ。
みんなが夕食を食べ終わり、怨田と鬼崎が食器をかたづけていく。
だれも腹痛にはならなかったし、倒れる者もいない。
「第4ゲームは、脱落者なしや!」
マギワが言うと、みんなは安堵の顔をする。
「毒入りは③のアーメンやったんや。みんなの推理は、完璧やったでぇ」
春馬は、安心すると体の力が抜けた。
「残った6人の、1人あたりの賞金は約1666万円と変わらずや」
はじめて脱落者が出ないゲームだったが、まだ安心はできない。
春馬は気をゆるめずに、マギワの話を聞く。
「今日のゲームはここまでや。このあとは自由やけど、午後8時に個室のドアがロックされるから、それまでに部屋にもどってや。ドアは翌朝7時まで開かへんで。夜間はウチが見まわりするよって、もし、部屋の外にいたら……」
バチンと、マギワがムチをふるった。
「一発レッドカードで失格やから、肝に銘じてな。それと、夜はなにがおきてもこの館から出たらあかんでぇ。外には悪魔がいるよってな」
マギワは6人の顔をじっと見る。
「上山秀介、滝沢未奈、桐島麗華、小山草太、三国亜久斗、竹井カツエ……。明日の健闘も祈るでぇ~」
マギワは颯爽と部屋を出ていった。
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11 アナグラムを解け
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部屋にもどった春馬は、リュックに入っていたお菓子を食べながら考えていた。
夕食のカレーは毒が入っているかもしれなかったので、食べた気がしなかった。
「こっちのほうが、よほどおいしいな」
時計が7時の鐘を鳴らした。ドアがロックされるまで1時間ある。
もう一度、館を調べてみたいな。
お菓子を食べると、春馬は廊下に出た。
しーんと静まりかえっている。
自由行動の時間だから、ビクビクすることはないんだけど緊張する。
春馬は、2階の廊下の窓から調べる。
どこもカギがかかっている。
外を見ると、雨はもうあがっていた。それでも、道はぐしゃぐしゃだ。
このゲームの仕掛け人がなにものかはわからないけど、用意周到な人物だ。
カギのかけ忘れや、抜け道があるとは思えない。それでも、確認はしておこう。
1階に下りた。
ホール、食堂、真実の部屋を調べたが、外に出られるところはない。
まだ時間があるな。螺旋塔までいってみよう。
暗いわたり廊下を歩くと、寒くもないのに鳥はだが立った。
これは肝試しより、怖いぞ。
それでも、螺旋塔の下までやってきた。
ゴーゴーと風の音が、塔の真ん中から聞こえてくる。
怪獣がうなり声をあげているようだ。
「ここまでにしよう」
怖くなった春馬は、わたり廊下を引きかえす。
歩いていると、廊下の窓になにかが映った。
「なんだろう?」
春馬が目をこらして見る。
なにか白いものがある。
噓だろう。これって、もしかしてお化けか……。
逃げだしたいが、足が震えて動かない。
窓のむこうの白いものは、どんどん大きくなる。
「あれ?」
春馬は気づいてしまった。
白いものは窓のむこうにあるんじゃない。
窓ガラスに映った顔だ。
その顔は、春馬のうしろにいることになる。
どどどど……どうしよう。
男は度胸だ。
春馬はふりかえった。
そこにいたのは、亜久斗だ。
「……なんだ、驚かすなよ」
お化けじゃなくて安心した春馬だが、亜久斗は無言でいってしまう。
「無視かよ」
でも、彼はいったい、どこからやってきたんだろう。
春馬のうしろにいたということは、螺旋塔にいたんだ。
あんな怖いところに1人でいるなんて、なにものだよ。
「うわぁ、それよりもそろそろ時間になるな」
春馬はいそいで部屋にもどった。
ガチャリ
午後8時、音をたてて、ドアがロックされた。
ドアノブをまわしても、もう開かない。
「閉じこめられたみたいで、いやな感じだな」
ドアノブの下に、古墳のような形のカギ穴がある。
「カギがあれば開けられるのかな」
でも、ドアを開けられても館の外には出られない。ここから逃げだすのはムリだ。
やることがないので、春馬はベッドに横になった。
すると、ガタッという音がする。
部屋の中から聞こえてきたけど、なんの音だろう?
おきあがって、部屋の中を見た。
机の引き出しが、前に出ている。
「おかしいな。さっきはカギがかかっていて開かなかったんだけど……」
引き出しを見ると、1通の封筒が入っている。
「これはなんだ?」
封筒の裏には『どぼじろうのはまり』と書かれている。
中には手紙が入っていた。
ゲームの次は、なぞなぞか。
暗号は『バーカくらま』ね。
参加者にくらまという人はいない。
くらま、ってなんだろ?
春馬はじっと文字を見た。
「そうか、これはアナグラムだ」
文字をならべかえればいいんだ。暗号の基本だ。
春馬は頭の中で『ば』『ー』『か』『く』『ら』『ま』をならびかえる。
『くまばーから』『かばくまらー』『ばーかまくら』でもない。
そうか『まくらカバー』だ。
春馬はベッドのまくらを手にした。
裏がえすとカバーの模様に文字がかくされている。
「これも暗号みたいだな」
カバーにかくされている文字は『い』『た』『の』『す』『し』だ。
「このまま読むと『板の寿司』だけど、これもアナグラムだな」
頭の中で文字をならびかえる。
『たいのすし』『すしいたの』『いのすした』『すのいした』じゃないな。
そうか『いすのした』だ。
春馬は椅子の下を見た。
「あったぞ」
座板の下にテープで紙が貼りつけてある。
広げて見ると、この建物の1階の平面図だ。
「なに!?」
平面図には、階段の横に矢印があって『秘密の出口』と書かれている。
「ここにドアがあったな。物置だと思ったけど、出口だったのかな?」
秘密の出口だったとしても、その前に部屋から出られなければ無意味だ。
「また暗号か」
その紙には平面図のほかに『トナカイの毛』と書かれた暗号がある。
「これもアナグラムだな。3回目で頭がさえてきたぞ」
『トナカイの毛』は『と』『な』『か』『い』『の』『け』を入れかえればいいんだ。
春馬は頭の中で文字を入れかえる。
「すごいぞ。すぐに思いうかんだ」
『と』『け』『い』『の』『な』『か』とならべると『時計の中』だ。
「ここにある時計はあれだ」
春馬はレトロな振り子時計を調べる。
カバーを外して、中をのぞきこむ。
「おかしなところはないな」
こうなったら、徹底的に調べよう。
時計を壁からはずして分解する。
振り子、針、文字盤、ねじ……たくさんの部品で組みたてられている。
「あれ、これはおかしな形をしているな」
ねじに紛れてカギのような形をした部品がある。
「もしかして、この部屋のカギか」
春馬はそれを持ってドアの前にいった。
これがカギだったら、ドアを開けて廊下に出られる。そして、秘密の出口から外に出られる。
まくらカバーに書かれた地図をたよりに山を下りれば、逃げられるというわけか。
でも、これを信用してもいいのかな?
悩んでいると、謎が1つ残っているのを思いだした。
「もしかして、あれもアナグラムかな」
引き出しに入っていた手紙を読みかえす。
差出人が『どぼじろうのはまり』となっている。
「……そうか、そういうことか」
これがトラップだと確信した。それでも、これでドアが開くか試してみたい。
「好奇心は止められないよな」
カギ穴に時計に入っていた部品をさしこんで、ゆっくりまわした。
カチャと音がして、ロックが解除された。
「やったぞ!」
春馬がドアを開けると、外の廊下をだれかが駆けてきた。
「えっ、どういうこと?」
やってきたのは、未奈だ。
「入るわね」
有無を言わせず、未奈は部屋に入ってきた。