
恐怖に支配された「子どもたちの地獄」――〈奈落〉。その地に送りこまれた春馬と未奈。
しかし春馬は、わざとゲームに負けて、ここにきたのだ、行方不明の親友を探して――。
〈奈落編〉の完結となる16巻の発売前に、一気読み! 「絶体絶命ゲーム」でしか味わえない、圧倒的なおどろきとスリル。大人気シリーズの最先端を、この機会にどうぞ!
【これまでのお話は…】
すべてのはじまりは、秀介だった。
春馬が、秀介のもとに届いた『絶体絶命ゲーム』の招待状に、代わりに参加したのが、最初だった。
それから何度も絶体絶命ゲームをやらされ、たいへんな思いもしたけれど。
そこで未奈とも出会ったんだ…。
それから数年。
ゲームの最下位になれば、ナゾの施設『奈落』へと送られると知りながら、春馬はわざと負けた。
それは、『奈落』を映した映像の中に、秀介のすがたを見たから。
秀介――無事でいてくれ。
いま、あらたなゲームが幕をあける……!
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1 檻の中の春馬と未奈
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その日、私立渋神中学では入学式がおこなわれていた。しかし、中学2年生になった武藤春馬と滝沢未奈は、学校にいなかった。
いま、2人がいるのは、千葉県にある、成田国際空港のZラウンジだ。
「深井アイさまは、すぐにこられるそうです。奥の個室でお待ちください」
清楚な女性スタッフに言われて、春馬と未奈は奥の個室に入った。
ふかふかとしたじゅうたんの個室は、モダンな黒色のテーブルと革張りのソファーがおかれ、窓からは滑走路が見える。
客は、春馬と未奈の2人だけだ。
「なにか、作ろうか?」
声をかけられて、春馬が振りむいた。
カウンターの中に、不気味なドクロの仮面をつけた男がいる。
「えっ!」
不気味な仮面に驚いた春馬に、仮面の男が聞きなおす。
「なにか、飲むものを出そうか?」
「あっ、えっと……」
春馬が答えにこまっていると、となりの未奈が元気な声で言う。
「それなら、おすすめを2つ」
「わかった。とっておきを2つ作るから、座って待っていて」
仮面の男に言われて、春馬と未奈はソファーに並んで座った。
「……ここが待ち合わせ場所ということは、行き先は海外なのかな?」
未奈が聞くと、春馬は深刻そうな顔をむける。
「やっぱり、未奈はこないほうがいい。今からでも、アイに頼んで……」
「いやよ」
未奈にきっぱり言われて、春馬は閉口する。
「前にも言ったでしょう。『奈落』へは、春馬といっしょにいく。それは、もう決めたことよ」
「そうだけど。成田空港に呼びだされているんだよ。連れて行かれる先が海外だとしたら、簡単には帰ってこられない」
「覚悟してるわ。春馬も、秀介に会うまでは帰らないつもりでしょう」
「……まぁ、そうだけど」
春馬は、頭をかきながら言った。
──1カ月ほど前。
春馬と未奈は学年対抗の『絶体絶命ゲーム』に参加した。
ゲームの最後で、春馬は渋神中の2年生、風祭ミッシェルと決闘した。
春馬がミッシェルを、ウォーター銃で撃っていたら、『奈落』いきはまぬがれたが……。
「どうして、引き金を引かなかったの?」
ゲームが終わったあと、未奈は春馬に聞いた。
「ごめん。ぼくのせいで最下位になって……」
「そうじゃなくて……、あたしの質問に答えて」
未奈がきびしい顔で言うと、春馬はしぶしぶ理由を話した。
ゲームの前に見せられた『奈落』の映像の中に、ずっと行方がわからないままの親友の上山秀介が映っていたのだ。
ミッシェルと決闘したとき、春馬の脳裏に『奈落』にいる秀介の姿がよぎった。
それで、ウォーター銃の引き金を引けなかったのだ。
「なるほど、そういうことだったのね」
「ぼくが、未奈と出会えたのは秀介に代わって、『絶体絶命ゲーム』に参加したからだ。秀介がいなかったら、未奈と知りあえなかった」
「秀介は、あたしと春馬を出会わせてくれた、キューピッドなのね」
「……今、ぼくは幸せだ。でも、自分だけがこんなに幸せでいいのかと思うんだ。親友の秀介が、どういう生活をしているのか心配なんだ」
「それなら、まぁ、しかたないわね。ゲームで負けたのはくやしいけど、ゆるしてあげる」
未奈は、まぶしい笑顔で言った。
春馬は1人で『奈落』にいくつもりだったが、未奈がいっしょにいくと言いだした。
彼女の決意は固く、説得するのは難しい。
それに、正直、未奈がいてくれたら、これほど心強いことはない。
春馬は、未奈といっしょに最悪の地『奈落』へいくことになった。
Zラウンジで待っていた春馬と未奈の前に、仮面の男がグラスを持ってくる。
「甘さはひかえめで、栄養は十分のミックス・ジュースだ。これから、長旅だろう」
仮面の男は意味深に言うと、カウンターにもどっていく。
「これを飲んだら、眠たくなるかもしれないな」
春馬が、警戒して言った。
「睡眠薬が入れられてそうだけど……。でも、美味しそうよ」
ジュースからただよう甘いフルーツの香りをかぎながら、未奈が言った。
「アイさまからだ」
仮面の男がやってきて、タブレットを春馬にわたした。
「なにかな?」
タブレットが起動して、ディスプレイに深井アイが映る。
「春馬と未奈、おはよう。直接話をするために、そこに出向くつもりだったんだけど、ちょっと無理になったの。それで、オンラインで1つだけ言わせて」
アイは深呼吸して言う。
「……生きて帰ってきて」
アイのやさしい言葉に、春馬と未奈は顔を見合わせる。
「生きて帰ってきてって……。『奈落』って、そんなに危険なところなの?」
未奈が質問するが、ディスプレイのアイの映像はブラックアウトする。
「肝心なことは、教えてくれないわけか」
春馬が、投げやりに言った。
2人がいかされる『奈落』について、ネットなどで調べたが大した情報はなかった。
「……まぁ、いいわ。いけば、わかるわよ」
未奈はあっけらかんとした口調で言うと、ミックス・ジュースを口にする。
「うわぁ、このジュースって、最高に美味しい」
「それじゃ、ぼくも……」
春馬もミックス・ジュースを飲んだ。
仮面の男が言うように、甘さはひかえめだが、フルーツの味が濃くて美味しい。
ジュースを飲んだあと、急に睡魔におそわれた。
ゴ─────、ゴ─────、ゴ─────!
激しい風音と吹きつける強風で、春馬は目を覚ました。
「な、な、な、なんだ、これ!?」
春馬と未奈はゴーグルをつけられて、1辺2メートルほどの鉄格子の檻に入れられている。
「……な、なにがおきているの?」
未奈も、目を覚ました。
春馬は、2人がゴーグルをつけていることに気がつく。
「どうして、ゴーグルをつけているんだ?」
春馬が、まわりを見る。
2人が入れられている檻は、なにかの乗り物の貨物室におかれている。
「春馬、あ、あ、あ、あれって、どういうこと!」
未奈が、声をふるわせて指さした。
貨物室の搬入口がゆっくりと開いて、青い空と白い雲が見えてくる。
「そうか。ここは、貨物用の飛行機の中だ……」
春馬が、うんざりしたように言った。
「それはわかるけど、どうして、搬入口が開いたの?」
未奈に聞かれて、春馬は最悪な事態を想像する。
「もしかして、ぼくたちがゴーグルをつけられているのは……」
「ゴーグルって……」
未奈は、ようやくゴーグルをつけられていることに気がつく。
「これって、どういうことよ!」
風音に負けないように、未奈は大声で言う。
「空の上でゴーグルをつけているということは、おそらく……。でも、そうだとしたらパラシュートがあるはずだけど……」
春馬と未奈の体には、パラシュートはついていない。
2人の入った檻が、ゆっくり動きだす。
「これって、空から落とされるということ!?」
未奈が、体をふるわせる。
「鉄格子にしがみついて!」
春馬が大声で言うと、未奈は鉄格子にしがみつく。
2人の入った檻は床をすべって、大空に投げ出された。
「キャァァァァ───!」
未奈が叫ぶ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
檻の中でもみくちゃになる春馬だが、なんとか鉄格子につかまる。
どこからか、ピーッと大きな機械音が聞こえてくる。
「今の音はなんだ?」
春馬が視線をめぐらすと、鉄格子にディスプレイが設置されている。
「なにかな?」
落下の圧力に耐えながら、春馬はディスプレイに目をやる。
今、あなたたちは絶体絶命です。
でも、心配はいりません。
□に暗証番号を指で書くと、パラシュートが開きます。
□-□。
不正解のときは、パラシュートは消滅します。
1分以内に正解しなければ、手遅れです。
暗証番号のヒントは3つあり、20秒ごとに1つずつ、この画面に表示されます。
最初のヒントは、『白い犬』。
01:00……00:59……00:58……00:57……
「こ、こんな状況で、ゲームなんて……! しかも、このヒントはなんだよ!」
春馬は叫ぶ。
高所恐怖症の未奈は、鉄格子にしがみついてパニックになっている。
「この問題は、ぼくが正解を出さないと」
春馬は、自分に言いきかせた。
□-□に入る番号はなんだろう?
ヒントの『白い犬』は、どういう意味だろう?
これだけでは、暗証番号はわからない。
考えている内に、カウントダウンが『00:40』になった。
ディスプレイに、2つ目のヒントが映る。
『米』
このヒントでも、まだわからない。
落下する檻の中で、春馬は必死に気持ちを落ちつける。
問題文を読みなおすと、奇妙なことに気がつく。
一般的に暗証番号は4けただが、どうして2けたなのか?
それに暗証番号なら□□となるはずが□-□となっている。
真ん中の『-』はなんだろう?
春馬は、ちらりと未奈に視線をむけた。
彼女は鉄格子につかまり、ぶるぶる震えている。
「……た、頼んだわよ。春馬」
春馬の視線に気がついた未奈が、せいいっぱいの声で言った。
高所恐怖症の未奈にとって、この状況は最悪だ。
泣き叫びたいはずなのに、じっと耐えている。
未奈が恐怖に耐えてくれているから、春馬は冷静に考えることができる。
そうか、これは!
春馬はある数字が思いうかんだが、すぐには答えずに残り1つのヒントを待つことにした。
不正解だとパラシュートは消滅だ。
さらに20秒がたって、カウントダウンが『00:20』になった。
ディスプレイに最後のヒントが映る。
『32』
3つのヒントは、『白い犬』『米』『32』。
暗証番号は□-□。
まちがいない、あの数字だ。
でも、本当にそれでいいのだろうか?
不正解なら、命がなくなる。
いや、なにもしなくても結果は同じだ。
……00:16……00:15……00:14……
「やるしかない!」
春馬がディスプレイに指をのばしたとき、檻が回転した。
「うわぁ!」
バランスを崩した春馬は横にふっ飛んで、鉄格子に背中をぶつけた。
ガツン!
「痛っ……!」
体中に痛みが走り、動けない。
いやだ。こんなところでは終われない!
春馬が顔をあげると、ディスプレイのカウントダウンが見えた。
……00:09……00:08……00:07……00:06……
「大丈夫、まだ時間はある!」
春馬は必死に手をのばして、ディスプレイの□に指で暗証番号を書く。
8-7。
次の瞬間、檻の天井に設置された、パラシュートが開いた。
ガン!
檻の落下スピードが落ちて、中にいた春馬と未奈の体が天井にぶつかった。
「痛いけど、助かった……」
春馬がつぶやいた。
「パ、パ、パラシュートが……開いたの?」
未奈が震える声で聞いた。
「もう大丈夫だよ。未奈」
「……春馬、ありがとう」
未奈が、消えいりそうな声で言った。
2人の入った檻は、速度を落としてゆっくりと落ちていく。