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ものがたり

『絶体絶命ゲーム』〈奈落編〉14・15巻 2冊無料ためし読み 第1回


恐怖に支配された「子どもたちの地獄」――〈奈落〉。その地に送りこまれた春馬と未奈。
しかし春馬は、わざとゲームに負けて、ここにきたのだ、行方不明の親友を探して――。
〈奈落編〉の完結となる16巻の発売前に、一気読み! 「絶体絶命ゲーム」でしか味わえない、圧倒的なおどろきとスリル。大人気シリーズの最先端を、この機会にどうぞ!


【これまでのお話は…】
すべてのはじまりは、秀介だった。
春馬が、秀介のもとに届いた『絶体絶命ゲーム』の招待状に、代わりに参加したのが、最初だった。
それから何度も絶体絶命ゲームをやらされ、たいへんな思いもしたけれど。
そこで未奈とも出会ったんだ…。

それから数年。
ゲームの最下位になれば、ナゾの施設『奈落』へと送られると知りながら、春馬はわざと負けた。
それは、『奈落』を映した映像の中に、秀介のすがたを見たから。
秀介――無事でいてくれ。
いま、あらたなゲームが幕をあける……!

 

1    檻の中の春馬と未奈

 その日、私立渋神中学では入学式がおこなわれていた。しかし、中学2年生になった武藤春馬と滝沢未奈は、学校にいなかった。

 いま、2人がいるのは、千葉県にある、成田国際空港のZラウンジだ。

「深井アイさまは、すぐにこられるそうです。奥の個室でお待ちください」

 清楚な女性スタッフに言われて、春馬と未奈は奥の個室に入った。

 ふかふかとしたじゅうたんの個室は、モダンな黒色のテーブルと革張りのソファーがおかれ、窓からは滑走路が見える。

 客は、春馬と未奈の2人だけだ。

「なにか、作ろうか?」

 声をかけられて、春馬が振りむいた。

 カウンターの中に、不気味なドクロの仮面をつけた男がいる。

「えっ!」

 不気味な仮面に驚いた春馬に、仮面の男が聞きなおす。

「なにか、飲むものを出そうか?」

「あっ、えっと……」

 春馬が答えにこまっていると、となりの未奈が元気な声で言う。

「それなら、おすすめを2つ」

「わかった。とっておきを2つ作るから、座って待っていて」

 仮面の男に言われて、春馬と未奈はソファーに並んで座った。

「……ここが待ち合わせ場所ということは、行き先は海外なのかな?」

 未奈が聞くと、春馬は深刻そうな顔をむける。

「やっぱり、未奈はこないほうがいい。今からでも、アイに頼んで……」

「いやよ」

 未奈にきっぱり言われて、春馬は閉口する。

「前にも言ったでしょう。『奈落』へは、春馬といっしょにいく。それは、もう決めたことよ」

「そうだけど。成田空港に呼びだされているんだよ。連れて行かれる先が海外だとしたら、簡単には帰ってこられない」

「覚悟してるわ。春馬も、秀介に会うまでは帰らないつもりでしょう」

「……まぁ、そうだけど」

 春馬は、頭をかきながら言った。


 ──1カ月ほど前。

 春馬と未奈は学年対抗の『絶体絶命ゲーム』に参加した。

 ゲームの最後で、春馬は渋神中の2年生、風祭ミッシェルと決闘した。

 春馬がミッシェルを、ウォーター銃で撃っていたら、『奈落』いきはまぬがれたが……。

「どうして、引き金を引かなかったの?」

 ゲームが終わったあと、未奈は春馬に聞いた。

「ごめん。ぼくのせいで最下位になって……」

「そうじゃなくて……、あたしの質問に答えて」

 未奈がきびしい顔で言うと、春馬はしぶしぶ理由を話した。

 ゲームの前に見せられた『奈落』の映像の中に、ずっと行方がわからないままの親友の上山秀介が映っていたのだ。

 ミッシェルと決闘したとき、春馬の脳裏に『奈落』にいる秀介の姿がよぎった。

 それで、ウォーター銃の引き金を引けなかったのだ。

「なるほど、そういうことだったのね」

「ぼくが、未奈と出会えたのは秀介に代わって、『絶体絶命ゲーム』に参加したからだ。秀介がいなかったら、未奈と知りあえなかった」

「秀介は、あたしと春馬を出会わせてくれた、キューピッドなのね」

「……今、ぼくは幸せだ。でも、自分だけがこんなに幸せでいいのかと思うんだ。親友の秀介が、どういう生活をしているのか心配なんだ」

「それなら、まぁ、しかたないわね。ゲームで負けたのはくやしいけど、ゆるしてあげる」

 未奈は、まぶしい笑顔で言った。

 春馬は1人で『奈落』にいくつもりだったが、未奈がいっしょにいくと言いだした。

 彼女の決意は固く、説得するのは難しい。

 それに、正直、未奈がいてくれたら、これほど心強いことはない。

 春馬は、未奈といっしょに最悪の地『奈落』へいくことになった。


 Zラウンジで待っていた春馬と未奈の前に、仮面の男がグラスを持ってくる。

「甘さはひかえめで、栄養は十分のミックス・ジュースだ。これから、長旅だろう」

 仮面の男は意味深に言うと、カウンターにもどっていく。

「これを飲んだら、眠たくなるかもしれないな」

 春馬が、警戒して言った。

「睡眠薬が入れられてそうだけど……。でも、美味しそうよ」

 ジュースからただよう甘いフルーツの香りをかぎながら、未奈が言った。

「アイさまからだ」

 仮面の男がやってきて、タブレットを春馬にわたした。

「なにかな?」

 タブレットが起動して、ディスプレイに深井アイが映る。

「春馬と未奈、おはよう。直接話をするために、そこに出向くつもりだったんだけど、ちょっと無理になったの。それで、オンラインで1つだけ言わせて」

 アイは深呼吸して言う。

「……生きて帰ってきて」

 アイのやさしい言葉に、春馬と未奈は顔を見合わせる。

「生きて帰ってきてって……。『奈落』って、そんなに危険なところなの?」

 未奈が質問するが、ディスプレイのアイの映像はブラックアウトする。

「肝心なことは、教えてくれないわけか」

 春馬が、投げやりに言った。

 2人がいかされる『奈落』について、ネットなどで調べたが大した情報はなかった。

「……まぁ、いいわ。いけば、わかるわよ」

 未奈はあっけらかんとした口調で言うと、ミックス・ジュースを口にする。

「うわぁ、このジュースって、最高に美味しい」

「それじゃ、ぼくも……」

 春馬もミックス・ジュースを飲んだ。

 仮面の男が言うように、甘さはひかえめだが、フルーツの味が濃くて美味しい。

 ジュースを飲んだあと、急に睡魔におそわれた。


ゴ─────、ゴ─────、ゴ─────!

 激しい風音と吹きつける強風で、春馬は目を覚ました。

「な、な、な、なんだ、これ!?」

 春馬と未奈はゴーグルをつけられて、1辺2メートルほどの鉄格子の檻に入れられている。

「……な、なにがおきているの?」

 未奈も、目を覚ました。

 春馬は、2人がゴーグルをつけていることに気がつく。

「どうして、ゴーグルをつけているんだ?」

 春馬が、まわりを見る。

 2人が入れられている檻は、なにかの乗り物の貨物室におかれている。

「春馬、あ、あ、あ、あれって、どういうこと!」

 未奈が、声をふるわせて指さした。

 貨物室の搬入口がゆっくりと開いて、青い空と白い雲が見えてくる。

「そうか。ここは、貨物用の飛行機の中だ……」

 春馬が、うんざりしたように言った。

「それはわかるけど、どうして、搬入口が開いたの?」

 未奈に聞かれて、春馬は最悪な事態を想像する。

「もしかして、ぼくたちがゴーグルをつけられているのは……」

「ゴーグルって……」

 未奈は、ようやくゴーグルをつけられていることに気がつく。

「これって、どういうことよ!」

 風音に負けないように、未奈は大声で言う。

「空の上でゴーグルをつけているということは、おそらく……。でも、そうだとしたらパラシュートがあるはずだけど……」

 春馬と未奈の体には、パラシュートはついていない。

 2人の入った檻が、ゆっくり動きだす。

「これって、空から落とされるということ!?」

 未奈が、体をふるわせる。

「鉄格子にしがみついて!」

 春馬が大声で言うと、未奈は鉄格子にしがみつく。

 2人の入った檻は床をすべって、大空に投げ出された。

「キャァァァァ───!」

 未奈が叫ぶ。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 檻の中でもみくちゃになる春馬だが、なんとか鉄格子につかまる。

 どこからか、ピーッと大きな機械音が聞こえてくる。

「今の音はなんだ?」

 春馬が視線をめぐらすと、鉄格子にディスプレイが設置されている。

「なにかな?」

 落下の圧力に耐えながら、春馬はディスプレイに目をやる。


今、あなたたちは絶体絶命です。

でも、心配はいりません。

□に暗証番号を指で書くと、パラシュートが開きます。

□-□。

不正解のときは、パラシュートは消滅します。

1分以内に正解しなければ、手遅れです。

暗証番号のヒントは3つあり、20秒ごとに1つずつ、この画面に表示されます。


最初のヒントは、『白い犬』。

01:00……00:59……00:58……00:57……


「こ、こんな状況で、ゲームなんて……! しかも、このヒントはなんだよ!」

 春馬は叫ぶ。

 高所恐怖症の未奈は、鉄格子にしがみついてパニックになっている。

「この問題は、ぼくが正解を出さないと」

 春馬は、自分に言いきかせた。

 □-□に入る番号はなんだろう?

 ヒントの『白い犬』は、どういう意味だろう?

 これだけでは、暗証番号はわからない。

 考えている内に、カウントダウンが『00:40』になった。

 ディスプレイに、2つ目のヒントが映る。

『米』

 このヒントでも、まだわからない。

 落下する檻の中で、春馬は必死に気持ちを落ちつける。

 問題文を読みなおすと、奇妙なことに気がつく。

 一般的に暗証番号は4けただが、どうして2けたなのか?

 それに暗証番号なら□□となるはずが□-□となっている。

 真ん中の『-』はなんだろう?

 春馬は、ちらりと未奈に視線をむけた。

 彼女は鉄格子につかまり、ぶるぶる震えている。

「……た、頼んだわよ。春馬」

 春馬の視線に気がついた未奈が、せいいっぱいの声で言った。

 高所恐怖症の未奈にとって、この状況は最悪だ。

 泣き叫びたいはずなのに、じっと耐えている。

 未奈が恐怖に耐えてくれているから、春馬は冷静に考えることができる。

 そうか、これは!

 春馬はある数字が思いうかんだが、すぐには答えずに残り1つのヒントを待つことにした。

 不正解だとパラシュートは消滅だ。

 さらに20秒がたって、カウントダウンが『00:20』になった。

 ディスプレイに最後のヒントが映る。

『32』

 3つのヒントは、『白い犬』『米』『32』。

 暗証番号は□-□。

 まちがいない、あの数字だ。

 でも、本当にそれでいいのだろうか?

 不正解なら、命がなくなる。

 いや、なにもしなくても結果は同じだ。

……00:16……00:15……00:14……

「やるしかない!」

 春馬がディスプレイに指をのばしたとき、檻が回転した。

「うわぁ!」

 バランスを崩した春馬は横にふっ飛んで、鉄格子に背中をぶつけた。

ガツン!

「痛っ……!」

 体中に痛みが走り、動けない。

 いやだ。こんなところでは終われない!

 春馬が顔をあげると、ディスプレイのカウントダウンが見えた。

……00:09……00:08……00:07……00:06……

「大丈夫、まだ時間はある!」

 春馬は必死に手をのばして、ディスプレイの□に指で暗証番号を書く。

8-7。

 次の瞬間、檻の天井に設置された、パラシュートが開いた。

ガン!

 檻の落下スピードが落ちて、中にいた春馬と未奈の体が天井にぶつかった。

「痛いけど、助かった……」

 春馬がつぶやいた。

「パ、パ、パラシュートが……開いたの?」

 未奈が震える声で聞いた。

「もう大丈夫だよ。未奈」

「……春馬、ありがとう」

 未奈が、消えいりそうな声で言った。

 2人の入った檻は、速度を落としてゆっくりと落ちていく。


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