
恐怖に支配された「子どもたちの地獄」――〈奈落〉。その地に送りこまれた春馬と未奈。
しかし春馬は、わざとゲームに負けて、ここにきたのだ、行方不明の親友を探して――。
〈奈落編〉の完結となる16巻の発売前に、一気読み! 「絶体絶命ゲーム」でしか味わえない、圧倒的なおどろきとスリル。大人気シリーズの最先端を、この機会にどうぞ!
【これまでのお話は…】
ナゾの施設『奈落』へと送られた、春馬と未奈。
「Ⅰ区」と呼ばれる場所にいるのは、希望もなくボロボロの暮らしをする少年少女たち。
彼らは、「ゲームに裏切られた者たち」だという……!?
奈落を支配する「ボス」クジトラたちに春馬
だが「ここに秀介はいない」と言われ、次のステージである「Ⅱ区」を目指して、絶体絶命ゲームにいどむことに!?
※これまでのお話はコチラから
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7 ぺ・天使と勝負
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「……おはよう、武藤春馬」
甘ったるい女の声で、春馬は目を覚ました。
礼拝堂の床に寝かされていた。
春馬をおこしたのは、背中に羽のついた白い服を着たかわいい女性だ。
となりに、未奈と虹子が寝かされている。
まわりを見ると、有紀やクジトラたちだけではなく、Ⅰ区の全員がいる。
「どうして、みんながいるんだ?」
春馬が、つぶやいた。
「勝負の結果次第で、『絶体絶命ゲーム』がはじまるからよ。砂金採取なんてしている場合じゃないわ」
有紀が、冷静な口調で言った。
「もし、『絶体絶命ゲーム』が開始になったら、ここにいるだれでも参加ができるんです」
康明が説明した。
「それで、みんな、集まってきたのか」
春馬が納得して言うと、クジトラが鼻で笑う。
「おまえたちのような優等生が、ずる賢いぺ・天使に勝てるとは思えないけどな」
「クジトラさま、あいつらはオオカミのえさになりますよ」
我雄はうれしそうに言って、けたたましく笑う。
春馬がクジトラたちと話している間に、ぺ・天使は、未奈と虹子をおこした。
「武藤春馬、滝沢未奈、土黒虹子がおきたので、ルールを説明するばい。この勝負でだれか1人でもうちに勝ったら、裏口の扉が開いて、『絶体絶命ゲーム』がスタートになるばい。クジトラが、ここのボスでいられるのはそこまでの約束ばい」
ぺ・天使が言うと、有紀が質問する。
「次のボスは、だれがやるの?」
「優勝者がボスを希望すりゃ、そん人物がなるばい。希望せんときはボスはなしばい。全員平等に、朝から夜まで砂金採取をするばい」
ぺ・天使の言葉に、クジトラは舌打ちする。
「それでは、そろそろ勝負を始めるばい。うちと勝負するとは、春馬、未奈、虹子の3人だけでよかね?」
ぺ・天使が聞くと、みんなは顔をふせる。
「ほかにいるわけねえ。ここにいるやつらは腰抜けだ!」
クジトラが、えらそうな態度で言った。
「みんな、運がなかっただけだ」
春馬が言うと、クジトラは大声で笑う。
「おまえ、どういう話を聞いたかわからないけど、こいつらは『絶体絶命ゲーム』から逃げたやつらなんだ」
「応募したけど、参加できなかった……じゃないの?」
未奈が、けげんそうに聞いた。
「いいや、ほとんどのやつは招待状が届いたのに、ビビッて参加しなかったんだ」
クジトラの言葉に、みんなは言いかえせない。
「……だから、なんなんだ?」
春馬が、静かに聞いた。
「こいつらは、弱虫だ。追いつめられた状況になっても、勝負をしないで逃げる道を選ぶやつらだ。ここで、隠れて生きるのがせいいっぱいなんだよ」
クジトラは、けわしい口調で言った。
「はいはい、それくらいにしといて。うちは早う勝負をしたかと。いやなら、やめたっちゃよかとばい」
「わかった、つづけてくれ」
春馬が言うと、ぺ・天使が話をつづける。
「それじゃ、うちと勝負するとは、春馬、未奈、虹子の3人だけでよかね?」
みんな、暗い顔をふせたままだ。
有紀も気まずそうに、下をむいている。
「ぼくたち3人だ」
春馬が答えると、ぺ・天使が笑顔でうなずく。
「勝負は、春馬、未奈、虹子のだれか1人でん、うちに勝ったら、みんなの勝ちばい」
「あたしたちの1人でも、勝てばいいのね?」
未奈が確認する。
「そうや。うちが負けたら、裏口の扉が開いて、『絶体絶命ゲーム』がスタートになるばい」
「それで、どういう勝負なんだ?」
春馬が聞いた。
「1対1のドリンクん早飲み競争ばい」
ぺ・天使はそう言うと、3人をテーブルの前に連れていく。
テーブルには、小さなコップが3つ、大きなコップが3つ並べられている。
「コップの大きさがちがうわ」
未奈が指摘する。
「小さなコップは、口径7センチで高さは8センチばい。そこに、ばり苦い青々汁を60ミリリットルいれるばい。そして、大きなコップは口径8センチ、高さが13センチで、そこにオレンジジュースを300ミリリットルいれるばい」
ぺ・天使はテーブルにおかれた『青々汁』と表示されたボトルから、小さなコップに緑色のどろどろした液体を注ぐ。
そして、次に『オレンジジュース』と表示されたボトルから、大きなコップにオレンジ色の液体を注ぐ。
「少量のチョー苦い青々汁か、大量のオレンジジュース、どっちが早う飲めるか競争ばい」
「それで、青々汁とオレンジジュースを選ぶ権利は、どっちにあるの?」
未奈が質問した。
「あんたたちが選んでよかばい。うちは受けてたつばい」
ぺ・天使の答えを聞いて、春馬が確認する。
「勝負は1対1でやると言ったよね。それって、ぺ・天使は3回戦うということ?」
「そうばい」
「青々汁とオレンジジュースだけど、はじめる前にためしに飲むことはできるかな?」
春馬が聞くと、ぺ・天使は首を横にふる。
「それはダメばい。ただ、青々汁は苦うて、オレンジジュースはうまかばい」
腕組みした春馬に、未奈が小声で話しかける。
「春馬、どう思う?」
「うん……、青々汁がどれくらい苦いかが問題だな」
「あたしたちが3回とも青々汁を選ぶと、ぺ・天使は300ミリリットルのオレンジジュースを3回、合計2700ミリリットル飲まないとならないわよ」
「そう考えると、3人とも青々汁を選ぶと勝ち目はありそうに思えるけど……。でも、青々汁がすごく苦くて、まったく飲めそうもなかったら……」
春馬はそう言うと、青々汁のはいっている小さなコップをちらりと見た。
「いくら苦くても、あの小さなコップ3杯なら、なんとか飲めるんじゃない」
未奈は言うが、春馬は慎重だ。
「そこが罠かもしれないよ」
春馬と未奈が小声で話し合っていると、虹子が小さなコップの前にいく。
「まず、ぼくが勝負する」
「待って、その前に3人で作戦を……」
春馬が言うが、虹子は首を横にふる。
「作戦なんかいらないよ。実は、ぼく、苦いものは平気なんだ」
「えっ、そうなの!」
未奈が、うれしそうに言った。
「春馬と未奈は出る幕がないよ。ぼくが、ぺ・天使に勝つからね」
虹子は、落ち着いた口調で言った。
「うわぁ、苦かとが平気な人がおったとは、計算外や。こりゃ、うちが負けるかも知れんばい。……あぁ、勝つか負けるかわからん、このドキドキする興奮はたまらんばい」
ぺ・天使は満面の笑みで、大きなコップの前にいく。
虹子とぺ・天使は、テーブルをはさんでむかいあう。
「言い忘れとったばってん、ルールがもう1つあると。対戦相手のコップにふれることは反則ばい。もし、ふれたら、反則負けになるばい」
「かまわないよ。それより、早く勝負しよう」
虹子はやる気満々だ。
全員が、虹子とぺ・天使の勝負に注目する。
「それじゃ、1回戦の虹子とうちの勝負ばい。用意はよかか?」
ぺ・天使が聞くと、虹子がうなずく。
「いつでも、大丈夫だよ」
「スタートばい」
ぺ・天使が、かるい口調で言った。
虹子が小さなコップを手にすると、どろどろの青々汁を口に運ぶが……。
「……おっ、おっ、おっ、おぇ……」
「ええっ……!?」
春馬は、がくぜんとなる。
虹子は青々汁をひと口飲んで、顔面蒼白になってコップをテーブルにおく。
「あれ、苦かとは平気やったんやなかと?」
ぺ・天使はそう言うと、ぐいっと大きなコップのオレンジジュースを1杯飲みほす。
虹子は、もう青々汁を飲む気力はないようだ。
「残りもんには福がある。オレンジジュースが残ってよかったばい」
ぺ・天使は2杯、3杯のオレンジジュースを飲みほした。
虹子は、ふてくされたような顔でそれを見ている。
「結果は、一目瞭然。うちの勝ちばい!」
ぺ・天使が、小さくガッツポーズをした。