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ものがたり

『絶体絶命ゲーム』〈奈落編〉14・15巻 2冊無料ためし読み 第2回


恐怖に支配された「子どもたちの地獄」――〈奈落〉。その地に送りこまれた春馬と未奈。
しかし春馬は、わざとゲームに負けて、ここにきたのだ、行方不明の親友を探して――。
〈奈落編〉の完結となる16巻の発売前に、一気読み! 「絶体絶命ゲーム」でしか味わえない、圧倒的なおどろきとスリル。大人気シリーズの最先端を、この機会にどうぞ!


【これまでのお話は…】
ナゾの施設『奈落』へと送られた、春馬と未奈。
「Ⅰ区」と呼ばれる場所にいるのは、希望もなくボロボロの暮らしをする少年少女たち。
彼らは、「ゲームに裏切られた者たち」だという……!?
奈落を支配する「ボス」クジトラたちに春馬
だが「ここに秀介はいない」と言われ、次のステージである「Ⅱ区」を目指して、絶体絶命ゲームにいどむことに!?

 





※これまでのお話はコチラから

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7    ぺ・天使と勝負

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「……おはよう、武藤春馬」

 甘ったるい女の声で、春馬は目を覚ました。

 礼拝堂の床に寝かされていた。

 春馬をおこしたのは、背中に羽のついた白い服を着たかわいい女性だ。

 となりに、未奈と虹子が寝かされている。

 まわりを見ると、有紀やクジトラたちだけではなく、Ⅰ区の全員がいる。

「どうして、みんながいるんだ?」

 春馬が、つぶやいた。

「勝負の結果次第で、『絶体絶命ゲーム』がはじまるからよ。砂金採取なんてしている場合じゃないわ」

 有紀が、冷静な口調で言った。

「もし、『絶体絶命ゲーム』が開始になったら、ここにいるだれでも参加ができるんです」

 康明が説明した。

「それで、みんな、集まってきたのか」

 春馬が納得して言うと、クジトラが鼻で笑う。

「おまえたちのような優等生が、ずる賢いぺ・天使に勝てるとは思えないけどな」

「クジトラさま、あいつらはオオカミのえさになりますよ」

 我雄はうれしそうに言って、けたたましく笑う。

 春馬がクジトラたちと話している間に、ぺ・天使は、未奈と虹子をおこした。

「武藤春馬、滝沢未奈、土黒虹子がおきたので、ルールを説明するばい。この勝負でだれか1人でもうちに勝ったら、裏口の扉が開いて、『絶体絶命ゲーム』がスタートになるばい。クジトラが、ここのボスでいられるのはそこまでの約束ばい」

 ぺ・天使が言うと、有紀が質問する。

「次のボスは、だれがやるの?」

「優勝者がボスを希望すりゃ、そん人物がなるばい。希望せんときはボスはなしばい。全員平等に、朝から夜まで砂金採取をするばい」

 ぺ・天使の言葉に、クジトラは舌打ちする。

「それでは、そろそろ勝負を始めるばい。うちと勝負するとは、春馬、未奈、虹子の3人だけでよかね?」

 ぺ・天使が聞くと、みんなは顔をふせる。

「ほかにいるわけねえ。ここにいるやつらは腰抜けだ!」

 クジトラが、えらそうな態度で言った。

「みんな、運がなかっただけだ」

 春馬が言うと、クジトラは大声で笑う。

「おまえ、どういう話を聞いたかわからないけど、こいつらは『絶体絶命ゲーム』から逃げたやつらなんだ」

「応募したけど、参加できなかった……じゃないの?」

 未奈が、けげんそうに聞いた。

「いいや、ほとんどのやつは招待状が届いたのに、ビビッて参加しなかったんだ」

 クジトラの言葉に、みんなは言いかえせない。

「……だから、なんなんだ?」

 春馬が、静かに聞いた。

「こいつらは、弱虫だ。追いつめられた状況になっても、勝負をしないで逃げる道を選ぶやつらだ。ここで、隠れて生きるのがせいいっぱいなんだよ」

 クジトラは、けわしい口調で言った。

「はいはい、それくらいにしといて。うちは早う勝負をしたかと。いやなら、やめたっちゃよかとばい」

「わかった、つづけてくれ」

 春馬が言うと、ぺ・天使が話をつづける。

「それじゃ、うちと勝負するとは、春馬、未奈、虹子の3人だけでよかね?」

 みんな、暗い顔をふせたままだ。

 有紀も気まずそうに、下をむいている。

「ぼくたち3人だ」

 春馬が答えると、ぺ・天使が笑顔でうなずく。

「勝負は、春馬、未奈、虹子のだれか1人でん、うちに勝ったら、みんなの勝ちばい」

「あたしたちの1人でも、勝てばいいのね?」

 未奈が確認する。

「そうや。うちが負けたら、裏口の扉が開いて、『絶体絶命ゲーム』がスタートになるばい」

「それで、どういう勝負なんだ?」

 春馬が聞いた。

「1対1のドリンクん早飲み競争ばい」

 ぺ・天使はそう言うと、3人をテーブルの前に連れていく。

 テーブルには、小さなコップが3つ、大きなコップが3つ並べられている。

「コップの大きさがちがうわ」

 未奈が指摘する。

「小さなコップは、口径7センチで高さは8センチばい。そこに、ばり苦い青々汁を60ミリリットルいれるばい。そして、大きなコップは口径8センチ、高さが13センチで、そこにオレンジジュースを300ミリリットルいれるばい」

 ぺ・天使はテーブルにおかれた『青々汁』と表示されたボトルから、小さなコップに緑色のどろどろした液体を注ぐ。

 そして、次に『オレンジジュース』と表示されたボトルから、大きなコップにオレンジ色の液体を注ぐ。

「少量のチョー苦い青々汁か、大量のオレンジジュース、どっちが早う飲めるか競争ばい」

「それで、青々汁とオレンジジュースを選ぶ権利は、どっちにあるの?」

 未奈が質問した。

「あんたたちが選んでよかばい。うちは受けてたつばい」

 ぺ・天使の答えを聞いて、春馬が確認する。

「勝負は1対1でやると言ったよね。それって、ぺ・天使は3回戦うということ?」

「そうばい」

「青々汁とオレンジジュースだけど、はじめる前にためしに飲むことはできるかな?」

 春馬が聞くと、ぺ・天使は首を横にふる。

「それはダメばい。ただ、青々汁は苦うて、オレンジジュースはうまかばい」

 腕組みした春馬に、未奈が小声で話しかける。

「春馬、どう思う?」

「うん……、青々汁がどれくらい苦いかが問題だな」

「あたしたちが3回とも青々汁を選ぶと、ぺ・天使は300ミリリットルのオレンジジュースを3回、合計2700ミリリットル飲まないとならないわよ」

「そう考えると、3人とも青々汁を選ぶと勝ち目はありそうに思えるけど……。でも、青々汁がすごく苦くて、まったく飲めそうもなかったら……」

 春馬はそう言うと、青々汁のはいっている小さなコップをちらりと見た。

「いくら苦くても、あの小さなコップ3杯なら、なんとか飲めるんじゃない」

 未奈は言うが、春馬は慎重だ。

「そこが罠かもしれないよ」

 春馬と未奈が小声で話し合っていると、虹子が小さなコップの前にいく。

「まず、ぼくが勝負する」

「待って、その前に3人で作戦を……」

 春馬が言うが、虹子は首を横にふる。

「作戦なんかいらないよ。実は、ぼく、苦いものは平気なんだ」

「えっ、そうなの!」

 未奈が、うれしそうに言った。

「春馬と未奈は出る幕がないよ。ぼくが、ぺ・天使に勝つからね」

 虹子は、落ち着いた口調で言った。

「うわぁ、苦かとが平気な人がおったとは、計算外や。こりゃ、うちが負けるかも知れんばい。……あぁ、勝つか負けるかわからん、このドキドキする興奮はたまらんばい」

 ぺ・天使は満面の笑みで、大きなコップの前にいく。

 虹子とぺ・天使は、テーブルをはさんでむかいあう。

「言い忘れとったばってん、ルールがもう1つあると。対戦相手のコップにふれることは反則ばい。もし、ふれたら、反則負けになるばい」

「かまわないよ。それより、早く勝負しよう」

 虹子はやる気満々だ。

 全員が、虹子とぺ・天使の勝負に注目する。

「それじゃ、1回戦の虹子とうちの勝負ばい。用意はよかか?」

 ぺ・天使が聞くと、虹子がうなずく。

「いつでも、大丈夫だよ」

「スタートばい」

 ぺ・天使が、かるい口調で言った。

 虹子が小さなコップを手にすると、どろどろの青々汁を口に運ぶが……。

「……おっ、おっ、おっ、おぇ……」

「ええっ……!?」

 春馬は、がくぜんとなる。

 虹子は青々汁をひと口飲んで、顔面蒼白になってコップをテーブルにおく。

「あれ、苦かとは平気やったんやなかと?」

 ぺ・天使はそう言うと、ぐいっと大きなコップのオレンジジュースを1杯飲みほす。

 虹子は、もう青々汁を飲む気力はないようだ。

「残りもんには福がある。オレンジジュースが残ってよかったばい」

 ぺ・天使は2杯、3杯のオレンジジュースを飲みほした。

 虹子は、ふてくされたような顔でそれを見ている。

「結果は、一目瞭然。うちの勝ちばい!」

 ぺ・天使が、小さくガッツポーズをした。


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