
恐怖に支配された「子どもたちの地獄」――〈奈落〉。その地に送りこまれた春馬と未奈。
しかし春馬は、わざとゲームに負けて、ここにきたのだ、行方不明の親友を探して――。
〈奈落編〉の完結となる16巻の発売前に、一気読み! 「絶体絶命ゲーム」でしか味わえない、圧倒的なおどろきとスリル。大人気シリーズの最先端を、この機会にどうぞ!
【これまでのお話は…】
「奈落Ⅰ区」で、ボスたちの言いなりに働かされている少年少女は、「そのチャンスがあったのに、ゲームに参加することをあきらめてしまった者たち」。
モニターごしに彼らが、春馬と未奈のすがたを見まもる中、ゲームは終盤へ――!
※これまでのお話はコチラから
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12 ドアを通る条件は?
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春馬と未奈は、間一髪で第1の部屋を出た。
目の前に、雪のつもった平原の景色が広がっているが、なにか違和感がある。
「……あれ、建物の外に出たのかな?」
未奈が、首をひねりながら聞いた。
「いや、これは映像だな」
春馬が、あたりを見て言った。
体育館ほどの広さの部屋の壁に、天井からつるされた数台の映写機が、冬の平原を映している。
壁にある数台の監視カメラがゲーム参加者の行動を撮っている。
「おい、我雄はどうした?」
先にきていたクジトラが、春馬に聞いた。
「それなんだけど、ぼくにもよくわからないんだ。虹子を追いかけていったあと、ぼうっと床に座りこんで、倒れてしまったんだ。それで、しかたなくおいてきた……」
「……そうか。ゲームのプレッシャーに押しつぶされたんだろう。しょうがないやつだ」
クジトラは、なぜか納得する。
『第1の部屋から出られた7人、おめでとう。脱落者は、入来我雄やな』
ぺ・天使の声が、壁に設置されたスピーカーから聞こえてくる。
「我雄はどうなったんだ? 生きているんだろうな!」
クジトラが、大きな声で聞いた。
『他人を心配する余裕は、なかばい。……今、第2の部屋にいくドアが開いたばい』
ぺ・天使が言うと、平原の先にある山小屋のドアが開いた。
『いそぐばい。次の部屋に入れるとは、先に着いた……』
クジトラはぺ・天使の話の途中で、山小屋にむかって駆けていく。
有紀とエマもあとを追うように駆けていく。
春馬、未奈は出遅れたが、さらに遅れて康明が走る。
最後に、虹子が、まったくあせる様子もなく、歩いていく。
先頭を走っていたクジトラは、ドアの手前で危険を感じて立ちどまった。
うしろからきたエマは、勢いあまってドアから中に入るが……。
ビリビリビリ!
電気ショックを受けたエマは、はね返されるようにして床を転がった。
「な、な、な、なによ、これ! どうなっているのよ!」
エマが、体をしびれさせながら言った。
『話は、最後まで聞くばい。……次の部屋に入れるとは、先に着いた……順番だけでは、決まらないばい。ハハハハハハ……』
ぺ・天使の笑い声が、スピーカーから聞こえてくる。
春馬たちも、ドアの前にやってくる。
「ここに入るには、条件があるみたい」
未奈が、山小屋の壁に設置されているモニターを見て言った。
薪を持っていない者は、山小屋に入れません。
「ここに入るには、薪が必要のようだな」
春馬が言うと、みんなが視線をめぐらす。
「薪があればいいのね」
エマがそう言って、部屋の中を歩きまわる。
ほかの者も、薪をさがして歩きまわる。
しかし、薪はどこにもない。
『次に進む条件が、わかったみたいやね。ちなみに、そこからの脱出の時間制限はなしばい』
スピーカーから、ぺ・天使の声が聞こえてくる。
「薪なんて、どこにあるんだよ」
クジトラが、大声で聞いた。
『それは、これから出るばい。……みんな、気をつけるばい』
「気をつけるって、なによ?」と未奈。
『薪が出るばい!』
ぺ・天使の声で、7人は身構える。
天井から、長さ50センチほどの薪が、バラバラと数本落ちてくる。
7人は、落ちてきた薪をひろおうとする。
「これは、ラッキーだぞ」
康明のすぐ目の前に、薪が落ちてきた。
「次に進める」
薪をひろおうとした康明だが、駆けてきたエマに突き飛ばされる。
「うわぁ!」
「邪魔だよ!」
エマが薪をひろって、これ見よがしに康明の目の前につき出す。
「それは、ぼくのだ!」
康明が言うと、エマが薪を引っこめてにらみつける。
「ほしいなら、力ずくでとってみな」
「そ、それは……」
「どうなの? わたしと戦う?」
エマが薪を持ったまま、ファイティングポーズをとる。
「い、いや……」
康明は小さな声で言うと、うつむいてしまう。
「そう、それでいいのよ。薪、ありがとう」
エマは薪を手にとると、ドアのほうに歩いていく。
康明は、それをくやしそうに見ている。
「このままじゃダメだ。……ぼくだって……、やればできるはずだ……」
康明は、エマにむかって駆けだす。
「その薪は、ぼくのだ!」
康明が、エマに襲いかかろうとする。
すばやく振りかえったエマは、薪をふりあげる。
「えっ……!」
康明は驚いて、その場に尻もちをつく。
「争う必要はない。薪は全員の分あるんだ!」
春馬が言うと、康明が聞く。
「なに、なに? どういうこと?」
「薪は、7本あるんだ」
春馬に言われて、康明はきょろきょろとまわりを見る。
クジトラ、未奈、有紀、虹子、それぞれ薪を持っている。
そして、春馬は2本の薪を持っている。
「本当だ……」と康明。
「ぺ・天使はぼくたちをあおって、戦わせるつもりだったんだ」
春馬が、康明に薪を1本渡す。
「これで、全員、薪を持った」
「ありがとう」
康明が、薪を手にして言った。
「だれも脱落しないのか、つまらないな」
虹子がつぶやきながら、開いたドアから中に入ろうとする。
ビリビリビリ!
「うわぁ、うわぁ、うわぁ……。な、な、な、なんだよ!」
電気ショックで体をしびれさせながら、虹子が言った。
「おかしいな。どうして通れないんだ?」
春馬が、ドアの前にいく。
「……ねぇ、これ。条件が追加されているよ」
先にドアの前にきた未奈が、モニターを見て言った。
薪を持っていない者は、山小屋に入れません。
薪は、両手に1本ずつ持っていなければなりません。
1本の薪は、2人まで持つことができます。
「薪は、両手に1本ずつ……。つまり、1人2本必要ということか」
薪を持ってやってきた、クジトラが言った。
「ここにある薪は、全部で7本。1人2本が必要ということは、3人しか通れないのよ。4人はここで脱落ね。だれが脱落するかは、戦って決めましょう!」
エマはそう言うと、ファイティングポーズをとる。
それを見て、未奈があきれる。
「あぁ、もう。……テストのとき、問題は最後まで読むように言われなかったの?」
「言われないわ。だって、テストなんか昼寝の時間よ」
エマが、開きなおって言った。
「しょうがないな。山小屋に入る条件の最後に、『1本の薪は、2人まで持つことができます。』って、書いてあるでしょう」
未奈が言うと、エマは首をかしげる。
「だからなに?」
「つまり、2人1組になって、前の人が左右の手で1本ずつ薪を持って、うしろの人が同じようにその薪を持てば、2本の薪で2人がドアを通れるのよ」
未奈の説明に、エマが納得する。
「あぁ、そういうこと。それで、ここでは何人が脱落するの?」
横で2人のやり取りを聞いていた、クジトラが言う。
「簡単な計算だよ。薪が2本で2人がここから出られる。4本で4人、6本で6人だ。ここにいるのは、全部で7人だ」
「つまり、脱落は1人ね」
エマが言うと、その場に緊張が走る。