
「ぼくは〈奈落〉に残る。未奈はここから帰って」と言いだした春馬。いったいどうして――奈落のメンバーたちの「野望」に、春馬まで乗ってしまうのか!? そのピンチに、やってきた元ライバル、メイサや亜久斗、そして栄太郎とともに、未奈は春馬をとりもどすためのゲームにいどむ――!
〈奈落編〉クライマックスとなる『絶体絶命ゲーム16 もどれ春馬!ライバルたちが奈落に集結!!』を、ためし読み! (全2回)
【これまでのお話は…】
ナゾの施設『奈落Ⅱ区』にやってきた春馬と未奈。
Ⅱ区の絶体絶命ゲームをするうちに、春馬が「ぼくもここに残る」と言いだして――!?
そこに現れたのは、なつかしい元ライバル、メイサ、亜久斗、そして栄太郎だった。
いったい彼らはどうしてここに――!?
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0 滝沢未奈をさがす少女
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「……あ、あ、あの……、だ、だれか、2年生の永瀬メイサさんを知りませんか?」
横浜にある私立聖マリーナ学園の校門前。
小柄な少女が、しぼりだすように声を出した。
校舎から出てきた生徒たちは、首をかしげながら少女の横を通りすぎる。
「わ、わ、わたし、永瀬メイサさんに、大切な話があるんです!」
少女は必死で言うが、学校から出てきた生徒たちはだれも声をかけない。
「……お、お願いです。永瀬メイサさんを……」
精いっぱいに声を出した少女だが、はずかしくなり下をむいてしまう。
「知っているわよ……」
涼やかな声が聞こえてきて、少女は顔をあげる。
目の前に、ライトブルーのセーラー服を着た、金色のストレートヘアの女子生徒がいる。
「わたし、永瀬メイサを知っているわよ」
「ほ、ほ、本当ですか!?」
少女は、今にも泣きだしそうな顔で言った。
「あれ? あなた、だれかに似ているわね……」
セーラー服の女子生徒はつぶやくと、少女の顔をじっと見た。
「永瀬メイサさんは、どこにいますか?」
そう聞いた少女の顔に、女子生徒は、はっとなる。
「あなた、もしかして、未奈の妹なの?」
「えっ、どうして、おねえちゃんを知ってるの?」
少女はきょとんとした顔で聞いたが、すぐに目の前の女子生徒がだれなのか気がついた。
「もしかして、あなたが永瀬メイサさんですか?」
「そうよ」
セーラー服の女子生徒——永瀬メイサは、笑顔で答えた。
「わたし、滝沢未奈の妹の、滝沢由佳です」
小柄な少女、滝沢由佳が答えた。
「うん、わかる。目元が未奈に似ている」
由佳の姉の滝沢未奈は、私立渋神中学の2年生で、メイサとは数年前の『絶体絶命ゲーム』で知り合った。
彼女とは、ゲームで戦ったこともあるが、友人と呼べる人物だ。
「メイサさん、おねえちゃんを助けて!」
由佳が、切実な声で言った。
「未奈に、なにかあったの?」
メイサが聞くと、由佳はうかない顔になる。
「それは……」
「どうしたの?」
「……よくわからないけど、おねえちゃんは、危険なことになってると思うの……。メイサさん、おねえちゃんを助けて!」
由佳の大きな声に、横を歩いていた生徒が驚いて顔をむける。
「……とりあえず、落ち着いて話ができるところに移動しよう」
メイサは、由佳を近くのファミレスに連れていく。
緊張で口がかわいていたらしい由佳は、オレンジジュースをごくごく飲む。
「由佳ちゃん、病気でたいへんな手術をしたんでしょう?」
メイサが、心配になって聞いた。
「はい、3年前に手術を受けました。でも、心配いりません。今は元気です」
オレンジジュースを飲みほして、由佳が言った。
「それなら、一安心ね。……それで、未奈になにがあったの?」
メイサが聞くと、由佳は少し考えてから答える。
「……いなくなったの」
「いなくなったって、行方不明ということ?」
「おねえちゃん、今年の4月から、勉強のために外国の学校にいったの」
「留学したのね。それで、留学先で連絡がつかなくなったということ?」
すると由佳は、首を横にふる。
「定期的にメールはくるの。………………でも、なにか、おかしいの」
「お父さんとお母さんは、どう言っているの?」
メイサが聞くと、由佳は不安そうに答える。
「メールがきているし、学校からもなにも言ってこないんだから、大丈夫だろうって……」
「由佳ちゃんは、どうしておかしいと思ったの?」
「おねえちゃん、いつも、わたしの体調を心配しているの。それが、外国の学校にいったあとは、わたしの体調のことを一度も聞いてこないの」
由佳の話を聞いて、メイサも不安になる。
未奈は、妹の高額な手術費が必要で、命がけの『絶体絶命ゲーム』に参加した。
それほど妹おもいの未奈が、1カ月以上も、由佳の体調をたずねてこないのは妙だ。
「たしかに、おかしいわね」
メイサの言葉に、由佳がほっとした顔をする。
「……ありがとう、メイサさんならわかってくれると思ったの」
「でも、どうして由佳ちゃんは、わたしのことを知っているの?」
「おねえちゃんが、いつも話していたわ。横浜の聖マリーナ学園の永瀬メイサさんは、頭がよくて、きれいで、おねえちゃんの大好きな友だちだって……」
「そ、そんな、大好きなんて」
メイサは照れたが、すぐにわれに返る。
今は、喜んでいられる状況ではない。
おそらく、未奈は、なにか厄介ごとに巻きこまれている。
それには、——あの『絶体絶命ゲーム』が関係しているにちがいない。
「わかった。未奈がどうなったのか調べてみる」
メイサが言うと、由佳は「お願いします」と深々と頭をさげた。
そのあと、メイサは由佳と連絡先を交換して別れた。
由佳が帰ったあと、メイサは私立渋神中学に知り合いのいる友人をさがした。
未奈や武藤春馬とは友人だが、連絡先までは知らない。
友人に紹介されて連絡がついたのは、渋神中学2年の、ある少年だった。
「……永瀬メイサ、長生きしたいなら、このことに首をつっこまないことだな」
渋神中学の近くにある公園で、マッシュルームヘアの少年がクールぶった表情で言った。
「忠告、ありがとう。——つまり、あなたは、なにか知っているのね。花宮栄太郎」
メイさにそう言われたマッシュルームヘアの少年は、花宮栄太郎だ。
「あ、あ、あ、あっ、あの、いや、いや、だから、こ、こ、これは本当に危険なんだよ」
あわてる栄太郎に、メイサは冷静な口調で質問する。
「つまり、未奈はかなり危険なことに巻きこまれている。そうでしょう?」
「い、い、いや、だから、そ、そ、それは……」
「言いかえせないということは、わたしの考えが当たっているのね」
「……あぁ、もう……」
栄太郎は頭をかく。
「でも、おかしいわね。未奈が危険に巻きこまれているのに、春馬はなにをしているの?」
メイサに聞かれて、栄太郎は目をそらす。
「……ぼくは、もうなにも答えないよ。それが、メイサのためでもあるんだ」
「そう、それなら、口では答えなくてもいいわよ」
「口では答えなくてもいいって……?」
栄太郎は思わず、メイサを見た。
「春馬も、危険に巻きこまれているのね?」
メイサが言うと、栄太郎はごくりとつばを飲みこんだ。
「当たりね。……未奈と春馬はいっしょに、危険に巻きこまれたの?」
栄太郎は、顔をこわばらせる。
「これも当たりか。それは『絶体絶命ゲーム』に関係しているのかな?」
「!」
「当たりね。未奈と春馬は、ゲームに負けたのね。栄太郎は、そこにいたのかな?」
メイサに言われて、栄太郎はくやしそうな顔をする。
「……その顔は、いたのね。いや、それだけじゃない。栄太郎も参加していた。そうでしょう?」
「あぁ、もう! ぼくはなにも言ってないのに、どうして、ズバズバ当てるんだよ!」
「栄太郎は素直だから、言葉にしなくても表情でわかるのよ」
「そんなぁ……」
頭をかかえた栄太郎に、メイサはやさしく質問する。
「春馬と未奈になにがあったの? 栄太郎に迷惑はかけないから、教えて」
「しょうがないなぁ……」
栄太郎はまえおきしてから、卒業式の日におこなわれた『絶体絶命ゲーム』について話をする。
2年生の提案でおこなわれた、学年対抗のゲーム。
春馬、未奈、栄太郎、松山亜沙美の1年生チームは、最下位になった。
そして、その罰として、春馬と未奈は『奈落』に転校させられることになったのだ。
話を聞き終わったあと、メイサは暗い顔になる。
「……楽しい話を聞けるとは思っていなかったけど、まさか『奈落』とはね」
「だから、首をつっこまないほうがいいと言ったんだよ」
栄太郎が、不機嫌そうに言った。
「わたしは、うわさでしか『奈落』を知らないの。栄太郎は調べたんでしょう。教えてくれる?」
「ぼくの行動は、全部、お見とおしということか……」
「お願いだから、教えて」
「……しょうがないな。メイサの言うように、ぼくは『奈落』について調べたよ。でも、情報はかくされているようで、たいしたことはわからなかったんだ」
「わかったことだけでもいいわ、教えて」
メイサに言われて、栄太郎は言う。
「……『奈落』は世界の果てのようなところにあって、牢獄のような施設で、弱肉強食のおそろしい世界らしい」
「どうやったら、そこにいけるのかな?」
メイサが聞くと、栄太郎は目を丸くする。
「まさかメイサは、いくつもりなの!?」
「いかないと、未奈と春馬を助けられないでしょう」
「普通の人はいけないと思うよ。『奈落』につれていかれるのは、この世界に不満がある反抗的な人らしいよ。春馬と未奈は、例外だけど……」
「……今から反抗的な行動をとっても、『奈落』から目をつけられるのは、当分、先ね」
「『奈落』にいく人は、ぼくたちとはちがう、ギリギリの世界で生きている人たちみたいだよ」
「反抗的で、ギリギリの世界か……。もしかして、彼なら……」
メイサがつぶやくように言うと、今度は栄太郎が首をかしげた。
武蔵野市立境中学の三国亜久斗は、校門の前で待っていた2人を見て、眉をひそめた。
「そろそろ、だれかくるんじゃないかと思ったけど、メイサと栄太郎とは異色のコンビだな」
「その口ぶりだと、わたしたちがたずねてきた理由がわかっているようね」
メイサが、冷ややかな口調で言った。
「おれと、おまえたちの共通点は、武藤春馬と滝沢未奈だ。あの2人の生存確認にきたんだろう?」
「……生存確認って、縁起でもないな。あの2人は、生きているよ」
栄太郎が言うと、「そう言い切れるか?」と亜久斗が質問する。
「それは……」
言葉につまった栄太郎にかわって、メイサが聞く。
「亜久斗は、春馬と未奈がどうなっているか、知っているの?」
「もちろん、知っているよ。あの2人は、『奈落』で楽しくやってるよ」
「その情報は、どこで聞いたの?」
メイサが聞くと、亜久斗は小さく首を横にふる。
「蛇の道は蛇と言うだろう。『奈落』はおれのような、横道にそれた人間のそばにあるんだ」
「……このさい、情報源はどこでもいいわ。『奈落』について教えてほしいの」
「聞いて、どうするんだ? 春馬と未奈に会いにいくつもりか?」
亜久斗が聞くと、「そうよ」とメイサが即答した。
「あそこは、テーマパークじゃないぞ。いや、危険をテーマにしたテーマパークかな」
「テーマパークなら、大好きよ。ぜひ、いきたいわ」
メイサが言いかえした。
「危険はいいけど、メイサは寒いのは苦手じゃないのか? あそこは寒いぞ」
亜久斗の言葉に、栄太郎が大きな声を出す。
「寒いって……、『奈落』がどこにあるか、知っているの!?」
「知っているから、寒いと言ったんだ」
亜久斗の答えに、栄太郎が疑問をもつ。
「……う、うそだ。ぼくは必死になって調べたけど、うわさしか、わからなかったんだ」
「おれは、調べたわけじゃない。『奈落』のほうが、おれに近づいてきたんだ」
「えっ?」
栄太郎が、首をひねる。
「……それって、『奈落』から誘いがあったということ?」
メイサの問いに、亜久斗がめんどうくさそうに答える。
「あそこは人材不足のようだな。スカウトされたんだ」
「いくつもりなの?」
「その気はなかったけど、おまえたちの顔を見ていたら、気が変わったよ。近々、『奈落』とやらをのぞいてみるか」
「わたしも、つれていって」
メイサが、強い口調で言う。
すると、亜久斗はこたえず、栄太郎に視線をむける。
「おまえはどうするんだ?」
「ぼ、ぼく……?」
栄太郎は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「春馬と未奈は、おまえの仲間だろう?」
「そ、そうだけど……」
言いよどんだ栄太郎にかわって、メイサが言う。
「いくのは、わたしと亜久斗だけでいいわ」
「あそこは、危険なテーマパークだからな。おぼっちゃんの栄太郎は守られたぬるま湯の世界で、甘いケーキでも食べながら、のんきに友人の無事を祈っていてくれ」
亜久斗が、いやみっぽく言った。
「……ぼ、ぼくもいく。……春馬と未奈は、ぼくの大切な友だちだ」
むきになって言った栄太郎にむかって、亜久斗は少しだけやさしい笑みを見せた。