
「ぼくは〈奈落〉に残る。未奈はここから帰って」と言いだした春馬。いったいどうして――奈落のメンバーたちの「野望」に、春馬まで乗ってしまうのか!? そのピンチに、やってきた元ライバル、メイサや亜久斗、そして栄太郎とともに、未奈は春馬をとりもどすためのゲームにいどむ――!
〈奈落編〉クライマックスとなる『絶体絶命ゲーム16 もどれ春馬!ライバルたちが奈落に集結!!』を、ためし読み! (全2回)
【これまでのお話は…】
亜久斗は奈落の「代表」から、じきじきにスカウトされていたらしい!?
Ⅱ区メンバーだけでなく、Ⅲ区メンバーの蘭々からも警戒される中、
亜久斗は、あっさりと入区テストもこなしてみせる。いったい彼のねらいはどこに!?
※これまでのお話はコチラから
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2 敗者復活戦の勝者はだれだ?
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Ⅱ区の建物に入るなり、春馬は違和感をおぼえる。
「なんだろう……なにかおかしいな」
「静かすぎるわね。まるで、だれもいないみたい」
前を歩くメイサが言った。
先頭をいく亜久斗は、レクリエーション・ルームのドアの前で立ちどまる。
「……やっぱり、おれたちは招かれざる客のようだぞ」
亜久斗は、レクリエーション・ルームのドアを開けた。
「あぶない!」
春馬が叫んだ。
ビュッ!
銀髪のショートボブの女子が、ジャンプキックをしてくる。
瞬間、亜久斗はしゃがんで、その女子のキックをよけた。
「すごいすごい、やるじゃない。わたしのジャンプキックをかるがるよけるなんて、すごい反射神経よ。代表がスカウトするだけのことはあるわ。あなたが、三国亜久斗よね」
銀髪の女子が明るい口調で言うと、亜久斗が、ぶぜんとした顔で言いかえす。
「いきなり飛び蹴りしてきたうえに、初対面で呼び捨てか。『奈落』に礼儀はないようだな」
「あぁ、ごめんなさい。機嫌をそこねてしまいましたね。わたしは、だれが相手でもフルネームで呼び捨てにしてしまうの。わたしの悪いくせなので、気にしないでください」
銀髪の女子は、笑顔で言った。
「それで、あなたはだれなんですか?」
春馬が質問する。
銀髪の女子が、春馬をじっと見る。
「あなたが武藤春馬ね。あなたも、なかなかいい……叫び声だったわよ」
「ユウヤ、その女はなにものなの?」
最後に建物に入ってきた七菜が、レクリエーション・ルームから出てきたユウヤに聞いた。
「ぼくも初対面だよ。七菜たちが外に出たあと、いきなりやってきたんだ。今回のゲームの案内人らしい」
「やっぱり、『絶体絶命ゲーム』をやらないとならないのね」
最後に遅れて建物に入ってきた未奈が言った。
「あなたは、滝沢未奈ね。うわぁ、かわいい。……あぁ、そんなことより、これで、ゲームの参加者がそろったわね。みなさん、部屋に入って」
銀髪の女子はそう言うと、春馬、未奈、亜久斗、メイサ、栄太郎、七菜をレクリエーション・ルームに入れる。
レクリエーション・ルームには、ユウヤ、鏡一、アリス、蘭々、瀬々兄弟がいる。
「あぁ、退屈だな! おれたちは、ゲームに参加できないんだろう。部屋にもどろうぜ!」
瀬々兄弟の兄、大器が、弟の晩成と部屋を出ていこうとする。
銀髪の女子が、瀬々兄弟の前に立ちふさがる。
「あなたたちは、瀬々兄弟ですね。2人は、ことわざにはくわしいですか?」
「おまえ、なんだよ。けがしたくないなら、そこをどけ!」
体の大きな晩成がおどすが、銀髪の女子はまったく動じない。
「こ、と、わ、ざ、よ。ことわざ」
「けがすると言ったんだぞ、聞こえなかったのか!」
晩成がにらみつけても、銀髪の女子はひるむことなく言いかえす。
「もちろん、聞こえていますよ。わたし、耳はいいほうなんです。両方2.0。……あれ、それは目だったかしら? あぁ、それよりも、ことわざです。ことわざは役に立つから、勉強しておいたほうがいいですよ。——ちなみに、『棚(たな)から牡丹餅(ぼたもち)』ということわざは知っていますか?」
銀髪の女子の質問に、しかたなさそうに大器が答える。
「それくらい知ってる。牡丹餅は、おはぎのことだろう。棚においてあったおはぎが落ちてきて、下にいた人の口に入ったことから、思いがけない幸運が起きる——という意味だ」
「試験なら、正解よ。ただ、わたしは、このことわざの本当の意味はちがうと思っているの」
「はぁ? さっきから、なんの話をしているんだよ!」
晩成が、いらいらした口調で言った。
「棚から牡丹餅の本当の意味はねぇ。棚の下にいないと、牡丹餅は落ちてこないということなの」
「「!」」
銀髪の女子の言葉に、瀬々兄弟が顔を見合わせる。
「……つまり、その場にいないと、幸運が起きない、ということかな……」
春馬が、つぶやいた。
「うわぁ、うわぁ、すごい! 大正解よ、武藤春馬。やっぱり、優秀ね。日本の未来は明るいわ」
銀髪の女子が、大喜びで言った。
「……ルー先輩、そろそろ自己紹介したらどうなの」
蘭々に言われて、銀髪の女子はわれに返る。
「あぁ、そうでした。まだ自己紹介をしていなかったわね。天真蘭々、わたしの暴走をとめてくれて、ありがとう。あいさつが遅れました」
銀髪の女子はそう言うと、両手を腰に当ててモデルのようにポーズをとる。
「……わたしは、『奈落』Ⅲ区に所属、ファッションとスイーツが大好き、最高の美貌と最強の運動神経の持ち主、華麗ルーよ。よろしくね」
「……ゲームの案内人だと聞いて、ただものじゃないと思ったけど、Ⅲ区のメンバーだったのか」
ユウヤが、つぶやくように言った。
「じつは、重大発表があります。……『奈落』の代表は今回の『絶体絶命ゲーム』を、Ⅲ区への昇格テストにすると決めました。勝利チームで一番活躍した人を『優秀者』として、Ⅲ区に昇格させるそうです。だから、みなさん、がんばってください!」
ルーの言葉に、Ⅱ区のメンバーがざわめく。
「わたしはどうなるの!? わたしは、もともとⅢ区メンバーよ!」
蘭々が聞くと、ルーがにこりと笑う。
「あぁ、そうだったわね。でも、いいじゃない。実力があれば、Ⅲ区にもどってこられるわ」
「そんなぁ……」と蘭々。
「それから、負けたチームには罰として、『奈落』のⅠ区で、無期限の修行を課すそうです」
ルーの言葉に、Ⅱ区のメンバーは不満そうな愕然とした顔をする。
「それって、ぼくたちも負けたら、『奈落』のⅠ区にいかないとならないのかな?」
栄太郎が、おどおどした声で聞いた。
「負けたチームには例外なく、『奈落』Ⅰ区へいってもらいます。あそこは、地獄ですよ」
ルーの答えを聞いて、栄太郎は体をふるわせる。
「あたしは、もし勝っても、『奈落』のⅢ区になんて、いきたくないわ」
未奈が言うと、ルーがうなずく。
「滝沢未奈のチームが勝ったなら、東京の家に無事に帰してあげますよ。それと、Ⅱ区のメンバーに勝ったほうびとして、全員の願いを1つかなえてくれるそうです」
「————今、部屋で休んでいる秀介は、どうなるんだ?」
とつぜん、春馬が聞いた。
「上山秀介は、ゲームに参加してないから、Ⅱ区のままです」
「そうか……」と春馬。
「ルー、一度、ゲーム参加のメンバーを整理してくれないか」
ユウヤがたのんだ。
「そうね。まずⅡ区とⅢ区と武藤春馬の混合チームは、甲斐ユウヤ、藤木アリス、天真蘭々、武藤春馬の4人。来客チームは、滝沢未奈、永瀬メイサ、三国亜久斗、花宮栄太郎の4人よ」
「やっぱり、おれと晩成、鏡一と七菜は、ゲームのメンバーに入ってないじゃねぇか」
大器が、はき捨てるように言った。
「おれたち4人は、さっきまでやっていたゲームで、武藤春馬と滝沢未奈に負けただろう。それで、今回のゲームは参加する権利がないんだ」
鏡一が言うと、メイサが聞く。
「未奈、さっきまでゲームをしていたの?」
「そうなんだ」と言って、未奈はⅡ区のメンバーと『絶体絶命ゲーム』で戦ったことを話した。
「……もう1つ、報告があります。これからやる『絶体絶命ゲーム』ですが、甲斐ユウヤからは4人対4人のチーム戦と聞いていると思いますが、変更します。5人対5人のチーム戦になりました」
ルーが言うと、鏡一がぴんとくる。
「もしかして、棚から牡丹餅の話は、ここでつながるのか?」
「そうそう、そうなのですよ! 吉良鏡一、あなたは勘が鋭いですね。それに、ピアノも上手なんでしょう。今度、聞かせてほしいです」
ルーが、大喜びで言った。
「この部屋に残っていたことで、棚から牡丹餅が落ちてきたんだ」
晩成がつぶやいた。
「……じゃあ、おれたちも、新しいゲームに参加できるのか?」
大器が聞いた。
「いや、まだわからない。ゲームの参加人数は、4人対4人から、5人対5人に変更になった。それだと、たりないのは1チーム1人。つまり、新しく参加できるのは2人だけだ」
鏡一が言うと、瀬々兄弟はルーに視線をむける。
「吉良鏡一、林田七菜、瀬々大器、瀬々晩成。あなたたち4人には、敗者復活戦をやってもらいます。そして、勝った2人が、ゲームに参加できます。敗者復活から、さらにⅢ区のメンバーに成りあがれるということも、あるかもしれないわね。これは、まさに『奈落』ドリームですよ」
そう言われた瀬々兄弟の目が、鋭くかがやく。
「それで、なにをやるんだ?」
晩成が聞いた。
「簡単なクイズをやってもらいますよ。みなさんは、この『奈落』がどこにあるか、知っていますね」
ルーが聞くと、「北海道でしょう」と七菜が答える。
「正解です。それでは、ここからが問題です」
ルーが、モニターのリモコンを操作する。
モニターに、道路の案内標識の写真が映る。
直進すると『苫小牧』で、左折の先はかくされていて『?』となっている。
「これは実際に、この日本のある場所に設置されている、道路の案内標識です。『?』に、苫小牧からできるだけ遠い地名を書いた2人が勝ちとなり、ゲームの追加メンバーになれます」
ルーはそう言って、鏡一、七菜、瀬々兄弟に紙とペンをわたす。
「制限時間は60秒です。それでは、スタート!」
モニターが、カウントダウンにかわる。
00:60……00:59……00:58……00:57……
「これはひっかけ問題だな。案内標識に書かれている『苫小牧』は、北海道の苫小牧じゃねぇんだ。ほかに、苫小牧という地名の場所があるんだろう?」
大器が聞くと、ルーが首を横にふる。
「いいえ、ちがいます。この標識に書かれている『苫小牧』は、北海道の苫小牧ですよ」
「それ、本当なんだろうなぁ!」
大器が確認する。
「うそは言いません。標識の『苫小牧』は、北海道の苫小牧を指しています」
ルーが言うと、大器は腕組みをして考える。
……00:05……00:04……00:03……00:02……00:01……00:00
「ハイ、タイムアップです。4人の解答を見せてください」
ルーに言われて、大器、晩成、鏡一、七菜が解答を見せる。
「敗者復活で勝ったのは、おれたちのようだな」
大器は、鏡一とアリスの答えを見て、半笑いで言った。
大器は『函館』、晩成は『札幌』と書いている。
「……いや、兄ちゃん。おれたちは、おそらく、負けた」
晩成が弱気な発言をする。
「おい、なに言ってるんだ?」
「鏡一と七菜が、同じまちがいをするとは思えない」
晩成に言われて、大器は「そ、それは……」とうなる。
鏡一と七菜の解答は、『博多』だ。
「それでは、正解発表ですよ。このクイズの正解は、これです!」
ルーが言うと、モニターに正解が表示される。
左折表示の先には『博多』と書かれている。
「ど、どういうことだよ! 表示されている『苫小牧』は、北海道の苫小牧だと言っただろう!?」
大器が抗議すると、ルーが冷静に言いかえす。
「表示されているのは、たしかに北海道の『苫小牧』です。でも、この案内標識が設置されている場所は、北海道じゃないんです」
「それじゃ、その標識はどこにあるんだよ!」
晩成が聞いた。
「この標識があるのは、福井県敦賀の船乗り場へむかう道なんです」
ルーの答えに、瀬々兄弟は顔を見合わせる。
「北海道へいく船と、九州へいく船の道ということか……」
大器はがっくりとなる。