
友だちのもとに届いた、謎めいた招待状。ケガをした友だちのかわりに出むいた春馬は、「絶体絶命ゲーム」に参加することに…! 集められていた10人の少年少女。賞金は1億円! 勝つのはただ1人。負ければ……死!?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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5 命がけで走れ!
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第2ゲームの場所として指示された地下室は、大きなホールだった。
まるで、小学校の体育館のようだ。
春馬がやってくると、ほかの参加者はすでに集まっていた。
「秀介、遅かったね」
声をかけてきたのは直人だ。
そうだ、ぼくは秀介だったな。
「まだ時間になってないだろ」
「そうだけど、あの2人なんて、10分も前にきて準備体操してるよ」
直人の視線の先で、猛士とカツエがストレッチをしている。
「1億円がかかっているからね。みんな、真剣だよ」
準備運動をしているのは、猛士とカツエだけじゃない。
未奈や文子や草太と麗華まで、軽い柔軟体操をしている。
「それに、負けたら殺される……」
春馬がつぶやいた。ここあの死に顔が、頭をよぎった。
ゲームに勝って、生き残らないと……。
「あれ?」
春馬は、みんなから離れて壁にもたれている亜久斗に目がいった。
「直人、彼をどう思う?」
「うん、ちょっと不気味だね」
そのとき、マギワが怨田と鬼崎をしたがえてやってくる。
「みんな、時間に正確やなぁ。ウチは遅刻ギリギリの登校で、マギワの登校って言われたんや。…………あれ、笑うところやでぇ」
みんな、にこりともしないで、マギワのまわりにやってくる。
「まぁ、ええか。第2ゲームやけど、まずは準備運動や。ここを3周走ってもらうでぇ」
春馬はホールを見た。
1周は200メートルくらいだろうか。ここを3周なら、600メートルの競走だな。
「まずは、配置についてなぁ」
えっ、説明はそれだけなの?
「よっしゃ、ここはオレ様がぶっちぎるぅぅぅ!」
猛士はやる気満々だ。
その横で、カツエが両手を組んで、指をボキボキならしている。
「おう、カツエもやる気だなぁ。オレ様と勝負だぜぇ!」
猛士とカツエは、勝負に盛りあがっている。
「ルール説明はそれだけでしょうか?」
不安そうな顔で聞いたのは文子だ。
「ざんねーん、ここでの質問は受けつけてないんや」
「そう言われても、不明な点が多すぎです」
「競走すればいいだけや」
「でも、ここで何人が脱落になるのか? どうすれば勝利となるのかなど……」
「ごちゃごちゃ言うと、ここで脱落にするで仙川文子!」
文子は口を閉ざした。
「さぁみんな、そこのラインにならんでな」
マギワに言われて、9人はスタートラインにならぶ。
「準備はええか? ──よーい、スタートやぁぁぁぁ!」
マギワのかけ声で、9人は駆けだした。
猛士が抜けだし、カツエがつづく。
そのうしろを亜久斗が走る。春馬は4番手だ。
負けたら殺される。
しかし、ルール説明は「3周走る」というだけ。
なにか仕掛けがあるのかもしれない。それなら、真ん中くらいが安全だ。
春馬のうしろを直人、未奈、麗華、草太がつづいている。大きく遅れて文子が走っている。
彼女は運動音痴のようだな。走り方がぎこちない。
このままの順位で、9人はゴールした。
「ぎゃはははは、とろくせえー! 文子、おまえはここで脱落だぁ───!」
猛士がからかうように言った。
「マギワさんは……3周走ってと……言っただけです……」と文子が荒い息をつきながら言いかえす。
「なんど走っても、おまえは最下位だぜ!」
猛士が言って、文子がくやしそうな顔をする。
「今のは、ほんのウォーミングアップや。第2ゲームはこれからや」
マギワが言う。
「第2ゲームは──二人三脚や」
マギワの言葉に、9人はざわめく。
「はぁ!? 二人三脚って、2人の足をしばって走る、あれかぁ!?」
「そうや、ほかにないやろう」とマギワ。
春馬は、ほかのメンバーをちらりと見た。
みんな、パートナーがだれになるのか気になるようで、きょろきょろしている。
「マギワさん、第2ゲームも、負けたら殺されるんですか?」
春馬が聞くと、ほかの者も緊張した顔になる。
「殺されるやて? 物騒なことは言わんといてなぁ。……脱落、や」
きっぱり否定してほしかった。でも、マギワは否定しなかった。
「ぼぼぼ……ぼくはだれと……、だれとペアを組めば……」
草太が聞くと、ほかの参加者もマギワを見る。
「ウチもそれに悩んだんや。それで、みんなに走ってもらったわけや」
ここの競走には、マギワの意図があったようだ。
「足の速さは、それぞれちがいがあるやろ。それで公平にするために、速い人と遅い人を組ませることにしたんや。2人のスピードを足して2で割ったら、みんな、同じくらいになるやろう」
春馬は首をひねる。
時速90キロに時速10キロを加えて2で割ると、時速50キロになる。
時速55キロに時速45キロを加えて2で割ると、時速50キロになる。
しかし、これは数字の上だけだ。
二人三脚で同じ速さになるとは思えない。
「ほな、ペアを発表するでぇ!」
みんながざわめいていても、マギワはどんどん話を進める。
「1位の利根猛士は、9位の仙川文子と組んでや」
「なんだって!? オレ様が、どうしてこんな運動音痴と!」
猛士は言葉を震わせるが、マギワは知らん顔でつづける。
「2位の竹井カツエは、8位の小山草太と組んでや。3位の三国亜久斗は、7位の桐島麗華とや。4位の上山秀介は、6位の滝沢未奈とやね」
9人はおたがいのパートナーに目をむける。
空手家のカツエは気の弱い草太をにらみ、草太は小さくなる。
女優の麗華はぶつぶつ文句を言っているが、亜久斗は無表情だ。
春馬はため息をついた。パートナーはよりによって未奈だ。
「本気で走ってよね」
未奈に言われて、春馬は小さくうなずいた。
彼女とは、あまり話をしないほうがよさそうだ。
「文子となんて走れるわけねーだろ!」
猛士がどなる。
「わたしだって、こんな粗暴な人となんて承伏できません。マギワさん、善処ください」
文子が泣きそうな声で、マギワに助けを求める。
「この2人は、相性最悪のようやな。それなら、棄権もできるでぇ?」
「棄権できるのかぁ!?」と猛士は大喜びする。
「不戦敗で、2人ともここで脱落やけどな。それでええか?」
マギワに言われて、猛士と文子は顔を見あわせる。
「ダメだ! それはダメだ!!」と猛士。
「棄権はしません」と文子。
「それなら、がまんするんやな。勝負は時の運や。ウチの計算からすると、みんなが同じくらいの速さになるはずなんや」
意地悪なのか天然娘なのか、マギワは満足そうな顔をしている。
「文子、オレ様の足をひっぱるんじゃねーぞ!」
運動神経の悪い文子は、自信がなさそうにうつむく。
「あの……」
とうとつに、直人が手をあげた。
「どないしたん?」
「ぼくだけ、パートナーを言われなかったんですけど」
「浅野直人か。9人で真ん中の5位やったな。ペアを組むパートナーがおらへんので、1人で走ってな。ただ、ハンデをつけさせてもらうで」
顔をかがやかせる直人に、猛士が難癖をつける。
「ズルイだろぉが! 1人で走れば、はやいに決まってる!!」
「人生には運も左右するんや。直人は運がよかったということや」
「それなら1位のオレ様がシードで、1人で走るのが妥当じゃねえのかよぉ!」
「あー、うるさいなぁ。失格にするでぇ!」
マギワが声を荒げると、猛士は不満そうに口を閉ざす。
「ほな、競走場所に移動や」
えっ、ここを走るんじゃないのか?
春馬の胸にちょっぴり不安がよぎった。
マギワに連れられ、9人は建物中央の奥にある、扉の前にやってきた。
春馬が調べたとき、ここにはカギがかかっていた。
マギワが扉を開けると、長いわたり廊下がつづいている。
「競走場所は、この先やでぇ」
マギワはぐんぐん歩いていく。
窓から、廊下の先にある、えんとつのような高い塔が見える。
茶色のレンガ造りで窓はなく、ビル10階くらいの高さがある。
まさか、あそこにいくつもりなのか?
マギワは塔に通じる扉を開けた。
春馬は目を見はった。
ここは、なんだ?
薄暗い空間は、巨大なえんとつの中か、古いSF映画に出てくるロケット発射場のようだ。
中央は大きな穴になっていて、そのまわりをさびついた鉄の階段が、うずまき状に天にのびている。
「第2ゲームは、この『螺旋塔』の階段での競走や」
マギワが言っても、驚いた9人はぽかんとしている。
ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ……
水滴が落ちてくる。
「この階段、濡れてるわ」
正気にもどったように文子が大きな声を出した。
よく見ると、階段はびしょびしょだ。
「昨日、雨が降ったようなんや。すべるよって、気をつけてな」
「これじゃ、おもいきり走れねーじゃねぇか」
猛士がつぶやくように言った。
春馬も同じ気持ちだった。
ふつうにのぼるのも危なそうな階段を、二人三脚で競走するなんてむちゃくちゃだ。
でも、棄権したら脱落で殺される。
それなら、競走しないとならない。
「これが第2ゲームの本番や。スタートはここで、ゴールは最上階の展望室や。ビリになったもんは脱落。1億円から、さよならや。反対に勝ったもんは、1億円に1歩近づくわけや」
1億円。
マギワのその言葉に、しりごみしていた参加者の目が生きかえる。
「いいいい……1億円がかかってるんだ」と草太。
「勝つよ」と、ひとこと言うカツエ。
猛士も文子も麗華も、やる気になっている。
亜久斗だけは表情が変わらない。
怨田と鬼崎が、ペアになる2人の足をしばっていく。
春馬の左足と未奈の右足も、ロープできつく結ばれる。
……あれ、どうしたんだ?
未奈は震えているようだ。それに、落ちつきなく視線を動かしている。
「どうしたの?」
「……べつに……」
「震えてるだろう」
「そんなこと……」
彼女は冷静を装っているが、どこかおかしい。
「顔色が悪いですね。なにか支障でも?」
文子が、未奈の顔をのぞきこむ。
「……あなた、高所恐怖症と推察しますけど」おもしろそうに言う。
「そ、そんなこと……」と言って、未奈は口を閉ざす。
「そうなのか?」
春馬の質問に、未奈は認めたくなさそうに、ほんの小さくうなずく。
猛士が派手にガッツポーズをする。
「よっしゃ、これで最下位はなくなった! やったぜぇぇぇ!」
「パートナーが運動音痴のわたしで、幸運でしたね」と文子。
「そうだな。サンキュ───!」
猛士と文子が、にんまりと笑顔を見せる。
春馬は頭を抱えた。
このままだと負ける。そして、殺される。そんなのはいやだ。
なんとかしないと……。
「「あの……」」
春馬と未奈が同時に言った。
「いや、べつに……いや、やっぱり、なに?」と春馬が聞いた。
「どうしよう……」
小さな声で未奈が聞いた。
それはこっちのセリフだ、と言いたかったが、がまんした。
「この階段はあがれない?」
未奈は小さくうなずく。
「塔の外は見えないから、高所恐怖症でも怖くないんじゃない」
「真ん中が空いている」
「壁側を走ろうよ」
「そのぶん、距離が長くなるわ」
未奈の言うとおり、中央側を走るのが最短距離だ。
「距離は長くなっても、壁側を走ろう」
「そうね……」
未奈の歯切れは悪く「がんばってみる」と小さな声で言った。
各ペアは、走り方を打ち合わせしている。
「イチで外側、ニで内側の足を出しましょう。それでよろしい?」
麗華が言うと、亜久斗が「合わせられるから大丈夫」と短く答える。
「あたしの指示通りに足を出すんだよ。わかったかい?」
カツエが言うと、「ははは……はい」と草太が答える。
1人で走る直人は、ハンデとして3分遅れのスタートになる。
「みんな、スタートラインについてやあ~」
いよいよだ。
マギワのかけ声で、8人は2列にならんだ。
未奈の震えが、春馬にも伝わってくる。
階段は、4人がならんで走れるギリギリの幅しかない。
「おまえたち、あの世にいきやがれぇ!」
春馬と未奈にむかって、猛士が笑いながら言った。
「……むかつく。あんたには負けないから」
未奈が言いかえした。
それを見て、春馬は希望を持った。
彼女は負けず嫌いだ。勝負がかかったら高所恐怖症を克服するかもしれない。
「ぼく、あきらめてないから」
「あたりまえでしょう。あたしは勝たないといけないのよ。高所恐怖症なんかに負けない」
……………………………………
6 螺旋塔の戦い
……………………………………
「第2ゲーム、スッタァ────ト!」
マギワの合図で、8人は走りだした。
春馬と未奈は、息を合わせてスタートダッシュをかけ、壁づたいに階段を駆けあがる。
「イチ、ニ、イチ、ニ、イチ、ニ……!」
春馬のかけ声に、ピタリと未奈が合わせる。
猛士と文子、カツエと草太、亜久斗と麗華は、最短距離の内側を駆けあがろうとしていた。
ガツッ!
「いってぇな、このやろう!」
「きゃあ、なんですの!」
猛士とカツエがぶつかってころび、亜久斗と麗華も巻きこまれた。
先頭に抜けだしたのは、春馬と未奈のペアだ。
「イチ、ニ、イチ、ニ、イチ、ニ……!」
春馬が声をかける。
2人の走るスピードは同じくらいなので、テンポよくどんどん駆けあがる。
「負けられない、……負けられない!」
未奈は、前だけを見て階段をあがる。
これは勝てるかもしれない。
春馬は手ごたえを感じたが──。
半分をすぎたところで、未奈がほんの少し、足をすべらせてバランスをくずした。
「あっ!」
「危ない」
春馬がすかさず支えたので、ころばなかった。
が、そのとき、未奈は下を見てしまった。
未奈の体がぶるぶる震えだし、その場に立ちすくんだ。
「おい、どうしたんだ?」
春馬が聞いても、未奈は答えられない。
「もう一度、イチ、ニで階段をあがればいいんだよ!」
「ムリ……」
「なに言ってるんだよ! ここまであがってこられただろう!?」
ぶるぶると、未奈は首を横にふる。
「おい、なんだよ。……あぁ、どうすればいいんだ」
春馬と未奈が立ち往生しているところに、亜久斗と麗華のペアがやってきた。
「イチ、ニ、イチ、ニ、イチ、ニ……」
亜久斗と麗華は息を合わせて、春馬たちを追いぬいていく。
「まだ2位だから、大丈夫だよ。さあ、はやく行こう!」
春馬が声をかけても、未奈には聞こえてないようだ。
「……ムリよ」
そして、カツエと草太のペアもやってくる。
2人は、壁にへばりついている未奈と春馬の横を駆けぬけていく。
「このままだと負けるぞ!」
春馬があせっても、未奈はまったく動けない。
そこに、猛士と文子もやってくる。
2人はまったく息が合ってないが、罵りあいながら、1歩1歩あがってくる。
「おまえたちの負けだ。バ───カ!」
捨て台詞をはいて、猛士は春馬たちをぬいていく。
「そ、そうだ、目をつむってみたら?」
春馬が提案すると、未奈は首を横にふる。
「見えないと、よけいに怖い」
「それならどうすればいいんだ」
春馬がこまっているところに、3分遅れの直人が1人で駆けあがってきた。
「悪いけど、先にいかせてもらうね」
直人にもぬかれて、春馬と未奈は最下位になる。
「このままだと脱落だぞ。いいのかよ!」
「……ああ……あがるわ」
未奈はよろめきながら1歩、階段をあがる。
彼女の震えは、春馬に伝わってくる。
なにか言葉をかけてやりたいけど、うかばない。こうなったら、恥ずかしいけど……。
春馬は未奈の手をにぎった。
「えっ?」
未奈は驚いた顔をする。
「こ、こうしたほうが、少しは落ちつくかと思って……」
未奈はなにも言わなかったが、彼女の手のぬくもりを春馬は感じた。
2人はゆっくりゆっくり、階段をあがる。
「うわぁぁぁぁぁ」
そのとき、悲鳴をあげながら、直人がころげ落ちてきた。
「おい、大丈夫か!?」
春馬が声をかけると、直人が足をおさえながら顔をあげた。
「猛士に、足を引っかけられたんだ」
「けがはない?」
未奈の声に、春馬は耳をうたがった。
彼女にもやさしいところがあるんだ。
「けがはないみたい。それより、君たちが心配だよ」
「これでも全力なんだ」
「高所恐怖症なんて、運が悪かったね。でもごめん、ぼくも負けられないから……」
申し訳なさそうに言いながら、直人が駆けあがっていく。
「少し待って……」
ゆっくりあがっていた未奈だったが、このあたりが限界のようだ。
体を曲げて、大きく深呼吸する。顔色は真っ青だ。
そのとき、直人が駆けおりてきた。
「あれ、どうしたんだ、直人?」
春馬が聞くと、直人は真顔になり、
「──君たちに協力する」
「えっ、どうして?」
「その代わり、条件があるんだ。もし、きみたちが賞金を獲得できたら、ぼくに貸してほしい」
「あたしもお金は必要よ」
「ここで負けたら終わりだろ。それに、お金はすぐに返せるんだ。1週間もしたら、父さんの会社はたて直せる。そうしたら、お金はすぐに返す。それも倍返しするよ」
「ぼくはいいけど……」
「その話、まちがいない?」
未奈が念を押す。
「約束する」
「でも、協力するって、どうやるんだ?」
春馬が聞くと、直人が説明する。
「未奈は目をつむってて。まわりが見えなかったら、怖くないでしょ」
「見えないと、よけいに怖いらしいんだ」
春馬が、未奈に代わって答えた。
「少しがまんして。ぼくと秀介で未奈を挟んで、持ちあげて運ぶから」
「直人、頭いいなぁ」
「そんなので……、うまくいくの?」
疑問を口にしたのは未奈だ。
「これしか方法はない。直人の作戦をやってみよう」
春馬が言っても、未奈はためらっている。
「なにもしなかったら、負けるんだよ。一か八かで勝負しようよ」
直人はやさしい声で、未奈を説得する。
「……わかった。やるわ」
「ぼくは左から持ちあげるよ」
直人は未奈の左から肩を貸し、右からは春馬が貸す。
2人は目をつむった未奈を持ちあげる。
肩にずっしり未奈の体重がかかるが、これくらいはがまんできる。
「いくぞ!」
春馬の声で、3人は階段をあがりはじめる。
3人は、軽快に階段をあがっていく。
これはいいぞ。さっきまでの二人三脚と同じくらいだ。
春馬と直人は、夢中でのぼっていった。
「痛い、痛いわよ」
そのうち、頭上から文子の声が聞こえてきた。
「わたしの左の足首が鈍痛よ。歩調を合わせて」
「うるせぇなぁ。おまえのほうが、オレ様に合わせろよ!」
猛士と文子が言いあらそいをしている声が、すぐ上から聞こえる。
あの2人は油断している。これなら、抜ける。
しかし、文子がうしろの気配を感じて、ふりかえった。
しまった。見つかった。
「緊急事態よ! 彼らが接近している!」
文子が猛士に知らせる。
「バカ言うんじゃねぇ、あいつらは…………なななな、なんだって!」
すぐ下まで迫っている春馬たちを見て、猛士が大声をあげた。
「まずいじゃねーか!」
あわてて階段を駆けあがろうとする猛士だが、文子と息が合わない。
「はやくしろよ、運動音痴!」
「催促されても、これで最速です」
「バカ! こんなときにダジャレなんて言うんじゃねぇ」
猛士と文子が内輪もめしている間に、春馬たちは追いついた。
「ぬかせねぇぇぇぇ!」
猛士と文子は、ぬかれないようにわざと横に広がる。
階段は、4人がならべる幅しかない。
3人並んでいる春馬たちは、猛士たちを抜けない。
階段の内側から猛士たちをぬこうとするが、反対側の直人が引っかかってしまう。
どうすればいいんだ。このままだと最下位だ。
ゴールの最上階が見えてきた。
ほかのペアは、すでにゴールしている。
このままでは負ける。
「直人、もういい、先にいってくれ!」と春馬がさけぶ。
「でも、それじゃあ君たちは負けるよ」
「このままなら、直人が最下位になるかもしれない」
「それはこまるけど、……本当に大丈夫かい?」
「いいから、未奈を降ろして先にいけ!」
「でも……それじゃあたしたちが……」
未奈が心配そうに言った。
「助けてくれた直人を最下位にはできないだろ!」
「うん、わかった。ありがとう!」
直人は未奈を肩からおろし、すぐに駆けあがっていく。
春馬はもう一度、未奈にむきなおった。
「未奈、目を開けて。ここからはぼくたち2人でいくよ」
「ムリよ」
未奈は壁にくっつくようにして、震えている。
「目を開けるんだ。妹を助けたいんだろう!」
春馬がどなると、未奈は目を開けるが、
「ああっ、やっぱりムリ!」
絶体絶命だ。
なんとかして、彼女をやる気にさせないと……。
「いくじなし! 妹は、もっと怖い目に遭ってるんだろ!?」
「うるさいな。なにも知らないあんたに、言われたくないわ!」
むっとした未奈を見て、春馬はひらめいた。
怒らせたら、ここが高い場所だと忘れるかもしれない。
「弱虫、いくじなし、キモい、ダサい、クサい、ブス!」
「ちょっ、こんなときに、なに言ってるの!?」
どうやら、まとはずれなことを言ったようだ。
彼女が本気で怒るのは……、そうか!
「きみの妹って、本当に病気なの? どうせ仮病だろ?」
「はあ!?」
「たいしたことないのに、かまってほしいだけなんじゃないか。おおげさに痛がってるだけとかさ。1億円が必要な手術なんて、信じられないよ」
春馬がさらに言うと、未奈の目の色が変わった。
「ゆるせない……。あんなにがんばってる妹をバカにして、絶対にゆるせない───!」
未奈は目をつりあげて、春馬につかみかかってくる。
うわぁ、これはマジで怖いぞ。
春馬は階段を駆けあがる。
「待ちなさいよ!」
未奈が追いかける。
最悪の方法だけど、未奈は怒りで高所恐怖症を忘れている。
春馬と未奈は階段を駆けあがる。
「追いあげてきたぞー!」
猛士が驚いている。
春馬は体を横にして、猛士の横をすりぬける。
「させるかぁぁぁぁ!」
猛士は、体をぶつけて春馬と未奈を止めようとするが、文子が足をすべらせて動けない。
文字通り、足をひっぱられて、猛士は前に進めない。
春馬と未奈は、猛士たちの横を駆けぬけた。
ゴールは目の前だ。
「うしろに気をつけて!」
最上階から直人が声をかける。
はっとなった春馬は、未奈に「ジャンプして!」とさけぶ。
「な、なに?」
「いいから、跳べ!」
春馬がどなると、その迫力に未奈は垂直とびのようにジャンプする。
それに合わせて春馬も跳ぶ。
2人の足の下を、猛士がけりだした足が空振りする。
「危なかった!」
春馬と未奈は無事に着地すると、そのまま展望室にゴールした。
「やった。勝った!」
大喜びする春馬に、未奈がつかみかかろうとする。
「ゲーム中は暴力は禁止だよ。失格になる」
助けに入ったのは直人だ。
「……ごめん、未奈……高所恐怖症を忘れさせようと思って……」
春馬が、しどろもどろで言い訳する。
「それくらい……わかってたわ」
強がりを言った未奈だが、正気になってまわりを見るとまた震えだす。
最上階の展望室はあたり一面ガラス張りで、周囲を一望できた。
この建物は、深い山の中だ。
ビル10階くらいの高さの展望室から見ても、空と山しか見えない。
そのときようやく、猛士と文子がゴールする。
どうやってあがってきたのか、そこにマギワと怨田と鬼崎がいた。
「第2ゲームの脱落者は……利根猛士と、仙川文子やぁ!」
マギワに言われて、猛士と文子はその場に座りこむ。
「1億円が……、サッカー留学の夢が……」と猛士がぶつぶつ言う。
「わたしだって、明日にも家が壊れるかもしれないのに……」と文子。
「おまえのせいだぞ。オレ様1人だけなら……」
「なに言ってるの! 悪いのはあなたじゃない」
「オレ様のどこが悪いんだよ!」
猛士と文子が言い合っている。
「責任のなすり合いはみにくいなぁ。残った者は7人。1人あたりの賞金は、約1428万円ずつや!」
マギワはゲームに勝った7人を、展望室のすみに連れていった。
そこにエレベーターがある。
マギワたちはこれであがってきたのだ。
「勝者はエレベーターで下りるでぇ」
マギワに連れられて、春馬たちは大型エレベーターに乗せられた。
「猛士と文子は?」と春馬が聞く。
「ゲームに負けた者は、別の方法で1階に下りるんや」
そう言うとマギワはドアを閉めた。
春馬は胸さわぎがした。
猛士と文子は、あの階段を下りるのだろうか……。
エレベーターはすぐに下に着いた。
ドアが開くと、螺旋塔の1階だ。
ここに来たときは気がつかなかったが、エレベーターがあったのだ。
全員が降りると、ふいにマギワが塔を見あげた。
なにかあるのかな?
そのときだった。
「うわぁぁぁあああああ!」
「キャ───────ッ!」
猛士と文子の悲鳴が聞こえてくる。
ドガッ!
大地を響かせるような音が、2つなった。
「なな……なに今の?」と未奈が聞いた。
「まさか……!」と春馬が言う。
みんなは真っ青な顔を見あわせている。
「なにをぼっとしてるんや。次のゲーム会場にむかうでぇ」
マギワはあっけらかんと言う。
「ちょ、ちょっと待ってください。猛士と文子はどうなったんですか?」
「脱落者には、過酷な運命が待っているんや」
「そんな……!」と麗華が唇を震わせる。
「みんな、命の保証はないと書いてあったのを読んで、YESを押したんやろう?」
マギワに言われて、だれも言いかえせなくなる。
「さぁー、次はどういうゲームが待っているんかなぁ。みんな、楽しみやろ?」
明るい声で言うマギワに、春馬は恐怖を覚える。