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注目シリーズまるごとイッキ読み!『絶体絶命ゲーム① 1億円争奪サバイバル』第2回 命がけで走れ!


友だちのもとに届いた、謎めいた招待状。ケガをした友だちのかわりに出むいた春馬は、「絶体絶命ゲーム」に参加することに…! 集められていた10人の少年少女。賞金は1億円! 勝つのはただ1人。負ければ……死!?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!


※これまでのお話はコチラから

 

……………………………………

5 命がけで走れ!

……………………………………


 第2ゲームの場所として指示された地下室は、大きなホールだった。

 まるで、小学校の体育館のようだ。

 春馬がやってくると、ほかの参加者はすでに集まっていた。

「秀介、遅かったね」

 声をかけてきたのは直人だ。

 そうだ、ぼくは秀介だったな。

「まだ時間になってないだろ」

「そうだけど、あの2人なんて、10分も前にきて準備体操してるよ」

 直人の視線の先で、猛士とカツエがストレッチをしている。

「1億円がかかっているからね。みんな、真剣だよ」

 準備運動をしているのは、猛士とカツエだけじゃない。

 未奈や文子や草太と麗華まで、軽い柔軟体操をしている。

「それに、負けたら殺される……」

 春馬がつぶやいた。ここあの死に顔が、頭をよぎった。

 ゲームに勝って、生き残らないと……。

「あれ?」

 春馬は、みんなから離れて壁にもたれている亜久斗に目がいった。

「直人、彼をどう思う?」

「うん、ちょっと不気味だね」

 そのとき、マギワが怨田と鬼崎をしたがえてやってくる。

「みんな、時間に正確やなぁ。ウチは遅刻ギリギリの登校で、マギワの登校って言われたんや。…………あれ、笑うところやでぇ」

 みんな、にこりともしないで、マギワのまわりにやってくる。

「まぁ、ええか。第2ゲームやけど、まずは準備運動や。ここを3周走ってもらうでぇ」

 春馬はホールを見た。

 1周は200メートルくらいだろうか。ここを3周なら、600メートルの競走だな。

「まずは、配置についてなぁ」

 えっ、説明はそれだけなの?

「よっしゃ、ここはオレ様がぶっちぎるぅぅぅ!」

 猛士はやる気満々だ。

 その横で、カツエが両手を組んで、指をボキボキならしている。

「おう、カツエもやる気だなぁ。オレ様と勝負だぜぇ!」

 猛士とカツエは、勝負に盛りあがっている。

「ルール説明はそれだけでしょうか?」

 不安そうな顔で聞いたのは文子だ。

「ざんねーん、ここでの質問は受けつけてないんや」

「そう言われても、不明な点が多すぎです」

「競走すればいいだけや」

「でも、ここで何人が脱落になるのか? どうすれば勝利となるのかなど……」

「ごちゃごちゃ言うと、ここで脱落にするで仙川文子!」

 文子は口を閉ざした。

「さぁみんな、そこのラインにならんでな」

 マギワに言われて、9人はスタートラインにならぶ。

「準備はええか? ──よーい、スタートやぁぁぁぁ!」

 マギワのかけ声で、9人は駆けだした。

 猛士が抜けだし、カツエがつづく。

 そのうしろを亜久斗が走る。春馬は4番手だ。

 負けたら殺される。

 しかし、ルール説明は「3周走る」というだけ。

 なにか仕掛けがあるのかもしれない。それなら、真ん中くらいが安全だ。

 春馬のうしろを直人、未奈、麗華、草太がつづいている。大きく遅れて文子が走っている。

 彼女は運動音痴のようだな。走り方がぎこちない。

 このままの順位で、9人はゴールした。

「ぎゃはははは、とろくせえー! 文子、おまえはここで脱落だぁ───!」

 猛士がからかうように言った。

「マギワさんは……3周走ってと……言っただけです……」と文子が荒い息をつきながら言いかえす。

「なんど走っても、おまえは最下位だぜ!」

 猛士が言って、文子がくやしそうな顔をする。

「今のは、ほんのウォーミングアップや。第2ゲームはこれからや」

 マギワが言う。

「第2ゲームは──二人三脚や」

 マギワの言葉に、9人はざわめく。

「はぁ!? 二人三脚って、2人の足をしばって走る、あれかぁ!?」

「そうや、ほかにないやろう」とマギワ。

 春馬は、ほかのメンバーをちらりと見た。

 みんな、パートナーがだれになるのか気になるようで、きょろきょろしている。

「マギワさん、第2ゲームも、負けたら殺されるんですか?」

 春馬が聞くと、ほかの者も緊張した顔になる。

「殺されるやて? 物騒なことは言わんといてなぁ。……脱落、や」

 きっぱり否定してほしかった。でも、マギワは否定しなかった。

「ぼぼぼ……ぼくはだれと……、だれとペアを組めば……」

 草太が聞くと、ほかの参加者もマギワを見る。

「ウチもそれに悩んだんや。それで、みんなに走ってもらったわけや」

 ここの競走には、マギワの意図があったようだ。

「足の速さは、それぞれちがいがあるやろ。それで公平にするために、速い人と遅い人を組ませることにしたんや。2人のスピードを足して2で割ったら、みんな、同じくらいになるやろう」

 春馬は首をひねる。

 時速90キロに時速10キロを加えて2で割ると、時速50キロになる。

 時速55キロに時速45キロを加えて2で割ると、時速50キロになる。

 しかし、これは数字の上だけだ。

 二人三脚で同じ速さになるとは思えない。

「ほな、ペアを発表するでぇ!」

 みんながざわめいていても、マギワはどんどん話を進める。

「1位の利根猛士は、9位の仙川文子と組んでや」

「なんだって!? オレ様が、どうしてこんな運動音痴と!」

 猛士は言葉を震わせるが、マギワは知らん顔でつづける。

「2位の竹井カツエは、8位の小山草太と組んでや。3位の三国亜久斗は、7位の桐島麗華とや。4位の上山秀介は、6位の滝沢未奈とやね」

 9人はおたがいのパートナーに目をむける。

 空手家のカツエは気の弱い草太をにらみ、草太は小さくなる。

 女優の麗華はぶつぶつ文句を言っているが、亜久斗は無表情だ。

 春馬はため息をついた。パートナーはよりによって未奈だ。

「本気で走ってよね」

 未奈に言われて、春馬は小さくうなずいた。

 彼女とは、あまり話をしないほうがよさそうだ。

「文子となんて走れるわけねーだろ!」

 猛士がどなる。

「わたしだって、こんな粗暴な人となんて承伏できません。マギワさん、善処ください」

 文子が泣きそうな声で、マギワに助けを求める。

「この2人は、相性最悪のようやな。それなら、棄権もできるでぇ?」

「棄権できるのかぁ!?」と猛士は大喜びする。

「不戦敗で、2人ともここで脱落やけどな。それでええか?」

 マギワに言われて、猛士と文子は顔を見あわせる。

「ダメだ! それはダメだ!!」と猛士。

「棄権はしません」と文子。

「それなら、がまんするんやな。勝負は時の運や。ウチの計算からすると、みんなが同じくらいの速さになるはずなんや」

 意地悪なのか天然娘なのか、マギワは満足そうな顔をしている。

「文子、オレ様の足をひっぱるんじゃねーぞ!」

 運動神経の悪い文子は、自信がなさそうにうつむく。

「あの……」

 とうとつに、直人が手をあげた。

「どないしたん?」

「ぼくだけ、パートナーを言われなかったんですけど」

「浅野直人か。9人で真ん中の5位やったな。ペアを組むパートナーがおらへんので、1人で走ってな。ただ、ハンデをつけさせてもらうで」

 顔をかがやかせる直人に、猛士が難癖をつける。

「ズルイだろぉが! 1人で走れば、はやいに決まってる!!」

「人生には運も左右するんや。直人は運がよかったということや」

「それなら1位のオレ様がシードで、1人で走るのが妥当じゃねえのかよぉ!」

「あー、うるさいなぁ。失格にするでぇ!」

 マギワが声を荒げると、猛士は不満そうに口を閉ざす。

「ほな、競走場所に移動や」

 えっ、ここを走るんじゃないのか?

 春馬の胸にちょっぴり不安がよぎった。


 マギワに連れられ、9人は建物中央の奥にある、扉の前にやってきた。

 春馬が調べたとき、ここにはカギがかかっていた。

 マギワが扉を開けると、長いわたり廊下がつづいている。

「競走場所は、この先やでぇ」

 マギワはぐんぐん歩いていく。

 窓から、廊下の先にある、えんとつのような高い塔が見える。

 茶色のレンガ造りで窓はなく、ビル10階くらいの高さがある。

 まさか、あそこにいくつもりなのか?

 マギワは塔に通じる扉を開けた。

 春馬は目を見はった。

 ここは、なんだ?

 薄暗い空間は、巨大なえんとつの中か、古いSF映画に出てくるロケット発射場のようだ。

 中央は大きな穴になっていて、そのまわりをさびついた鉄の階段が、うずまき状に天にのびている。

「第2ゲームは、この『螺旋塔』の階段での競走や」

 マギワが言っても、驚いた9人はぽかんとしている。

  ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ……

 水滴が落ちてくる。

「この階段、濡れてるわ」

 正気にもどったように文子が大きな声を出した。

 よく見ると、階段はびしょびしょだ。

「昨日、雨が降ったようなんや。すべるよって、気をつけてな」

「これじゃ、おもいきり走れねーじゃねぇか」

 猛士がつぶやくように言った。

 春馬も同じ気持ちだった。

 ふつうにのぼるのも危なそうな階段を、二人三脚で競走するなんてむちゃくちゃだ。

 でも、棄権したら脱落で殺される。

 それなら、競走しないとならない。

「これが第2ゲームの本番や。スタートはここで、ゴールは最上階の展望室や。ビリになったもんは脱落。1億円から、さよならや。反対に勝ったもんは、1億円に1歩近づくわけや」

 1億円。

 マギワのその言葉に、しりごみしていた参加者の目が生きかえる。

「いいいい……1億円がかかってるんだ」と草太。

「勝つよ」と、ひとこと言うカツエ。

 猛士も文子も麗華も、やる気になっている。

 亜久斗だけは表情が変わらない。

 怨田と鬼崎が、ペアになる2人の足をしばっていく。

 春馬の左足と未奈の右足も、ロープできつく結ばれる。

 ……あれ、どうしたんだ?

 未奈は震えているようだ。それに、落ちつきなく視線を動かしている。

「どうしたの?」

「……べつに……」

「震えてるだろう」

「そんなこと……」

 彼女は冷静を装っているが、どこかおかしい。

「顔色が悪いですね。なにか支障でも?」

 文子が、未奈の顔をのぞきこむ。

「……あなた、高所恐怖症と推察しますけど」おもしろそうに言う。

「そ、そんなこと……」と言って、未奈は口を閉ざす。

「そうなのか?」

 春馬の質問に、未奈は認めたくなさそうに、ほんの小さくうなずく。

 猛士が派手にガッツポーズをする。

「よっしゃ、これで最下位はなくなった! やったぜぇぇぇ!」

「パートナーが運動音痴のわたしで、幸運でしたね」と文子。

「そうだな。サンキュ───!」

 猛士と文子が、にんまりと笑顔を見せる。

 春馬は頭を抱えた。

 このままだと負ける。そして、殺される。そんなのはいやだ。

 なんとかしないと……。

「「あの……」」

 春馬と未奈が同時に言った。

「いや、べつに……いや、やっぱり、なに?」と春馬が聞いた。

「どうしよう……」

 小さな声で未奈が聞いた。

 それはこっちのセリフだ、と言いたかったが、がまんした。

「この階段はあがれない?」

 未奈は小さくうなずく。

「塔の外は見えないから、高所恐怖症でも怖くないんじゃない」

「真ん中が空いている」

「壁側を走ろうよ」

「そのぶん、距離が長くなるわ」

 未奈の言うとおり、中央側を走るのが最短距離だ。

「距離は長くなっても、壁側を走ろう」

「そうね……」

 未奈の歯切れは悪く「がんばってみる」と小さな声で言った。

 各ペアは、走り方を打ち合わせしている。

「イチで外側、ニで内側の足を出しましょう。それでよろしい?」

 麗華が言うと、亜久斗が「合わせられるから大丈夫」と短く答える。

「あたしの指示通りに足を出すんだよ。わかったかい?」

 カツエが言うと、「ははは……はい」と草太が答える。

 1人で走る直人は、ハンデとして3分遅れのスタートになる。

「みんな、スタートラインについてやあ~」

 いよいよだ。

 マギワのかけ声で、8人は2列にならんだ。

 未奈の震えが、春馬にも伝わってくる。

 階段は、4人がならんで走れるギリギリの幅しかない。

「おまえたち、あの世にいきやがれぇ!」

 春馬と未奈にむかって、猛士が笑いながら言った。

「……むかつく。あんたには負けないから」

 未奈が言いかえした。

 それを見て、春馬は希望を持った。

 彼女は負けず嫌いだ。勝負がかかったら高所恐怖症を克服するかもしれない。

「ぼく、あきらめてないから」

「あたりまえでしょう。あたしは勝たないといけないのよ。高所恐怖症なんかに負けない」


……………………………………

6 螺旋塔の戦い

……………………………………


「第2ゲーム、スッタァ────ト!」

 マギワの合図で、8人は走りだした。

 春馬と未奈は、息を合わせてスタートダッシュをかけ、壁づたいに階段を駆けあがる。

「イチ、ニ、イチ、ニ、イチ、ニ……!」

 春馬のかけ声に、ピタリと未奈が合わせる。

 猛士と文子、カツエと草太、亜久斗と麗華は、最短距離の内側を駆けあがろうとしていた。

  ガツッ!

「いってぇな、このやろう!」

「きゃあ、なんですの!」

 猛士とカツエがぶつかってころび、亜久斗と麗華も巻きこまれた。

 先頭に抜けだしたのは、春馬と未奈のペアだ。

「イチ、ニ、イチ、ニ、イチ、ニ……!」

 春馬が声をかける。

 2人の走るスピードは同じくらいなので、テンポよくどんどん駆けあがる。

「負けられない、……負けられない!」

 未奈は、前だけを見て階段をあがる。

 これは勝てるかもしれない。

 春馬は手ごたえを感じたが──。

 半分をすぎたところで、未奈がほんの少し、足をすべらせてバランスをくずした。

「あっ!」

「危ない」

 春馬がすかさず支えたので、ころばなかった。

 が、そのとき、未奈は下を見てしまった。

 未奈の体がぶるぶる震えだし、その場に立ちすくんだ。

「おい、どうしたんだ?」

 春馬が聞いても、未奈は答えられない。

「もう一度、イチ、ニで階段をあがればいいんだよ!」

「ムリ……」

「なに言ってるんだよ! ここまであがってこられただろう!?」

 ぶるぶると、未奈は首を横にふる。

「おい、なんだよ。……あぁ、どうすればいいんだ」

 春馬と未奈が立ち往生しているところに、亜久斗と麗華のペアがやってきた。

「イチ、ニ、イチ、ニ、イチ、ニ……」

 亜久斗と麗華は息を合わせて、春馬たちを追いぬいていく。

「まだ2位だから、大丈夫だよ。さあ、はやく行こう!」

 春馬が声をかけても、未奈には聞こえてないようだ。

「……ムリよ」

 そして、カツエと草太のペアもやってくる。

 2人は、壁にへばりついている未奈と春馬の横を駆けぬけていく。

「このままだと負けるぞ!」

 春馬があせっても、未奈はまったく動けない。

 そこに、猛士と文子もやってくる。

 2人はまったく息が合ってないが、罵りあいながら、1歩1歩あがってくる。

「おまえたちの負けだ。バ───カ!」

 捨て台詞をはいて、猛士は春馬たちをぬいていく。

「そ、そうだ、目をつむってみたら?」

 春馬が提案すると、未奈は首を横にふる。

「見えないと、よけいに怖い」

「それならどうすればいいんだ」

 春馬がこまっているところに、3分遅れの直人が1人で駆けあがってきた。

「悪いけど、先にいかせてもらうね」

 直人にもぬかれて、春馬と未奈は最下位になる。

「このままだと脱落だぞ。いいのかよ!」

「……ああ……あがるわ」

 未奈はよろめきながら1歩、階段をあがる。

 彼女の震えは、春馬に伝わってくる。

 なにか言葉をかけてやりたいけど、うかばない。こうなったら、恥ずかしいけど……。

 春馬は未奈の手をにぎった。

「えっ?」

 未奈は驚いた顔をする。

「こ、こうしたほうが、少しは落ちつくかと思って……」

 未奈はなにも言わなかったが、彼女の手のぬくもりを春馬は感じた。

 2人はゆっくりゆっくり、階段をあがる。

「うわぁぁぁぁぁ」

 そのとき、悲鳴をあげながら、直人がころげ落ちてきた。

「おい、大丈夫か!?」

 春馬が声をかけると、直人が足をおさえながら顔をあげた。

「猛士に、足を引っかけられたんだ」

「けがはない?」

 未奈の声に、春馬は耳をうたがった。

 彼女にもやさしいところがあるんだ。

「けがはないみたい。それより、君たちが心配だよ」

「これでも全力なんだ」

「高所恐怖症なんて、運が悪かったね。でもごめん、ぼくも負けられないから……」

 申し訳なさそうに言いながら、直人が駆けあがっていく。

「少し待って……」

 ゆっくりあがっていた未奈だったが、このあたりが限界のようだ。

 体を曲げて、大きく深呼吸する。顔色は真っ青だ。

 そのとき、直人が駆けおりてきた。

「あれ、どうしたんだ、直人?」

 春馬が聞くと、直人は真顔になり、

「──君たちに協力する」

「えっ、どうして?」

「その代わり、条件があるんだ。もし、きみたちが賞金を獲得できたら、ぼくに貸してほしい」

「あたしもお金は必要よ」

「ここで負けたら終わりだろ。それに、お金はすぐに返せるんだ。1週間もしたら、父さんの会社はたて直せる。そうしたら、お金はすぐに返す。それも倍返しするよ」

「ぼくはいいけど……」

「その話、まちがいない?」

 未奈が念を押す。

「約束する」

「でも、協力するって、どうやるんだ?」

 春馬が聞くと、直人が説明する。

「未奈は目をつむってて。まわりが見えなかったら、怖くないでしょ」

「見えないと、よけいに怖いらしいんだ」

 春馬が、未奈に代わって答えた。

「少しがまんして。ぼくと秀介で未奈を挟んで、持ちあげて運ぶから」

「直人、頭いいなぁ」

「そんなので……、うまくいくの?」

 疑問を口にしたのは未奈だ。

「これしか方法はない。直人の作戦をやってみよう」

 春馬が言っても、未奈はためらっている。

「なにもしなかったら、負けるんだよ。一か八かで勝負しようよ」

 直人はやさしい声で、未奈を説得する。

「……わかった。やるわ」

「ぼくは左から持ちあげるよ」

 直人は未奈の左から肩を貸し、右からは春馬が貸す。

 2人は目をつむった未奈を持ちあげる。

 肩にずっしり未奈の体重がかかるが、これくらいはがまんできる。

「いくぞ!」

 春馬の声で、3人は階段をあがりはじめる。

 3人は、軽快に階段をあがっていく。

 これはいいぞ。さっきまでの二人三脚と同じくらいだ。

 春馬と直人は、夢中でのぼっていった。

「痛い、痛いわよ」

 そのうち、頭上から文子の声が聞こえてきた。

「わたしの左の足首が鈍痛よ。歩調を合わせて」

「うるせぇなぁ。おまえのほうが、オレ様に合わせろよ!」

 猛士と文子が言いあらそいをしている声が、すぐ上から聞こえる。

 あの2人は油断している。これなら、抜ける。

 しかし、文子がうしろの気配を感じて、ふりかえった。

 しまった。見つかった。

「緊急事態よ! 彼らが接近している!」

 文子が猛士に知らせる。

「バカ言うんじゃねぇ、あいつらは…………なななな、なんだって!」

 すぐ下まで迫っている春馬たちを見て、猛士が大声をあげた。

「まずいじゃねーか!」

 あわてて階段を駆けあがろうとする猛士だが、文子と息が合わない。

「はやくしろよ、運動音痴!」

「催促されても、これで最速です」

「バカ! こんなときにダジャレなんて言うんじゃねぇ」

 猛士と文子が内輪もめしている間に、春馬たちは追いついた。

「ぬかせねぇぇぇぇ!」

 猛士と文子は、ぬかれないようにわざと横に広がる。

 階段は、4人がならべる幅しかない。

 3人並んでいる春馬たちは、猛士たちを抜けない。

 階段の内側から猛士たちをぬこうとするが、反対側の直人が引っかかってしまう。

 どうすればいいんだ。このままだと最下位だ。

 ゴールの最上階が見えてきた。

 ほかのペアは、すでにゴールしている。

 このままでは負ける。

「直人、もういい、先にいってくれ!」と春馬がさけぶ。

「でも、それじゃあ君たちは負けるよ」

「このままなら、直人が最下位になるかもしれない」

「それはこまるけど、……本当に大丈夫かい?」

「いいから、未奈を降ろして先にいけ!」

「でも……それじゃあたしたちが……」

 未奈が心配そうに言った。

「助けてくれた直人を最下位にはできないだろ!」

「うん、わかった。ありがとう!」

 直人は未奈を肩からおろし、すぐに駆けあがっていく。

 春馬はもう一度、未奈にむきなおった。

「未奈、目を開けて。ここからはぼくたち2人でいくよ」

「ムリよ」

 未奈は壁にくっつくようにして、震えている。

「目を開けるんだ。妹を助けたいんだろう!」

 春馬がどなると、未奈は目を開けるが、

「ああっ、やっぱりムリ!」

 絶体絶命だ。

 なんとかして、彼女をやる気にさせないと……。

「いくじなし! 妹は、もっと怖い目に遭ってるんだろ!?」

「うるさいな。なにも知らないあんたに、言われたくないわ!」

 むっとした未奈を見て、春馬はひらめいた。

 怒らせたら、ここが高い場所だと忘れるかもしれない。

「弱虫、いくじなし、キモい、ダサい、クサい、ブス!」

「ちょっ、こんなときに、なに言ってるの!?」

 どうやら、まとはずれなことを言ったようだ。

 彼女が本気で怒るのは……、そうか!

「きみの妹って、本当に病気なの? どうせ仮病だろ?」

「はあ!?」

「たいしたことないのに、かまってほしいだけなんじゃないか。おおげさに痛がってるだけとかさ。1億円が必要な手術なんて、信じられないよ」

 春馬がさらに言うと、未奈の目の色が変わった。

「ゆるせない……。あんなにがんばってる妹をバカにして、絶対にゆるせない───!」

 未奈は目をつりあげて、春馬につかみかかってくる。

 うわぁ、これはマジで怖いぞ。

 春馬は階段を駆けあがる。

「待ちなさいよ!」

 未奈が追いかける。

 最悪の方法だけど、未奈は怒りで高所恐怖症を忘れている。

 春馬と未奈は階段を駆けあがる。

「追いあげてきたぞー!」

 猛士が驚いている。

 春馬は体を横にして、猛士の横をすりぬける。

「させるかぁぁぁぁ!」

 猛士は、体をぶつけて春馬と未奈を止めようとするが、文子が足をすべらせて動けない。

 文字通り、足をひっぱられて、猛士は前に進めない。

 春馬と未奈は、猛士たちの横を駆けぬけた。

 ゴールは目の前だ。

「うしろに気をつけて!」

 最上階から直人が声をかける。

 はっとなった春馬は、未奈に「ジャンプして!」とさけぶ。

「な、なに?」

「いいから、跳べ!」

 春馬がどなると、その迫力に未奈は垂直とびのようにジャンプする。

 それに合わせて春馬も跳ぶ。

 2人の足の下を、猛士がけりだした足が空振りする。

「危なかった!」

 春馬と未奈は無事に着地すると、そのまま展望室にゴールした。

「やった。勝った!」

 大喜びする春馬に、未奈がつかみかかろうとする。

「ゲーム中は暴力は禁止だよ。失格になる」

 助けに入ったのは直人だ。

「……ごめん、未奈……高所恐怖症を忘れさせようと思って……」

 春馬が、しどろもどろで言い訳する。

「それくらい……わかってたわ」

 強がりを言った未奈だが、正気になってまわりを見るとまた震えだす。

 最上階の展望室はあたり一面ガラス張りで、周囲を一望できた。

 この建物は、深い山の中だ。

 ビル10階くらいの高さの展望室から見ても、空と山しか見えない。

 そのときようやく、猛士と文子がゴールする。

 どうやってあがってきたのか、そこにマギワと怨田と鬼崎がいた。

「第2ゲームの脱落者は……利根猛士と、仙川文子やぁ!」

 マギワに言われて、猛士と文子はその場に座りこむ。

「1億円が……、サッカー留学の夢が……」と猛士がぶつぶつ言う。

「わたしだって、明日にも家が壊れるかもしれないのに……」と文子。

「おまえのせいだぞ。オレ様1人だけなら……」

「なに言ってるの! 悪いのはあなたじゃない」

「オレ様のどこが悪いんだよ!」

 猛士と文子が言い合っている。

「責任のなすり合いはみにくいなぁ。残った者は7人。1人あたりの賞金は、約1428万円ずつや!」

 マギワはゲームに勝った7人を、展望室のすみに連れていった。

 そこにエレベーターがある。

 マギワたちはこれであがってきたのだ。

「勝者はエレベーターで下りるでぇ」

 マギワに連れられて、春馬たちは大型エレベーターに乗せられた。

「猛士と文子は?」と春馬が聞く。

「ゲームに負けた者は、別の方法で1階に下りるんや」

 そう言うとマギワはドアを閉めた。

 春馬は胸さわぎがした。

 猛士と文子は、あの階段を下りるのだろうか……。

 エレベーターはすぐに下に着いた。

 ドアが開くと、螺旋塔の1階だ。

 ここに来たときは気がつかなかったが、エレベーターがあったのだ。

 全員が降りると、ふいにマギワが塔を見あげた。

 なにかあるのかな?

 そのときだった。

「うわぁぁぁあああああ!」

「キャ───────ッ!」

 猛士と文子の悲鳴が聞こえてくる。

  ドガッ!

 大地を響かせるような音が、2つなった。

「なな……なに今の?」と未奈が聞いた。

「まさか……!」と春馬が言う。

 みんなは真っ青な顔を見あわせている。

「なにをぼっとしてるんや。次のゲーム会場にむかうでぇ」

 マギワはあっけらかんと言う。

「ちょ、ちょっと待ってください。猛士と文子はどうなったんですか?」

「脱落者には、過酷な運命が待っているんや」

「そんな……!」と麗華が唇を震わせる。

「みんな、命の保証はないと書いてあったのを読んで、YESを押したんやろう?」

 マギワに言われて、だれも言いかえせなくなる。

「さぁー、次はどういうゲームが待っているんかなぁ。みんな、楽しみやろ?」

 明るい声で言うマギワに、春馬は恐怖を覚える。


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