KADOKAWA Group
ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『絶体絶命ゲーム① 1億円争奪サバイバル』第1回 神様なんていない


友だちのもとに届いた、謎めいた招待状。ケガをした友だちのかわりに出むいた春馬は、「絶体絶命ゲーム」に参加することに…! 集められていた10人の少年少女。賞金は1億円! 勝つのはただ1人。負ければ……死!?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!



※クリックすると拡大表示されます


 

……………………………………

0 神様なんていない

……………………………………


「おねえちゃん……」

 妹の弱々しい声で、滝沢未奈は目を覚ました。

 椅子に座ったまま眠っていた。

「どうしたの、由佳。体痛い?」

「ちょっとだけ……。でも、大丈夫」

 6歳の妹、由佳は、体にたくさん管をつけられて、ベッドで寝ている。

「ユカ、生まれてこなければよかったね」

「なに言ってるの。お姉ちゃん、怒るよ」

「ユカのせいで、パパもママもつかれてる」

 パパとママは、病室のゆかで寝ている。

「そんなことないよ。……パパもママも、キャンプみたいで楽しいって言ってた」

 未奈の噓は、妹にばれている。

 それでも、言わずにいられなかった。

「お姉ちゃんは、たくさん生きてね」

「由佳も生きるの。またいっしょに動物園にいこう」

「ディズニーランド、いってみたい」

「うん、いこう。みんなでディズニーランドにいこう」

「お姉ちゃんと、たくさん遊びにいきたい……」

「うん、いこう。たくさん遊びにいこう」

「その前に、おうちに帰りたい……」

「もう寝なさい。寝ないとよくならないって、お医者さんが言ってたよ」

「うん」と言って、由佳は目をつむった。

 妹の寝顔を見ていると、涙があふれてくる。

 どうして、うちだけ、こんな目にあわないとならないの。

 なにも悪いことしてないのに……。

 1年前まで、仲のいい4人家族だった。

 毎日が楽しくて、笑わない日はなかった。

 妹が重い心臓の病気だとわかり、生活は一変した。

 アメリカで移植手術をしないと由佳は生きられない。

 でも、手術には1億円も必要だ。

 そんなお金は家にはない。

 みんなで募金活動をしてるけど、ぜんぜん、集まらない。

 昨日の夜、パパとママはケンカをしていた。

「もう、どうにもならないんだよ。1億円なんて集まるわけないだろう!」

「あきらめないでよ。由佳の命がかかっているのよ」

「それじゃ、強盗でもするか。そんなことでもしないと、1億円なんて用意できないよ」

「……かわってあげたい。私の心臓と取りかえてあげたい」

「ムリなことを言うな! そんなことができたら、俺だって……」

「神様、由佳を助けて……」

 ママはそう言って涙を流した。パパは頭を抱えている。

 こんなにこまっているのに、神様はなにもしてくれない。

 きっと、神様なんていないんだ。

 お金がなかったら、大切なものは守れないんだ。

 お金がなかったら、幸せになれないんだ。

 この世界は、お金がすべてなんだ。

 妹が苦しんでいるのに、小学生のあたしには、なにもできない。

 ──そうだ、あのうわさ!

 未奈は、ママのバッグからノートパソコンをとると、こっそり廊下に出た。

『賞金1億円のゲーム大会』のうわさを聞いたことがある。

 みんなは、都市伝説だと言ってたけど……。

 たしか、『絶体絶命ゲーム』だった。

 インターネットで検索すると、公式ページがある。

「これだ!」

 ページを開く。


  アクセスしたページが見つかりません。


 なんだ。やっぱり都市伝説なんだ。

 1億円をもらえるゲーム大会なんて、あるはずない。

 未奈は、そのままぼっとしていた。

 どこからか、風を切るような音がした。

 今の音はなに?

 パソコンのディスプレイに目をもどす。

 刀で斬られたような黒い線が、ななめに入っている。

 つづけざまに風を切るような音がして、ディスプレイに何本もの黒い線が走る。

 鏡が割れるように画面がくずれおち、真っ黒になる。

 なによ。なにがおきてるの?

 真っ黒な画面に稲光が走り、古びた三角屋根の洋館があらわれる。


  絶体絶命ゲームにようこそ。


 これだ。本当に『絶体絶命ゲーム』があった。

 不気味なサイトだけど、先に進んでみよう。

 洋館の上でENTERを押した。


  この先に進む者に、命の保証はありません。

  それでも、いいですか?   →YES  →NO


 こんなの、おどかしよね。そうに決まってるわ。

 本当は怖かったけど、勇気を出してYESを押した。


  命がけのゲームをやってもらいます。

  賞金は1億円。

   身も凍るような恐怖がまっています。

   強い気持ちがない者は、引きかえすのが身のためです。

   命と引きかえかもしれないんだよ。

   それでも、1億円がほしいのかい?   →YES  →NO


 ほしいわ。どうしても1億円が必要なの。

 おねがい。あたしをゲームに参加させて。

 YESを押した。


  必要事項を記入し、登録をして。

    名前   ______

    生年月日 ______

    郵便番号  ____

    住所    _____________

    メールアドレス  ______

    お金が必要な理由 _____________

   登録を完了します。

   ENTERを押してください。


 未奈は必要事項を書きこむ。

 これで、賞金1億円のゲームに参加できる。

 学校の成績はふつうだけど、度胸だけは人の10倍はある。

「どんなに成績優秀でも、度胸があり直感が優れていないと人生は成功しない」

 パパの口ぐせだ。

 度胸と直感の鋭さだけは、だれにも負けない。

 由佳のために、1億円を獲得するんだ。

 ENTERを押せば、登録されるのよね。

 体が震えている。

 こんなの怖くない。あたしならできる。

 直感を信じるのよ。

 ENTERを押した。

 もう引きかえせない。

 このあと、どうなるの?

 不安と期待で胸が高鳴る。


  登録ありがとう。


 ページがブラックアウトする。

 どういうこと、これだけ?

 いたずらだ。

 お金にこまっている人をからかっている、悪質ないたずらなんだ。

 くやしくて涙があふれてきた。


 やっぱり、この世界に神様なんていないんだ。


……………………………………

1 絶体絶命ゲームの招待状

……………………………………


 8月30日。

 小学5年生の武藤春馬は自転車を走らせていた。

 風はまだ暑いけど、気分は最高だ。

 夏休みは、親友の上山秀介とプールやイベントにいく予定だった。

 1カ月前、春馬と秀介はサッカーの練習試合で対戦した。

 背の高い春馬はセンターバックで、小柄だけどスポーツ万能の秀介は、敵のフォワードだ。

 終了まぎわ、コーナーキックのボールがゴール前にあがった。

 これをふせいだら勝利だ。

 春馬がジャンプすると、横から秀介が飛びこんできた。

 ヘディング・シュートを決めるつもりだな。

 そうはさせないぞ。

 2人は空中で激突した!

「うわぁ!」

 ムリな体勢で飛びこんできた秀介は、バランスをくずして地面に落ちた。

 ぼくの勝ちだ。

 春馬はヘディングでボールをクリアして、無事に着地、と思ったら秀介の右足があった。

   バキッ!

「いたぁぁぁぁ!」

 秀介は右足を骨折してしまった。

 そして、彼の夏休みは、ギプス生活になった。

 ギプスは8月29日にとれると言っていた。

 それで、30日と31日は遊ぼうと約束した。

 春馬はマンションの呼び鈴を鳴らしたが、だれも出てこない。

 あれ、留守かな?

 廊下で待っているとドアが開き、松葉杖の秀介があらわれる。

「春馬じゃないか。どうかしたのか?」

「それはないだろう。今日と明日は遊ぼうって……。あれ、まだギプスとれてないのか?」

「あと1週間はこのままだって」

「もしかして、これから病院なのか?」

 秀介はよそいきの服装をしている。

「あぁ、それは……」

 どうしたんだろう。秀介の態度がおかしい。

 もじもじして、下ばかり見ている。

 小学校入学からのつき合いの春馬は、彼の性格をよく知っている。

「ぼくにかくしごとがあるだろう」

 図星を指されて、秀介は頭をかいた。

「やっぱり、春馬にかくしごとはできないな」

 部屋に入っても、秀介は梅干しを食べたような渋い顔をするだけだ。

 黙っていること約5分。まるで、笑わせる気のない、にらめっこだ。

「おい!」

 しびれを切らした春馬が大きな声を出すと、秀介はようやく重たい口を開いた。

「春馬、絶体絶命ゲームの話は知ってるよな」

「知ってるけど、どうせ都市伝説だろう」

「招待状が届いたんだ」

「その手には乗らないぞ。ぼくをからかうつもりだろう」

 秀介は首を横にふると、スマホのような黒いタブレットを出した。

「すごい、タブレットじゃないか!」

「送られてきたんだ。ゲームの招待状になっている」

 秀介はタブレットを春馬にわたす。

 こんな高価なものを送ってくるなんて、うわさは本当かもしれないな。

 スイッチを押すと、ディスプレイに動画が映る。


 白い壁に大理石の暖炉、ステンドグラスの窓のある豪華な部屋。

 ロリータファッションの20歳くらいの女性が立っている。

「上山秀介くん、はじめましてやね。

 ウチは案内人の死野マギワちゃんや。

 秀介くんを『絶体絶命ゲーム』に招待するでぇ。

 最高賞金は、1億円や!

 でも、ゲームに参加するには、4つの条件をクリアしないとあかんねん。

   条件1、金がほしくてほしくてたまらないこと。

   条件2、親に疑われずに8月30日の外泊ができること。

   条件3、絶体絶命ゲームに招待されたことをだれにも言わないこと。

   条件4、命の保証がなくてもかまわないこと。

 以上の条件をクリアできたら、8月30日の11時に緑丘公園にきてほしいねん。

 待ってるでぇ」


 動画が終わると、春馬は首をひねる。

「死野マギワって、死のまぎわみたいで、不気味な名前だな」

「おれ、参加しようと思うんだ」

「冗談だろう。やめたほうがいいよ」

「お金がいるんだ。うちの事情は知ってるだろう」

 秀介の家はお父さんが病気で亡くなり、お母さんが1人で働いて秀介と妹を育てている。

「春馬には黙っていたけど、おれがサッカーやってるのも、うちには贅沢なんだ」

「そうだったのか……」

「母さん、パートの時間を増やして夜中まで働いているんだ。最近、おかしな咳もしているんだけど、医者に診てもらう時間もないんだ」

 春馬はなんどか秀介のお母さんに会ったことがある。

 いつも笑顔のやさしそうな人だ。

「母さん、『苦労をかけてごめんね』って言うんだ。苦労かけてるの、おれなのに……。だから、賞金の1億円をもらって、楽をさせてやりたいんだ」

 春馬はつらかった。

 親友の家の事情がこんなに深刻だと知らなかった。

「今日はおまえの家に泊まるって言ってあるんだ。連絡がいったら、ごまかしておいてくれ」

 リュックを背負った秀介は、松葉杖をついて出かけようとする。

 しかし、松葉杖がゆかの段差にひっかかって、ころんでしまう。

「その足じゃムリだよ。ギプスがとれるまでは、安静にしてないと」

 秀介はくやしそうに唇をかんだ。

「骨折したところが悪化したら、一生、松葉杖になるかもしれないんだぞ」

「お金がいるんだ! 今の生活じゃ、母さんが倒れちゃう」

 こまったぞ。秀介をいかせるわけにはいかない。

 でも、どうすればいいんだ。

「ゲーム大会って、なにをやるのかな?」

「うわさだと、体験型脱出ゲームみたいなものじゃないかって」

「それなら、ぼくが代わりにいくよ」

 春馬が言うと、秀介は目をまるくした。

「秀介の骨折は、ぼくにも責任があるからな」

「あの試合のことなら、気にしなくてもいいよ。おたがい、全力でやった結果だから」

 こういうのが秀介のいいところだ。決して、友だちを責めようとしない。

「体験型脱出ゲームだったら、その足じゃ勝てないだろう」

「うん……」と秀介はまた考える。

「ぼくのほうが、ゲームに勝てる見込みはある。ぼくにまかせろよ」

 今日と明日は、秀介と遊ぶ予定だった。

 それが、ゲーム大会になったと思えばいい。

「でも、交代してもいいのかな?」

「ぼくが秀介のふりをすればいいんだろう」

「ばれないかな?」

 春馬はタブレットを持って、

「これを持って秀介だと言えば、ばれないよ」

「うん、それならたのむよ。でも、危ないことはするなよ」

「まかせておけ。ゲームは得意だ」

 こうして、春馬は絶体絶命ゲームに参加することになった。

次のページへ▶


この記事をシェアする

ページトップへ戻る