第20章 きずなのトリプル・パンケーキ☆
翌日の朝。おれは、元気よくリビングのドアを開けた。
運動会の次の日みたいに、体力を使いきった疲労感が少しだけ残っているけど、充実感もあって気持ちいい。すごく、いい朝だ。
「みんな、おはよう」
「おはよー、朝陽!」「朝陽、おはよう」
まひると星夜が、明るく返事する。エプロン姿のハル兄も、キッチンから顔をのぞかせた。
「おはよう。今日も、いい天気だね。そうだ。じつは近くで驚くような大事件があったんだよ」
「大事件?」
ハル兄が、大きなテロップが映ったテレビを指さす。
〈十億円のニセ札製造事件!〉
印刷工場を背景に、ニュースキャスターが興奮した様子でニュースを読んでいる。
工場の入り口の地面に、コーヒーの染みが映って──あ!
「このニュース! 昨日の」
「あ~さ~ひ~!」(それはオレたち、三人の秘密だろ?)
「うわっ」
まひるの大声と、星夜の心の声が、同時に頭に響く。
そうだった。昨日のことはハル兄にも言えない──おれたちだけのヒミツだった。
昨日、久遠さんのお父さんに記録用メディアをわたしたあと、おれと星夜は裏口から、すぐに工場を出た。もちろん、警察にあやしまれないためだ。
久遠さんとお父さんを保護するために、まひるが警察へ匿名の通報をしていたから、おれたちも見つかるとめんどうなことになる。
何より、神スキルについてあれこれ説明するのはごめんだし、言っても信じてもらえない。
そこで、まひるは機転をきかせて、警察に通報する時に、銃声が聞こえたことや犯罪組織のアジトのビルの場所も伝えることにした。そうすれば、おれたちが証言しなくても、警察はニセ札を作ろうとしていた犯罪組織を確実に一網打尽にできる。
だから、おれと星夜は、工場へかけつける警察の様子をスキルで確認したまひると合流すると、後の心配がない状態で、すぐさまその場をはなれて、家に帰ってきたんだ。
おれだけ、キックスケーターで、ちょっとラクしたけど。
『現場の浅見です。こちらが、ニセ札が印刷されていた現場になります!』
星夜がテレビのボリュームを上げると、カメラが、熱いキャスターとともに、昨日、おれたちが潜入した工場の表口を大きく映しだした。
『警視庁は、ニセ札製造の容疑で男八名を逮捕しました。うち、四名は、紙幣製造にたずさわる職員とその家族を誘拐、監禁した疑いでも現行犯逮捕されています。現場には、十億円相当のニセ札があり、大規模な犯罪組織メンバーが大勢逮捕される、例のない事態となりました。なお、誘拐された被害者二名の救出に際して、協力者がいたという証言もありますが──』
ドキッ!
『──その正体は不明で、くわしいことはわかっていないとのことです』
「「「……はー」」」
おれたち三きょうだいは、同時に息をはいた。
(はあ、よかった。久遠さんもお父さんも、気をつかってくわしいことはふせてくれたのかな。まあ、突然あらわれた子どもに助けられたなんて、言っても信じてもらえないかもだし)
(そうだね。それより朝陽、星夜、レポーターさんの言葉を聞いた? 〈協力者〉だって!)
協力者……か、ちょっとこそばゆい。
(ふふふっ)
まひるが、ぎゅっと肩を組んでくる。ほおがちょっと赤い。照れてる証拠だ。
星夜も、おれとまひるに向きあって、ほがらかにほほ笑んだ。
「よかったな」
「……うん」
本当によかった。なんだか、じんわり胸が熱くなる。
うれしいな……おれたちが助けたんだ。
力を合わせて、久遠さんとお父さんを救えた。二人の命を救って、もっとたくさんの人が巻きこまれる、とんでもないニセ札事件まで解決できたんだ。
この神スキルと、三人のきずなで──こんな気持ち、はじめてだ。
(……ねえ、まひる、星夜。警察でも解決できない事件で困っている人がいたら、また助けてあげない? おれたち三人で)
(さんせーい!)
(えっ。今回だけでも、こんなに危険だったのに?)
予想どおりの星夜の反応に、おれは苦笑いする。
まあ、星夜は反対するよな。でも、同じようなことが起きたら、おれはたぶん、放っておけない。そのときは、星夜にも力になってほしいな。
なんとなく、星夜もそうしたがってる気がするし。ほんのちょこっと。
(やっぱり……ダメ?)
ぎこちなく見あげると、星夜が、はーっと息をついた。
(……もし、また、そういうことがあったらな)
「ほんと?」
「三人とも、お待たせ!」
ハル兄の声に振りかえると、テーブルの上でパンケーキがキラキラと輝いている。
三段重ねのふわふわのパンケーキだ。しかも、いちごに、みかんに、パイナップルに、生クリームにチョコレートソースも、たっぷりのっている。
まひるも、星夜ですら驚いて目が丸くなってる。おれも、思わずテーブルに身を乗りだした。
「わ~、おいしそう!」
「名付けて、『三きょうだいのトリプル・パンケーキ』。ぼくの自信作だよ。昨日の夜、まひるに〈特別にがんばったから、明日は特別な朝食にして〉って頼まれて準備したんだ」
(だってわたしたち、昨日はホントのホントにがんばったでしょ? だから三人全員が大好きなもので、事件解決のお祝いをしたかったの)
(すごい、大賛成!)(オレも、そこまでは思いつかなかった)
ありがとう、まひる。それに作ってくれたハル兄も!
「「「いただきまーす!」」」
フォークでパンケーキを押さえて、ナイフですーっと切れ目を入れる。
星夜も、あわてて切っている。まひるなんて、食べる前から口がわなわな震えてる。
三角に切った一切れに、生クリームといちごとチョコソースをたっぷりのせて、ぱくっ!
「「「……おいしい!」」」
生クリームがあまくって、キャラメルシロップがちょっとほろ苦くって、ぴったりだ。
しあわせな味。おれたち三きょうだいのお祝いのパンケーキ。
信じられないくらい、めちゃくちゃうまい──神うま!
「よかった」
ハル兄が、にっこり笑った。
「ところでさっきの事件だけど、現場には小さなチョコが落ちていたんだって。不思議だねえ」
「「「ごほっ!」」」
三人とも、あやうくパンケーキを吹きだしそうになる。
それ、もしかして。
いや、もしかしなくても、おれのチョロルチョコ?
(けほっ、あ、朝陽、いつ落としたの?)
(わからない! たぶん、犯人を倒したときじゃない? おれもギリギリだったから……)
(オレも気づかなかった。まさかそんな落とし物を残してしまうなんて)
(二人とも気をつけてね。は~、でもしょうがないか。なにせ初の事件だったもんね。わたしも下調べ不足だったのがくやしい! 今度は、もっと安全確実に二人をナビするから、まかせて)
(……まひる。また事件に首をつっこむ気か? せっかく無事に解決できたのに)
(だって二人ばっかり活躍してズルいじゃない。わたしだって、もっともっとすごいんだから)
「三人とも、どうしたの? パンケーキ、おいしい?」
「「「もちろん!」」」
おれたちは元気に返事する。
だってこれは、おれたちが人助けをできた証の、きずなのパンケーキだから。
そうしておれたちは、フォークでさした三枚のパンケーキを、三人いっしょにほおばった。
一件落着!!!
もぐ、もぐ、もぐ
…………
「あ、そうだ。ねえねえ、星夜、朝陽。神スキルで困ってる人を助けていくってことなら──わたし、さっそく三人で調べたいことがあるんだけど!」
「えっ!」
「ええっ!?」
──やっぱり、おれたちの事件は、まだまだ続くらしい。
朝陽たち三きょうだいのドキドキの物語は、まだまだつづく—―!
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