9 もどってきた日常?
白猫の霊(れい)を解放してから、一週間。
佐穂ちゃんへのいやがらせはなくなって、佐穂ちゃんはクラスに友だちができたみたい。
いじめっ子三人はきびしく指導されて、保護者といっしょに佐穂ちゃんにきちんと謝った。
さらに佐穂ちゃんいわく、あの日から館林さんは佐穂ちゃんを見るたび、真っ青になって目をそらすんだって。悪霊に襲われたのが、よっぽど恐かったんだね。
これを機に、よ~~く反省してくれますように!!
──というわけでとりあえず、第三の怪事件も、一件落着(いっけんらくちゃく)。
ただ……まだ指輪は外せていなかった。
感情が高ぶると猫に変身しちゃうのも、そのまま。
うう、いくら呪いじゃなくても、一生このままは困るよ~。
どうすればいいんだろう……?
「ごめん、若葉ちゃん、おそくなった!」
わたしが昇降口の前にかけつけると、若葉ちゃんは読んでいた本を閉じて、顔を上げた。
「お疲れさま」
「先に帰ってくれてもよかったのに」
「今日はもともと図書室に寄ろうと思ってたから。さ、行こうか」
うっかり宿題を忘れてた上に授業でいねむりをしてしまったバツで、放課後、わたしだけ数学の補習を受けてたんだ。いやはや、めんぼくない……。
外に出ると、ちょうど、夕焼けチャイムが鳴り始めた。
あっ、と一瞬身がまえたけど、もう、前みたいに気分が悪くなることはなかった。
「──見て、かわいい子がいる! こんにちは~」
道ばたで出会ったミケ猫くんに近づいて、話しかける。
「どこ行くの?」
『べつに。風の吹くまま、気の向くまま』
「ステキ。毛なみもステキ。なでてもいい?」
ミケ猫くんがいやがらなかったので、思いっきりもふもふを味わった。
ふう……手ざわり最高。
だんだんリラックスして、身をゆだねてくるミケ猫くんの様子も、たまらない!
「シロップのこと、気持ちの整理がついたみたいだね」
幸せのひと時を味わっていたら、ほほ笑みを浮かべた若葉ちゃんに言われた。
「うん! なんかずっとジメジメしちゃっててゴメンね。もうだいじょうぶだよ」
「よかった。まあ私は、まなみが泣き虫なところもキライじゃないけどね」
「そうなの? なんで?」
「情が深くて、自分の気持ちに素直ってことだと思うから。でも、やっぱりまなみにはなるべく笑っててほしいし、悩みが消えてよかった」
やさしい言葉に、胸がじーんとなった。
「若葉ちゃん、好きー!」
「はいはい」
抱きつくわたしに、なれたしぐさで頭をよしよしする若葉ちゃん。
泣き虫は、情が深くて、自分の気持ちに素直ってこと、か……。
呪いの指輪だと思ったものが、今はミラクル・リングだと思えるようになったり。
同じものでも、とらえ方で全然印象が変わるんだな。
そう言えば、尊も言ってたっけ。
──「どんなことも、いい面も悪い面もある。物ごとはとらえ方しだいだろ。それならうじうじしてるより、今や未来が楽しくなるように考えたいし、動きたいってだけ」
尊がなんで女子にキャーキャー言われるのか、少しわかるような気がしてきたかも。
芯が強くて、いざという時にはたよりになるし。
いろいろたくましくなってきた感じがする。ほんとは、すごく優しいしね。
……でもやっぱり横暴だしゴーマンだしイジワルなことばっかり言うし!
尊もホント、いい面も悪い面もいっぱいあるよね。
気の置けない、トクベツな幼なじみ。
それが、別の何かに変わっていくこともあるのかな……?
朝。ふあ~っとあくびをかみ殺しながら、通学路を歩く。
「今日は早いな、まなみ!」
「!」
いきなり曲がり角から現れた尊と全身でぶつかって、ドッキン! と飛びはねる心臓。
ボン!
「げ……」
猫になったわたしと尊は、あわててあたりを見まわして。
ひとけがないことを確認して、ホッと胸をなで下ろす。
「まなみが来るのが見えたから、ちょっとおどかしてやろうって待ちぶせてたけど、おどろきすぎだろ?」
「わたしのせいじゃないでしょ! 軽はずみなことしないで!」
実は突然(とつぜん)出てきたことより、顔が近かったことの方にドキッとした気がするけど……
今は深く考えない!
尊は、おこるわたしと落ちたリュックカバンを、「へいへい」と悪びれた様子もなく拾いあげた。
「って、何してるの!?」
尊がシャツと学ランの間に猫のわたしを入れようとするから、あせって声をあげた。
ムリムリムリ! くっつきすぎ!
「こーやって学校まで運んでやろうと」
「ノーセンキューだよ! 大きなお世話!」
「はあ? 人の親切をなんだよ、その言い方」
「尊ってわたしが猫の時は完全に猫あつかいになるでしょ!? デリカシーなさすぎ!」
「まなみが言うか、それ!? オレが犬の時は体中なでくり回すくせに!」
わたしをつまみあげた尊と、むうっとにらみ合っていたら。
「おはよう。まなみ……朝からやっちゃったか」
「尊。はたから見たら、子猫にスゴんでる残念なイキリ野郎(やろう)だぞ」
若葉ちゃんと行成も合流した。
「尊が悪いんだよ」
「まなみがビビりなのが悪い」
「はいはい、どっちもどっち」
「──ところで、聞いたか? あのウワサ」
キョトンとするわたしと尊に、行成いわく。
「また、怪事件が発生したらしい」
「「!?」」
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