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ものがたり

『放課後チェンジ 世界を救う? 最強チーム結成!』スペシャルためし読み 第7回 凶暴な悪霊(あくりょう)の正体は……⁉


新シリーズ人気【第1位】(2024年度売上)「放課後チェンジ」の1巻がまるごと読める!
「イッキ読み」を公開中!
4人は、ドキッとしたら動物に変身!? 力を合わせて大事件を解決する!
大笑いのコメディ&最強アクションのストーリー!

まなみ、尊(たける)、若葉(わかば)、行成(ゆきなり)は仲良しの4人組。
中1のゴールデンウイーク、フシギな指輪を見つけたことで、なんと、動物に変身しちゃった!!!
猫や犬の運動能力、タカの飛ぶ力が使える! でも……指輪が指から外れない!!!


※これまでのお話はコチラから

 

7 凶暴な悪霊(あくりょう)の正体は……⁉


 シロップは、わたしが生まれる前の日にお母さんが拾った子猫で、わたしとは姉妹みたいに育った。

 雪のように白いやわらかな毛なみに、金と青、左右の色がちがうアーモンド形の瞳。

 めったに怒ることがなくて、かんだり引っかいたりしない、やさしい性格で。賢くて、わたしが幼稚園や学校から帰ってくる時間をちゃんと覚えて、いつも玄関で待ってくれていた。

 わたしはシロップが大好きで、シロップもわたしに一番なついてくれてたと思う。

 毎日いろんな話を……時には、幼なじみたちにも話せないようなことも……聞いてもらって。

 かわいいシロップがそこにいてくれるだけで、幸せを感じていた。

 ……だけど、半年前、突然(とつぜん)家からいなくなってしまった。

 わたしが遊びに行く時に、ドアを完全に閉めていなかったから、すき間から外に逃げてしまったんだ。

 夜になっても、次の日の朝になっても、シロップは帰ってこなかった。

 わたしが学校から帰っても、まだシロップはもどっていなくて。

 町中をさがしまわって、日が沈みかけたころ、ようやく、空き地の草むらの中で、発見した。

 夕焼けチャイムがけたたましく鳴りひびく、初冬のくもった空の下で。

 ──かたくて冷たい、亡きがらになっていたシロップを……。


「いやああああ!」

「まなみ!」

 絶望で目の前が真っ暗になった瞬間、グイッと強く肩をつかまれて、だれかに抱きかかえられる形で地面をごろごろ転がった。

「尊、そのまままなみを連れていけ! ──こっちだ!」

『コロス……!』

 だれかのさけび声と、うなり声が聞こえたけれど、わたしはそれどころじゃなかった。

「シロップ……シロップ、ごめんね……」

 息が苦しい。

 胸がはりさけそうだ。

 なみだがあふれて、止まらない。

「落ちつけ、まなみ! あいつはシロップじゃない!」

「うう……わた、わたしが……わたしのせい、で……ごめん……!」

「……!」

 わたしのひざの上で丸くなってねむる姿。

 いっしょにふとんに入った時のぬくもり。

 あまえるような、かわいい鳴き声。

 普段は胸の奥にしまっていた思い出がつぎつぎに頭に浮かんでは、とほうもない罪悪感(ざいあくかん)でぬりつぶされて、心がぐしゃぐしゃになる。

「──なみ、まなみ……しっかりしろ、まなみ!」

 不意にパンッとほおをはたかれて、ぼんやりしていた景色が、くっきりしていく。

 目の前には、夜の街灯の下、息を切らして、せっぱつまった表情の……。

「尊……?」

「たたいてごめん。でも、ずっと泣きじゃくってパニック起こしてたから……」

 尊は自分の方がたたかれたような痛そうな顔をしてたけど、かがんでいたところから立ちあがる。

 そして、いつのまにか公園の地べたに座りこんでいたわたしに手を差しのべた。

「今は行成が一人であの悪霊を引きつけてる。もどって、あいつを昇天させるぞ」

「……あ…………」

 状況(じょうきょう)を思いだして、ビクッと全身がふるえた。

「やっぱり、シロップは悪霊に…………わたしを、うらんで……!」

「バカ! あれのどこがシロップだよ! それでも飼い主か!」

 大声でしかられて、あっけにとられた。

「……シロップだったでしょ……?」

「ちげえよ、同じ白猫だったけど、別の猫だ! まなみがシロップだったらどうしようって思いつめてたせいで、シロップに見えたんだよ!」

「……!?」

「それに、どうしてシロップがまなみをうらむんだよ!? 病死だったんだろ?」

「わ、わたしがドアを開けてたせいで、あんなさびしい最期になったんだよ……!?」

「だとしても、まなみをうらんだりするかよ! あいつ、すげー優しいやつで、まなみのこと大好きだっただろ! まなみだって幼稚園くらいからエサやりもトイレのそうじも、シロップの世話は全部やって、めちゃくちゃかわいがってたじゃねーか。ずっとそばでおまえらを見てきたオレが保証する。シロップは絶対幸せだった! 悪霊になんてなるわけない!」

「……!」

 力強く言い切られて、胸の奥の深い部分が、じんとふるえた。

「……幸せだったと、思う?」

「ああ」

「シロップは、悪霊にはなってない?」

「なるわけない」

 尊はかがみこんで、わたしと目線の高さをあわせる。

「シロップとオレを、信じろ」

 自信たっぷりの笑顔で、そう言われて。

 凍(こお)っていた血がめぐりだし、目の前をおおっていた重く暗いベールが、少しずつはがされていくような心地がした。

 信じたい……信じたいよ。

 でもやっぱり……シロップが幸せだったかどうかは、わたしにはわからない。

 最期を看取ってあげられなかったわたしがそう思いこむのは、どうしても身勝手に思えてしまうから。

 でも、シロップ。

「悪霊になんてなるわけない」って言葉は、信じてもいいかな……?


 ──記憶の中の、金と青の瞳(ひとみ)をした白猫が。

 ひざの上からのびあがって、ペロペロとわたしのほおをなめた。


「……っ……!」

 そうか……そうだね……。


 ──あの白猫の霊(れい)は、シロップじゃない。


 そう思えた瞬間、闇で(やみ)よどんでいた世界に、まぶしい光が差した。

 かんちがいしちゃって、ごめんね、シロップ……。

「シロップって、幼稚園のころは家でまなみのトイレにまでついてきてただろ。まなみが熱とか出して寝こんだら、ずっとそばにいて、はなれようとしなかったし……」

「うん……」

「ほんと、まなみのことが大好きだったよな。だから、今のまなみを見ても、あいつは喜ばないと思う。大好きなやつが、自分のせいでずっと苦しんでるなんて、イヤじゃん。大好きなやつには、いつも笑っててほしいだろ」

「うん……」

 おだやかに、慈しむように紡がれる尊の言葉がひびくたびに、またポロポロとなみだがこぼれる。

 でも今はそれといっしょに、つらい気持ちも流れだしていく気がした。

 みるみる心が軽くなって、息がしやすくなっていく……。

 尊は親指でわたしの濡れたほおをぬぐうと、ぽんぽんと頭をたたいてから、立ちあがった。

「ここはひとつ、カッコいいところを見せて、あいつを安心させてやろうぜ」

 そう言って、再び、手を差しだす。

 わたしは深呼吸を、二度、三度して。

「うん……!」

 その手を取って、立ちあがった。


 あの黒い〈もや〉が消える時って、こんな気持ちなのかな。

 ぐるぐると心や体を縛っていた、後悔(こうかい)や罪悪感(ざいあくかん)が、尊の言葉でうすくなって、すごく楽になった。

 ううん、悪霊になった動物たちは、きっとつらい死に方をして、死んじゃった後も留まりつづけるくらいなんだから、たぶんもっと、ずっと苦しいと思う。


 ──『苦シイ……憎イ……』


 あの巨大な悪霊のところにもどるのは怖い。

 一回ふれただけでは佐穂ちゃんから引きはなせなかったし、凶暴で敵意がある。

 今までみたいに簡単にはいかないかもしれない。

 わたしはドジでトロくて、みんなにメーワクをかけてばっかりで、失敗をしてばっかりで……

 不安ばかりが大きくなる。

 だけど……。

 シロップによく似たあの子のもがき苦しむ姿を思い出して、逃げだしたくなる気持ちを、こらえる。

 救ってあげたい。

 今、あの悪霊を昇天させる力を持っているのは、わたしたちだけだから。


 ──シロップ、わたしに力を貸して……!


 両手をにぎってそう祈ると、指輪から、ぽうっと力がわいてくるような感覚が、全身をかけめぐった。

 左右のおさげを縛っていたゴムが切れて、ふわっとくせのついた髪(かみ)がおどるように宙に舞う。

「まなみ、おまえ、目──」

 息をのんだ尊が、そう言った瞬間。

 ザワッと肌があわ立って、わたしは尊の手を引っぱって、そばにあった大きなすべり台のかげに二人で身をかくす。

『憎イ……人間……コロス……』



 夜の公園の向こうから、満月を背にして、巨大な猫の悪霊がゆらゆらと近づいてきていた。

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