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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『放課後チェンジ 世界を救う? 最強チーム結成!』第4回 オトリ調査は大○○!?

5 密(みつ)です! あまりにも密です!


 飛行物体のスピードはすさまじくて、みんなはっきり見えなかったんだけど、行成だけは見えたらしい(タカはめちゃくちゃ目がいいんだって)。


 ──「紫の口紅に見えた」

 公園からの帰り道、行成はそう言っていた。

「悪霊が口紅(くちべに)にとりついてるってことかな?」

「そうなるか……。そもそもカップルを襲うって、カップルにうらみのある悪霊ってことか?」

「もしくは口紅の持ち主のうらみとか……もう一度、公園で聞きこみしてみようか」


「何度もすみませーん。ちょっといいですか?」

 木曜日の放課後。二日前と同じ場所で、池のコイに向かって呼びかける。

『今度はなんだい?』

「紫色の口紅について、なにか知ってることはありませんか? この公園に来る人で、そんな口紅をしている人がいたとか、それについて話している人がいたとか……なんでもいいので」

 コイたちはおたがいに目配せすると、もったいぶったように尾びれを振った。

『それなら心当たりがないわけじゃないよ』

「えっ、ほんとですか!?」

『ああ。けどね、おじょうちゃん、今日び情報もタダじゃないぞ?』

『そうそう、わしらになんか見返りがないとなあ』

 そう言って、これ見よがしに口をパクパクさせる。

 うーん、なかなかがめついな。……しかーし!

 顔を見あわせたわたしたち三人は、ふふっと笑みをもらした。

 今回は「お礼を用意していこう」という若葉ちゃんの気配りで、ちゃんとコイのエサを買ってきてたのです!

「たくさんあるんで、どんどん食べてください!」

 わたしたちがエサをまくと、あたりにいたコイたちが目の色を変えて群がってきた。

『ヒャッハー! メシじゃメシじゃああああ!』

『うめえええええええええ!』

『ヒュー! たまんねえなあオイ!』

 いや、急に治安悪いな!?

 それにしてもすごい数……たがいの体の上に乗りあげ、バッシャバッシャと水しぶきを上げながらエサをむさぼってるよ。

 密です! あまりにも密です!

 行成はまだ寝こんでるんだけど、今日はいなくてよかったかも……集合体恐怖症(しゅうごうたいきょうふしょう)だから、行成。

「盛りあがってきたな。アリーナ~~!」

 尊なんてライブ会場みたいなノリでエサをまいてる。

『Fooooo! この時のためだけに生きてるぜええええ!』

 コイたちのバイブスは最高潮(さいこうちょう)だ。


『──パンクファッションっつーのか? 紫の口紅をした女が、この辺よく来てたんだよ』

 世紀末みたいなエサまきタイムが終わって、聞きとり開始。

『ああ、よく男とデートしてたけど、ちょっと前に時計台の前でハデなケンカして、別れてた。それから姿は見てないが……』

『男が浮気したとかで、飛び蹴(げ)りくらわせてたよね……たしかアヤカとか呼ばれてたっけ』

 コイたちの話を聞いて、尊が頭を抱えた。

「姉貴じゃねーか……」

 まさかの彩夏(あやか)ちゃんの口紅!?


「姉貴、前に一時期、紫の口紅してたよな。あれ、どうした?」

 その後すぐ尊の家に直行して、リビングにいた彩夏ちゃんにたずねると、彩夏ちゃんはみるみる顔をしかめた。

「は? なんであんたにそんなこと……」

「大事なことなんだ、教えてくれ!」

 彩夏ちゃんはぶっきらぼうに「捨てた」と口にした。

「ゴミ箱に?」

「風ノ宮公園の……森の中」

「不法投棄(ふほうとうき)じゃねーか」

「うるさいっ!」

 いきなり回し蹴りをくりだす彩夏ちゃんに、「うおっ」と身をかがめてかわす尊。

「あんたに何がわかるのよ!」

「ひでー、八つ当たり」

「お、落ちついて、彩夏ちゃん!」

「すみません! 何があったか、どうしても知りたいんです」

 わたしたちもいっしょにたのみこむと、彩夏ちゃんは、はあっとため息をついてから、しぶしぶ教えてくれた。

 紫の口紅は、元カレに初めてプレゼントされたものだった。

 でも、浮気されて別れた時に、腹が立って森の中に投げすてたんだって。

 つまり、飛行物体がカップルを襲うのは、彩夏ちゃんの元カレへのうらみのせいっぽい。

 とりついた物の持ち主のうらみが、悪霊と一体化するパターンもあるんだ……。


 金曜日の放課後。今日も風ノ宮公園に三人でやってきた。

「ねえ、尊。今週、一回も部活に出てないんじゃない? だいじょうぶ?」

 ひそかに気になっていたことをたずねると、尊は「平気平気」と軽く答える。

「それより、早く悪霊を昇天させてやんねーと……」

 そう言ってポケットから取りだしたのは、彩夏ちゃんから借りてきた、彩夏ちゃんが普段よくつけているというピアスだ。

 尊は先日、飛行物体を見うしなった場所に立って、ピアスに鼻を近づけてニオイを確認する。

 その後、あたりを見まわしながら、くんくん、と鼻で空気をすって、同じニオイをさぐった。

「──こっちだ!」

 広い森の中、尊の犬の嗅覚をたよりに、口紅に残った彩夏ちゃんのニオイをたどって──やがて、尊は足を止めた。

「……近いぞ。逃げられないように、この先は静かに進もう」

 なるべく足音を忍ばせて、しばらく前進したところで、「いた」と尊が一本の木の上を指さす。

 目を凝らすと、木の枝の先の細くなっているところに。

 ちょこんと口紅らしき直方体のものが、止まるようにのっかっていた。

「鳥の悪霊なのかな?」

「そうかもな。さて、どうやって捕まえる? コレで……ってのは成功率が低そうだよな」

 尊がコレでと指さしたのは、若葉ちゃんが持ってきた虫取りアミだ。

「たしかに……かなりすばやかったもんね、あれ」

「鳥だったら、捕まえるのが得意な動物がここにいるんじゃない?」

 ポン、と若葉ちゃんに背中をたたかれる。

「わたし!?」

「待て、こんな高い木に登るとか、まなみには危険だろ!?」

 なぜかあせったように尊が言う。

「今は指輪の力があるから、だいじょうぶだと思うけど……この姿じゃ近づいてもすぐバレそうだよ」

「じゃあ、猫の姿になればいい?」

 若葉ちゃんは少し首をかしげると、ポケットから出したスマホをいじった。

 はい、とわたしに画面を見せる。

 ……こ、これは……漣(れん)くんのお宝セクシーショット!

 きゃあああああ! と一気にテンションが上がって、ボン!

「わ、若葉ちゃん、いつのまにこんな写真を……」

「変身したい時にできるようになると便利かなと思って、こないだの雑誌を写しておいたの。まさかここまで効果てきめんとは思わなかったけど……」

 みごと猫になったわたしを抱きあげて、苦笑する若葉ちゃん。

「まなみ……おまえ、バカ? いや、知ってたけど、マジでチョロすぎ……」

 尊は心底あきれた、という目でわたしを見ている。

「うっ、うるさいな! 目的がかなったんだから、文句言わないでよ!」

 言いかえしながらも、正直、はずかしかった……うう、どうせわたしは単純ですよ~。


 口紅が止まっている木のとなりの木に、音を殺してかけ登る。

 息をひそめて枝をわたり、獲物にできるかぎり接近すると、じっと、狙いをさだめた。

 下では、若葉ちゃんたちがかたずをのんで見守っている。

 ──今だ!

 えいっと飛びかかり、前足でとらえようとした瞬間。

 獲物(えもの)はギリギリかわして反対側にすうっと逃げた。ダメか! と思ったけど。

 すかさずアミがビュンと目の前を横切って、口紅を捕まえる。

「やっ、ひゃああ!?」

 やったーと言いかけたわたしの声が悲鳴になったのは、ポキッと足もとの小枝が折れたからだ。

 ウソ!?

 落下しながらあわてて空中でバランスをとったけど──

「まなみ!」

 地面に落ちる前に、尊の腕にキャッチされた。

 はあ~、ひやっとした……。

 胸をなでおろしていたら、ふわっと大きな手に頭をなでられる。

「……ヒヤヒヤさせるなよ、バカ」

 ため息まじりにそう言いながら、心底ホッとしたようなやさしい笑顔を向けられて……

「じ、事故みたいなものだから仕方ないでしょ!」

 ドギマギしながら、すぐに尊の手から地面にとびおりた。

「──若葉ちゃん、ナイスプレー!」

「まなみが注意を引いてくれたからだよ」

 地面にふせられたアミの中では、口紅が出口をさがすように動きまわってる。

「今度は私が試してみる」

 そう言うと、若葉ちゃんは少し緊張しながら、アミの中に手をさしこんで口紅をにぎりしめた。

 指輪が緑の光を放って、上空に、半透明のツバメの姿が現れる。

『……ツライ……クルシイ……』

 ツバメは黒い〈もや〉にしばりつけられるように羽をたたんで、ピクピクとふるえながら、うめくような声をあげていた!

「辛かったね。やすらかに、おやすみなさい」



 若葉ちゃんの右手からあふれだした神秘的な緑の光が、悪霊の体を包みこむ。

 ツバメの体をおおっていた黒い〈もや〉が消え、緑の光が白い光へと変わっていく。

 白い光に包まれたツバメはまるで歓声をあげるように、ピイピイと鳴いた。

『ありがとう』

 そう言って、しゅうっと空に昇っていったかと思うと、ツバメの姿は消え、ツバメがまとっていた白光がぱあんと四つに分かれる。三つの白光はわたし、若葉ちゃん、尊の指輪に吸いこまれ、残る一つは行成の家の方へと飛んでいった。

「今指輪に入ってきたのが、霊力(れいりょく)なんだよね」

「ああ。こんなふうに清らかな霊力をためれば、いずれ指輪は外れるって話だよな」

 自分たちの指輪を見つめながら話していたら、尊のスマホが鳴った。

「行成からだ」

『指輪に光が飛んできたと思ったら、急に体が楽になった。昇天(しょうてん)が成功したんだな?』

「ああ、バッチリだぜ」

「ミッション・クリア!」

「元気になってよかった……これからそっちに行くね」

 ──ナゾの飛行物体X事件、一件落着(いっけんらくちゃく)!


第5回へつづく(5月9日予定)


 



書籍情報


作: 藤並 みなと 絵: こよせ

定価
836円(本体760円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323132

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作: 藤並 みなと 絵: こよせ

定価
858円(本体780円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323538

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