
2024年 新シリーズ人気【第1位】「放課後チェンジ」の1巻がまるごと読める!
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4人は、ドキッとしたら動物に変身!?
力を合わせて大事件を解決する、無敵のコメディ&アクションのストーリー!
まなみ、尊(たける)、若葉(わかば)、行成(ゆきなり)は仲良しの4人組。
中1のゴールデンウイーク、フシギな指輪を見つけたことで、なんと、動物に変身しちゃった!!!
猫や犬の運動能力、タカの飛ぶ力が使える! でも……指輪が指から外れない!!!
※これまでのお話はコチラから
4 オトリ調査は大○○!?
「……この石、良さそうだな」
ふと、行成が足もとに落ちていた石を拾った。
「良さそう?」
「水切りに。いい形してるから、つい手がのびた」
ああ……と思うと同時に、笑っちゃった。この間田舎(いなか)に行った時、みんなで川で水切りをしたんだけど、最初、行成だけ上手く石を投げられなかったんだよね。
それがくやしかったのか、みんながあきて帰ろうって言っても、行成は一人で残って、ずーっと石を投げつづけてた。
翌朝も早起きして練習したみたいで、次にお昼にみんなで水切りした時は、一同ビックリ。
行成の石は、二十回以上もとびはねて、向こう岸まで行っちゃったんだ。
「行成って、実はかなり負けずぎらいだよね」
「なんでも、できないままってのはイヤだろう」
行成は思い出をなぞるように石をさわってから、また地面にもどした。
それから、時計台の方を見る。
「出ないな……飛行物体」
「カップルじゃないのがバレてるのかな?」
「……もう少し恋人っぽくふるまってみるか。ちょっと待ってて」
そう言って、行成はワゴン車のアイスクリーム屋さんで、アイスを二つ買ってきた。
「ほら、まなみはストロベリーとチョコレートだろ」
「わ、ダブルだ! ありがとう。……おいしい~」
大好きな二種類のフレーバーがのったコーンアイスを食べて、ほおをゆるめていたら。
いきなり行成に手首をにぎられて、ぱくっとアイスを一口うばわれた。
「!?」
「味見。俺のも一口あげるから」
ポカンとしてるわたしに、くちびるのはしについたクリームをペロッとなめながら、自分のアイスを差しだす行成。
たしかにこれは恋人っぽい! やるな、行成。
あれ、少しはなれたところにいる女子たちが、こっちを見て何かこそこそ話してる?
思わず耳をすますと──指輪が光ってるから、これも猫の力なんだろうな──はっきりと「いいな~」「彼氏カッコいいよね!?」という声が聞こえた。
そういえば行成もモテるんだよね……。
たしかに背は高いし、キレイな顔してるし、大人っぽいし。
無愛想で何考えてるかよくわからないとこもあるけど、実はやさしいし、頭もいいし。
茶道をやってるからか、どことなく上品だし、スポーツもなんでもできるし……。
改めて考えると、行成、超ハイスペック男子だな!?
まあ、かなりとぼけたところがあって、突拍子(とっぴょうし)もないことしたりもするけど──
「……食べないのか?」
「食べる食べる!」
引っこめようとした行成のレモンシャーベットを、あわててかじった。

うん、こっちもおいしい!
「恋人ごっことかすると、マンガやドラマではよく本当に恋に落ちちゃうけど、行成とはだいじょうぶだね」
腕を組んで歩きながら、そう言って笑うと。
行成は目をまたたいてから、長身をかがめて、わたしの耳もとでぼそりとささやいた。
「──俺は、ちょっと恋に落ちそうになった」
えっ、突然、なに!?
「ジョーダンでしょ」
絶対からかってるだけだ、と思ったけど、顔が熱くなる。
同時に、尊たちがかくれてる茂みのほうで、ガサッと音がした。
どうかした? と視線を向けたけど、それ以上はとくに変化はない。
「何かあったのかな?」
「さあな……」
ククッと肩をふるわせる行成。
なんなんだ? とまゆをひそめていたら。
不意に、『夕やけこやけ』のメロディが流れはじめた。
子どもに帰宅時間を知らせる夕焼けチャイム──しまった、もうそんな時間になってたんだ!
とたんに全身がこわばって、気分が悪くなってくる。
頭の中に、草むらに横たわった白い猫の姿がよみがえって、まぶたがじわっと熱くなる……。
「まなみ、顔色が悪い。だいじょうぶか?」
「……うん、もう、だいじょうぶ」
チャイムが鳴りやむと、気持ち悪さは消えた。……チャイムが聞こえるって、前もって身がまえてたらまだダメージが少ないんだけど、うっかりしてた。
気づかってくれる行成に、コクリとうなずいた、直後。
「来た!」
茂みで見守っていた尊たちの声が上がったと思ったら、視界に黒い飛行物体が飛びこんできた。
──速い!
「くっ……ああっ!」
行成はとっさによけようとしたけれど、一直線に襲いかかってきたそれを、よけられなかった。
苦痛の声とともに、表情をゆがめて地面にひざをつく。
ウソ、行成がやられた……!?
普段あまり感情を表に出さない行成の、苦しそうな顔を見て、頭が真っ白になった。
「行成! どうしよう。ゆきな──」
「まなみ! 追って!」
若葉ちゃんの声でハッとわれに返って、顔を上げる。
急角度でUターンした飛行物体が、すごい速さで森の中へ去っていく。
いつのまにか犬に変身していた尊が、猛ダッシュでそれを追いかける。
そうだ、わたしも行かなきゃ!
あわてて尊の後を追った。
森に入ったところで、黒柴がくんくんと地面をかいでは、キョロキョロとあたりを見まわしていた。
「くそっ、見うしなった……速すぎて、ニオイもたどれねえ」
くやしそうに、うっそうとした木々の奥を見つめる尊。
オトリ調査、大失敗……。
行成の左肩のところに、話に聞いてた紫のラインが描かれていた。
襲(おそ)われた時の強い痛みはすぐ消えたらしいけど、熱はどんどん上がってきたみたい。
ぐったりしている行成を、みんなでひとまず家まで送る。
家について体温をはかったら、四十度近くになっていた。
「役立たずでごめん……」
申しわけない気持ちでいっぱいになりながら、ふとんに横になった行成に謝る。
「あの速さじゃ仕方ない。俺も油断してたしな……からかいすぎたバチが当たった」
ほおを上気させ、額に汗を浮かべながら、苦笑する行成。バチ……?
「まったくだ。ほんといい性格してるよな」
「これ見よがしに挑発してたもんね……かくれてる尊なら、変身してもいいと思ったんでしょ?」
顔をしかめる尊と、あきれたように肩をすくめる若葉ちゃんに、行成はみだれた息の合間で「まあな」と答える。
「あせったなら、ちょっとは素直になれよ?」
「ほっとけ! そっちこそ、ちゃんと反省しろ」
……なんか、わたしだけ置いてけぼりなんだけど。
とりあえず、行成が熱のわりには元気そうでよかった……。
行成の両親はよそのお茶会でまだ帰ってなかったけど、夜もおそくなってきたから、今鷹家(いまたかけ)のお手伝いさんに後をまかせてお屋敷を出た。
帰り道になると、また、気分が沈んでくる。
なんであの時、すぐに動けなかったんだろう。トロい自分が、つくづくイヤになる……。
前を歩いていた尊が足を止めて、振りかえった。
「オトリ調査を言いだしたのはオレだ。まなみの責任じゃねーよ」
「尊……」
わたしがだまっていたから、落ちこんでるのがバレちゃったみたい。
「敵があそこまですばやいなんて、考えがあまかった。敵の力がわからないのに、行成を危険にさらした……責任があるとしたら、オレだ」
くやしそうに、グッとこぶしをにぎりしめる尊。
行成には軽口をたたいていたけど、尊も気に病んでたんだ……。
「こんなことなら、ヘンな意地はらずに、オレがオトリになればよかった。……ごめん」
尊に謝られて、「ううん」とわたしは首を横に振る。
「尊があぶない目にあうのも、イヤだよ」
「…………」
「わたしこそ、いろいろ、ごめん。そもそもわたしがあの箱を開けたりしなければ、こんな目にあうこともなかったし──」
「まなみと尊が仲直りできたのは、なにより。でも、だれの責任でもないよ」
きっぱりとそう言ったのは、若葉ちゃんだ。
「行成や鈴木くんを傷つけたのは、まなみじゃない。悪霊(あくりょう)でしょ。その悪霊だって、きっと好きで悪霊になったわけじゃない。一つ、確かなのは、指輪があれば悪霊を昇天(しょうてん)させられるってこと。いきなり変身しちゃうのは困るけど、私はこの指輪自体は、そんなに悪いものじゃない気がする」
月の光をあびながら、りんとした表情で話す若葉ちゃんは、すごく理性的なのに、まるで巫女(みこ)さんみたいに神秘的(しんぴてき)に見えた。
胸にうずまいていたモヤモヤが、清らかな風ではらわれていくような感覚。
「ありがとう、若葉ちゃん。……好きー!」
ぎゅっと抱きつくと、よしよしと頭をなでられた。
「……おい、若葉。なんだその勝ちほこったような顔」
「気のせいじゃない?」
──そうだね、過ぎたことをなげいても、仕方ない。
これ以上、被害者を出さないために、できることを考えよう!