2 小猫になっちゃった⁉
「これ、蓄音機(ちくおんき)ってやつだよな。まだ使えるのかな?」
「骨格標本(こっかくひょうほん)もあるのか!」
「私、ちょっと二階も見てくるね」
蔵につくと、それぞれが好奇心のおもむくまま、目につくものを調べはじめた。
古い家具や雑貨、ダンボールなどがまとまりなく置いてある。
ちょっとした宝探しタイムだね。
そんな中、わたしはまた、だれかに呼ばれた気がして、振りかえった。
『こっち……』
やっぱり呼ばれてる……?
静かな森のみずうみで、ポツンと落ちた雨だれが、水面に波紋(はもん)を広げるように。
『こっちだよ……』
急に他の音が消えた世界で、かすかにひびく不思議な声にみちびかれるように――
なんだか夢うつつの気分で、わたしは足を動かしていく。
視線は、たなのはじっこにひっそりと置かれた、小さな箱に吸いよせられた。
すごく古そうな木製で、宝石箱みたいな形。
全体になにか複雑なもようが彫られていて、風変わりだけど、やけに存在感がある。
『開けてみて』
手にとって、ふたを開けてみる。
中に入ってたのは、いくつかの、指輪?
そう思った瞬間、ゾーッとすさまじい悪寒(おかん)が背筋を走った。
「!」
直後、箱から目を開けていられないほどの強い光があふれだし、あたりが真っ白に染まった!
同時に、ボン、と全身がはじけるような感覚に襲われて。
わたしは意識を失った――。
「――どうなってるんだ……⁉」
尊のあせったような声。
「尊……?」
床にうつぶせになっていたわたしは、ゆっくり体を起こす。
パッと目に入ったのは、かがみのそばにいた、一匹の黒い柴犬だ。
「うわ~、かっっわいい!」
完全な子犬じゃなくて、子どもと大人の中間サイズ。
キラキラお目々に、ツヤのあるやわらかな毛なみ。
柴犬はみんなかわいいけど、その中でも最上級、おどろきの愛らしさ!
「かわいい! かわいいね~。どこからきたの?」
一気にテンションがはねあがり、今の状況も忘れてかけよったら――
「え……その声、まなみ⁉」
黒柴ちゃんから、尊の声がしたからビックリした。
「ええっ、尊……なの?」
信じられないながらもそう聞いたら、黒柴はわたしを見つめながら、うなずいて。
「マジでまなみなのか? でも、その姿……」
わたしの姿???
尊(?)の後ろにあったかがみに目を向けると、プリティーな黒柴のとなりで。
サーモンピンクの毛にしまもようが入った、ふわふわの体。
短い手足に、アーモンド形の金色の瞳……。
これまたとっても愛らしいにゃんこが、こっちをまっすぐに見つめていた。
え、なんでわたしがいるはずの場所に、子猫が映ってるの???
おそるおそる手をあげると、かがみの中の子猫も前足をあげて。

ふるふると頭をふると、かがみの中の子猫も頭をふった。
………………どええええええええ⁉
「わわわわわた、わたし、ねねねっ猫になっちゃったー⁉」
「オレが犬になったと思ったら、まなみは猫か……」
ボーゼンと尊が言ったところで、バサバサッと何かが飛んでくる。
「……そして、俺はタカみたいだな」
鏡に映るたなの上に止まって、そう言ったのは、白と茶色の羽をもつ小型のタカ。
「もしかして行成⁉」
「みんな動物になってるのか?」
「そのようだ。若葉は、二階か?」
そうだ、若葉ちゃんはだいじょうぶ⁉
「行こう!」
あわててみんなで階段を上っていくと――
ドレッサーの台の上に、手のひらサイズのハムスターがちょこんと立っていた。
「何が起こってるの……?」
かがみを見て、そうつぶやく声はまちがいなく。
「若葉ちゃん!」
わたしがまっしぐらにかけよると、ハムスターは「ギャー、猫ー!」と悲鳴を上げた。
「いやっ、食べないでー!!!」
「ちがうちがう、若葉ちゃん! わたし、まなみ!」
わたしの言葉に、ガタガタとふるえていたハムスターは、つぶらなひとみをまたたいた。
「え……まなみ……?」
「うん! 昼寝とおいしいものとアイドルの漣くんが大好きな、斉賀まなみです!」
「オレは尊で、こっちのタカは行成だぜ。オレたちもおどろいたけど、若葉は寿命が縮んだな」
「ドンマイ」
「え……みんな、動物になってるってこと……?」
キョトンと首をかしげるハムちゃん。か、かわいい……とかキュンとしてる場合じゃない!
わたしが猫で、尊が犬で、行成がタカで、若葉ちゃんがハムスター。
いったいどうして、こんな姿になっちゃったのー⁉