
2024年 新シリーズ人気【第1位】「放課後チェンジ」の1巻がまるごと読める!
「イッキ読み」を公開中!
4人は、ドキッとしたら動物に変身!?
力を合わせて大事件を解決する、無敵のコメディ&アクションのストーリー!
まなみ、尊(たける)、若葉(わかば)、行成(ゆきなり)は仲良しの4人組。
中1のゴールデンウイーク、フシギな指輪を見つけたことで、なんと、動物に変身しちゃった!!!
猫や犬の運動能力、タカの飛ぶ力が使える! でも……指輪が指から外れない!!!
※これまでのお話はコチラから
4 最高? →最悪だ~~
お昼のメニューは、そうめんと天ぷら。
どれもめっちゃおいしい……んだけど、おいしすぎて。
夢の中でここまではっきり味がするのって、おかしくない??
「まなみ、エビいらないならもらうぞ」
「へっ……バカバカ、いるにきまってるでしょ、このたわけ者!」
ひょいっと尊がわたしのお皿のエビ天をつまみあげたから、あわてておはしでくい止める。
「もし次こんなことしたら一生口きかないし全身全霊(ぜんれい)でたたって子々孫々(ししそんそん)までエビ天食べるたびに、おなかがぴーぴーになる呪(のろ)いをかけるから! 絶対絶対ゆるさないから!」
「わ、悪かったよ……」
わたしたちのやりとりを見て、おばあちゃんがクスクスと笑った。
「もう今日でみんなが帰っちゃうと思うと、さびしいねえ」
「わたしもだよ、おばあちゃん。あと100日はここにいたい!」
「ご招待ありがとうございました。とっても楽しかったです」
若葉ちゃんが礼儀正しくそう言うと、おばあちゃんは「よかった」と目を細めた。
「今年のゴールデンウィークはどうしようかしらと考えていたら、ちょうど写真が落ちてきてね。ほら、この写真」
おばあちゃんが指をさしたのは、壁(かべ)にはってある、今より小さい時のわたしたち四人の写真。
「前にみんなで遊びにきた時、撮ったやつだね」
「そうそう。これを見て、久しぶりにまなみちゃんたちを呼ぼうって思ったのよ」
「へえ、すごいタイミング……」
ごちそうさまをして、お皿を台所に運ぶ。
後片付けは子どもだけでやって、おばあちゃんには居間でゆっくりしてもらうことにした。
まだ、覚めない……この夢、長すぎない?
いくらなんでも、おかしい。だけど、夢じゃないなら……。
もんもんとしていたら、手がすべって、ガチャーン! お皿を落としてしまった。
「あっ、しまった――っ」
あわててお皿の破片(はへん)に手をのばした瞬間、ピッと指先にシゲキが走る。
みるみる指先から血がにじんで、じんじんと、〈痛み〉が広がった。
「まなみ、ケガしちゃったの⁉ だいじょうぶ?」
「痛い……これ、やっぱり夢じゃない! 夢じゃないよ……!」
夢の中でケガしても、こんな痛みは感じない。
――現実だ。
はっきり思い知ると同時に、パニックになった。
「どうしようどうしようどうしよう……」
とっさに立ちあがっておろおろしていたら、急にカクンとひざの力がぬける。
破片が散った床の上に、座りこみそうになったところで。
グッと力強い腕に支えられた。
「あぶなっ……落ちつけ、まなみ!」
すぐ至近距離から、尊が真剣な眼差(まなざ)しで、顔をのぞきこむ。
明かりが尊の背中にかくれて、少し暗くなった視界にせまる、ととのった顔立ち。
まっすぐ見つめる表情が、きょうだいみたいに育った尊じゃない、なんだか知らない男の子みたいに見えて、ドキッ、と心臓がはねた、瞬間。
ボン!
「「「「⁉」」」」
あぜんとした様子でこちらを見つめてくる三人を、見あげながら。
「……もしかして、またわたし、猫になった?」
尊の腕にすっぽりおさまった状態でおそるおそるたずねると、三人は神妙(しんみょう)にコクリとうなずいた。
「どどどどうしよう~⁉ 夢じゃなかった~!」
「しーっ、さわぐとばーちゃんに聞こえる! オレもいいかげん、おかしいって思ってた!」
「えーとえーと、どうしよう……と、とりあえず、まなみのケガの手当てをしようか。私、カバンにバンソーコーあるから」
「……あと、皿は片づけた方がいいな。そこにあるホウキとちりとり、使っていいか?」
行成がササッとそうじする間に、青ざめた若葉ちゃんがこっそりカバンを取りにいく。
「まなみ、あったよ。応急処置(おうきゅうしょち)だけど……」
そう言いながら若葉ちゃんが、台所にもどってきたところで。
ポトッと天井から、若葉ちゃんの肩に小さな何かが落ちてきた。クモ⁉
「キャー!」
「うわっ⁉」
クモが大キライな若葉ちゃんが悲鳴を上げて、その声に尊がビクッとした直後。
ボン! ボン! と二人の体も立てつづけに、ハムスターと犬に変身する。
「うにゃあ⁉」
尊に抱かれていたわたしも、ぽふっと黒柴の上に着地した。もう、なにがなんだかだよ~!
「おまえら、声をおさえろって……!」
行成ははあっとため息をもらすと、テーブルの上に置かれていたチラシでクモをすくいあげて、窓から外に逃がした。
「「「ごめんなさい……」」」
「――さっき、まなみが猫に変わる瞬間、まなみの指輪が光っていた」
猫のままのわたしの手のキズにバンソーコーをはりながら、行成が言う。
「あ、オレも見た」
パタパタと尊がしっぽをふると、「尊と若葉も同じように」と行成が続ける。
「変身する時、指輪の石が光ってた。だから、動物に変身するのはこの指輪のせいなのかもしれない」
「そうなんだ~。行成、よく見てるなあ」
「行成の言うとおり、変身するのは指輪のせいだとして」
今度は若葉ちゃんが、ちょこんとハムスターの小さな手をあげて話しはじめる。

「もしかしたら、ビックリしたり、感情になにかしらの大きな変化が起こったりしたら変身するのかも?」
ビックリ……?
言葉につまるわたしだったけど、男子二人は「なるほど」とうなずいた。
「それはあるかもな……」
「感情が高ぶると、動物に変わる指輪ってことか」
……えーと、わたしはビックリというより、ドキッとしたから……だったんだけど。
でも、尊相手にときめいちゃったとか、そんなバカな。
ピーマン残しちゃダメって言われて、半泣きで食べてた尊だよ⁉
腕ずもうで勝負した時だって、わたしが勝ったし……ってどっちも小さい時のことだけど。
きっと気のせいだ。もしくは、気のまよい。
うん、気にしないようにしよう!
「まなみ、どうかした?」
若葉ちゃんにたずねられて、「なんでもない!」とあわてて答えた。
「たしかに、感情に大きな変化が起こったら、ってのはありそうだね! わたしも若葉ちゃんの案に一票(いっぴょう)!」
ドキッとするのも、感情の変化のうちだもんね。なんでドキッとしたかは、もう考えない!
「――じゃあ、元にもどるきっかけは?」
「うーん……さっきはみんなほぼ同時に、自然ともどったから、一定時間たつともどれるのかな?」
若葉ちゃんの推測に、そうかも、とみんなでうなずく。
というか、もどるよね?
もしこのまま元にもどれなかったら、ずっと子猫として生きることになったら……。
一日中ゴロゴロしてエサを食べて生きてるだけでかわいいとチヤホヤしてもらえて…………。
もしかして:最 高
「まなみ、このまま猫として生きるのもアリかもとか思っただろ」
ズバッと尊に指摘されて、「いやいやそんな!」とぶんぶんと首を横にふる。
「そんなこと、ちっとも! ち~っとも、ミジンコほども考えてないよおっ‼」
「「「…………」」」
じとーっと三人からにらまれて、あははーっとごまかし笑いをするわたし。
「念のため、もう一度、蔵(くら)を調べてみようぜ」
尊の提案で、再び蔵に行ってみることにした。
「はあ~、いつ見てもステキ。寿命がのびるわ~♡」
居間ではおばあちゃんが、録画して何十回もリピートしてる韓国ドラマを見てうっとりしていた。
推し俳優(はいゆう)に夢中で、わたしたちのさわぎには全く気づいてなかったみたい。
さすがわたしのおばあちゃん……。
「忘れものをしたから、みんなで蔵に行ってきます」って行成が伝えてから、家を出る。
蔵の前まできたタイミングで、体の奥がむずむずしてきて……ボン!
わ、もどった! そして体はだるい。
尊と若葉ちゃんはまだ動物のままだ。
「――あやしげだけど、特に異常はない、か……」
床に落ちたままだった小箱を拾い上げ、ふたを開け閉めしたり、観察したりしてから、行成が言う。
「とりあえずこの箱は、持って帰ろう」
「そうだね……他に変わったものがないか、探してみる?」
「だな。物が多すぎて大変だけど、分担して――」
しっぽをふりながら蔵をぐるりと見まわしていた黒柴は、中途半端(ちゅうとはんぱ)なところで言葉を切る。
尊の視線は、蔵のすみに置かれた――動物たちのはく製に向けられていた。
わたしが小四の時に亡くなったおじいちゃんの、コレクション。
シカ、タヌキ、イノシシ、ムササビ、タカ……たくさんの動物が、ガラスケースもなくむき出しのまま、むぞうさに置かれていて、わたしはすぐに目をそらした。
はく製は、苦手だ。もともと苦手だったけど、今はもう、見るだけでつらい。
――半年前に死んでしまった、飼い猫のシロップのことを、思いだしちゃうから。
かたい冷たい体に、うつろな瞳(ひとみ)。痛かっただろうな……苦しかっただろうな……。
おじいちゃんは、はく製にするために殺したんじゃなくて、死体をはく製にしたんだよって言ってたけど。
死んだ後までこんなふうに固められちゃって、かわいそう……と思っちゃう。
やるせない気持ちに襲われていたら、尊がぼそりとつぶやいた。
「……こいつらの呪(のろ)いだったりして」
「え、ちょっと、やめてよ」
ゾッと背筋に冷たいものが走って、声を上げると、尊は「あ」とつぶやいた。
「もどりそう」
直後、黒柴とハムスターは、すらりとした活発そうな少年とショートボブの美少女に早変わり。
「やっぱり時間がたつともどるみたいだね。二十分くらいかな」
スマホを確認しながら、若葉ちゃんが言う。
ちゃんと時計見てたんだ。さすが、しっかりしてる!
それからしばらく蔵の中を探してみたけど、めぼしい成果はなかった。
「ねえ、おばあちゃん、これ、蔵の中で見つけたんだけど……」
わたしが箱を見せると、おばあちゃんはパチパチとまばたきしてから「あらあ」と声を上げた。
「この箱、開いたの? ずっと『開かずの箱』だったのに……」
「開かずの箱⁉」
「そうそう、おじいちゃんのご先祖様(せんぞさま)から伝わる大事な箱だって言ってたけど、どうやっても開かなかったのよ。まなみちゃんはどうやって開けたの?」
普通にふたを持ちあげたら、簡単に開いたのに……⁉
古い仕掛けがこわれたのかしらねー、と笑うおばあちゃんは、箱の中身についてはなにも知らないっぽい。
「あの、おじいちゃん、他にこの箱について何か言ってた?」
「うーん……なんだったかな、動物の霊(れい)がどうのとか、おとぎ話みたいなことを言ってた気がするけど……」
「「「「動物の霊……⁉」」」」
思わずギョッとするわたしたちに、「おじいちゃん、空想好きだったしねえ」とのほほんと話すおばあちゃん。
「おばあちゃん、そのへん、もっとくわしく!」
「あら、まなみちゃんたちもこういうの好きなの? そうね……おじいちゃんの話では……」
おばあちゃんはまゆをよせて考えこんでいたけど、やがて申しわけなさそうな笑みを浮かべた。
「……ごめん、よく覚えてないのよ。いやねえ、歳をとると物忘れがひどくて……」
「そっか……何か思いだしたら、また教えてね!」
とりあえず、このことは四人のヒミツにすることにした。
最初は大人に話したほうがいいかなと思ったんだけど……
尊「万が一こんな体質のことが世間に知られたら、変な目で見てくるやつは絶対いるし、マスコミやミーチューバー、オカルトファンとかがおしよせて、四六時中つきまとわれるぞ」
行成「最悪、研究所にカンキンされて人体実験をされたり、差別されたりする可能性もある。こちらに危害をくわえてでも指輪を手に入れようとするような、手段を問わないやつも現れるだろう。ヒミツを知る者が増えれば増えるほど、その危険性も高まる」
若葉ちゃん「えたいの知れない力だし、人に話すことでその人たちにも悪影響をおよぼすことだってありえるよね……」
いや、こわすぎるでしょ!
絶対バレないようにしなきゃ!
ネットで「指輪 外す方法」で調べて、いろんな方法を試してみたけど……
「うう、ダメだよ~!」
「やっぱり外れないね……」
「マジで、ガッツリはまってるよな」
「デロデロデロデロデロデロデロデロデーデン♪」
ナゾのメロディを口ずさむ行成に、何それ? と首をかしげる。
若葉ちゃんが、苦笑いしながら教えてくれた。
「ゲームで呪いの装備(そうび)をつけた時の効果音だよ」
呪いの装備って!
「え、わたし、呪われたの? 日に日にやせ細っていったり、悪夢にうなされたり、エビ天食べたらおなかがぴーぴーになったりするの?」
「人を呪おうとした報いだな」
「あれは尊がエビ天とったからだし、順番がちがうから!」
「落ちつけ。また変身するぞ」
むきーっと尊を小突こうとしたら、振りあげた手首をぱしっとつかまれた。
「まだ起きてもないことにビビってたってしょうがねーだろ。呪われたとしてもオレたちがいっしょだし、なんとか方法を探してやる」
いつのまにか背がのびて、わたしを見おろすようになった尊から。
「――おまえを一人にはしないから」
なだめるようにそう言われた瞬間、ドキーン! と胸が鳴って、ボン!
ぎゃあああ、しまった~!
「まなみ⁉」
「呪われたとか言わないでよ、バカ!」
またしても猫になってしまったわたしは、怒ったふりをしてごまかして。
縁側から外へ、ピョーンと飛びだした。
ひとけのない生垣(いけがき)の裏まで行くと、わたしは地面につっぷして、頭を抱えた。
――やばいやばい、これはやばい。
人間の姿だったらきっと今、両手でほてった顔をおおって、しゃがみこんでると思う。
尊につかまれたところが、やけに熱くて、そこから全身に、熱が広がる。
やたらと速まった鼓動(こどう)は、まだおさまってくれない。
やっぱりなんか、ムダに尊にドキドキしちゃうよ⁉
ドキッとすると変身しちゃうのに!
もう、最悪だ~~。早くなんとかしなきゃ!!!