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ものがたり

『放課後チェンジ 世界を救う? 最強チーム結成!』スペシャルためし読み 第5回 透明犬と鬼ごっこ⁉


 駅からは歩いて家に向かう。四人ともご近所だから、途中までいっしょだ。 

 なんとなく話すことも少なくなって歩いているうちに、あたりはすっかり暗くなった。

「……なんか、寒気がする……」

 住宅街の道で、若葉ちゃんがポツリとつぶやいた。

「だいじょうぶ? なにか上に着るものとか……」

「ううん……これは、そういうのじゃなくて……」

 街灯の下で、顔をこわばらせる若葉ちゃん。

 生ぬるい風がふいて、ざわざわと木がゆれる。

 月に雲がかかったのか、あたりの闇が急にこくなったような気がした。直後。

 ウウー、と、犬のうなるような声が、耳に入る。

 ハアッハアッっと息づかいまで聞こえて、近づいてくる気配はあるのに、姿は見えない。

「……何、これ……?」

 思わず顔を見あわせるわたしたち。

「ワン、ワン!」

 今度ははっきりと、おどすように吠えたてられたけど、やっぱり姿はどこにも……んん?

 あれは何……?

 目を凝らすと、すうっと意識が冴(さ)え、視界がくっきりしていく。

 街灯の明かりからは遠い、完全に夜の闇にまぎれたスペース。

 普段のわたしなら何も見えないだろう真っ暗な道の上に、小さな何かが浮かんでいるのが見えた。

 石……? と、さらによく見ようとした瞬間、それはわたしの手元にビュンッと飛んできて。

 あっ、と思ったら手にさげていた紙ぶくろをうばわれていた。

 ふくろの中には、おばあちゃんが作ってくれた、おみやげのおだんごが入ってるのに!

「待ちなさい! わたしのおだんご!」

 離れていこうとする紙ぶくろを、とっさに追いかける。

 カッ、と体の芯(しん)が熱くなるような感覚。同時に。

 ボンッ! と体が猫に変身した。

 感情が高ぶったから⁉ でも、人間の時より体が軽い。

 紙ぶくろはすごいスピードで飛んでいくけど、猫の速さなら追いつけるかも!

 よし、と思った瞬間、標的がふわっと飛んで、塀(へい)の上に。

 逃がさない!

 無我夢中でジャンプすると、わたしも軽々と塀の上に着地した。

 そのまま、細い塀の上を走って、逃げていく紙ぶくろを追っていく。

 すごいすごい、いつもの運動オンチのわたしじゃ考えられない運動神経! 

 やっぱり猫の体、ハンパない……!

 解きはなたれたような快感に、ぶるっとふるえた。

 全身がほてって、心がおどる。――って、はしゃいでる場合じゃないか!

「おだんごを返して!」

 標的はさらに屋根の上までひゅーんと逃げるものだから、わたしはえいっと近くにあった木の枝にとびうつり、そこを足場に屋根の上へジャンプ!

「絶対、逃がさないんだから!」

 着地して、もう一回大きく前にとぶ。

 すぐそばまでせまった紙ぶくろに手をのばしたけど、ひょいっと逃げられた。おしい!

 月明かりしかないけど、あいかわらず視界はくっきり見えた。

 屋根から屋根へとびうつって、くるっと回転しながらとびおりて、フェンスをとびこえて――アクロバティックな動きで、標的を追って、夜の住宅街を走りまわる。

 全身がバネになったような自由自在の追跡。

 ビュンビュンと風のように流れていく景色。

 鬼ごっこは大っきらいだったのに、すごくワクワクしていた。

 アドレナリンがドクドク出てる感じ。

 でも、敵もすばやくて、なかなか追いつけない!

「まなみ!」

 屋根の上をダッシュしてたら、名前を呼ばれた。

 声のした方を見ると、となりの屋根を、黒柴になった尊が走ってる。

 尊はもともと足が速いけど、犬の今はその何倍も速い!

「いつのまに⁉」

「まなみのニオイを目標に、平地を追ってきた。考えなしに一人でとびだすなよ」

「ごめん、つい……」

「速いな、あいつ」

 尊は獲物を追うハンターみたいに、生き生きと目を光らせている。

「そうなの、追いかけるだけで精一杯」

「四人で囲めば、捕まえられるだろう」

 新たに聞こえた声に振りかえると、タカになった行成が空を飛んでいた。

「そろそろ二十分経って、変身が解ける。若葉が大森神社に先まわりしてるから、そこに追いこんで捕獲(ほかく)しよう」

「りょうかい!」


 大森神社はわたしたちが小さいころから遊び場にしてた、古い神社だ。 

 境内に着いたところで、ボン! ボン! ボン! とわたしたちの変身が立てつづけに解けた。

 標的(ひょうてき)との距離が開いてしまう前に、前方に、ショートボブの美少女が立ちふさがる。

「ゲームセットだよ」

 すずやかに告げる若葉ちゃん。

 人間にもどったわたしたちもすばやく回りこんで、前後左右の逃げ道を完全にふさぐ。

 とまどうように、ゆらゆらと揺れている紙ぶくろ。

 持ち手のところには石がくっついてる。

「もう逃がさない!」

 わたしは獲物をとらえる猫のように、えいっととびかかった。

「――捕まえた!」

 左手で紙ぶくろ本体を、右手で持ち手を石ごと、ギュッとにぎりしめた、瞬間。

 中指にはまったピンクの指輪が、ピカッと今までで一番光った!

 かと思うと、目の前に、黒い〈もや〉をまとった犬の姿が、浮かびあがった……⁉

 何これ⁉

 警察犬みたいながっしりした体は半透明で、向こうの茂みが透けて見える。

 でもこの犬、口からあわを吹いて、身をよじってうめいていて。

『ウウ……ウッ……ッ……!』

 なんだかすごく、苦しそう……なんとか、なんとかしてあげたい!

 そう思ったら、胸が熱くなってきて、その熱が体中に広がって……。

 わたしはとっさに犬に手をのばして、その体をなでたんだ。

「……だいじょうぶだよ。もう、苦しまないで……!」

 どうしたらいいかわからなかったけど、必死の思いでそう言ったとたん――


 指輪をしたわたしの手から、神々しいピンク色の光があふれだして、犬の全身を包みこんだ。


 ピンクの光は、犬にからみついていた黒い〈もや〉を飲みこむと、白い光に変わっていく。

『――! ……クゥン』

 苦しそうだった犬は、まるで悪いものから解放されたように、おだやかな様子になった。

 清らかな白光に包まれながら、やさしい目でこっちを見て、舌を出し、パタパタとしっぽを振る。

 そして、しゅうっと空に昇っていった。

 白い光の中で、犬の姿がとけるように消えたと思った瞬間、光がぱあんと四つに分かれて。

 四つの白光は、わたしたちの指輪に、吸いこまれていったんだ……!



第6回へつづく▶

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