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徳川家康(とくがわ・いえやす)がひらいた「江戸幕府(えどばくふ)」は、約260年もの間、戦争がほとんどなかった時代。わたしたちが暮らす現代にもつながる、「平和のいしずえ」をきずきました。
しかし、「平和の世」までの道のりは、大ピンチの連続!? はじめは失敗ばかりで……?
家族も城もうしない、敵の「人質」としてすごした幼少期から、織田信長(おだのぶなが)や豊臣秀吉(とよとみひでよし)との出会い、そして天下分け目の「関ヶ原(せきがはら)の戦い」まで。
これを読めば、家康について、楽しく、そして深くわかることまちがいなし!(全8回予定)
❋
「戦国の世」を終わらせるべく、家康は、天下統一をすすめる信長のもとについていた。
平和の実現までもう少しのところ、
ある日、信長のすすめで、港町の堺(さかい)で休暇をとっていたが……。
❋
京のほうから、急ぎの報せを伝える早馬が向かってきたのは、そのときだった。
一行に気づいて馬を止めた男が、青い顔でかけよってくる。
早馬は、家康にむけたものだったのだ。
「家康様! ここで会えてよかった! 一大事でございます!」
「茶屋ではないか」
馬を飛ばしてきたのは、家康が親しくしている京都の豪商、茶屋四郎次郎(ちゃやしろうじろう)だった。
「どうした、そんなにあわてて……なにごとだ?」
「大変です! 謀反(むほん)です! 今朝、明智光秀(あけちみつひで)が信長様の泊まっている本能寺を攻めたのです!」
「なんだと!! そ、それで? 信長様は……!?」
「信長様は、本能寺(ほんのうじ)にて自害されました!」
「なっ……? 今、なんと言った?」
「自害されたのです。本能寺は全焼し、信長様のご遺体は見つかっていないとか」
「で、では、信忠(のぶただ)様は? ご無事か?」
「お父上を助けに向かう途中、二条城(にじょうじょう)で明智に攻められ、信忠様も自害されています!」
「そんな……!?」
家康は言葉を失い、ぼんやりとした目で四郎次郎を見つめた。
信長様が死んだ!?
跡継ぎの信忠様までも? あの明智光秀が謀反だと……!?
突然の報せに、頭の中が真っ白になってしまっていた。
年長の酒井忠次が、家臣たちに言った。
「みんな落ち着け。いいか、明智の軍勢は、京の周辺の街道を押さえているはずだ」
「当然、この後は安土城にも攻め入るだろうな」と、忠勝(ただかつ)。
康政(やすまさ)もうなずく。
「殿、このまま京へ向かうのは危険すぎます!」
反乱を起こした光秀は、織田と同盟している家康の命もねらっているはずだ。
しかしこちらは軍勢もなく、領地からも遠く離れて、味方はたった数十人……。
「殿! 聞いていますか!? 逃げなくては!」
家臣たちの声は、まだ家康の耳に届いていなかった。
謀反? 下剋上? また「戦国の世の常」だからあきらめろ、とでもいうのか……?
なぜ!? あと少しで、戦国の世が終わったというのに!
「殿! しっかりしてください!」
「あ、ああ……」
「明智は、我々が堺にいることを知っています。すぐに逃げましょう!」
そう言われても、体に力が入らない。
「むだだ……信長様の天下は夢と消えた。いっそ、私も自害して……」
「なにを言うのです! あきらめてはだめだ!!」
家康の弱音をさえぎったのは、忠勝だった。
「光秀をやっつけて、信長殿の無念を晴らすことができるのは殿だけですぞ! 生きのびて、先のことを考えるべきです!」
「そうだ! 生きて帰りましょう! なにがあろうと、私が殿をお守りしますから!」
直政(なおまさ)が声を上げる。
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家康はハッと息をのんだ。
生きのびて、信長様の代わりに天下を……!?
とむらい合戦で光秀を倒せば、たしかにその流れも見えてくる。
自分で天下を治めて、戦国の世をなくせるかもしれない。
信長様が家臣に裏切られたのは、あまりに急ぎすぎたからだ。戦国の世をなくすには、もっとじっくり考えて変えていかないといけないこともある……。
自分なら、それができるかもしれない。
信長様の作ろうとした「新しい世」ともちがう、「争いのない世」を私の手で実現する……?
そう思うと、胸の奥から力がわいてくるのを感じた。
「弱音をはいてすまなかった。たしかに忠勝や直政の言う通りだ。なんとしても岡崎城までたどり着いて軍勢をそろえ、光秀を倒そう――」
「そうですとも!」
「それでこそ我らが殿です!」
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まずは生きのびること……。
生きのびて苦難に立ち向かえば、必ずどこかに道が開ける――。
大事なことを忘れるところだった。
そして、家康の胸には新たな火がともっていた。
自分の力で、太平の世を作るという希望の火が……。
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★第6回の配信は、2月11日を予定しています。