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【挑戦したいんだ。好きなものを「好き」って言いたいから――】
「おとなのルール」と戦うふたご、あかねとかえでの物語は、毎回ハラハラドキドキがいっぱい! しかも今回は、2人それぞれの「気になるヒト」との新・展・開が…!? 最新刊を、どこよりも早くためし読みしてね!(毎週月曜日更新・全3回)
【このお話は…】
「女子しか入れないルール」が変わって、おえかきクラブの仲間入りをした、かえで。
楽しくクラブ活動をしていたところにやってきたのは…
なんだかちょっとふしぎな雰囲気の、上級生?
「きみが、双葉かえでさん…だよね」
と、やわらかな声で呼びかけられて…!?
5 ふしぎな先輩
ぼくやあかねのことは、生徒数の少ない緑田小の中で、すっかり知れわたっている。
だから、親しくない人に名前を呼ばれたこと自体は、なんてことないんだけど。
今の言い方だと、まるで――
ぼくをさがして図工室へやってきたみたいだ。
でも、ぼくに思いあたるふしは、まったくない。
ぼくがかたまっていると。
「あれっ、いずみんじゃん!」
「よっ。さっきぶり」
気づいた先輩の1人が、その人にむかって手をふった。
あの先輩とおたがいラフに話してるってことは、5年生か。
「てか、いずみん、『かえでさんだよね?』って、かえでちゃんの顔、知らなかったの?」
先輩が、あきれたみたいに言う。
「うんまあねー? でも、かえでさんって、お姉さんのあかねさんといっしょに、だれでも好きなクラブに入れるようにルールを変えたって人だよねー?」
「は、はい」
ぼくが答えると、いずみんさんが、うんうん、と何度もうなずく。
「それがあたりまえだよねー。俺も、もともと、おえかきクラブに入るつもりだったんだけど、『男子は入れない』なんて言われてさあー。なんだそれーって思ったよ。まあ、俺の描く絵って『イラスト』って感じでもないし、絵は習い事で描くからいいやって、流しちゃったんだけど」
「じゃあ、いずみん、かえでちゃんがどんな子かは知ってるけど、顔は知らなかったってこと?」
「だねー」
「「「え―――っ、もう3学期だけど!?」」」
「えー、そんなにおどろくことなの?」
「いずみん」と呼ばれている人が笑っちゃうくらい、先輩たちは衝撃を受けたみたいだ。
「だって、かえでちゃんとあかねちゃんは有名人だよ? 学芸会でも主役をやってたし。冬休み前、校長先生とバトルしたときも、中心メンバーだったでしょ?」
「ん~? 学芸会はあくまで劇を楽しんで、だれがなにをやってるかは気にしてなかったしなー。あと、冬休み前は、思いっきり風邪ひいちゃって、俺、しばらく学校こられてなかったでしょ?」
いずみんさんは、のんびりと言う。
「ああ、そうだったね」と、5年生の先輩が、思いだしたようにうなずいた。
「かえでさんたちが、クラブ活動のルールを変えたっていう話も、じつは最近知ったんだよねー」
「へええ。この時期になって、ふたごのことをよく知らない人がいたんだ! いずみんらしいけど」
「ちょっとー。珍獣発見したような目で見ないでもらえます?」
その返しがおもしろくて、ぼくはつい、くすっと笑ってしまった。
凜ちゃんもふふっと笑ってから、いずみんさんにむかって口を開いた。
「あの、先輩は、かえでちゃんに会いにここへきたんですか?」
「うん。俺、冬休みに、忘れものをとりに学校へきたんだけど、人がぜんぜんいない校舎がめずらしくって、こっそり探検してたんだー。そのとき、廊下に掲示してある、かえでさんのモノクロの風景画に目がひきつけられてさ。あの絵を描いたのはどんな人なのか、気になったんだー」
「……!」
気はずかしくなって、ぼくが目をそらすよりも早く、ふたたび視線が重なってしまった。
「ふんいきで、この人がかえでさんだろうなって、一目でわかったよねー」
「絵からのイメージだけで、わかるものなんですか……?」
「そりゃあもう。しっかりした線で細かく描きこまれた白黒画で、絵全体に迫力があるのに、同時に繊細さやしなやかな強さもうかがえて、それはもう――」
「いずみん、もう止めたげて」
「さらに構図も――――ん? なんでー?」
ぼくの様子を見かねた先輩が、ポンといずみんさんの肩をたたいてくれた。
流れる水のような勢いでほめられて、ぼくはもう、限界まで顔が真っ赤になってるんだろう……。
「ほ、ほめてくださって、ありがとうございます……」
「こちらこそ、すばらしい作品を見せてくれてありがとう。そういえば名前を言ってなかったや。俺は泉流成。よろしく~」
えっ……!
ぼくは、その名前にきき覚えがあった。
「あのっ、もしかして……よく、美術コンクールで入賞していませんか?」
ぼくが言うと、泉先輩は、なんてことなさそうに首をかたむけて、
「んー、そうだね、してるかも。絵画教室の先生が出品するんだよね。最近だと、地域が開催してるやつで賞をもらったかなー?」
「やっぱり……!」
ぼくはいろんな人の絵を見るのが好きで、コンクールの結果も、たまにのぞいてみるんだけど。
泉先輩の名前は、しょっちゅう見かけるから、記憶に残っていたんだ。
コンクールの発表サイトに載っている泉先輩の作品は、毎回、ひときわ目立っている。
すごく印象的な絵を描く人なんだ……!
「え、いずみんって、そうなの!? たしかに、授業で描く絵、うまいなーとは思ってたけど」
「知ってる人、ほぼいないと思うよー。学校で表彰するっていうのも、ぜんぶ断ってるし」
おえかきクラブの先輩たちは、泉先輩がコンクール入賞の常連だってこと、知らなかったみたいだ。
「あの、すみません、ぼく、言わないほうがよかったですか……?」
「あー気にしないで。べつにかくしてるわけじゃなかったから。それより、かえでさんが俺のこと知ってくれていたなんて、うれしいなー」
泉先輩はさらりとそう言って、人なつっこい笑みをうかべる。
ちょっとつかみどころがないけど、泉先輩は、すっかりこの場になじんでいる。
やっぱり、おえかきをする同士だからかな?
絵もそうだけど、泉先輩自身も、なんだか独特のふんいきがある人だなあ。
「絵からその人のことがわかる」って泉先輩の主張、あながち、まちがいじゃないのかも……?
「ところで、どうして今日、おえかきクラブだけ招集がかかったの?」
「えっとね、おえかきクラブのみんなで、歩道橋のペイントをしないかって話をされたの」
「えーなにそれ、超楽しそうだねー」
「でしょ! でも、うまくできるかちょっと不安なんだよね」
「そうだ、いずみんもいっしょにやらない? 絵、うまいんだしさ!」
「ええっ。興味はあるけど、俺はおえかきクラブの一員じゃないしねえー、どうかなあ?」
泉先輩は、エンリョする姿勢のようだ。
でも、泉先輩がいてくれたら、すごく心強いんだよね。
絵画教室に通ってるっていうし、飛びぬけて絵を描く心得があるのは、まちがいないから。
それに……泉先輩って、どんなふうに絵を描くんだろう?
あんな印象的な絵を描く人を、そばで見てみたいって気持ちがある。
せっかく、知り合いになれたんだから……。
「あ、あの。ぼくからも、おねがいします……!」
ちょっと勇気を出して、言ってみた。
迷惑かな……?
泉先輩は、ぼくを見て、少しの間考えたあと、
「――ん、わかった。じゃあ、サポート役みたいな感じで。なにかあればエンリョなく言って」
ニコリと笑って、そうこたえてくれた。
6 太陽の本当のキモチ
●
新学期が始まって、はや数日。
下校して、自分の部屋で一息ついたうちは、スマホをとりあげた。
そっと太陽とのトーク画面を開いてみる。
既読には、なっている。
けど、あいかわらず返信はない。
ふう、とため息をついて、ぼんやりと天井を見あげてみる。
……今、太陽は、どうしてるかな?
少しはよくなって、退院の日どりとか決まったかな?
それとも、なにかよくない病気が見つかったりして…………。
「あ―――――――もう!」
ここで1人で想像してたって、なんにもならないよ!!
よし。メッセージ送っちゃおう。
どうせすっかり避けられちゃってるし、もうこれ以上、関係がわるくなることはないんだから……!
太陽、その後調子はどう?
いそがないけど、もし具合がよくなったら、
太陽の声、ききたいよ。
――これで送信、っと……。
もし未読のままだったり、返信がこなかったりしても、もう気にしない!
今のメッセージは、うちの自己満足みたいなものだから。
……半分は、強がりだけどさ。
よ――――しっ、今日はちゃちゃっと宿題を終わらせちゃいますかあ!
スマホをしまいかけた、そのとき。
画面にちいさく、パッと既読の文字がついた。
「!」
たった今、太陽がメッセージを読んだんだ。
ひさしぶりに太陽から反応があったことに、ビックリしていると。
♪♬♪
ええっ、着信音!?
太陽から、電話がかかってきた……っ!!
あやうくスマホを落としそうになりながら、画面をタップする。
「も、もしもし。あかねだけど……!」
声が、うらがえりそうになる。
『あかね……急に電話して、ごめん』
この声……ちょっとかすれてるけど、本当に太陽だ!
いや、あたりまえなんだけどね。
実際にはそこまで時間は経ってないけど、ずいぶんひさしぶりにきいたように感じる。
「い、いやいや。ぜんぜんいいよ。あ、あのね太陽。このあいだは、ホントにごめ――」
いそいでしゃべろうとすると、太陽の声が、さえぎった。
「謝らないで。あかねに怒ってるわけじゃないよ」
太陽の声は、冷静だ。
「俺は……自分に怒ってるんだ」
えっ、どういうこと?
「自分にって、どういう……あのさっ、ビデオ通話にしない? うち、太陽の顔見て話したいな」
「……え、でも……」
ためらう声の太陽を、うちは説得する。
「どういう顔をしてしゃべってるかわからないと、なかなおりするにしたって、こわくない? うちはこわいよ」
「……たしかに」
ってつぶやいて、太陽はつないでくれる。
しぶった理由は、すぐにわかった。
画面ごしでもわかるくらい、太陽の顔色はよくない。
なんだか、やせちゃった気がするし。
胸が痛む。けど、それを顔に出さないようにしよう。
太陽は、うちに心配かけたくないんだろうから。
「あかね、ずっと冷たい態度とってて、ごめん……」
「うちのことはいいんだよ。それよりも、久遠ちゃんのフォローをしてあげてよ」
久遠ちゃんはずっと、かわいそうなくらい、へこんでるんだから。
「うん。さっき、久遠にも謝った」
「そっか……」
「うん……久遠のことまで気づかわせて、ごめん」
表情も声音も、どんよりしてる。
太陽……なんか、めちゃくちゃ落ちこんでる?
お見舞いの日に、空気を震わせるように伝わってきた怒りは、すっかり消えさってる。
なんか、別人みたいだよ。
ひょっとして……これまで、ずっと返信がなかったのは。
うちらのことを怒って、ムシしてたわけじゃなくて。
なんて返せばいいのか、わからなかったから……?
「ねえ、うち、ほんの少しの時間でいいから、会いにいっていいかな?」
「いや。また、俺があたっちゃうといけないから……」
「気にしないよ。それに、うちに怒ってるわけじゃないんでしょ?」
「……」
太陽は少し考えこんだあと、そっと口を開く。
「俺にとってさ、『あかねに心配かけない』っていうのは、大事にしていることだったんだ。だから、このあいだそれを否定されて……正直へこんだ」
「……! そっか……ごめん。でも、太陽、言ってくれたじゃん。うちといるときは気をつかわずにすむって。なのに、遊園地の日、疲れきってるのをガマンしてくれた結果、こうなっちゃったのかなって思うと……ちゃんと伝えてほしかったなって。だってうちら……友だちじゃん?」
「あかねだって、俺のためにガマンしてることだってあるでしょ?」
太陽に言われて、ドキッとする。
「えっ、そんなこと――」
うちが否定するより早く、太陽が口を開く。
「あかね、本当は遊園地で、レッドエリアのほうにいきたかったんじゃない? クリスマスツリーだって、本当はもっと近くで見たかったんじゃない?」
「………………」
「だから、『ガマン』については、おたがいさまだって俺は思ってる」
「でも……うちのと太陽のとじゃ、ぜんぜんちが――」
「はあ」
太陽が、ため息をついた。
うちはつい言葉を止めて、まじまじと画面のむこうの太陽を見つめる。
「俺のことでしぬほど心配するのは、父さんと母さんくらいでじゅうぶんだよ。それに……」
太陽が、腕を顔の前に出して、髪をかきあげる仕草をする。
「自分といっしょに出かけたあと体調くずしたって知ったら、あかねは俺を『次』に誘いにくくなるだろ?」
「……?」
「俺は、あかねに、会いたいんだから……」
わあ……!?
うちの顔が赤くなるのがわかった。
太陽は、声を低めて平静をよそおっているけど、それが逆に、ふだんとのちがいを引き立たせてる。
あの仕草はもしかして、腕で顔をかくすため?
でも、太陽の細い腕じゃ、ぜんぜんかくしきれてないよ。
――ぎゅっと力が入って、少し内側によっているまゆ。
気はずかしさをごまかすみたいに、画面の外をむいてる目。
少しだけ赤くなったほおと、引き結ばれたくちびる。
初めて見るその表情から、うちは目が離せなかった。
「……なに、あかね。なんかきょどってるけど」
「えっ、いや、おかまいなくっ!?」
われながら、意味不明な返事!!
丸見えだったことをさとった太陽は、がしがしと頭をかいた。
「……だからさ。俺だって、あかねともっといっしょに時間をすごしたいと思ってるってこと!」
「それで、また太陽が倒れちゃうことがあっても……? 本当にいいの……?」
「いいんだよ! 俺にとってあかねは、多少ムリしたって、いっしょにいたい相手なんだよ。いい加減、わかれよっ……!」
太陽はちょっと、やけになってるのかもしれない。
スマホごしにきこえてくるその声音は、力がこもってて、荒っぽい。
でも、だからこそ、うちのことを本当に想ってくれてるんだっていうのが、ありありと伝わってくる……!
その実感が、胸の鼓動の速さに変わっていくのがわかった。
「太陽。うち、やっぱり、直接会いたい」
「……ダメ。今の俺、まだボロボロだから。今だって、こんな俺を見てショック受けたでしょ」
「ショックなんか受けないよ。だって、うちは……うちは。カッコいいところも、カッコわるいところも、太陽のぜんぶが見たいんだよ……っ!」
「俺は、見せたくない。カッコつけさせてよ。それに……直接会ったって、話すこと以外できることないよ。それなら電話だって同じだよ」
「そ、それは……そうかもだけど……」
「どれだけ心配してもらったって、俺の体のことは、俺ひとりで闘わなくちゃならないんだから……」
「……!」
うちが息をのんだ気配に気づいたのか、太陽が言葉を切った。
「……ほら、こうして気まずくなるでしょ。じゃあね、あかね。よくなったら絶対連絡するから」
そう言って、通話が切れた。
ツーツーツー
って音をしばらくきいてから、うちも終了ボタンを押す。
…………えーと。
いちおう、なかなおりはできたってことかな?
結局、会えないし、心配はつづくんだけど、それ以上に。
太陽、うちのことがトクベツだって、伝えてくれた……!
「ムリしたっていっしょにいたい相手」――だなんて。
そんなふうに言ってもらえたこと……頭がくらくらするくらい、うれしい。
それが「親友として」だってわかっていても。
心が舞いあがっちゃうんだ、うちは。
うちって、単純だなあ……。
さっき、太陽に言われたように、うちが今、太陽のためにできることはなにもないって、思いかけていたけど。
ビデオ通話で太陽の顔を見て、うちの心持ちは、ちょっと変わっていた。
「うちにできることって、本当にないのかな……?」
7 ひとりぼっちで闘う人へ
太陽とビデオ通話してから数日間、うちはぼんやり、考えつづけていた。
うちは体調がわるいとき、だれかがそばにいてくれるだけでほっとする。
だけど太陽は、1人でいたいんだ。
それなら、そっとしておいたほうがいい。でも……。
――『俺の体のことは、俺ひとりで闘わなくちゃならないんだ……』
そう言ったときの太陽、すごくさみしそうだったんだ。
太陽は、ひとりで闘うことを、心から望んでいるわけではないんじゃないかな……?
でも、うちがまた連絡したら、それはそれで、気をつかわせちゃうだろうし。
今の太陽にとって、安静にしていることが、なにより大切なのは、まちがいない。
「うう~~~~~~ん」
「わっすごい声、ビックリした」
自分の部屋で思いっきりうなり声をあげたとき、かえでがふすまを開け、顔をのぞかせた。
「かえでおかえり! おそかったね?」
「うん、凜ちゃんといっしょに、歩道橋の下見にいってきたんだ。見慣れてるけど、いちおうねっ」
「たしか今月末に、おえかきクラブのみんなで、ペイントをするんだったね」
「そうそう。明日のクラブ活動で、どんなデザインがいいか、アイデアを出し合うんだっ」
かえではスカートをひらっとさせて、明るい表情で部屋の中に入ってくる。
自然と声もはずんでいて、すっごくかわいい。
緑田小に転校してくる前の、無表情でおとなしいかえでとは、別人みたいだ。
「あかねのほうは……さっきのうなり声、また太陽くんのこと?」
「そうなんだよー!!! かえで、きいてくれる?」
いつものように、体をくっつけるようにしてすわりながら、あれこれを話す。
「――――なるほど……そっとしておきつつ、太陽くんのためにできること……かあ」
「うん……矛盾してるんだけど……まっさきに思いついたのは、手紙を書くこと。でもなんか、性に合わないっていうか?」
「辻堂先生に手紙を書いたときも、すごく時間かけてたもんね」
「そうそう。うち、文章書くの、ちょっと苦手だしさあ~」
ゆらゆらと体を動かしながら言うと、ふふっとかえでが笑う。
「『太陽はひとりじゃないよ』って、伝わるようななにか……」
「「うう~~~~~ん……?」」
腕を組み、そろって頭をひねるうちら。
さっきは1人きりだったけど、今回は、かえでといっしょだ。
……ちょっと心細いとき、かえでがとなりにいてくれると、やっぱり安心するなあ。
お母さんたちと暮らしていたころに、うちが風邪をひいたときのことが、頭にうかんできた。
うちがふうふう言って寝こんでると、あるときふっと楽になって。
気がつくと、かえでがうちにくっついて、添い寝してくれてたんだよね。
お母さんに「うつっちゃうからダメ」ってたしなめられても、うちらはやっぱり、いつもいっしょにいたかったんだ。今も変わってないな、こういうところ。
「あかね、どうして笑ってるの?」
ってかえでがふしぎそうにたずねてくる。
うち、顔に出てたみたい。
「だいぶ前にうちが風邪ひいたとき、かえでが今みたいに寄り添ってくれたこと、思いだしてたんだ」
「ああ、そんなこともあったね。インフルエンザだったときは、『出てなさいっ!』って、引きはがされちゃったけど」
「それで、かえではせめてって、絵を描いてきてくれたよね。サッカーボール蹴ってるうちの絵だったな。それを見て、早く治してサッカーしたいって、エネルギーがわいてきたんだよねえ」
「……!! あかね……!」
「えっ、なに?」
なぜかかえでは、ハッとなにかに気づいたように目を見ひらいてる。
「これって、太陽くんにできることなんじゃない……!?」
「? ……あっ……!」
そうか……!! たとえ、直接その人とお話したり、言葉を交わさなくても。
絵だったり、音楽だったり、本だったり。
いろんなものを通して、その人の心にやさしくふれることは、できるんだ……!!
かえでは、得意なおえかきでうちを励ましてくれた。
そんなふうに、うちが太陽にできることは、なにかあるかな……?
歌を歌う……とか?
でも、病院じゃ、声を出すのは迷惑なのかなあ。
スマホで検索をかけてみる。
ん、なんだろうこれ、病院でコンサート?
へえ、プロの歌手が、患者さんのために、病院でコンサートを開いたんだ。
ほかにも、病院によっては、有志が工作教室を開いたり、読みきかせをしたりと、いろんな催しをしているらしい。
おっ、この写真、子どもが患者さんにむけて、ピアノ演奏をしてる……!
ってことは、うちもやらせてもらえるかも……!?
こういうのなら、太陽だけじゃなくて、ほかの患者さんにもきっと楽しんでもらえる。
「みんなのため」にすることだから、太陽がうちに負い目を感じる必要もない。
す、すごいぞ。
『そっとしておきつつ、太陽のために、できることをしたい』――なんていう、一見ムチャクチャな思いが、形になってきた……!!
今までにない『チャレンジ』だけど。
太陽の気持ちを、少しでも明るく照らすことができる可能性があるなら。
「太陽は1人じゃないよ」って、やさしく伝えることができるなら。
うち、やってみたい……!
太陽が入院してる病院のこと、久遠ちゃんにきいてみよう!
「ありがとう、かえで! うち、がんばれそうだよ!」
「どういたしまして。おたがい、うまくいくといいね」
うちとかえでは、力強くほほえみあった。
「俺にとってあかねは、多少ムリしたって、いっしょにいたい相手なんだよ」
太陽にそんな言葉をもらった、あかね。
うれしい。だからこそ、やっぱりなにかしたいよ。
かえでのアドバイスをもらって、前に進む――!
この続きが読める、第3回をどうぞお楽しみに!(10月9日公開予定)