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7年間、瑠果(るか)は梨紗(りさ)を想い続けたのです!
『言いなり王子のかわし方』特別ためしよみ第3回スタート!
※これまでのお話はコチラから
1.インテリ―2 瑠果(るか)
始まりは保育園。
父子家庭で父親は常に忙しく、人とのコミュニケーションの取り方がわからなかった僕は、どんどん気弱になっていった。
物心ついた頃には、漠然と寂しいという感情があった。
友達が欲しくても、こんな暗いやつには誰も話しかけてくれない。
近寄る子供達は皆、僕を「暗い、泣き虫、弱虫」とからかうことが目的だ。
だけど仕方ない。実際その通りなのだから。
反論の仕方もわからないので、ただみんなが飽きるまで言われたい放題で、ひたすら我慢するだけだった。
だけどある日、一人の女の子が庇ってくれた。
この子のことはよく知っている。活発で明るくて、ぱっちりとした目がとても可愛く、みんなの人気者だった。
僕みたいな暗いやつとは一生関わり合いのない子だと思っていただけに、実際目の前に立っているその子を信じられない気持ちで見つめていた。
その子は、その可愛らしい見た目とは反対に、僕をからかっていた子達の何倍もの暴言を吐いて見事撃退しえてみせたのだ。
「くちほどにもない」
なんてどこで覚えたのかわからない言葉を辿々しく言い捨て、くるりと僕の方に向き直る。
その子は近くで見ても十分すぎるくらい可愛かった。名前は羽咲梨紗(はざきりさ)。僕と同い年の5歳だ。
慌ててお礼を言おうと口を開いたけど、普段まともに話していない子供がすぐに喋れるわけもなく、もたついてしまった。
それを見かねたように、カッとただでさえ大きい目を見開くその子。瞳が零れ落ちそうだ、と僕は何故か両手を差し出していた。
「あなたもねぇ、言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ! 勿論あの子達も悪いけど、言い返さないあなたも悪いんだから! 私はそんなあなたにムカついて間に入っただけ! いつでも守ってあげるわけじゃないんだから、早く強くなりなさい!」
てっきり、僕を庇ってくれたと思ったけど、どうやらそうではなかったらしい。
一方的にやられていただけの僕に対しては、かなり厳しい言葉。
……だけど、不思議と嫌ではなかった。
初めて、こんなに真っ直ぐ目を見て、言いたいことをぶつけてくれた。初めて僕に真正面から向き合ってくれたのが、その子――梨紗だった。
僕にはないものを持っている女の子。自分の意志がはっきりしていて、それを何のためらいもなく伝えることができる強い女の子。
「格好いい……!」
「はあ? ちゃんと聞いてる?」
――そんなの、好きにならないわけがない。
それから毎日のように付き纏って好き好き言って、プロポーズまでしたけど、当たり前のように断られてしまった。
まあ、あの頃の俺は泣き虫で男としての魅力なんて皆無だったし、誰から見ても断られて当然って感じだったから仕方ない。
代わりに「イケメン高身長がいい」なんて夢見る女の子みたいな条件を出された。
けれどむしろ俺にとってそれは希望だった。その条件を満たせば、梨紗と結婚できるのだ。
梨紗に惚れてから、苦節7年。
ついに誰もが認める『イケメン高身長』になってみせた。
中学に入る直前からぐんぐんと身長が伸び、今ではクラス1の高身長だ。
幸い、顔の造りは元から悪くなかったようで、髪型や表情を意識すればすぐにイケメンの仲間入りになれた。
いやぁ……道のりは長かった……。小学生時代、一番つらかったのは梨紗に相手にされないことではない。相変わらず男女問わずモテモテな梨紗を黙って見ることしかできなかったことだ。見た目も中身もまだまだで、自信を持って梨紗の防波堤になることができず、屈辱に耐え抜いた日々だった。
でも今は違う。もう地球上に俺より魅力的な男などいない。それほど俺は努力したんだ。俺よりレベルの低い男からの告白なんて全部なぎ倒してみせるさ。
それに何より、これで梨紗に告白できる……!
そしたら晴れて恋人同士。高校卒業と同時に結婚。子供は3人。梨紗に似た女の子が欲しい。名前は何にしようかな、“りさ”と“るか”だから、りか、るり、さり、とか?
なーんて気が早いかな。まあこんだけイケメンになったんだし、告白はOKしてもらえるに違いない。まだ中学始まって間もないけど既に3人に告白された。
まあ俺は梨紗一筋だから速攻で断ったけどね。
……と呑気に考えていた俺に届いたのは「頭がいい人と付き合いたい」との断り文句。
う、うそだろ……イケメン高身長になったのに……また振られた、のか?
どうやら本当に気が早かったみたいだ。告白OKすらされなかった。
た、確かに俺は梨紗より成績が悪い。小学生時代イケメンになることと背を伸ばすことしか考えていなかったせいだ。勉強なんて二の次三の次だった。
まさか頭のいい人が梨紗のタイプだったとは……。
まあそうだよな。梨紗が最高にイイ女なんだから、梨紗と付き合う男も完璧でなくてはならない。勿論そこに勉学も含まれるのは考えたらすぐわかることだ。
認めよう。俺が甘かった。
梨紗に釣り合う男になるべく、誰もが圧倒されるほどの秀才になってやる……!
しかしこの時の俺は知る由もなかった。
これが苦難の始まりでしかなかったことを……。
必死に頑張る瑠果だけれど、またもや無理難題を出されます。
勉強の次はもちろん……? 次回は10月13日(金)公開!