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『君のとなりで。』シリーズの高杉六花さんの新シリーズ『さよならは、言えない。』を、ためし読み連載でチェックしよう!
中学1年生になったばかりの心陽(こはる)には、もう一度会いたい、ぜったいにわすれられない人がいて……。
会いたいのに、会えない。伝えたいのに、伝えられない――切なくて苦しいけれど、大切にしたい想いの物語が、はじまります。
中学1年生になったばかりの山口心陽(やまぐち こはる)には、毎日、家に帰ってまず一番先に『やること』がある。
それは、家のゆうびん受けに、手紙がとどいていないか確認すること。
心陽(こはる)がずっと待ちつづけている『手紙』とは……?
第1回目は、物語の始まりを、大増量でおとどけします!
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忘れられない人
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雲ひとつない水色の空の下で、緑の若葉が太陽をあびている。
心が浮き立つようなきれいな景色をながめながら。
私、山口心陽(やまぐち こはる)は、学校からの帰り道を急いだ。
「ただいま!」
今日こそは届いてるかもしれない。
そんな期待に胸をはずませて、ゆうびん受けをのぞきこんだけれど……。
「……今日も手紙、来てないか……」
さっきまでふくらんでいた希望が、いっきにしぼんでしまった。
トボトボと自分の部屋に入り、つくえの引き出しから宝箱を取り出す。
宝箱の中には、手紙のたばと、小さな箱。
手紙を開くと、ととのったきれいな文字がならんでいる。
『心陽ががんばってるとき、きっと俺もがんばってる。俺たち、離れてもがんばれるよな?』
何度も何度も読んだ手紙。
最後に書かれた、大好きな「またな」の文字。
思わず目を閉じると、優しい笑顔が浮かんできた。
「はぁ……」
ぎゅっと手紙を抱きしめて、大きく息をはくと、宝箱から小さな箱を取り出した。
中に入っている、キラキラかがやく王冠(おうかん)のバッジを手に取り、窓を開けて空を見上げた。
私には、会いたい人がいる。
会いたいけど、会えなくて……。
忘れられない、あこがれで、目標の人。
さらさらの黒髪。涼しげな目元。
クールだけど本当は優しくて、まっすぐな人。
「玲央、会いたいよ……」
想いをこめた私のつぶやきは、どこまでも広がる澄(す)んだ空に、すいこまれていく。
その願いがかなう日が近づいているなんて、思ってもいなかった。
でも、待ちのぞんでいた再会が、あんなに私の心を引きさくことになるなんて。
このときの私は、想像すらしていなかったんだ――……。
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ため息と親友
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受験勉強をがんばって、『私立里見(さとみ)中学校』に入学してから、1ヶ月がたったある日。
「授業はこれでおわりだ。じゃあ、先月受けた、全国模試の結果をくばるぞ」
5時間目の最後に、担任の渋谷(しぶや)先生が上きげんでそう言った。
「うわっ。やべぇ。俺、半分くらいしかわかんなかったんだよな……」
入学してから野球部の練習に集中してた健介(けんすけ)が、大げさにため息をつく。
教室内がいっせいにざわつく中、田沢杏璃(たざわ あんり)さんがひときわ大きな声で言った。
「先生、どうしてそんなにうれしそうなの?」
「えっ。顔に出てたか? そんなつもりはなかったんだけど」
渋谷先生は、めずらしく私たちに満面の笑みを向けた。
「実は、模試の学年1位と、数学の学年1位がこのクラスから出た」
「「「ええ~~~~!!!」」」
その瞬間、クラス中が大さわぎ。
「俺じゃないことだけは、たしかだ」
そうつぶやいて苦笑いする健介以外、みんなドキドキわくわくした顔をしてる。
「私、数学は自信があるんだよね~」
「杏璃、数学得意だもんね」
「絶対に杏璃が1位だよ!」
田沢さんと、仲のいい女子たちが、わいわいもり上がってる。
里見中は、わりと進学校。
中学生になって初めての模試だったから、みんな気合いをいれて猛勉強してたみたい。
私も、いっしょうけんめい勉強したんだ。
どうかどうかいい結果でありますように!って、心の中でいのった。
「先生、模試の学年1位と、数学の学年1位って誰ですか~」
飛んできた声に、クラス中が期待と緊張(きんちょう)でいっぱいになった。
「発表するぞ。模試の学年1位は……松本香奈(まつもと かな)!」
「「「おおおおお~~~!!!!」」」
歓声(かんせい)と拍手(はくしゅ)と、「やっぱり香奈か~」っていう納得(なっとく)の声がわき起こる。
さすが、香奈! すごいよ!
親友の香奈に、おめでとうって口パクで伝えると、ふふっと満足げな笑顔を返してくれた。
香奈は、入試でも、学年1位の成績で入学したんだ。
「そして、数学学年1位は……山口心陽!」
「えっ」
私!?
びっくりしちゃって、目をまたたいた。
たくさんの注目と、拍手(はくしゅ)と、「おめでとう~!」をあびて、ちょっとてれくさい。
香奈も、「やったね!」って顔でピースしてくれた。
「すげーーーー! 心陽、数学学年1位とか、マジすごくね?」
わわっ。健介ったら、大げさだよ!
3教科総合点で、学年1位をとった香奈のほうが、ずっとずっとすごいんだから。
はずかしいのと、香奈にもうしわけないのとで、肩をすぼめる。
私の視線に気がつくと、香奈は『健介ってああいうところあるよね』とでも言いたげに、肩をすくめて、笑ってくれた。
香奈の反応にほっと胸をなでおろすと、ふと、ななめ前から視線を感じた。
そっちを向いたら、田沢さんと目が合った。
「……っ」
私は、思わず息をのんだ。
田沢さんが、不満げな顔で私をじっと見ていたから……。
その刺すような視線に、心がざわめく。
だけどすぐに、田沢さんは視線を外して、ふいっと前を向いた。
「じゃあ、ひとりずつ模試の結果を返していくぞ。名前を呼んだら取りに来て」
「「「はい」」」
結果を返してもらった子の、明るい声や悲鳴が教室内にひびき渡る。
田沢さん、なんで私をあんな目で見てたんだろう……。
私は首を振って、胸にわきあがる、イヤな予感を振り払った。
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帰りのホームルームが終わり、渋谷先生が教室を出る。
みんなはいっせいに、帰るじゅんびを始めた。
「じゃあな、心陽! 今度、数学1位のおいわいしようぜ!」
「あ、うん。ありがとう、健介」
私に声をかけてくれた健介は、カバンをかつぐと、教室を飛び出していく。
私は、さっきもらったばかりの模試の結果をながめた。
「はぁ……」
思わず出たためいきが、模試の結果表に落ちる。
数学学年1位は、とってもうれしい。
だけど、3教科総合の順位は、目標の『全国500位以内』に届かなかったんだ。
絶対に500位以内に入りたくて、猛勉強したんだけどな……。
「なにそのため息。イヤミ?」
「えっ」
ふきげんな声におどろいて、いきおいよく顔を上げると。
田沢さんが私の机の横に立って、私をにらみつけていた。
「ご、ごめん。そんなつもりじゃなくて」
「私、模試で数学の学年1位をとりたくて、すごく勉強したの。ほかの教科は捨てて、数学だけに一点集中でがんばったのに……。あんたは1位なのに、なにが不満なの?」
「……」
「私から1位をうばったくせに、そんな態度(たいど)されたらムカつくんだけど」
「……ごめん」
キツい口調で次々に言われて、言葉につまってしまう。
田沢さんと仲のいい友だちも集まってきて、さらにたたみかける。
「山口さんさ、ちょっと感じ悪いんじゃない?」
「……っ」
そんなふうに、悪意のある言葉にされてしまったら、何にも言えない。
私がため息をついてしまったのには、理由があるのに。
「……ごめんね。今度から気をつけるよ」
ちがう。本当は、そうじゃない。
そんな心の声を押し殺し、なんとかこの場をおさめたくて、思いつく言葉をかき集めるようにして、口にする。
だけど、どんどん田沢さんたちの顔がけわしくなっていった。
「それって、次も1位とるから、そのときはため息つきません……ってこと?」
「そ、そういうわけじゃ……」
もう、何をどう言ったらいのか、わからない。
こまり果てていたそのとき、香奈が飛びこんできた。
「ちょっと! 心陽に、変な言いがかりつけないでよ」
「な、なによ。私の気持ちを伝えただけでしょ」
「そうだよ。杏璃が傷ついた気持ちはどうなるわけ?」
「私たちの言ったことが、言いがかりだって証明、できるの?」
どうしよう。田沢さんたちの怒りの矛先(ほこさき)が、香奈に向いちゃった!
申しわけなくてオロオロしていると、香奈はふっ、と鼻で笑った。
「証明? いいよ。あなたたちが心陽に言った言葉を全部、書き出して全校生徒にアンケートとってみる? 結果は見えてるし、恥(はじ)をかくのはあなたたちだけど」
「……っ」
香奈をにらみつけたまま、田沢さんがギリッと奥歯を噛(か)んだ。
「ふんっ! くだらない」
田沢さんはそう言い残して、帰って行った。
女子2人も、あわてて追いかける。
「ほんっと、あの人たち、わけわかんない」
「香奈、ごめん。ありがとう」
香奈はくるっと振り向くと、しょんぼり肩を落とす私に、明るい笑顔を向けてくれた。
「心陽、気にしなくていいからね。またなんか言われたら、私が追いはらってやるんだから!」
「うん。ありがとう」
香奈は、いつもこうやって私を守ってくれるんだ。
成績優秀なだけじゃなくて、ズバッと言いたいことを言える、強くてかっこいい人。
私も、誤解(ごかい)をおそれずに、はっきり言えたり、うまく立ち回れたらいいのに……。
香奈と出会う前の去年にも、自分の気持ちを言える自分になれるようにって、私のそばにいて、助けてくれた人がいた。
今はそのとき決めた、理想の自分に向かって、がんばっているとちゅうなんだ。
だから、中学校でも、同じように背中を押してくれる香奈に会えてよかった。
香奈と親友になれて、本当によかったな。
努力のかいあって、うれしい結果を出すことができた心陽。でも、目指すところはもっともっと高いところ!
心陽がここまで『がんばろう』と思うのは、ある『理由』があるから。
次回は、その理由が明らかに……? 第2回「見つけた名前」を今すぐチェック!
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