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『君のとなりで。』シリーズの高杉六花さんの新シリーズ『さよならは、言えない。』を、ためし読み連載でチェックしよう!
中学1年生になったばかりの心陽(こはる)には、もう一度会いたい、ぜったいにわすれられない人がいて……。
会いたいのに、会えない。伝えたいのに、伝えられない――切なくて苦しいけれど、大切にしたい想いの物語が、はじまります。
受験をがんばって入学した中学でのはじめての模試で、みごと『数学学年1位』をとることができた心陽(こはる)。
心陽が、こんなに『がんばろう』と思うようになったきっかけとは……?
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見つけた名前
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「それにしてもさ、人それぞれ目標があるんだから、学年1位をとったって、落ちこむこともあるよね」
香奈(かな)は、私のとなりの机のイスに座りながら、ためいきまじりにそう言った。
「もしかして、香奈も目標にとどかなかったの?」
「うん。学校では1位だけど、全国で288位だったんだ。小学校のときよりだいぶ下がっちゃったから、確実にお母さんに怒られると思う」
「そっか……」
「里見中で1位を取ったって、全国順位だとぜんぜん上位に届かないんだもん。うちの親は納得しないんだ。もうさ、何のために勉強してるかわかんないよ。これじゃ、親のための勉強だよね」
はぁ~とため息をついた香奈は、ちらりと私を見る。
「心陽(こはる)は? なんでそんなにがんばってるの?」
「えっ。私は……」
香奈が突然そんなことを聞くから、言葉につまっちゃった。
私が勉強をがんばる理由、それは……。
考えていると、優しくて、頼もしい声が、頭の中に響いた。
『心陽は、自分がなりたい自分になれるし、この先何があっても乗り越えられる』
そう言って、私のことを信じてくれる、大切な人がいたから。
いつかまた会えたら、あなたの言葉のおかげで、ここまでがんばったよって、ほこれる自分でいたいから……。
家族にも言ったことがない、私が勉強をがんばる理由になっている人のこと。
親友の香奈になら、言ってもいいかな。
はじめてそう思えたことにおどろきながら、私は心の奥に大切にしまってある思い出を言葉にした。
「私、小6の夏まで、北海道に住んでたんだ。東京に引っ越してきてからも、そのときの友だちと、文通してたんだけど、急に手紙がとどかなくなっちゃって」
「うん」
「その友だちとは、模試でいい成績を取ることを目標にして、いっしょに勉強をがんばってたんだ。離れていても、私は東京でがんばってるよって、その人に伝えたいんだけど、電話番号もメールアドレスもわからなくて……」
おたがいに、すごく大切な友だちだったのに、離れてしまったら、手紙以外に連絡を取る方法がなくって、どうしようもなくなってしまった。
心細い気持ちが、声に出てしまったみたい。
香奈は、すごく優しい声で言ってくれた。
「心陽にとって、本当に大切な人だったんだね」
香奈の言葉にうなずいて、私は続けた。
「うん。……だから、直接連絡を取るかわりに、全国模試で500位以内に入りたいって思ったの」
「全国模試で500位以内に入ったら、『成績優秀者リスト』に名前がのるから?」
「そう。名前がのったら、がんばってるんだよって、伝えられるでしょ」
「そっかぁ……。そうだったんだね」
香奈は、何度もうなずいた。
「小学生のときに、ギリギリ500位以内に入れて、名前がのったことがあるんだ。そのとき、その人が気づいてくれたの。だから、この方法なら、きっと、伝わるって思うんだ」
「名前がのって、気づいてもらえて、いつかまた、その人に会えるといいね。おうえんしてるよ!」
「ありがとう」
香奈の、心からの言葉が、本当にうれしかった。
「それにしても、香奈はすごいよ。リストに名前がのってるもんね」
香奈は成績優秀者リストの、最後のページにため息を落として、パラパラとページをめくる。
「私なんて200位台だから、いっちばん最後のページに、ものすごく小さくのってるだけだよ」
「のるだけですごいことだよ!」
「1位から5位までは、最初のページにどーーーーーんと名前がのるんだよ。王冠(おうかん)のマークもつくし!」
上位をとるって、すごく大変なんだろうな。
学校で学年1位の香奈でさえ、288位なんだもん。
私の大切な人――玲央は、小学校のころの模試では3年連続で年間全国1位だったけれど、中学生になった今、どのぐらいの順位にいるんだろう。
そんなことを思っていたら、最初のページを開いた香奈が、「わっ」と声を上げた。
「模試1位、またこの人だ」
「有名な人なの?」
「うん。小学生のころからずっと1位をキープしてるんだよ! どんなにがんばっても、この人にはかなう気がしないよ」
「え……っ?」
小学生のときからずっと1位って、それって、もしかして……。
「名前しか知らないけど、私にとって、あこがれの人なんだ。どんな人なんだろう。青山玲央(あおやま れお)って」
「え!?」
香奈がつぶやいた名前に、心臓がどくんと鼓動(こどう)した。
今、なんて言ったの!?
「香奈、ちょっと見せて」
「うん。どうぞ」
香奈から紙を受け取って、大きく深呼吸する。
ドキドキドキドキ。
心臓が爆発しそうだよ。
最初のページを見ると……。
1位 青山玲央
たしかにそう書いてある。
玲央だ! 漢字も同じ。
まちがいない。去年、いっしょにがんばろうって約束してた、玲央だ!
ぶわっとこみあげてきた涙を、香奈に気づかれないように、なんとかこらえた。
「心陽? どうしたの?」
急にだまりこんだ私に、香奈はちょっとびっくりしたみたい。
「あっ、ごめん、私ちょっと用事思い出した。職員室に行ってくる!」
あわててそう言うと、私はろうかに駆けだした。
ひと気のない、音楽室まで階段を駆け上がって、私は窓から空を見上げた。
玲央は、今もがんばってるんだ……!
それがわかって、すごくうれしい。
玲央に会いたいな……。
びゅんとこの空を飛んで、会いに行ければいいのに。
中学生になっても、やっぱり北海道は遠すぎるよ……。
『東京と北海道は離れてるけど、この空はつながってる。同じ空の下で、いっしょにがんばろう。目指すところは同じだ』
そんな、玲央の言葉を思い出す。
「玲央。私も、ここでがんばってるよ」
今はまだ、同じ順位表にものることはできないけれど、いつか玲央の背中に追いつきたい。
この想いが玲央に届きますようにって祈りながら、私は小さく小さくつぶやいた。
玲央に会ったのは、1年前の、ちょうど今ごろ。
私が去年まで住んでいた、北海道で――……。
心陽の大切な人、『玲央(れお)』。
遠く離れてしまったけれど、怜央は、怜央のいる場所で、「がんばる」約束を守ってくれている――。
1年前、心陽と玲央のあいだに起こったことを、次回 第3回「2人の出会い」でお届けします。
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