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明るくてクラスの人気者の沙耶が、唯一本音を話せるのは人気配信者・ヒカリの前だけ。ある日、クラスメイトの有馬に「嘘っぽい笑顔」と言われ傷つくが、彼の抱える事情を知り少しずつ関係が変わっていき――。
『星がふる夜、きみの声をきかせて』特別ためしよみ連載第4回スタート!
※これまでのお話はコチラから
1.眠れない夜の星―4
「――いい子なんかじゃない。むしろ、ダメ人間すぎて引くぐらい。新しい自分になるって決めたのに、いつまでたっても忘れられないし……。いつもへらへら笑って……。いっそ、ふたりとちがう高校を受ければよかったのかな?
ヒカリがわたしのメッセージを読み上げた。いつも愚痴っぽくてごめんね。
ヒカリも、ほかのリスナーさんも、いいかげんうんざりしてるんじゃないかな?
そう思いつつも、今夜もわたしはヒカリに胸のうちを吐き出していた。
先月ヒカリは、四月からプライベートが忙しくなるから配信ペースが落ちるかもと言っていた。だから、今週は配信ないのかなって思ってた。
でも、思いがけず、こんなふうに声が聴けたから。だからわたしは、ほっとして、うれしくて、語りかけてしまう。
――いつまでもふたりがそばにいるから忘れられない、っていうのもわかるけど、それで進路を変えるのはちがうかな、って僕は思うな。
ヒカリはこたえる。
――高校の雰囲気、どう? ひよこさんに合ってる感じ?
合ってるよ、楽しい、と、コメントを書き込む。
――そっか。楽しいんだ。ふたりのことをのぞいては、ってことだね。だったら今の高校を選んで正解だったんだと思うよ。
そう、なのかな……。
――ひよこさんはがんばってるよ。本音を殺して笑顔で明るくふるまうなんて、すごくしんどいと思う。だから、へらへら笑って、とか、ダメ人間、だなんて、自分を卑下しないでほしい。
……うん。
自分を卑下しないで、か……。がんばってるよ、かあ……。
不思議だな。ヒカリにそう言われると、元気が出てくる。
そのうち、わたしのメッセージに呼応するように、ほかのリスナーさんからも恋の悩みが届き始めた。そのひとつひとつに、ヒカリはていねいに向き合っている。
「眠れない夜の星」は、もうすっかり人気コンテンツだ。
ヒカリのおだやかな声を聴きながら、自分の心が、すうっと、凪いでいくのを感じていた。
いったい、ヒカリはどんな人なんだろう?
授業中、ノートをとりながら、わたしはヒカリに思いを馳せていた。
勝手に「高校生」だって思い込んでるけど、大学生の可能性もある。四月からプライベートが忙しいって言ってたってことは、大学に入学した、とか?
まさか就職?
どっちにしろ、わたしよりオトナで、人生経験もそれなりにあるんだろうな。
ビジュアルはどんな感じなんだろう? たぶん背が高くて、知的で……。ふちなしの眼鏡なんて似合いそう。
頭の中に、もくもくっとイメージが広がる。昼下がり、コーヒーの香りのただようおしゃれなカフェで誰かを待っているヒカリ。わたしが「ごめんなさい、遅れちゃって」って駆け寄ると、読んでいた本から顔をあげて、「全然待ってないよ」なんて言いながら、眼鏡の奥の目を細めて笑うんだ……。
なーんて、ね!
わたしと待ち合わせとか、現実ではぜっっったいにありえないもん。
わたしなんて、ヒカリに比べたら子どもすぎる。そもそも、ヒカリはちゃんとした大人だから、いちリスナーと会おうなんて思わないだろうし、わたしもヒカリのそういうところが好き。
ヒカリはわたしにとって、手の届かないところで輝いてる、星みたいな存在。離れていてもその光でわたしに元気をくれる。
声が聴けるだけで幸せなんだ。
「次、十一行目から、有馬(ありま)」
先生が有馬くんを指名した。いけない、授業に集中しなきゃ。
がたんと、立ち上がる音がした。教科書の文章に目を落とす。
「この児、養ふほどに、すくすくと大きになりまさる。三月ばかりになるほどに、よきほどなる人になりぬれば……」
……あれ?
この、声。
ヒカリ?
わたしは思わず窓際の席に目をやった。教科書を読み上げているのは、たしかに有馬くんだ。
「よし。そこまで」
先生が告げて、有馬くんは着席した。
ヒカリなわけ、ないか。
さっきまでヒカリのことを考えていたから、耳が勘違いしてしまったんだ。
わたしが思い描いている「ヒカリ」は、優しくて、しっかり者で、自分の意見をきちんと持っている、年上の男性。
なにより、人前で話すのに慣れている人なんだと思う。本職のDJなのかなってぐらい、話もなめらかで聴きやすいもん。
有馬くんは、さっきみたいに指名された時ぐらいしか口を開かない。友だちとおしゃべりしているところすら見たことがない。もしかしたら人と関わるのが苦手なのかもしれない。
それに……。
プリントを拾った時の、あの、冷たい態度。
思い出すと、むかっとした。
有馬くんは、ヒカリとは全然ちがう。一瞬でも声が似てるって思うなんて、どうかしてた。
第5回へつづく(12月10日公開予定)
『星がふる夜、きみの声をきかせて』は2023年12月13日(水)発売!
沙耶がただひとり本当の自分でいられる相手って――。
共感とときめきMAXの恋愛ストーリーをお楽しみに‼