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ものがたり

新刊発売記念!「サバイバー!!③ 大バクハツ! とらわれの博物館」第4回 脱出ルートをさがせ!

11  ふんだりけったり、連続ピンチ⁉

「綾、情報ありがとね。うれしかった」

 となりを歩きながら笑いかけると、綾は気まずげに頭をかいた。

「やー、あんなこと言ったけどさ。ほんとのとこ、風見と橘だけだったら、おんぶに抱っこで『S組さん、救けてくださーい』ってなってたかも。マメがいたから、S組だって同級生なんだよなって思い出せたんだわ」

「そ、そうなの?」

 あたしは目をパチパチしてしまう。

「だって、マメってすっごくフツーのコじゃん? でもさ、今日はガケの上を跳びまわったり、風見たちについていってるの見て、すっごいなーって思ったよ」

「す、すごくないんだよ。ついていききれなくて、結局ねんざなんてミスしたし」

「うちらからしたら、今日のマメはちゃーんと『S組の双葉マメ』だったって。マメったら、この数か月でカッコよくなったよね。感動しちゃったな」

「ほーんと。それだけ、がんばったんだよね」



 綾と美空に、ぽんぽんっと両がわから肩をたたかれた。

「な、な、なに、二人ともっ」

 いきなり優しいことを言われて、ぶわわっと熱いモノがこみあげてきてしまう。

「あー。綾がマメを泣かせた~。いけないんだー」

「えええっ、うち⁉」

 コントを始める二人に、あたしはぶへっと笑う。

「泣いてないって。うるっとしただけ。セーフセーフ」

 なんだか平和な四年生のときの教室みたいだな。

 だけど、そっか。

 綾たちがおどろいてくれたなら、あたし、ちゃんと成長してるのかな。

 ……今日は、リリコちゃんがうらやましくて、胸がざわざわしっぱなしだった。

 でも考えてみたら、涼馬くんが、ディフェンダーの任務をくれたのも、四月からのあたしを、ずっと見てくれてのコトなんだよね?

 あのころのあたしだったら、きっと担当をもらえなかった。

 実地訓練や商店街事件をいっしょに乗りこえて、彼のなかの「双葉マメ」も、変わりはじめてるのかもしれない。

 あたしのがんばりを、見守ってくれてる人たちがいる。

 少しずつの成長でも、気づいて認めてくれてる人がいる。

 だから自分でも、もうちょっと自分を信じてあげられそうだ。

 S組に入ってからの毎日は、ムダなんかじゃなかったって。

 ――あたしは、やれる!

 涼馬くんの背中に届くときまで、がんばれる!

 だってあたしは、ぐんぐん伸びる双葉の豆だもん。

 だよね、ノドカ兄。

 あたしはホイッスルをにぎり、ずびびっとハナをすすった。


   ***


「あっ、ヘリコプター!」

 めざとい男子が、空を指さした。

ババババババッ!

 プロペラをまわす大きな音が、こっちへぐんぐん近づいてくる。

 とちゅうでホバリングすると、吊りさげた巨大なオケで水をまきはじめた。

「火事、大きくなる前に消してくれそうだね」

「ついでにうちらも救出してくれたらいいのにーっ」

「プロのサバイバーが来てくれるよ。でもその前に、自力で脱出しちゃえそーじゃん」

 けもの道の避難ルートは、やっぱり過酷だ。

 みんなのはげまし合う声に、濃い疲れの色がにじんでる。

 下生えをふみしめ、太陽に熱せられた岩に手をついて、体を持ちあげる。

 しばらく急斜面をくだると、小川に出た。

 川のまわりの石はコケだらけで、二人がサンダルをすべらせて大惨事に。

 あたしはディフェンダーとして応急処置にあたふたし、やっとこさ渡りきったと思ったら、今度は大岩のぼりだ。

「綾、ごめん。補助おねがいっ」

「はいよー!」

 綾がぱしっと左腕をつかんで、引っぱってくれる。

 左の手首を使えないあたしは、みんなのお世話になってばっかりだ。

 だけど涼馬くんにしかられたとおり、チーム戦は、現状を報告しあうことが大事。

 くやしくても、できないことはできないって、ちゃんと言える勇気を持たなきゃ。

 そしてあたしも、みんなの足どりの調子をみて、時々涼馬くんに休けいをたのみに行く。

「もうすぐ左まわり登山道に合流だ。そしたら、十分もかからずに下山できるからな」

 リーダーの言葉に、みんなで「やったぁっ」とバンザイ!

 むこうの丘のさきに、赤い鉄塔のてっぺんがちらりと見えた。

 あれこそゴールの目じるしだ!

 左右は断崖絶壁で見とおしがきかないのに、風見涼馬はキャンパーとしても優秀すぎる。

 全員にわかに活気づき、小走りに坂道を駆けのぼる。

 ここまでキツかったね~ってねぎらい合いながら、てっぺんに立ち――、


「!?」


 そろって絶句した。

 けもの道のさきに、舗装された登山道がのぞいてる。

 あれこそがめざしてきた、ゴールまぢかの左まわり登山道だ。

 だけど――。

 あたしたちの三歩さきから、地盤がごっそりと落っこちて、ガケになってる……!



 下をのぞきこんで、鳥ハダが立った。

 ビルの屋上みたいな高さだよ。

 はるかかなたの谷底に、くずれた岩盤が積みかさなってるのが見える。

 吹きあげてくる風がヒュウヒュウうなり、あたしたちの髪を泳がせた。

「……向こう岸までは、五メートルってところか」

「ジャンプじゃ無理ですわね。落ちたら一巻の終わりです」

 涼馬くんとリリコちゃんが、前を見つめてつぶやく。

「だ、大丈夫だよっ。方向は合ってたんだから、道を大まわりすれば――、」

 あたしはババッと左右を見まわして、口をつぐんだ。

 ダメだ。あたしたちが出てきた道は、左も右も切りたつガケで、とても登れない。

 涼馬くんは来た道をふり向き、空へ視線を動かす。

 ただよう黒いケムリが、さっきより濃くなってる。

 それに心なしか熱もジリジリ、背中に感じるような……。

「火事、せまってきてんじゃん」

 綾が声を細く震わせる。


   ズズズズ……ッ。


 小きざみにゆれ始めた足もとに、みんなで周囲を見まわした。

「な、なに?」

 声をあげたコたちに、涼馬くんがシッと指を立てる。

   ズズ、ズズズ……ッ。

 地震じゃない。なにかが地面の下から近づいてくる。

「……注意。退避」

 涼馬くんの低い声。

 見えた! 真下の谷間を、大型バスよりも大きな、茶色い生き物が走ってくる!

「ゴー!」

「「了解!」」

 涼馬くんの合図に、あたしとリリコちゃんは同時に叫び、綾たちにとびついた。

 どさっと地面に倒れこんで、すぐさま谷をふり返る。

 最初に目に入ったのは、谷のふちをつかんだ、巨大なツメ。

 次に、茶色い毛の生えた、生々しい肉感の手。

 あたしたちをにぎりつぶせる大きさのソレが行きすぎると、にゅうっと長いピンクの鼻が突きだし、裂けた口のキバが、あたしたちのすぐそこを横ぎっていく。

 未知の危険生物、三匹目だ!

キュウウウウ――ッ!

 叫んだソレは、ガラガラと岩をくずしながら、谷間におどりあがる。

「巨大モグラだ……!」

 しかも背中が真っ赤に燃えてる!

 モグラは火のついた背中を岩カベにこすりつけながら、ふたたび谷間にしずむ。

 そして悲鳴みたいな音を発して、……谷間の道を、遠ざかっていった。


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