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新刊発売記念!「サバイバー!!③ 大バクハツ! とらわれの博物館」第4回 脱出ルートをさがせ!


この授業、恋も授業も命がけ! ぜったいおもしろい&最高にキュンとする「サバイバー!!」シリーズ。サバイバルな学校で、成績サイアクでも夢かなえます! 角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻~第3巻が、期間限定でまるごと読めちゃうよ!(公開期限:2025年6月6日(金)23:59まで)



10   脱出ルートをさがせ!


 下にのぞく景色の、赤い鉄塔が少しずつ大きく見えてくる。

 山の中腹にだいぶ近づいたはずだ。

 あたしたちのチームは、とちゅうで合流した二チームが加わって、十一人になった。

 人数が増えるほど、避難のスピードはにぶくなる。

 防災スピーカーからの続報によれば、プロのサバイバーと消防隊が向かってくれてるって。

 折りかえして下山中の生徒が多かったおかげで、すでに半ぶんほどの生徒が、避難場所に着いてるらしい。

 筋肉先生は、爆発・火災の位置を、地図をブロックわけして伝えてくれた。

 山の全体あちこちに散らばるように、もう五か所。

 これからさらに、原因不明の爆発が起こる可能性もある。油断するなって。

 今はちょっと休けい中で、みんな水筒をあおってるところなんだ。

「風が変わりましたわ。こちらに向かって吹きおろしてます」

 リリコちゃんは石カベの上に立ちあがり、現状を伝えてくれる。

 涼馬くんがそれを記号にして、地図に書きこんでいく。

 たしかに、風にコゲたにおいがまざってきた。

 空にはうっすらと、ケムリも漂ってる。

 山火事が広がってきたのかな……。

 あたしは涼馬くんのとなりから地図をのぞきこんだ。

 三本の登山ルートのほかに、細かい線の書きこみがたくさん入ってる。

「まさかこれ、地図にのってないルート?」

「ああ。行きに山を横ぎったとき、ガケの上から、けもの道やガケの位置をチェックしといた」

「うぇぇっ、あのスピードで山駆けしながら⁉」

「楽さんの『レクがヤバイ』って忠告、おれも訓練のことかと思ってたんだ。それでいちおう頭に入れといた。まさか現場になるとは、だけどな」

 涼馬くんはニガ笑いするけど、あたしは笑顔を返すどころじゃない。

 す、すごすぎるよ。

 だって、動きながら安全なルートを判断してただけじゃなく、地形までインプット⁉

 現場の地図情報を集めるのはキャンパーの担当だけど、リーダーとして、さらなる仕事まで……っ。

 涼馬くんがリベロになれるかもって言われてるのは、きっとこういうところなんだろうなって、実感しちゃう。

 あたしは胸をどきどきさせながら、彼が地図に置いた指さきを追って、残りキョリを確かめる。

 ――と、歩いてる右まわり登山道のさきに、×印がある。

 たぶん爆発事故の地点だよね。

 そして現在地の後ろには、㊋マークと、風向きをあらわす矢印。

 これって、まさか……。

 バッと顔を上げたら、涼馬くんはだまってうなずいた。

 とつぜん休けいがはさまれた理由が分かって、胸がひやりとした。


 あたしたちは今、進むことも、もどることもできなくなってるんだ……!


   ***


 残されたルートは、中央か左?

 この大人数で、登山道じゃない道なき道を行くのは、厳しすぎるよね。

「マメ。リュックをなるべく軽くしておいてくれ」

「了解」

 涼馬くんの顔つきが、ますますとぎ澄まされていく。

 彼とリリコちゃん、しっかりマイロープとカラビナは持参してきてたらしい。

 カチッと音をたて、腰のベルトに装着する。

 あたしも大きなリュックを開き、使える装備を取りだす。

 手ぶくろは石カベの上のリリコちゃんにパス。

 サバイバルナイフは、涼馬くんが装備。

 あたしはマイロープに、応急処置キットとLEDライト。

 最低限のモノ以外は、リュックから出してしまう。

 アタッカーが二人いるチームだから、あたしはキャンパーとディフェンダー役になれたらいい。

 出した荷物は、ごめん、落ちついたらむかえに来るね。

 見つけやすい岩場の上に置いて、心の中で手を合わせる。

「リリコ。左右、それぞれ目視」

「中央登山道方面、新たなケムリを確認。火事じゃなさそうですわね。石切り場のカベがくずれたんでしょうか」

 上から降ってくるリリコちゃんの声も、ぴりぴりしてる。

 うてなたちと行き合わないってコトは、チームねこは爆発地点をさけて中央登山道のルートを取ったのかも。

 あっちも道の前も後ろもふさがれてそうだけど……、大丈夫かな。

 あたしは祈る気持ちで、ホイッスルをにぎりこむ。

「左方向は、ケムリと木立ちのせいでよく見えません。でも、木が何本も、根もとから倒れてるところがあります。その先の石カベもかたむいて……、地盤がぬけてるのかも?」

 地面がくずれて、地下の石切り場まで落ちちゃったってこと?

 頭に浮かんだのは、お団子屋さんの床がぬけた、あの三匹目の事件だ。

「涼馬くん。三匹目が、ここに来てる?」

 あたしはとうとう、ずっと頭にあったことを口にした。

 そうしたら不安が現実になっちゃいそうで、ますます怖くなってくる。

「うん。おれもそれを考えてた。爆破テロなら、研究所を攻撃するのはありえる気もするが、石切り場だけの山じゃ意味ない。しかし、危険生物がらみだとすると、さらにヤバイな。八人を逃がしながらバトルか……」

 涼馬くんは、ぐったりと疲れたみんなに視線をめぐらせ、すぐに首をもどす。

 こんな状況でも、まったく動じない強い顔が、あたしをふり返った。

「万が一のときは、おれが退路を作る。マメは、リリコをリーダーに、みんなを避難させてくれ」

「でもっ、」

 声が大きく響いて、みんながこっちに目を向けた。

 あたしはあわてて笑みをはりつけて、ツバをのみこむ。

 涼馬くん、また一人で戦うつもりでいる。

 なのにあたしは手首をケガしていて、残っても完全な足手まといだ。

 痛む手首に、ぎゅっと力を入れてしまう。

「……リリコちゃんは、危険生物のことは知ってるのかな」

「『強勇学園ナゾの怪事件』レベルのうわさなら聞いてるかもしれねーけどな。情報は共有しておくべきだな。おれから話す」

 彼が、上に声をかけようとした時。

「あのさっ」

 休けいしていたはずの綾と美空、それに他のコたちまで、みんなが真後ろに立った。



 涼馬くんがいそいで地図をたたもうとすると、その手を綾がつかむ。

「うち、空気読むタイプなんだけど。……なんていうか、けっこうヤバイんでしょ、今」

 言葉につまったあたしたちに、二人は決意の面持ちになる。

「わたしたち、爆発が起きてる原因に心当たりがあるかも。それ、避難の役に立つ?」

 思わぬ言葉に、涼馬くんまで「えっ」と声をもらした。

「実行委員でノコ山を調べた時に、本もいっぱいとり寄せたんだ。でね、地下の石切り場のなかに、『マシン油』ってラベルの樽が積まれてる写真がのってた。ゲームに出てきそうだねーとか話してたから、印象に残ってて。油なら、引火するよね?」

「あと、今も使ってる石切り場があるでしょ? そこで去年だかおととしだか、石を割るために使う火薬が、倉庫で爆発した事故が起こったんだって」

 あたしは二人に前のめりになった。

「す、すごい情報だよっ。めっちゃ役に立つ!」

「なるほど。地下にも地上にも、爆発の原因になるモノがあるのか。生きてる石切り場の位置をはずせば、少なくとも、地上の爆発はさけられそうだな」

 考えこむ涼馬くんに、二人はうんうんうなずく。

「なぁ、オレらもいい? うちのチーム、近道しようとしてワキ道に入ったんだけどさ。その時にショベルカーが置いてある石切り場があったよ。今も使ってそうなやつ」

「あ、あの……、わたしたちも。倒木でふさがれてる行き止まりにあたったの。あと、火を噴きだしてる地下坑の入り口を見かけて、あわてて逃げてきたんだ。どっちも場所がどのあたりか、分かると思う」

 みんなが広げた地図に頭を寄せてくる。

 そして持ちよった情報が、涼馬くんの手でどんどんつけ足されていく。

 あれもこれもって教えてくれるみんなを、あたしはぽかんと眺める。

 ……すごい。一チームじゃ集めきれない情報が、次々と。

 ってか、最初からみんなに聞いてみればよかったんだ。

 みんなはあたしたちと別のルートを通ってて、それぞれの情報を持ってるはずなんだから。

「――すみませんけど」

 冷めた声が、上から降ってきた。

 リリコちゃんがカベの上でほおづえをつき、あたしたちを見下ろしてる。

「それって、信じていい情報なんですの? まちがってた場合、みんなそろって大ピンチです。橘たちがいくら強き者でも、そこまで責任とってあげられませんわよ」

「はぁ? ベツにS組に責任とってなんて、最初から思ってないけど」

 綾は心底ビックリしたって顔で、彼女を見上げる。

 予想外の返答だったのか、リリコちゃんのほうも目を丸くする。

「え……? だって橘たちはS組で、ふつうクラスの生徒を守ってあげる任務が、」

「あげるあげないって、すっごい上から目線だな。そもそもうちら、同い年の同級生でしょ。訓練してるコたちと避難できんのは、ラッキーだなとは思うけど。まる投げするほど甘えてないわ。ねー、みんな」

「うん。マメだって、ついこないだまで、毎日いっしょにいた友だちなんだから」

「だよな。双葉も風見もさ、オレらにできることあったら協力したいから、ガンガン言ってな」



 みんなからの一生懸命な瞳を受けて。

 胸にじわりと熱いものが広がっていく。

「……ありがとう、みんな」

 そっか。そうだった。

 みんなの言葉を噛みしめながら、あたしはゆっくりとうなずく。

 S組なんだからって気を張ってたけど、あたしたちはみんなでそろって生きて還る、仲間なんだった!

 涼馬くんもとなりでアゼンとしてたけど。

「助かる。ぜひ、そうさせてもらう」

 うれしそうにくちびるを笑ませて、そばの男子とこぶしを打ちあわせる。

「あたしたち、十一人みんなでチームだねっ!」

 たのもしい仲間たちを見まわしたら、むくむくと勇気がわきあがってきた。

 これはもう、ゼッタイに大丈夫って気がしてきたよっ。


   ***


「現時点、おれたちが取れるルートは、ここしかない」

 彼が地図に置いたペン先に、輪になって注目する。

 ペンがなぞっていくのは、登山道をはずれた、ななめに山をおりていく線だ。

 ×印をくねくねと迂回しながら、左まわり登山道への合流をめざす。

「むかし使われてたトロッコの道だと思う。ガケの上から見たかんじ、今は荒れた廃道になってる。アップダウンも激しそうだった。だが、みんなが情報をくれた、爆発物がある地点はさけて通れるはずだ」

 全員、ボールペンの細い線を見つめて、ごくりとノドを鳴らす。

 地図だとカンタンに見えるけど、実際に歩いたら大変なんだろうな。

「リリコ」

「……あっ、ハ、ハイッ。なんでしょう、涼馬さん」

 輪からはずれてしゃがんでいたリリコちゃんに、あたしはドキッとした。

 すぐに涼馬くん用の顔を取りつくろったけど、すごく思いつめて見えたんだ。

「とっさの時の反射神経は、おれよりリリコのほうが優れてる。最後尾でみんなを守ってほしい。危ないポジションだが、たのめるか」

「……了解。敵でもおそってこないかぎり、先頭より危険なんてことはないと思いますけど」

 リリコちゃんは、納得しきれない様子でうなずく。

 だけど涼馬くんが、じっと見すえると――。

 その視線だけで、「敵がおそってくるかもしれない」って情報が伝わったみたいだ。

 顔を引きしめ、深くうなずきなおす。

 あたしは危険生物情報を知ってるから分かったけど、まるで以心伝心だ。

 あたしもあんな風に、彼の信頼に完ぺきに応えられるようになって、任務をまかせてもらいたいな。

「――マメ」

 前を見つめたままの涼馬くんに、小声で呼ばれた。

「はっ、はい!」

「おれは安全なルートをさぐる、キャンパー役に集中する。マメはディフェンダーだ。メンバーのフォローをたのむ。まわりのことをよく気がついてくれるマメだから、まかせられる」

 赤茶の瞳が、横に並んだあたしを見つめた。

 ……あたしは、目が二まわりも三まわりも大きくなる。

 ホ、ホントに?

 涼馬くんが、任務から遠ざけるんじゃなく、任務をくれた……っ!

 守る相手じゃなくて、ともにチームで救けあう仲間として。

「ラ、了解!」

 胸の底から熱いモノが噴きあがってくる。

 それをググッと胸に押しとどめ、背すじをまっすぐに伸ばした。

「さっきもフォローありがとな。おれ、二人に無理させてるのを気がついてなかった」

 ――マメだから、まかせられる。

 その言葉を、心のなかでくり返す。

 これがどれだけうれしい言葉なのか、きっと涼馬くんは知らない。

 彼は地図を手に立ちあがった。

「行こう。みんななら、ゴールまで歩ききれる」

 やっぱり、この人ほどリーダーにふさわしい人はいないよ。

 涼馬くんがやれるって言うなら、大丈夫。そう思わせてくれる力強い笑みに、みんなでうなずく。

 そしてあたしたちは、いざ、新たな避難ルートへと乗りだした。


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