
この授業、恋も授業も命がけ! ぜったいおもしろい&最高にキュンとする「サバイバー!!」シリーズ。サバイバルな学校で、成績サイアクでも夢かなえます! 角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻~第3巻が、期間限定でまるごと読めちゃうよ!(公開期限:2025年6月6日(金)23:59まで)
7 とりもどせない失敗
②ミッション「お題キッチン」では、無事に(?)スタンプをゲットしたあたしたち。
③④⑧も攻略して、残るポイントは二つ、⑨と⑩。そしたらもうゴールだ。
頂上をめざしつつ、木々の緑のなかに、旗の黄色い色をさがす。
走りながら、あたしはいろんなことを考えてしまう。
リリコちゃんの、さっきのせっぱつまった表情。
……彼女も、あそこまで弱肉強食にこだわるようになった事情が、なにかあるのかな。
それに――。
「やめたほうがいい」って、涼馬くんのあの声が耳から消えてくれない。
涼馬くんには、四月ごろは「人を救助するより、されるほうだろ」とか、「がんばってもムダ」って言われてた。
でも無人島のあとには、「意外とサバイバーに向いてるかもな」って。
それがまた、「やめたほうがいい」にもどっちゃった?
商店街でいっしょにアオムシと対決して、少しは信頼度アップしたと思ってたのに、そんなこともなかったのかな。
ドッ、ダンッ。
涼馬くんとリリコちゃんが、谷間をこえてジャンプしていく。
あたしも二人に続き、全力ジャンプで、ガケのふちのきわどいところへ着地!
振動で、ねんざの手首がズキッと痛む。
痛みで冷やアセがにじんできた。
「うわっ! ガケの上、あれS組じゃね⁉」
「オレらもあっちの道で行くか」
「無理無理!」
真下のガケを大きく迂回する登山道に、男子チームの姿が見えた。
唯ちゃんたちチームねことは、ランチの後は出くわしてない。
このままの調子なら、一位でゴールできそうな気がするけど、どうだろっ。
全クラスの得点が競ってるなら、ボーナススタンプは貴重だよね。
ガケから登山道に着地して、大またの三歩で横ぎり、向かうガケの急斜面にとびつく!
リリコちゃんは身長が低いぶん、あたしより不利なはずだけど、圧倒的なジャンプ力で体の小ささをカバーしてる。
それに自分に向いてるコースを選びとる、とっさの反射神経と判断力。
ほんとに涼馬くんと肩を並べるアタッカーなんだなって、身のこなしで分かっちゃう。
――もしもあたしが、リリコちゃんだったらいいのに。
そしたら涼馬くんは、黒幕をいっしょにさがそうって言ってくれたかもしれない。
現場でも協力しあって、いち早く要救助者のもとまでたどり着いて、その人に「よくがんばったね」って、笑顔で手をさしのべて……。
あたしは駆けながら、ズキズキする手首を、ぎゅっと手のひらで押さえる。
二人のほうが、訓練をスタートするのが早かったぶん。
もともと持ってた才能の差のぶん。
あたしはどうすれば、二人の背中までのキョリを縮められるんだろう。
あたしもはやくっ、はやく追いつきたいよ……っ!
「マメ、がんばれーっ!」
とつぜん、ななめ下から名前を呼ばれた。
びっくりして見下ろすと、下の道から綾たちが手をふってくれてる。
「うん! ありがとーっ!」
はずむ息の合間で返事して、また涼馬くんたちに視線をもどす。
彼がガケからふみきった。
真上にさしかかる枝をつかみ、足を振り子にして飛距離を伸ばし、向こう岸へ。
リリコちゃんもそのとなりに、土ぼこりを巻きあげて着地した。
追うあたしの視線のさきにも、ふみきり地点が近づいてくる。
行くぞっ!
「3、2、1!」
ガケのきわを蹴り、上の枝へと腕を伸ばす!
ふみきりの勢いもタイミングも、バッチリだ。
ガッと枝を両手でつかんだけど――、
足をふり上げたとたん、手首に電流みたいな痛みが走った!
「痛っ……!」
左手が枝からはなれる。
やばいと思った時には、ひゅっと内臓が浮いていた。
どさっ!
――青空に、白い木もれ日が輝いている。
しばしボーゼンとしてから、真下の道に落っこちたんだって分かった。
び、びっくりした。
「マメ!」
「双葉さん!」
ひっくり返ったままの視界に、こわばった涼馬くんとリリコちゃんの顔がのぞく。

「ご、ごめん。ミスっちゃった。だいじょぶ、ケガはないです」
「気分はどうだ。頭はぐらぐらしないか」
涼馬くんは起きあがろうとするあたしを止め、両手でほっぺたをはさんで、目をのぞきこんでくる。
リリコちゃんもあたしのケガを、ぱぱっと服の上から手でふれて、確かめてくれた。
「頭も打ってないから、ほんとに大丈夫だよ」
焦点も定まってるし、吐き気もない。
ただ、ビックリしすぎて、まだ心臓がバクバクしてる。
「むだに大きなリュックがクッションになってくれて、よかったですわね」
リリコちゃんも肩を下げ、いちおう心配してくれたみたい。
でも、これこそまさにタイムロスだよね。
「ごめん。行こう」
地面に手をついたら、――ビリリッと痛みが走った!
「ッ!」
上げかけた悲鳴を、危ういところでのみこむ。
なのに涼馬くんが目を細くした。
「見せてみろ」
「な、なんともないよ」
引っこめかけた手を逆に引っぱられ、さらにソデをぐいっと押しあげられちゃう!
隠してた包帯が、あらわになった。
涼馬くんの顔が、みるみる厳しい色に変わっていく。
「包帯を巻いてるってことは、つまり、今のケガじゃないんだよな?」
「す、鋭い」
「鋭いじゃねーよ。このバカ」
彼はあたしに指をにぎりこませたり、痛みの場所を確認したり。
「帰ったらレントゲンだ。骨は折れてはなさそうだけど、ヒビが入ってるかもしれない」
片手で巻いたヘタクソな包帯が、しゅるしゅるとほどかれていく。
きれいに直してくれるらしい。
器用な手が、あたしの手首のまわりを何度も往復しはじめた。
「昼メシ食ってるときも、皿を持つ手がおかしい気がしてたんだ。だけどマメならちゃんと報告してくれるだろうって、信じようと思った」
信じる。
その重たい単語に、あたしはぎくりとして目線をあげた。
体温を感じるようなキョリで、彼は小さな息をつく。
「チーム戦は信頼関係だ。リーダーはチームメンバーに、その能力に見あった役目を割りふってる。なのにメンバーが、体調不良やケガを隠していて、いざという時に、まかされたぶんの実力を発揮できなかったら。これが任務中ならば――、」
「チーム全員の、命が危ない」
「そうだ。おまえ、無人島の実地訓練では、『状況を見て、ヤバそうなら退く』って、できてたはずだろ」
包帯を巻きおえた彼は、あたしから手をはなした。
ぎちっと強めにしあげてくれたおかげで、固定テーピングがわりになってる。
しかもごていねいに、大判ガーゼで腕を首からさげられてしまった。
ここまでしなくてもって言ったら、「応急処置のキホン『RICE』だ」だって。
おかげで動くたびズキズキしてた痛みが、今はほとんど感じない。
……二人に追いつかなきゃってガムシャラに走ってきたけど、しかられて冷静になると、ひたすら空まわりしてたなって、自分でもわかってしまう。
登りきれなかったあのカベだって、無理だって気づいた時点で足を止めて、別ルートで行くって申しでるべきだったよね。
今のジャンプも、手首を使えないってわかってたんだから、同じことだよ。
なのに今回はあせりすぎて、とにかくついてかなきゃなんて、自分のレベルもわきまえず――。
あたしの長所は「ピンチの時の観察眼」だって教えてもらってたのに、自分自身のことをちゃんと見てなかった。
「ごめんなさい。あたし、失敗したし、まちがってた」
あたしは、チームメイト二人に頭を下げた。
「わかったならいい」
涼馬くんは肩を軽くたたき、わざわざ目を合わせて、しっかりうなずいてくれた。
リーダーがあたしの心を確かめながら、同時に、はげましてくれてる。
あたしは、もう同じまちがいはしないぞって胸に誓って、うなずき返した。
「ごめん。あたし今、左手でふんばるのは難しいです。下の登山道を希望します」
自分のふがいなさを報告するのって、こんなに恥ずかしいことだったんだな。
みんなに追いつきたいって気持ちが強くなるほど、開いてるキョリを思い知らされて、胸が苦しくなる。
けど、チーム戦ってこういうことなんだ。
「これだから、橘は弱き者とはチームを組みたくないんですの」
リリコちゃんはムウッとほっぺたをふくらませて、そっぽを向く。
涼馬くんはあたしのリュックを背おってくれて、自分のボディバッグを、かわりにぽいっと寄こした。
「救護テントは博物館まえ広場だったな。そっちに行くぞ」
考えもしなかったリーダーの指示に、あたしは目をむいた。
「りょ、涼馬くん⁉ なんでっ。ゴールまであとちょっとだよ!」
「そうですわよっ。博物館まえ広場って、スタート地点です。下山して、また頂上のゴールまでなんて、時間ぎれで失格になりますわ」
リリコちゃんとあたしは声を重ねる。
「チームうさぎは、ここでレク中止だ」
「「え……っ!」」
絶句するあたしたちを残して、涼馬くんはもう出発しちゃう。
「ねんざはすぐに冷やす。『守』の授業で習っただろ。ヒビが入ってたら、なおさらだ」
「で、でもっ」
あたしはそれでよくても、二人に悪すぎる。
ここまで一生懸命、スタンプを集めてきたのにっ。
「マメ。サバイバーになるなら、体のメンテナンスはなにより大事だ」
ダメ押しする言葉に、あたしは耳をうたがってその場に立ちつくした。
「サバイバーになるなら……? でもさっきは、やめたほうがいいって」
すると彼自身もハッとして動きを止める。
「……口がすべった。忘れろ」
つぶやいたあとで、ふり切るように歩きだしちゃった。
残されたあたしもリリコちゃんも、そのままボーゼンとしてしまう。
「りょ、涼馬さん、なにかありましたの? 実はレクを中止しなきゃならない重大な理由が、ほかに――っ?」
「マメのねんざ以外はなにもない。ここは要救助者のいる現場でもないのに、ケガをがまんしてクリアするほどの意味はないだろ。さ、行こう」
涼馬くんは少しだけこっちに首を向け、また前にもどしてしまう。
足を止めようとしない彼に、リリコちゃんは拳をにぎりこんだ。
「……だったら、質問のしかたを変えますわ」

涼馬さん!
この人はいったい、
涼馬さんの
なんなんですの!?
リリコちゃんが彼の背中に、大きな声を叩きつけた。