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新刊発売記念!「サバイバー!!③ 大バクハツ! とらわれの博物館」第2回 弱肉強食、全力レース!


この授業、恋も授業も命がけ! ぜったいおもしろい&最高にキュンとする「サバイバー!!」シリーズ。サバイバルな学校で、成績サイアクでも夢かなえます! 角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻~第3巻が、期間限定でまるごと読めちゃうよ!(公開期限:2025年6月6日(金)23:59まで)



4  弱肉強食、全力レース!


 丘の上に、ダルマ石の頭の部分が見えてきた。

 あたしたちはくねくね曲がる登山道も、ショートカット。

 ヤブの中を一直線に突っきっていく。

「リリコ。まわりにケンカを売ってばかりだと、チームのトップに立った時、だれもおまえをリーダーと認めてくれないぞ」

 涼馬くんにクギをさされるも、リリコちゃんはにっこり笑った。

「橘はチームじゃなくて、涼馬さんの相方志望ですもの♡ 信頼のきずなは、強き者どうしが結んでいればいいんですわ。だって弱き者は、けっきょく現場じゃ役たたずですもの。担当ナシさんだって、いつまでS組に引っかかってられるか分かんないですしー? 逃げちゃうかもしれないですしー」

「あたしは逃げないよ!」

 ノドカ兄だって逃げてない! と、心の中でつけくわえる。

「その〝担当ナシ〟ってのもやめて、ふつうにマメって名前で呼べ」

「これ、涼馬さんがつけたアダ名だって聞いてますけれど? 橘は本校S組の情報も、バッチリ集めてきましたの♡」

「ぐっ……」

 図星をさされた涼馬くんまで、ノドをつまらせた。

 あたしと彼は思わず目をかわし、どっちも反論の言葉が出てこない。

 ってかあたし、二人を追うのに精いっぱいで、おしゃべりしてる余力なんてないよ。

 大荷物を背おってきてる場合じゃなかった。

 両手をつきたくなるような急斜面なのに、二人は安定した速度で、ぴったり肩を並べてる。

 まるで地面を軽やかに吹きぬける風みたいだ。

 あんなふうに体を思いどおりに動かせたら、どんな災害の現場だって、ガレキや倒木を跳びこえて、要救助者のもとへ最速で駆けつけられるよね。

 二人の背中が、ほんとに現場のただ中にいるみたいに、きらきらカッコよく見える。

「ふんぬぅっ!」

 あたしも加速をつけて、キョリを縮めた!

 だけど馬力がもたずに、あっという間にあいだが空いちゃう。

 あたしは涼馬くんに追いつかなきゃいけないのに、今、彼と肩を並べてるのは、リリコちゃんだ。

 荒れた息を無理やりのみくだす。

 こんな出鼻から、へこたれてらんないぞっ。

 このレク中にたのもしいところを見せて、涼馬くんに認めてもらうんだからっ!

「あっ、⑥の旗、発見ですわ!」

 彼女の指さす方向に、巨大雪だるまみたいな大岩が見えた。

 その根もとに、チェックポイントの黄色い旗!

 テントのまえで、実行委員の男子二人が手をふってる。

「おつかれさま~っ! 一番ノリだよー!」

「スタンプくださぁい!」

 駆けこんだチームうさぎは、あたしだけゼイゼイして息もたえだえだ。

「スタンプをもらえるのは、ここでミッションに合格したチームだけでーす」

「へっ?」

「「⑥ミッション、『当たりは地獄、ソースせんべいクジ』~♪」」

 歌うように宣言する彼らに、ズズイッとおぼんを近づけられた。

 そこにはソースせんべいがずらりと並んでる。

 パリパリのせんべいに甘辛いソースがはさんである、お祭り屋台のアレだ。

「どれか選べばいいのか?」

 涼馬くんが最初に、あたしとリリコちゃんも、一つずつ取った。

「六つのうち二つに、ハバネロペーストがぬってありまーす。チーム全員が無言で食べきったら、ミッション完了! ただし成功するまで、この⑥ポイントから出られませーん」

「ハ、ハバネロって、超激辛のトウガラシだよね?」

 あたしはテーブルに置かれた、ガイコツのマークのまがまがしいボトルに目をやる。

 綾が『S組が有利でもない』って言ってたの、こういうコトか……っ。

 どんなに早くポイントに到着しても、ミッション合格まで足止めじゃ、どんどん追いこされちゃうもんね。

「二人とも、辛いのは大丈夫か?」

「だ、大丈夫!」

 心配顔の涼馬くんに強がってみたけど、ほんとはあたし、カレーは甘口派だ。

 リリコちゃんも笑顔のまま、ドパッと冷やアセを噴きだしてる。

 ――が、後ろから、

「いた! 打倒、にっくきリリコォ~~ッ!」

 唯ちゃんの声だ!

 うてなと健太郎くんも、そのだいぶ後から、ヘロヘロになって追いかけてくる。

「さぁ、おせんべいをいただきましょう!」

 我に返ったリリコちゃんが、目をつぶって大きく口を開ける。

 チームうさぎ一同、天に祈りながら、ぱくっとせんべいをかじった!

 あ。あたしのはふつうのソースだ。

ぶほぉ!

 とたんに噴きだしたのは、リリコちゃんだ。

「ぐえほっ、がほっ、ぎょほっ!」

 まんまとムセこんだ彼女に、委員さんは大笑い。

「ザンネンでしたー。チームうさぎ、合格ならず~」

「あわわわっ、リリコちゃん、お茶!」

 いそいで水筒をパスすると、彼女は活火山みたいな真っ赤な顔で、ぐびぃっとあおる。

 その間に、唯ちゃんたちは全員ソース味を引いたみたいだ。

「リリコ、おっさき~! 行くよっ、健太郎、うてな!」

「オレ、口がぱさぱさだよ。お茶のませてよっ」

「マメちゃん、またね~っ」

 チームねこはスタンプ済みの地図をひらひら、テントを通過していく。

「またねー!」

 って、あたしもうてなとホンワカ手をふりあってる場合じゃないよっ。

「二回戦、いこう!」

「せっかくなら、一着とりたいしな。リベンジできるか? リリコ」

「もちろんですわっ。た、橘、ちょーっと油断しちゃったみたいです」

 彼女は水筒をほうり、二回戦目のせんべいを顔の前に構える。

 あたしたちも彼女にならい、せーのでバクッと一口!

 ……あっ、アアッ⁉ 今度はあたしが、

 ハバネロォォォ―――――ッ!


   ***


 次のチェックポイントをめざし、あたしたちもふたたびの全力疾走だ。

 涼馬くんが頭に入れてる地図情報によると、⑦は四百階段の上にあるらしい。

 果てなき石段ダッシュ、めちゃくちゃしんどい。

 そのうえ、まだベロがびりびり痛いよぉ。

 走りながら水筒をあおったら――、あれ、一滴も出てこない。

 ま、まさか!

「リリコちゃん、さっきぜんぶ飲んじゃった⁉ 空っぽじゃん!」

「だーって、弱肉強食ですもの♡ 他人に水筒を貸すなんて、弱き者のぶんざいでお人よしをやってると、生きのこれませんわよ」

 先頭を行く彼女は、こっちをふり返ってにっこり。

 あたしはヒザから力がぬけて、ガックリだよっ。

「そこらへんの湧き水、飲めるかなぁ。コケが生えてるとこは、まず大丈夫なんだっけ」

「リリコ、いいかげんにしろ。飲み水がないキツさは、自分だって知ってるだろ」

 涼馬くんはリリコちゃんをしかりつつ、自分の水筒を貸してくれた。

 あたしは涙目で手を合わせる。

 飲みすぎないように気をつけながら、お茶で口のヒリヒリをおし流した。

「゛あ゛あ゛あ、ありがとう。ほんっとヤッバイ辛さだったよ……」

「口ン中、まだ痛いな。あいつらペーストぬりすぎだろ」

 水筒を返したら、涼馬くんも続けてあおる。

「えっ。まさか涼馬くんもハズレ引いて、た……の、」

 あたしは今さら気づいてしまった事実に、言葉がしりきれトンボになる。

 平然と食べきったってスゴイなって思うけど、そ、そっちじゃなくって。

 上を向いた彼のとがったアゴに、目がくぎづけだ。

 す、すすす水筒っ。あたしが口をつけた飲み口、そのまま、飲んで、る……っ!

「――なんだよ」

「なんでもないですっ⁉」

 挙動不審にワタワタするあたしに、本人がけげんに首をかしげる。

 ふいてから返せばよかったのに、ごごごごごめんっ。

「あ、あーっ! 涼馬さんと間接キスしやがりましたわね⁉」

 リリコちゃんの絶叫に、あたしと涼馬くんは、正反対を向いて噴きだした。

「……くだらないこと言うな」

 涼馬くんはお茶が変なとこに入ったのか、耳まで赤くなって、彼女をニラむ。

「くだらなくないですー! 橘ものどが渇きましたわっ。水筒を貸してくださいませ♡」

「自分のがあんだろ」

 べっと舌を出してみせた彼は、ペースを上げ、さっさと階段を上がっていく。

 あたしも平常心をよそおって、ギクシャクギクシャク後を追う。

 今うてなに脈をとられたら、「救急車!」とか言われちゃいそうだ。

「あなたまさか、涼馬さんにイシキしてもらおうという策略ですのっ? 担当ナシのぶんざいで、許せませんわ……! それにS組は恋愛禁止ですわよっ。私情で仲間をエコひいきすることにつながりかねませんから」

 リリコちゃんの怨念が、横顔にビリビリ当たる。

「わざとじゃないってばっ。だいたい涼馬くんって、男子ってより、『風見涼馬』っていうすごいイキモノってかんじで、恋愛なんて考えもよらないじゃん⁉」

 あたしの本音は、静かな山道に、思いのほか大きく響いた。

 だいぶ先のほうから、涼馬くんがまたゲホッとせきこむ声が聞こえてくる。

「へぇ……、ちょっとは分かってるじゃないですの」

「ってかリリコちゃんこそ、涼馬くんにめっちゃ♡を飛ばしまくってるけど、それこそルール違反になっちゃわない?」

「ふんっ、青いですわね、双葉マメ。強き者のてっぺんに立つ彼に向ける橘の想いは、恋愛なんてちっぽけなものではなく、もーっと大きな……そう、愛なんですの!」

 リリコちゃんはキラキラキラッと、先を行く彼の背中を見つめる。

 それはたしかに、さっきティラノサウルスに向けてたのと同じ視線だ。

 な、なんて大きな愛(?)なんだ。

 あたしは感心するけど、ぜんぶ聞こえてたらしい当の本人は、またゴホッとムセこんだ。


 そんなこんなで四百階段の果てにたどり着いた、⑦ポイント。

 ミッションは、「耳コピ伝言ゲーム」だ!

 お題のメロディを歌って伝えて、最後のコがちゃんと同じメロディを歌えたら合格。

 三回までチャレンジ可能なルール……なんだけど。

 なんということでしょう。

 涼馬くんの声が低いせいで(ということにしてあげたい)、メロディを聴きとれず、あえなく三回連続で不合格!

 ふつうクラスの合唱部が楽勝でスタンプゲットするのを横目に、あたしたちは無得点で、次のポイントをめざす。

 左まわり登山道からはずれて山を横ぎるルートは、まるで忍者の山渡りだ。

 道なき道を、直感と勇気とイキオイで、岩と岩とを飛びうつり、小川も一息に跳びこえる。

 同じ作戦をとったS組の他チームも、チームうさぎはぐんぐん引きはなした。

「マメッ、無理そうだったら言えよ!」

「だ、だいじょうぶっ」

 正直、口を開いて答えるヨユーもないけどっ。

 あたしは涼馬くんの後を追い、彼が見つけてくれた安全なルートを必死についていく。

 リリコちゃんは自分でルートを取って、涼馬くんのとなりにぴったり張りついていく。

 あたしには、あれはまだ無理だ。

 体を動かしながら、常に次のステップを考えて、安全か判断し続けなきゃいけない。

 一瞬でも集中力をとぎらせたら、おしまいだ。

 ほんと、くっやしいな!

「この二人を見失わないだけでも、がんばってるじゃん」なんて頭に浮かんでくる自分の甘さに、ますますくやしい。

 ここが現場だったら、もっと目まぐるしく状況が変わっていく。

 集中力と戦いながら、要救助者の安全も、常に確保しつづけなきゃいけない。

 今の二人とのキョリは、そのまま、だれかを救けられる力の差なんだ。

 あたしに手をさしのべてくれたノドカ兄の優しい笑顔が、商店街の地下室に救けに来てくれた涼馬くんの力強い笑顔が、頭によみがえる。

 あたしだって、あっちがわの〝強き者〟のほうに行きたいんだよ!

 真正面に、ずどぉぉんっと三メートルごえの石カベが現れた。

 二人は倒木を踏み台に、高くジャンプする。

 そのままカベを蹴りあがり、てっぺんへと身をおどらせた!

「やべっ」

 涼馬くんが声を上げる。

 どうやら上に足場がなかったみたい。

 ズダンッと、カベのむこうがわに着地する音が、連続で響いた。

 今の「やべっ」て、たぶん彼自身が危なかったんじゃなくって。

 あたしには、この高さは補助なしじゃ無理だって――。

 考える間に、もう目のまえに石カベがせまってる。

 止まる? どうする? でも、ついていかなきゃ!

 二人をマネして、倒木を思いっきり踏みこむ。

「えいやぁぁっ!」

 幹をけり、全力で跳びあがる――も、

びたんっ!

「あぐぅ!」

 体の前半分で、カベにゲキトツしちゃったよっ。

 ずるずるとカベの真下に落っこちて、あお向けにひっくり返った。

 …………あたし今、めちゃくちゃカッコ悪かったな。

「マメ、無事か⁉ 今もどる!」

「涼馬さん、そこに⑤の旗が見えてますわよ。他のチームが行列作ってますのにぃ」

 そっか、レク指定コースを取ったコたちも、①が混んでるから、登山道をはずれて先に⑤ポイントに回ってきたんだ。

 むこうから聞こえる二人の声に、あたしはあわてて身を起こす。

 その時、ズキッと左の手首に痛みが走った。

 やばいな、ひねったかもしれない。

 リーダーに報告するべきかなって頭をよぎったけど、……ノドカ兄の顔が浮かんできてしまった。

 あたしは、涼馬くんたちとの間に立ちはだかるカベを、くちびるを噛んでにらみ上げる。

「もどらなくていい! すぐ合流するから、ポイントで並んで待ってて!」

 大きな声で返しつつ、熱を持った手首をにぎりこんだ。

 だって、チームメイトにフォローしてもらってばかりじゃ、いつまでたっても一人前って認めてもらえない。

 ノドカ兄までたどりつけないんだよ!


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