KADOKAWA Group
ものがたり

新刊発売記念!「サバイバー!!③ 大バクハツ! とらわれの博物館」第3回 とりもどせない失敗

9  注意! 緊急事態発生!

「爆発事故か?」

「ふもとの方角からでしたわね」

 瞬時にサバイバーの頭に切りかわった二人は、モヤモヤなんて忘れた顔で言葉をかわす。

 不穏な単語に、あたしも背すじがぴんと伸びた。

「ば、爆発……⁉ お楽しみレクの、ゴールの音じゃなくて?」

「ピストルの火薬くらいじゃ、あんなハデな音はしない」

 すぐさまサイレント・タイムだ。五感をとぎ澄ませ、周囲の状況をさぐる。

 風がやんだ。

 鳥のむれが空を横ぎっていく。

 まるで山全体が、これから起こることを覚悟するような静けさに包まれている。

 かすかに女子のしゃべる声。他のチームが近くにいるのかな。

 そう思ったすぐ後で、大きなサイレンがとどろきはじめた!

『研究所にて、火災が発生しました。強勇学園の生徒は、ただちに、ふもとの芝生広場へ避難してください。当館スタッフが避難誘導に向かいます。みなさん、落ちついて行動してください』

 防災スピーカーの音が、二重三重に反響しながら聞こえてくる。

『注意、S組に告ぐ! 火災は、G地区研究所の地下からとの報告あり。火が山にうつる可能性はなく、危険度は低いが、今のうちに撤収することとした』

 これ、担任の筋肉先生の声だ。

 あたしたちは顔を見合わせる。

『これより避難場所を確認する。山を背に左方向、ロープウェイの赤い鉄塔が目じるし。その手前の芝生広場だ。近くのふつうクラス生徒を、安全に避難場所まで誘導せよ! ゴー!』

 任務だ。

 今からここは、火災事故の現場になったんだ!


「現在位置は、ほぼ山頂だ。右まわり登山道を通って、行きあった生徒を拾いながら下山しよう」

「ええ。博物館のスタッフが出るなら、橘たちで全生徒を集める必要はありませんものね」

「すぐ近くから女子の声が聞こえたんだ。まずそのコたちと合流できるかな」

 頭をつき合わせて作戦を固め、あたしたちはさっそく出発する。

 さっきまでみたいにスピード重視じゃなくて、要救助者を見落とさないよう、ていねいに。

 行きはガケの上を横ぎってスキップした下の道は、実際に歩いてみると、くねくね曲がって、ほんとに迷路だ。

 と、顔を出した石カベのむこうに、

「綾! 美空もっ」

「マ、マメ……ッ!」

 青い顔した女子二人が、へたりと座りこんでいた。


 二人は実行委員の仕事で、各チェックポイントの写真を撮ってまわってたんだって。

 五人チームになったあたしたちは、先生が言ってた目じるし、ふもとの赤い鉄塔をめざす。

 木立ちのむこう、はるか遠くの鉄塔を気にしながら、ふと、さっきの涼馬くんの過去情報が頭によみがえってきちゃう。

 だけど彼の背中は、もういつもどおりに落ちついている。

 あたしもブルブルッと頭をふって、気持ちを「今」にもどした。

 今は、みんなを無事に避難場所まで誘導するっていう、任務中だ。

 ほかのことを考えるのは、それを完了してから!

 ――と、その時。とうとつに世界から、ふつっと音が消えた。

 なんだろうとさがす間もなく、

   ドォオオンッ!

 鼓膜を震わせる爆音がとどろいた。

「うわっ⁉」

 風が吹きつけ、木々を激しくゆさぶる。

 小さな枝やジャリが、ピシピシ腕や体に降りおちてくる。

 綾たちが悲鳴をあげ、その場にしゃがみこんだ。

「ば、爆発かなっ。こっちでも⁉」

 心拍数が一気に上がり、指のさきまで全身に力が入る。

「近いな」

 涼馬くんがリュックをおろし、「身を低くして待ってろ」と一言。

 ガケの岩はだに手をかけ、身長の二倍以上もあるカベを、ひょいっと身軽に蹴りあがる。

 リリコちゃんもすぐに続いた。

 あたしは手首をねんざしてるから――、ううん、もともと補助なしで上がれる高さじゃない。

 綾と美空に目をもどし、二人の手をキュッとにぎった。

 あたしにできるのは、彼女たちを守れるようにスタンバイしておくことだ。

「ねえ……、なんか変な音が聞こえない?」

 美空が震えながら周囲を見まわす。

 呼吸をおさえて耳を澄ますと、たしかにパチパチと薪が燃えるような音がする。

 山火事……⁉

 さっきの爆発で火が出た?

 ドッと音をたてて、涼馬くんとリリコちゃんがすぐそこに着地した。

 二人の顔が険しくなってる。

「涼馬くん、火事の音がするみたい」

「ああ。上から確認できた。ここから二十メートルたらずのところで、石カベがくずれ落ちて、まわりの木に火が燃えうつってる。今の爆発のせいだな」

「しょっ、消火しなきゃ!」

「なに言ってるんですの。消火剤もなければ、水場はふもとの湖くらいです。逃げることだけ考えてください」

 リリコちゃんに冷ややかに正論を返されて、わななきながらうなずいた。

 山火事を発見したら、一刻もはやく消防に電話。

 個人ではそれくらいしかできないから、とにかく逃げろ。

 サバイバルの五か条の「最初に、そして常に心をしずめろ」と、「命を大切にせよ」だ。


 あたしたちはすぐに再出発した。

 後ろに火の手が上がってると思うと、さっきよりも足が急く。

「山が噴火したのかな」

「ノコ山は火山じゃないよ。うちら前調べしたじゃん」

 美空と綾は青ざめて、全身ぶるぶる震えてる。

 涼馬くんが肌のヒリつくようなサバイバーの顔で、こっちをふり返った。

「少しいそごう。この山は、地下全体に石切り場の坑道がはりめぐらされてる。もしかしたらだが、その坑道づたいに、研究所からの火が広がってるのかもしれない」

 ――と、ドンッとまた、爆発音。

 音の大きさからしてキョリは離れてそうだけど、三発目だ。

「橘はさっき博物館で地層模型を見ましたが、地下に天然ガスがうまってる地層でもありませんでしたわ。となると、だれかが、わざと爆発を起こしてまわっているとか。テロかもしれません」

「そうだな。だけど……」

 涼馬くんは何かを言いかけて、やめた。

 テロなんて、ジョーダンじゃない。

 でもさっきからあたしの頭をぐるぐるしてるのは、未知の危険生物・三匹目のことだ。

 商店街に現れた、茶色の毛の、巨大な生物。

 捕まえたとも、消えたとも分からないままだったけど――。

 アレが暴れまわってる可能性が、一番高いんじゃない?

 いや、車で三時間も離れた場所でなんて、そんな偶然があるかな。

 だとしたら新たな四匹目が出てきたとか……?

 あたしはちらりと涼馬くんに目をやる。

 考えこんでた彼は、小さく首を横にふった。

 ――うん。綾たちをよけいに不安にするような話は、今は出さないほうがいいよね。

「キャッ」

 美空が木の根っこにつまずいた。

 とっさに受けとめたけど、彼女はすっかり息が上がってアセだくだ。

 ハッとしてその奥を見やれば、綾もだ。

 歩くペースが速すぎるのか。

「二人とも、大丈夫?」

「う、うん」

 さっきの涼馬くんの「いそごう」は、一刻もはやく山から出るべきだっていうリーダーの決断だよね。

 爆発の原因が不明のままだから、また起こるのか、次がどこかも予測がつかないもの。

 綾は美空と手をつないで、おたがいをはげますように、歩きだしてくれた。

「マメ。S組って、こういうときの訓練もしてんの?」

「火災の実地訓練はまだなんだ。でも、教科書で避難の基本は勉強したよ。部屋のなかの場合は、自力で消火できるタイムリミットは、火が出てから三分。まわりの人を大声で呼んで、消火にあたる。消火器や水がなくても、座布団でたたいたり、ぬらしたタオルでおおえば、消せることが多いんだ。もしも自分に火がうつったら、地面を転げまわって鎮火。

 だけど天井まで火が届いたら、とにかく逃げろの合図だよ。できれば部屋の窓やドアを閉めて、酸素をシャットアウトしておくんだ」

 あたしは『S組訓練㊙教科書』を思い出しながら、つらつらと説明する。

「たしかにそういうの、避難訓練で聞いたね」

「うんっ。基本こそ大事だからね。で、逃げるときは、ケムリは毒ガスをふくんでることが多いから、吸わないように身を低く、布を口に。もしも爆発が近くで起きたら、窓みたいな割れるものから離れて、身をふせて頭を守る。強い建物のカベに隠れるのがベスト!

 ――って、そんなかんじでちゃーんと勉強してるから、安心してっ」

 明るく胸をはってみたけど、綾たちの不安は一ミリも晴れてなさそうだ。

 大丈夫なのかなって顔を見合わせてる。

「うるさいんで、だまっててくださいます?」

 後ろから、リリコちゃんにも怒られちゃったよ。

 と、先頭の涼馬くんが、さしかかる枝をよけながら一言。

「ま、ほんとに安心してくれ。綾も美空も、うちのチームと合流できたのはラッキーだったぜ」

「う、うん。そーだよね。S組エースの風見涼馬といっしょだもんね」

 綾と美空はうんうんうなずく。

 そしたら涼馬くんはわざわざふり向いて、ニッとくちびるのハシを持ちあげた。

「いやこっち。マメの重量級リュック、なんでも出てくるぜ。三日は山で暮らせるんじゃないか」

「三日ァ⁉」

「そんなにいたくないよ!」

「だよな。避難場所までは四十分もかからねーし、さっさと山をおりちまおうな」



 涼馬くんは笑って、また前を向く。

 二人ともだまっちゃったなと思ったら、

「…………不安なときの生リョーマ。威力がやっばいわー」

「真のイケメンを食らわされた……」

 綾と美空は、魂のぬけたような顔で、あたしをヒジで打つ。

「生リョーマって。塩味リョーマくんなら、よく食らわされてるけど……」

 だけどその塩分すら、あたしを守るためだったんでしょ?

 綾たちの緊張しきった肩から力がぬけ、足どりも軽くなったのがわかる。

 さっきの涼馬くんの笑顔、あれって不安なとき、ほんとにホッとするんだよな。

 あたしも、ああいうのできないだろうか。

 彼をマネして、かっこいい風にニッとしてみたら、

「カケラも似てないですわよ」

 追いこしていくリリコちゃんに、痛恨の一撃を食らった。

 見られてた! 恥ずかしすぎますわよ!

 なーんてやってたら、

ズンッ!

 足もとがゆれると同時に、爆発音がとどろいた。

「四発目……!?」

 頭上のこずえが、ザッと爆風にあおられる。

 鳥のけたたましい鳴き声の中に、生徒たちの悲鳴までまざってる気がする。

 あたしたちは息をのみこんで、周囲を見まわした。

 ほんとに、異常事態だ!


「サバイバー!!③ 大バクハツ! とらわれの博物館」
第4回につづく


この記事をシェアする

ページトップへ戻る