3 チームうさぎ、結成!
博物館出口で渡されたクジで、三人一組のチームわけが決められた。
さぁ、うわさのお楽しみレクはいよいよ! ……なんだけど。
「マメちゃん、どうか無事でいてねっ」
「う、う、ううううん」
うてなはあたしにヒシッと抱きついたあと、同じ「チームねこ」の、健太郎くんと唯ちゃんのところへ駆けていく。
あたしはお通夜な顔で、クジに描かれたうさぎさんマークに目を落とした。
「おまえら、仲よくやれよ」
「大丈夫ですわ。涼馬さん以外は、橘の視界にも入りませんから♡」
「アハハハハ」
眉をひそめる涼馬くん。
となりでにっこりするリリコちゃん。
そしてカラッカラに乾いた笑いをもらす、あたし。
クラス対抗・山の大迷路スタンプラリー!
チームうさぎは、以上の三人でお送りしまーす♪
――って、マジですか!
ふつうクラスも参加だから、ハイ・ウォールや腕立て百回とかはないよね。
だけど下手をうったら、リリコちゃんと塩鬼からの冷ややか~なW視線で、あたしは氷結するかもしれない……っ。
「注目してくださぁーい!」
メガホンで声をはりあげたのは、去年のクラスメイトの綾だ。
そういえば、実行委員の腕章をつけてたな。
「みなさんには、十個のチェックポイントをまわって、スタンプをもらってきてもらいまーす。そのスタンプの数を集計して、一番多いクラスが優勝! 最初にゴールしたチームには、プラス三スタンプのおまけがつくよ~!」
「ええ? それじゃ、S組が有利じゃん」
「運動能力じゃかなわないしー」
とたんにブーイングが巻きおこる。
たしかにS組はめっちゃ訓練してるし、あたしはともかく、もともとすごいコたちが集まってるもんな。
しかし綾は、そんな反応は予想してましたよーって顔で、ニヤリと笑う。
「そこは考えてあるから、実際にやってみてください!」
実行委員がスタンプ用紙を配りはじめた。
代表して涼馬くんが受けとったその紙には、この山の地図がプリントしてある。
一番下の「現在地」、博物館まえ広場が、スタート地点だ。
山にのびる三本の道のあちこちに、チェックポイントをあらわす①~⑩のマークが散らばっている。
以上、それだけ。
「す、すごくザックリだね。なんにも目じるしがないんだ」
「ポイントをさがすのも、ゲームのうちなんですわ」
「なんとかなるだろ。さっき博物館の模型で、地理はだいたい頭に入れといた」
「涼馬くん、そんなことしてたのっ?」
あたしはフツーに見学を楽しんで終わっちゃったよ……っ。
そういえばこのあいだの商店街でも、入るまえに地図のカンバンをじっと見つめてたな。
万が一なにか起こったら、現場の地図が分かってるって、めっちゃ有利だもんね。
こういうふだんからの心がけも、サバイバーには大事なのか。
「さっすがリーダーだなぁ」
「さすがの涼馬さん♡」
尊敬の声が、ぴったりかぶっちゃった。
と、リリコちゃんはあたしに向かって、鼻の上にぎゅうっとシワを寄せてみせる。
この表情、ちんまり愛らしい、なにかの小動物に見えてきた。
……正直あたしは、さっきのノドカ兄のことで、モヤッとする気持ちはあるけどさ。
彼が残したメールや状況的に、そう誤解されてもしかたないのも分かる。
それになにより、あたしは兄ちゃんが逃げたわけじゃないって、信じてる。
ノドカ兄が見つかったら、リリコちゃんやプロの人たちの誤解だってとけるハズだもんね。
よしっ! と気持ちを切りかえ、大きくうなずいた。
「一位をとろうねっ。リリコちゃん、涼馬くん」
へこたれないあたしの笑顔に、二人はそろって眉を上げる。
「そうだな」
「足を引っぱらないでくださいませ? 担当ナシさん」
「が、がんばるよっ!」
どうなることやらだけど、とにもかくにも、チームうさぎ結成だ!
***
「よぉーい、どん!」
ピストルの音で、百五十人がいっせいにスタートした!
一等賞をねらうチームは、さっそく山道を全力疾走。
ハイキング気分のチームは、おしゃべりに花を咲かせつつ、のんびりと歩きだす。
我らチームうさぎは地図をかこみ、まずは作戦会議だ。
「チェックポイントは、分かりやすい場所、観光地にかぶせてるだろうな。地図模型と照らしあわせると、たぶん①は『観音洞くつ』。でかい彫刻のある洞くつだ」
「けどさ、みんなが向かっていった方角からして、①から順にまわるつもりだよね。あたしたちは逆方向から行ってみない? 混雑はさけられそうだよ」
なんたって、五十チームがいっせいに押しよせるんだもん。
きっとスタンプを押すのにも、行列ができるよね。
「そうしよう。番号順にまわれってルールはない。となると、最初にめざすべきは⑥。おそらく『ダルマ石広場』だ。ガケの上だから、ぐるりとまわり道していくことになるが、今なら空いてるだろ」
涼馬くんとうなずきあったところで。
「まわり道なんて、必要ありませんわ」
リリコちゃんがあたしたちの間に、ぐいいいっと押し入ってきた。
「橘に、いいアイディアがありまーす♡」
壮大な石の迷路の、切りたつ石カベ。
そこをはう緑のツタは、濃い夏の色。
木々にうずもれかけた石切り場は、聞いてたとおり、滅びてしまった古代の遺跡みたいだ。
「いいアイディアって、これぇ⁉」
あたしはヒィィと声にならない声をもらした。
「さっさと行ってくださる? ここでタイムロスしたら、意味ありませんから」
「マメ、気合いを入れて来い!」
さっきのリリコちゃんのアイディアっていうのが――、
このレク指定のコースは、逆N字。
登って下りて、また登って、なんてメンドーです。
だからまずは、左まわり登山道の⑥と⑦。
次は山を横ぎり、中央登山道の⑤を経由。
そのまま右まわり登山道まで突っきってしまえば、あとは道なりに①②③④、とんで⑧⑨⑩でゴールですわ。
という、たしかに最短ですよねなルート!
でもさっ。山を横ぎるって、こんな四メートル級のガケまで、直線で突っきっていくんだな⁉

あたしはンガアアアアッと叫びながら助走をつけ、
「3ッ、2、1!」
石カベを、思いっきり蹴りあげる。
ガシッ!
なんとトライ一回目にして、涼馬くんと、がっちり手をつかみ合えた!
「や、やった!」
引きあげてもらい、のぼりきったてっぺんでガッツポーズ。
前はいくら補助してもらっても手をつかめなかったのが、ウソみたいだ。
「ギリ合格」
「ありがとうございまっす!」
リーダーにOKをもらえて、あたしはうきうき気分で後ろをふり向く。
さて、次はリリコちゃんだ。
リリコちゃんはロングのワンピだし、ここは涼馬くんレベルじゃないと一人でのぼるなんて無理だよね。
持参してきたロープが役に立つかなって、リュックをおろそうとしたら――。
ダン!
真横に小さな影が着地した。
「えっ?」
目を見開いた、あたしのとなり。
まちがいない、リリコちゃんが片ヒザをついている。
い、今、助走も補助もなしで、一人で上がってきた!?
「なにをおどろいてますの?」
「だ、だって、このガケ、学校のハイ・ウォールより高いのに」
アタッカー二位の唯ちゃんだって、厳しい高さだと思うんだけど……っ。
あらためてリリコちゃんに目をうつしたら、すそを真ん中でリボン結びにして、ミニ丈にしてる。
しかも下には、スパッツを装備!
なんと準備バンゼンだった……っ!
「橘は、乙女としてもサバイバーとしても強き者! 乙女心とアタッカー精神を、両立させてきたんですわ♡」
うふっと♡を飛ばす彼女に、あたしはうなずく。
「すごくかわいいし、めちゃくちゃスゴイよ……」
「ウッソでしょ」
ガケ下から声が響いた。
いつからそこにいたのか、唯ちゃんがぽかんと口を開け、こっちを見上げてる。
チームねこも、直線キョリのガケを突破しにきたんだ。
「あ、あいつ、忍者の子孫なのか……?」
「橘さんって、キャンパーかディフェンダーじゃなかったの……?」
うてなも健太郎くんも、自分が目撃した光景を信じられずに、目をゴシゴシ。
「いや。リリコはアタッカーだ」
涼馬くんは、となりに立ちあがった彼女を横目に見やる。
「しかも、アタッカー一点特化型。現場に出るとすごい気迫だぞ。本校のS組に来るなら、これからはおれとアタッカーリーダーをうばいあう、ライバルだな」
「涼馬くんの、ライバル……⁉」
聞いたことないような言葉に、いあわせたメンバーにも衝撃が走った。
彼が成績をこされるかもって思うくらいの、アタッカー?
守ってあげたいコ一位どころじゃなかった。
涼馬くんの背中が遠すぎて、あたしは追いかけるばっかりなのに、リリコちゃんはすでに、涼馬くんから「ライバル」だと認められてるんだ……!
あたし、涼馬くんと張りあえるのは、楽さんくらいだと思ってた。
「唯さんは、五年S組の二番手から三番手に降格ですわね。ザンネンですが、これも弱肉強食です♡」
「……橘リリコ、ぜったいに負かす……!」
唯ちゃんが鬼の形相でメラメラと炎を燃やすも、リリコちゃんはガケの上から、ふんっと笑う。
なんだかスゴいことになっちゃった。
涼馬くんとリリコちゃんと唯ちゃんと、三つどもえのアタッカー一位争い。
そんなのハイレベルすぎて、ついていけないよっ。
みんなに置いてけぼりを食らいそうで、あたしはさらに胸があせりに焦がされる。
「さっ、涼馬さん。弱き者たちはほうっておいて、さっそくダルマ石のスタンプをもらいに行きましょ♡」
彼女はスキップで走りだす。
涼馬くんは息をつき、あたしは大あわてで、るんるんの背中を追いかけた。
「サバイバー!!③ 大バクハツ! とらわれの博物館」
第2回につづく