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ものがたり

新刊発売記念!「サバイバー!!② 緊急避難! うらぎりの地下商店街」第6回 大事件の、その後で


この授業、恋も授業も命がけ! ぜったいおもしろい&最高にキュンとする「サバイバー!!」シリーズ。サバイバルな学校で、成績サイアクでも夢かなえます! 角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻~第3巻が、期間限定でまるごと読めちゃうよ!(公開期限:2025年6月6日(金)23:59まで)



16  大事件の、その後で


「あらあ、フタバちゃんにうてなちゃん!」

 おばあちゃんはベッドから起きあがり、わざわざテレビを消してくれる。

 あたしたち、五年S組代表として、二人でおみまいに来たんだ。

「ほらほら、そこ座ってよく顔を見せて。おやまぁ、うてなちゃんは顔にバンソコ? フタバちゃんは腕にアザ作っちゃったのねぇ」

 おばあちゃんは、うてなのほっぺたを手ではさんだり、あたしの腕を上げたり下げたり、ディフェンダーなみの総点検だ!

「あたしたちは大丈夫です。それより具合はどうですか?」

「おばーちゃん、もう震えたりしてない? 体温もどった?」

 うてなは彼女の手をとって、脈まではかってる。

 おばあちゃんの耳には、あのお団子もようのじゃない、シンプルな補聴器が入ってる。

「元気いっぱいよ。フタバちゃんたちが、わたしを発見してくれたって聞いて、ビックリしたんだから。夢かと思ったけど、現実だったのね。ありがとうねぇ。さすがS組さんだ」

 花たばを渡すと、おばあちゃんはウフフッと、同い年の女子みたいに笑ってくれた。

「みんなは大丈夫なのかしらって、ずうっと心配してたんだよ。今日は学校、お休みなの?」

 あたしたちは、うんっと大きくうなずいた。


 商店街の浸水事件から、今日で三日目。

 S組は、なんと、きのうまで臨時休校だったんだ!

 今日は午前中だけ学校に行って、先生から事件についての話を聞いて、すぐに解散。

 授業はあしたからだって。

 七夕祭りに、プロのサバイバーへの協力に、危険生物とのバトル!

 現場でがんばったS組に、先生たちからの「ごほうび休けい」って意味もあったみたい。

 商店街に置いたままの、お祭りの機材やカンバンは、まだ受けとりに行けてない。

 あそこ、しばらく立ち入り禁止になっちゃったんだ。

 これは先生から聞いたんじゃなくって、七海さん情報なんだけど。

 地下一階の床がぬけたのは、じつはお団子屋さんだけじゃなかった。

 お団子屋さんのまわり四軒が、まるごと落ちたらしい。

 原因は、真下にナゾのトンネルが通ったせいだって。

 それって、あたしが駐車場まで落っこちた、あのウォータースライダーね。

 しかもそのトンネルこそが、貯水池へのパイプづまりの原因でもあったみたい。

 あの日、七海さんは研究チームとして、パイプの事故地点へ向かったんだそうだ。

 商店街てまえで地面がしずみこんだ現場には、やっぱり地図にない、だれが掘ったのか不明のトンネルが横断してた。

 パイプを破壊して通りすぎたのは――、たぶん、未知の危険生物だ。

 アオムシのしわざかと思ったけど、ちがうらしい。


 トンネルには、するどい、巨大なツメでひっかいたようなアトが残っていました。

 そしてケモノの茶色い毛を確認しています。一本が五十センチほど。

 おそらく、アオムシともネズミとも異なる、ベツの危険生物でしょう。


 彼女の説明を思い出して、背すじがゾッとする。

 つまり、だれもすがたを見てない三匹目が、学園都市の地下をはいずりまわってたんだ。

 ……それも、アオムシみたいに消えたのかな。

 そうだといいけど、まだ発見されてはいないって。

 とにかく、商店街地区に水が逆流しちゃったのも、その危険生物が原因だった。

 今回の浸水は、ゲリラ豪雨による自然災害ではなかったんだ。

 あの巨大な生物たちは、いったいなんなんだろう。

 七海さんは調査が進んだら教えてくれるって言ってたけど、気になってしかたない。

 S組の筋肉先生は、学校にそんな情報は入ってないぞって、ホントに知らなそうなカンジだったしなぁ。

「――フタバちゃん? どうしたの」

 考えこんじゃったあたしを、おばあちゃんがのぞきこんでくる。

 あたしはあわてて首をふった。

「や、なんでもないですっ。それより、商店街、はやく復活するといいですね」

「ああ……、それなんだけどねぇ。さっき会長さんから電話がきてね」

 おばあちゃんが重たい顔になって話すには。

 あの商店街全体が古い建物だったから、とり壊すしかないかって話が出てるみたい。

 おばあちゃんもこの機会に、お団子屋さんをやめようと思ってる――って。

「ええっ、ヤダよぉ! おばーちゃんのお団子、ボクたちもう食べらんないのっ?」

「あたしも大ファンなのに……」

 しょんぼりするあたしたちに、おばあちゃんは笑った。

「もう歳だしねぇ。そろそろやめようと思ってたトコだったのよ。あとを継いでくれるハズの娘も、いないしね」

 おばあちゃんは、ベッドサイドのたなにかざった写真たてに、そっと目を向ける。

 その手前には、壊れちゃったお団子もようの補聴器。

「あんまりムリしても、娘に怒られちゃいそうだからさ」

 写真のなかの大事な人に語りかける、優しい、でもせつない瞳。

 ……なにも言えなくなっちゃったよ。

 そしたら、ぽんぽんっと、ゲンキに頭をたたかれた。

「いっぱいお友だちさそって、おばあちゃんちに遊びにおいで。山ほどお団子こさえてあげるから! 機械なんてなくたって、みんなが手つだってくれりゃあ、たぁーんと食べられるわよ」

 あたしたちはパァッと笑顔になる。

 ありがとう! って二人でとびつき、

「あららっ」

 おばあちゃんをベッドにひっくり返らせちゃった!


   ***


 うてなとは駅まえでバイバイ。

 あたしが一人きりで向かったのは、駅の反対がわ、強勇学園ふぞくの研究所だ。

 今回は健太郎くんだけ、そこに入院してるんだ。

 無人島実地訓練のあともお世話になった場所だけど、もうひさしぶりな気がしちゃう。

 S組の仲間たちからあずかった紙ぶくろを、よっこいせっと持ちなおす。

 彼のおみまいは、一人でまかせてもらっちゃった。

 ……たぶんあたし、二人だけで話したほうがいいかなって。

 涼馬くんの「あいつ、おまえを裏切ったんだ」って言葉が、耳にのこってる。

 通りすがりの道で、ダンプカーとすれちがった。

 町はもう、復旧工事が始まってる。

 あたしは勇気を出して、巨大な、四角いビルの入り口に立つ。

 すううっと鼻から息をすいこみ、

「よっし! 行くぞ!」

 気合いとともに、うなずいたとたん。

 開いた自動ドアのむこうから、すらりとした体つきの男子二名が、こっちに歩いてきた!

「デッカいひとり言だな、マメ」

「元気そうで、なによりだねー」

「あ、あれっ⁉ 二人とも基地にいたんじゃないのっ?」

 涼馬くんと楽さん!

 彼らは学校の制服だ。

 あの日に商店街で別れて、そのまま会えずじまいだったんだけど、まさか研究所でバッタリだなんて!

 入ろうとするあたしと、出ていこうとしてた二人。

 けっきょく、受付のお姉さんに頭をさげ、ロビーのソファに座らせてもらった。

「きのうの夜、寮には帰ってたんだよ。午前中はこっちに報告に来なきゃで、またS組に出そこなっちゃったけどね」

 楽さんは自然なしぐさであたしの手首をとって、脈をカウントしてる。

 さすがはディフェンダーリーダー。

 やることがうてなと同じで、ちょっと笑っちゃった。

「そうだ、マメ。団子――、」

 涼馬くんが言いかけ、急に言葉をとめた。

 彼はやらかしたって顔で、となりの楽さんをチラ見する。

 楽さんはなぜか、盛大にニヤニヤしてらっしゃる?

「お団子、きのうみんなで食べたよ。わざわざありがとねー」

「あっ、そーいえば!」

 ゴタゴタしすぎて忘れてたけど、お祭り準備の日、おみやげを買って唯ちゃんにあずけといたんだ。

「おばあちゃん、冷凍パックのをオススメしてくれたんだけど、おいしかったですか?」

「おいしかったよ。涼馬がバクハツ起こして、半分ふっとんだけど」

「バッ、バクハツ⁉ ふっとぶ⁉⁉」

 サバイバーの出番かと思うような単語のならび!

 なんで、寮でバクハツが⁉

「涼馬、レンジのあたためスイッチを押したまま、ボーッとしてたんだよね。大丈夫かなぁってながめてたんだけど、やっぱりボンボンバンッ! って、すっごい音。S組のメンバー、みんな飛びだしてきたよねー」

「……すみませんでした」

 ニガニガしく顔をゆがめる涼馬くん。

 あたしも楽さんも、ぶふっと顔をそむけて笑っちゃう。

「めずらしく悩んでるふうだったけど。なんかあった?」

「いえ。つかれが出ただけです」

 総リーダーは心配そうに首をかたむけ、涼馬くんはいそいで否定する。

「それこそめずらしいなァ」

 楽さんは笑うけど、――あたしはドキリとしてしまった。

 涼馬くんの手が、一瞬、胸のあたりを不自然につかんだ。

 たぶん、ノドカ兄のホイッスルを。

 もしかしたら彼、あたしが「ゼッタイに本当のことを話させてやるから、見てろ!」って宣戦布告したのを、どうしようかって考えてた……とか?

「あのっ!」

 ガマンできず、ズバッと手をあげる!

「涼馬くん、まだですかっ⁉」

 今回いっしょにアオムシと戦って、信頼関係、ぐんっとUPしたと思うんだけど!

 目をキラキラさせるあたしとは逆に、涼馬くんはシラッとする。

「ぜんぜんまだだ。バァカ」

「うぐぅ」

 ぜんぜんまだ、かぁ。

 塩味キッツいけど、あたし、ますますがんばらないとなぁ。

「なんなのその、二人っきりのヒミツの会話。仲よしだねー」

「「そ、そういうワケじゃっ」」

「ぼくは仲間はずれだから、先に帰ーえろっ♪」



 あわてるあたしたちに、スネたふりした楽さんは、笑いながら立ち上がった。

「マメちゃん、健太郎くんに会いに来たんでしょ? 涼馬が部屋まで案内してあげな」

「おれ、北村さんに『仲間を甘やかすな』って怒られたトコなんですけど」

「ほっとくと、このコまたつっ走りそうだから。まかせたよー、涼馬」

 ぱちんっとウィンクを残して、彼は自動ドアをくぐっていっちゃう。

 ゆる~い楽さんを見ると、日常にもどって来られたんだなーって、安心しちゃうな。

 視線を前にもどすと、涼馬くんがタメ息ついてる。

「ほんっと、楽さんの言うとおりだよな」

「なにが?」

「双葉マメから目をはなすと、とんでもないコトになるって話だよ」

 つむじをビシッとチョップされてしまった。

 塩鬼アタッカーのその攻撃が、けっこうエンリョなくって。

 あたしはかえって、うれしくなってしまった。


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