15 光をとりもどせ!
「ゴーッ!」
楽さんがガレキのカケラをつかみ、アオムシの目をねらって投げつける!
ずどぉぉんっ!
おかげで、落ちてきたカラダはわずかに軌道がそれたっ。
あたしのおなかのスグそこに、アオムシの顔。
ショッカクが水面を這ってうごめく。
ぞぞぞっと鳥ハダが立った。
「退くぞ!」
楽さんの号令に、アタッカーたちが、みんなを守るために前へ出た。
「健太郎くん、行こう!」
うてなと二人がかりで肩を組み、彼を引きずろうとする。
だけど、本気の力でふりほどかれた。
「ケンタロ!」
彼は全身ずぶぬれで立ちあがり、またふらふら、アオムシのほうへ歩いていこうとする!
「健太郎くんっ、しっかりして! あたしを見てっ!」
両肩をつかみ、ガクガクゆさぶる。
瞳に残ったわずかな光をつかまえようと、あたしは必死にのぞきこむ。
「……めてよ。オレは、いいから……。もう消えていいから」
「なにそれ。消えていいって、死んでもいいってこと⁉」
目の前が怒りでカッと熱くなる。
やめてよ、そんなこと言わないでよ。
遠くに行ってしまったノドカ兄や親の笑顔が頭をよぎる。
自分が消えていいなんて、悲しませる人がいるかぎり、言わないで!
あたしはすううっと息を吸いこみ、
「自分をあきらめるな! 白井健太郎!」
ひっぱたくくらいのつもりで、正面から言葉をたたきつけた。
ウツロな目の焦点が、ぱっとあたしに定まった。
「ふたば……さ……?」
「そう、そうだよ健太郎くんっ。あたしを見て! 大丈夫、健太郎くんはサバイバーになれる。だから大丈夫だよ」
あたしはしっかり、きっぱりと言いきる。
さっきから「もうサバイバーになれないから、消えたい」って言ってるんだよね?
でも健太郎くんは、あたしよりずっと成績もよくて、勉強もがんばってて。
現場で勝手に動きまわろうとするあたしを、止めようとしてくれる理性もあって!
あたしは全力で、彼の瞳をつかまえ続ける。
「あたしは健太郎くんと仲間でいたい! いっしょになろう! サバイバーにっ!」
「そーだよっ。ケンタロは、ボクのディフェンダーのライバルだろっ!」
「マメ、うてな!」
涼馬くんが声をあげた。
ふり向けば、千早希さんと唯ちゃんが、こっちへ飛びこんでくる。
その背後に、ふたたび身をふり上げたアオムシがせまった!
「涼馬、行け!」
「はい!」
楽さんが消火器ボンベを支える。
「顔のヒゲをねらってください! 感覚がニブります!」
七海さんの、メガホンごしのアドバイス。
涼馬くんはホースをアオムシに向け、一気にレバーをにぎった。
ぶしゃああっ!
みごとな連係プレーで、まっしろなアワがアオムシの横面に命中した。
ドッと巨体がたおれたとたんに、健太郎くんが全身をわななかせる。
まるで、自分が痛かったみたいに……!
やっぱりアオムシと健太郎くん、つながってる⁉
なんでそんなコトが起こるの⁉
「うてな、行こう!」
考えるのはあとだっ。あたしたちが退かないと、涼馬くんたちも逃げられない!
アオムシは、またゆうらりと身を起こす。
二人で健太郎くんの肩を左右からすくいあげ、引きずろうとする。
するとまた、バシッと手をはらわれた。
だけど。
あたしたちをふりはらった彼の顔が、ちゃんと、健太郎くんの顔で。
立ち上がってアオムシへ向かっていくのを、……そのまま見送ってしまった。
「――双葉さん、オレね」
「う、うん」
ふり向かずに語る声も、いつもの彼だ。
「現場に出たら、はやく逃げたいしか考えられなくなっちゃうんだ。さっきもそれで、……双葉さんを、裏切った」
「はぁっ⁉ ケンタロ、マメちゃんを裏切ったって、どーいうコトだよっ」
遠ざかっていく彼の背に、うてなが地団太をふむ。
「健太郎、さがれ!」
涼馬くんに怒られても、彼は前へ歩きつづける。
「無人島に行ってから、ずっと自分が情けなくて――っ」
アオムシはかま首をもたげ、大アゴを開く。
健太郎くんの頭を、一発で噛みちぎれるような大きさだ……っ。
「ほんとはオレだって、涼馬みたいにみんなを守って戦いたい。オレだって、双葉さんみたいに、あきらめたくない」
彼は楽さんからボンベをうばいとる。
そして両手でそれを振りかぶると、
「――もうっ! こんな自分は、イヤなんだよぉっ!」
思いっきり、アオムシの顔面に投げつけた‼
バシャッ……!
ハデな音と水しぶきをあげたボンベは、アオムシに届かず、中途ハンパなところで、水のなかに沈んでいく。
そ、そりゃそうだ。ボンベなんて、米粉ぶくろなみに重たいものっ。
――と、彼の真上に、アオムシの影がズンッとおおいかぶさる!
ヤバイ! 健太郎くんが食われる‼
あたしたちは、いっせいに彼のところへダッシュする!
だけど。

「え?」
四方八方から彼に飛びついたあたしたちは、ぽかんとして、左右を見まわした。
なにも、いない。
アオムシがいたはずの空間には、くずれたガレキ。
後ろのカベには、すべり台になってるトンネルの大穴。
涼馬くんと楽さんが、穴のおくをのぞきこむ。
だけど「いない」って首を横にふる。
「消え、た?」
「なんだったのさ……」
あたしとうてなが、ぽつりとつぶやいたとたん。
バシャッと水音をたてて、健太郎くんが地面にたおれこんだ。
「サバイバー!!② 緊急避難! うらぎりの地下商店街」
第6回につづく