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ものがたり

新刊発売記念!「サバイバー!!② 緊急避難! うらぎりの地下商店街」第5回 未知の巨大生物、第二弾⁉

15  光をとりもどせ!

「ゴーッ!」

 楽さんがガレキのカケラをつかみ、アオムシの目をねらって投げつける!

ずどぉぉんっ!

 おかげで、落ちてきたカラダはわずかに軌道がそれたっ。

 あたしのおなかのスグそこに、アオムシの顔。

 ショッカクが水面を這ってうごめく。

 ぞぞぞっと鳥ハダが立った。

「退くぞ!」

 楽さんの号令に、アタッカーたちが、みんなを守るために前へ出た。

「健太郎くん、行こう!」

 うてなと二人がかりで肩を組み、彼を引きずろうとする。

 だけど、本気の力でふりほどかれた。

「ケンタロ!」

 彼は全身ずぶぬれで立ちあがり、またふらふら、アオムシのほうへ歩いていこうとする!

「健太郎くんっ、しっかりして! あたしを見てっ!」

 両肩をつかみ、ガクガクゆさぶる。

 瞳に残ったわずかな光をつかまえようと、あたしは必死にのぞきこむ。

「……めてよ。オレは、いいから……。もう消えていいから」

「なにそれ。消えていいって、死んでもいいってこと⁉」

 目の前が怒りでカッと熱くなる。

 やめてよ、そんなこと言わないでよ。

 遠くに行ってしまったノドカ兄や親の笑顔が頭をよぎる。

 自分が消えていいなんて、悲しませる人がいるかぎり、言わないで!

 あたしはすううっと息を吸いこみ、


「自分をあきらめるな! 白井健太郎!」


 ひっぱたくくらいのつもりで、正面から言葉をたたきつけた。

 ウツロな目の焦点が、ぱっとあたしに定まった。

「ふたば……さ……?」

「そう、そうだよ健太郎くんっ。あたしを見て! 大丈夫、健太郎くんはサバイバーになれる。だから大丈夫だよ」

 あたしはしっかり、きっぱりと言いきる。

 さっきから「もうサバイバーになれないから、消えたい」って言ってるんだよね?

 でも健太郎くんは、あたしよりずっと成績もよくて、勉強もがんばってて。

 現場で勝手に動きまわろうとするあたしを、止めようとしてくれる理性もあって!

 あたしは全力で、彼の瞳をつかまえ続ける。

「あたしは健太郎くんと仲間でいたい! いっしょになろう! サバイバーにっ!」

「そーだよっ。ケンタロは、ボクのディフェンダーのライバルだろっ!」

「マメ、うてな!」

 涼馬くんが声をあげた。

 ふり向けば、千早希さんと唯ちゃんが、こっちへ飛びこんでくる。

 その背後に、ふたたび身をふり上げたアオムシがせまった!

「涼馬、行け!」

「はい!」

 楽さんが消火器ボンベを支える。

「顔のヒゲをねらってください! 感覚がニブります!」

 七海さんの、メガホンごしのアドバイス。

 涼馬くんはホースをアオムシに向け、一気にレバーをにぎった。

   ぶしゃああっ!

 みごとな連係プレーで、まっしろなアワがアオムシの横面に命中した。

 ドッと巨体がたおれたとたんに、健太郎くんが全身をわななかせる。

 まるで、自分が痛かったみたいに……!

 やっぱりアオムシと健太郎くん、つながってる⁉

 なんでそんなコトが起こるの⁉

「うてな、行こう!」

 考えるのはあとだっ。あたしたちが退かないと、涼馬くんたちも逃げられない!

 アオムシは、またゆうらりと身を起こす。

 二人で健太郎くんの肩を左右からすくいあげ、引きずろうとする。

 するとまた、バシッと手をはらわれた。

 だけど。

 あたしたちをふりはらった彼の顔が、ちゃんと、健太郎くんの顔で。

 立ち上がってアオムシへ向かっていくのを、……そのまま見送ってしまった。

「――双葉さん、オレね」

「う、うん」

 ふり向かずに語る声も、いつもの彼だ。

「現場に出たら、はやく逃げたいしか考えられなくなっちゃうんだ。さっきもそれで、……双葉さんを、裏切った」

「はぁっ⁉ ケンタロ、マメちゃんを裏切ったって、どーいうコトだよっ」

 遠ざかっていく彼の背に、うてなが地団太をふむ。

「健太郎、さがれ!」

 涼馬くんに怒られても、彼は前へ歩きつづける。

「無人島に行ってから、ずっと自分が情けなくて――っ」

 アオムシはかま首をもたげ、大アゴを開く。

 健太郎くんの頭を、一発で噛みちぎれるような大きさだ……っ。

「ほんとはオレだって、涼馬みたいにみんなを守って戦いたい。オレだって、双葉さんみたいに、あきらめたくない」

 彼は楽さんからボンベをうばいとる。

 そして両手でそれを振りかぶると、


「――もうっ! こんな自分は、イヤなんだよぉっ!」


 思いっきり、アオムシの顔面に投げつけた‼



バシャッ……!

 ハデな音と水しぶきをあげたボンベは、アオムシに届かず、中途ハンパなところで、水のなかに沈んでいく。

 そ、そりゃそうだ。ボンベなんて、米粉ぶくろなみに重たいものっ。

 ――と、彼の真上に、アオムシの影がズンッとおおいかぶさる!

 ヤバイ! 健太郎くんが食われる‼

 あたしたちは、いっせいに彼のところへダッシュする!

 だけど。



「え?」

 四方八方から彼に飛びついたあたしたちは、ぽかんとして、左右を見まわした。


 なにも、いない。


 アオムシがいたはずの空間には、くずれたガレキ。

 後ろのカベには、すべり台になってるトンネルの大穴。

 涼馬くんと楽さんが、穴のおくをのぞきこむ。

 だけど「いない」って首を横にふる。

「消え、た?」

「なんだったのさ……」

 あたしとうてなが、ぽつりとつぶやいたとたん。

 バシャッと水音をたてて、健太郎くんが地面にたおれこんだ。


「サバイバー!!② 緊急避難! うらぎりの地下商店街」
第6回につづく


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