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ものがたり

新刊発売記念!「サバイバー!!② 緊急避難! うらぎりの地下商店街」第4回 おばあちゃんはどこ⁉


この授業、恋も授業も命がけ! ぜったいおもしろい&最高にキュンとする「サバイバー!!」シリーズ。サバイバルな学校で、成績サイアクでも夢かなえます! 角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻~第3巻が、期間限定でまるごと読めちゃうよ!(公開期限:2025年6月6日(金)23:59まで)



10  おばあちゃんはどこ⁉


 あたしと健太郎くんは、一路、ナカムラ団子をめざす!

 地下一階の水の高さは、まだスネの真ん中くらいだ。

 いそげば、みんなに追いついて、ちゃんと脱出できる。

 あたしだってもちろん、犠牲になるつもりなんてない。

 だけどもうちょっとだけ、ねばらせて!

 シャッターを開けっぱなしの店は、中まで水が入ってる。

 お団子屋さんは、地上も地下もしっかりふさいできたから、無事だと思うけど……っ。


 そうタカをくくってたのに。

 たどり着いたお団子屋さんで、あたしたちは異様なモノを目にした。

 シャッターが、真ん中からたわんでる。

 ゆがんだ下のスキマから、水がジャバジャバとイキオイよく、たえまなく噴きだしてる。

 作業場にたまった水が重たすぎて、シャッターを押しまげてるんだ。

 言葉もなく、一歩足をひく。

 こんなふうにシャッターが曲がるほど、水がたまってるって……っ。


 お団子屋さんだけ、水没してる⁉



「な、なんでっ!」

「どこからか水が入ったのかな。上の階の、お団子売り場のほうからか?」

「健太郎くん、行ってみよう!」

 のぼってきたばかりの階段にもどり、さらにもう一階上へ!

 手すりをたよりに滝の流れにさからい、地上へ出た。

 ひさしぶりの高いアーケードの下。足で水をかきながら、お団子屋さんまでたどりついた。

 売り場のガラス戸にはりついて中をうかがうと――、

「電気がついてる!」

 蛍光灯が、なぜかお店の天井でこうこうと光ってる。

「あたしたち、明かりは消してから避難したよね⁉」

「う、うん。それに地下があれだけ水びたしなら、配電盤の安全そうちが、電気を自動で止めるはずだよ。まさかその機械が、古すぎて壊れちゃってるとか……⁉」

「――そうかもだけど、それより! 明かりをダレかがつけたなら、おばあちゃんだよ! やっぱりもどってきてるんだっ!」

 バッと足もとに視線を落とす。

 ガラス戸の前、土のうがわりの米粉ぶくろは、ズラッと並んだままだ。

 あたしたちが出ていくときに貼った、「避難しました」のシールもそのまま。

「ドアを開けたようすはないよ。蛍光灯は消し忘れだって」

「……イートインコーナーの奥に、裏口のドアがあったよ。商店街の外通りに出るドア。おばあちゃんだけじゃ、ここの土のうをどかすのは大変だもん。そっちに回ったのかも!」

「ええっ⁉ 待ってよ双葉さん!」

 あたしはお団子屋の前をはなれ、全力で駆けだす!

 するとすぐ、並んだお店のあいだに、外通りにつながる小道を発見した。

 おばあちゃんもきっと、このルートでお店の裏口へ向かったんだ。

「うわ、外もスゴイ……!」

 どしゃぶりの雨のなか、商店街の外の車道は、まるで川だ!

 マンホールが噴水みたいな水柱を作ってる。

 視界のぜんぶが、水のなか!

 健太郎くんも追いついてきた。

 頭や肩を雨に打たれながら、腕で目をかばい、お団子屋さんの裏口を探す!

 木のドアの表札に、「ナカムラ団子」って書いてあるのを見つけた。

 ドアに、内がわに置いといたはずの、米粉ぶくろがハサまってる。

 きっと、ドアが勝手に閉まらないようにしておいたんだ。

 だけどそのスキマから、川みたいな車道の水が、ごぽごぽ音をたてて店に流れこんでいく。

 お店の水没は、ここが原因だったんだ。

 それに――、もう確定だよ。

 おばあちゃん、ほんとにもどってきてる……!

 首すじに、雨と冷やアセがいっしょになって伝い落ちる。

「行こう!」

 あたしは気合いを入れ、ドアの奥へ身をすべりこませた。

「おばあちゃーん! いますかーっ⁉」

「S組です! 返事してくださーい!」

 大声でさけびながら店にふみこみ、ぐるりと見まわす。

 カラーボックスや座ぶとんが、水にぷかぷか浮いて流れてきた。

 大きな食器だなまで水の流れに押されて、ナナメに動いてる。

 かわいいお店がめちゃくちゃだよ。

 ついさっきまでお茶を飲んでた場所が、ウソみたいだ。

 レジの裏や、イートインコーナーのテーブルの下をさがすけど、おばあちゃんは見当たらない。

 また避難所にもどってくれてるなら、いいんだけど……っ。

「おばあちゃーん!」

 ライトを地下の階段へ向けたあたしは、ザッと全身の毛を逆立てた。

 いた!

 おばあちゃんが、階段の下で、カベにもたれてグッタリしてる!

 悲鳴が口からこぼれそうになるのをガマンして、手すりをつかみ、着実に彼女に近づいていく。

「救けに来たよ! もう大丈夫っ! 安心して!」

 ここの階段も水しぶきをあげる滝だ。

 おばあちゃん、のぼろうとして転んじゃったんだ。

「S組・白井双葉ペアから、応援をたのみますっ。要救助者を発見。ナカムラ団子、お年寄りの女性。北エリア中央より一軒めです」

 健太郎くんが無線を入れてくれる。

「中央基地っ? 応答ねがいます! 応援をたのむ、ナカムラ団子!」

「健太郎くん、どうしたのっ?」

「ダメだ、ちゃんと届いてるか分からない。混線してるのかな。ノイズの中で、変なことばっかり言ってるんだ。『地図にないトンネルがある』とか、『大きなケモノのツメのあとが』とか」

「お、大きなケモノ……⁉」

 あたしたちの脳裏に、たぶん、同じ光景が浮かんだ。

 実地訓練の無人島に現れた、あの巨大ネズミ。

 だっ、だけど、今はそんな話をしてる場合じゃない!

 おばあちゃんの前までたどり着いたあたしは、彼女の顔を両手ではさみ、ぐいっと目をのぞきこむ。

「おばあちゃん!」

「……あらあ、フタバちゃん……」

 よかった、意識はある!

 でも声に力がないし、あたしを見てるようで見てない。

 それに肌が氷みたいに冷たい。

 となりに下りてきた健太郎くんが、パッと彼女の手首をとり、脈をはかりだす。

「脈が弱い。たぶん体温は30度くらいまで落ちてるよ」

 はやく病院に送らなきゃ、命にかかわる!

 あたしはケガがないか全身に目を走らせる。

 腕に、なにかしっかりと抱えこんでる。

 写真たてだ。

 娘さんといっしょにニコニコうつってる、このまえ見せてもらった、あの。

「双葉さん、はやく運びあげるよ! 水がこれ以上たまったら、オレたちも脱出不可能になる!」

「あ、う、うん。――おばあちゃん、痛いところはありますかーっ?」

 あたしは補聴器なしでも聞こえるように、耳の近くで大きな声を出す。

「だいじょうぶよ……」

「ちょっと動かしまーす! あたしが上半身、健太郎くんは足をおねがい」

 落ちつけ、あたし。

 サバイバルの五か条、「最初に、そして常に心をしずめろ」だ!

 健太郎くんが、おばあちゃんの右足と左足をクロスさせる。

 ヒザのうらと足首に腕をまわし、準備オッケー。

 あたしもおばあちゃんの背中から、ワキの下に腕をいれて、

「「せーのっ!」」

 声を合わせて、持ちあげる!

 小ガラなおばあちゃんだけど、全身の服が水をすってる。

 しかも脱力してるオトナは、やっぱり重たいっ。

 頭を先に、足を後に。

 階段を一段一段、ゼッタイにすべらないよう、慎重にふみしめる。

 おばあちゃん、必ず救けるからね。大丈夫だからね。

ぼちゃんっ。

「あっ!」

 写真たてがおばあちゃんの手からすりぬけ、階段を落っこちていく。

 せっかく取りにもどった、大事な写真なのに!

「双葉さん、集中して!」

 流れ落ちていく写真たてから目を引きはがし、なんとか上までのぼりきった。

 ホッと息をつく間もなく、あたしはおばあちゃんの体を健太郎くんにあずける。

「すぐもどる!」

「えっ」

 ふたたび階段を駆けおり、とちゅうに引っかかってた写真たてをつかみとった!

「双葉さん! ヤバイよ、はやくっ!」

 上から、健太郎くんのせっぱつまった声!

 あたしはダッシュで階段をのぼる。

 おばあちゃんを背おった健太郎くんが、腕を伸ばしてくれた。

「要救助者、もう一名カクホだよっ!」

 娘さんの写真をぱしっと渡す!

 ――その時だ。

 健太郎くんの上に、なにか、大きな影が落ちた。

 ハッと横を見やった彼は、あわてて腕を引っこめる。

 あたしはつんのめって階段に両手をつく。

「うわあ‼」

 上から悲鳴が響いたと同時、水のかたまりがふり落ちてきた!

「ひえっ!」

 頭から浴びせかけられ、足がすべる。


   バシャンッ!

 ――気づけばあたし、階段の一番下で尻もちをついてた。

 ケガは……してないみたい。

 下にたまってた水がクッションになってくれたんだ。

 階段上の真っ暗闇から、健太郎くんの声がとぎれとぎれに聞こえてくる。

 あたしは大あわてで立ち上がり、階段を駆けのぼる。

 だけど、出口がない!

 木の板でみっちりふさがれてる。

「な、なにこれ⁉」

 手のひらでなでてみると、ざらざらした板の質感。

 これ、たぶん売り場にあった大きな食器だなだ。

 水で浮いて、たおれこんできたのか。

 それがちょうど、地下室の出口にのっかって、ピッタリふさいじゃった?

 ってことは、これってつまり、


 あたし、閉じこめられた‼


 毛穴がぶわっと開き、アセが噴きだした。

 こぶしを真上にたたきつけてみたけど、たなはビクともしない。

 こめかみからにじんだアセが、ぼたぼた下に落ちる。

   バチッ! バチバチッ!

 いきなりカミナリみたいに、真横のカベが光った!

「ひゃあっ!」

 次の瞬間、ふつっと作業場の蛍光灯が切れた。

 ――周囲を確認する間もなく、あたりが一面、闇にのまれた。

「な、なに……っ」

 しばらくそのまま身をすくめてたけど……。

 ぎこちなく首をめぐらせる。

 ヘッドライトのまるい明かりが、カベの配電盤ボックスを浮かびあがらせた。

 今のなにかハジけるような音。それに、コゲたにおい。

 配電盤がショートした?

 ボックスのフタを開けてみたら、焼けたにおいが強くなった。

 どこかダメになっちゃったんだろうけど、あたしには修理なんてできない。

 ならもう、明かりはつけられない?

 ――救けて!

 ノドの奥から、その言葉が突きあげてくる。

 だけど歯を食いしばって、なんとかこらえた。

 あたしをここから救けだすのは、健太郎くん一人じゃ時間がかかる。

 おばあちゃんは一刻もはやく、病院に運ばなきゃいけないんだ。

「健太郎くん、行って! おばあちゃんを救けてあげて!」

 彼がなにか大声でさけんでるけど、ぜんぜん聞きとれない。

 その後すぐに、シンと静まりかえった。

「行って、くれた……のかな」

 たなから手をはなし、一歩さがった。

 食器だながスキマなくのっかってるおかげで、階段を流れる水は止まってる。

 密室でおぼれる危険は、ひとまずない?

 酸素も大丈夫だよね。

 地下一階のシャッターがゆがんで、上にもスキマができてたもの。

 息はできるし、階段に座っていれば、水につからないですむ。

 だいぶラッキーだ。

 健太郎くんが応援を連れてきてくれるまで、じゅうぶんに待てる状況だよ。

 あたし、無人島からでもしっかり生きぬいて還ってきたんだから、大丈夫。

 ちぢこまった肺で、むりやり大きく深呼吸をする。

「五か条の『バ』、場所と状況を確かめろ、だよ」

 足もとに気をつけながら、地下のフロアへおりてみた。

 ヘッドライトの光に照らされた作業場は、一面に黒い水がたゆたってる。

 お団子用の機械は、半ぶんの高さまで水没してる。

 たぶん、あたしの腰くらいかな。

 シャッターの上のスキマは、十センチくらいあるかないか?

 あそこから脱出できるかなって思ったけど、……やめとくべきだよね。

 下のほうはもっとスキマがあったけど、水の中をもぐらなきゃだ。

 上下どっちを選んでも、ハサまっちゃったら、救けが来るまえに大ケガするかもしれない。

「最初に、そして常に心をしずめろ」

 階段に座りこんで、体力を温存だ。

 ライトを上に向けて階段に置くと、光が天井にハネかえり、ぼんやり明るくなった。

 静かになると、とたんに恐怖がこみあげてくる。

 健太郎くんにさんざん止められて、北村さんにも迷惑かけるって分かってたのに、ムチャした天罰だよ。

 おばあちゃんを救助できたまでは、まだよかったとしても。

 写真たては、よけいだったかな。

 ……でも、おばあちゃんが大事に抱きしめてたのを見ちゃったら、取りに行かずにいられなかったんだ。

 あたし、バカだな。

 あとちょっとって時の油断が危ないって、もう学んでたはずなのに。

 蛍光灯をつけたい。暗いのはイヤだ。

 でも、できないんだ。

「……ノドカ兄……」

 あたしは震える手で、自分自身のカラダを抱きしめた。


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