14 いどめ、地下バトル!
「マメちゃん、いたぁ! 七海さんがねっ、『危険生物が商店街を通るかも』って、無線で情報をくれたんだ! それで、さがしにきたんだよぉ!」
「うてなちゃん、どいて!」
楽さんがスキマから、上半身を押し入れてきた。
彼はあたしたちとつな引きしてる巨大アオムシに、ぎょっと目を見開く。
けれどすぐに事態を理解したのか、機械に飛びのってナイフをぬいた。
「ロープを切りはなす! 衝撃にそなえろ!」
「「了解!」」
階段がわからも、足音とともに唯ちゃんとナオトさんが突入してきたっ。
「涼馬くん! マメちゃん!」
「水にふれるな! その電気ケーブル、生きてるぞ!」
涼馬くんの声に、唯ちゃんがバッとしゃがむ。
ケーブルのゴムの外皮をつかまえ、水につかった先っぽを引きあげてくれた。
これでもう、感電はまぬかれたっ?
「マメちゃんっ、手ッ!」
シャッターの間から、うてなが腕をのばしてくる。
あたしたちは左右の手首を、ガシッとつかみあう。
そのうてなの上半身を、千早希さんがうしろから抱えてふんばる。
仲間たちが命をはって、あたしを救けようとしてくれる――っ!
目の奥と胸がカァッと熱くなる。
ぶつっ。
ついに、ロープが切れた!
あたしは反動で、うてなとオデコを激突させた。
「「あぐっ!!」」
悲鳴をあげてる場合じゃないっ!
アオムシのほうも、もんどりうってひっくり返る。
床に打ちつけられた巨体に、部屋中の水がハネあがった。
大つぶの水が、豪雨みたいに降りそそぐ。
「退くぞ!」
楽さんの号令に、あたしも涼馬くんも、水しぶきの中で体勢を立てなおす。
だけどシャッターをくぐろうとした、その時。
下から地響きが突きあげた!
「なに⁉」
ぐらっと視界がかたむき、足場の機械もいっしょにたおれこむ――っ!
上にのってたあたしたち三人は、次々に水へ落っことされた。
ぶはぁっ!
水面に顔を出すと、しぶきのむこうで、アオムシの大きな体が不自然に下へめりこんでいく。
床がぬけて、大穴が空いたんだ!
「うそぉ!」
水がウズを巻き、部屋の真ん中に集まっていく。
目をうたがう間にも、アオムシは水とともに穴へのまれた!
楽さんも水面から姿を消し、あたしたちも――!
「マメちゃぁーんっ!」
シャッターのむこうに響くうてなの絶叫を最後に、ガボッと水の下へ!
水中で涼馬くんに頭を抱きこまれた。
あたしも彼の頭を守ろうと、無我夢中で抱きしめかえすっ。
そこからは、まるでウォータースライダーだ!
はげしく流れる水に乗り、真っ暗な穴を、ぐんぐんナナメ下へとすべっていく。
「どわあああぁぁぁぁぁ~~っ!」
背中をうつ、ゴツゴツした岩。
速くて暗くてさっぱり見えないけど、これ、なんの穴だ⁉
駐車場は南エリアの下だけで、お団子屋さんの地下って、なんにもないハズだよね⁉
そんなことを考える間に、水の地下すべり台は、とうとつに終わった。
イキオイよく穴から吐きだされ、ヒュッと胃が持ちあがる。
落ちるっ!
ぼよんっ。
おしりで着地したのは……、やわらかいクッションの上?
「な、な、な……っ?」
目のまえに開けた景色に、アゴがかくんと落ちた。
広くて薄暗い空間に、黒い水につかった車が整列している。
駐車場だ!
あたしたち、南エリアの地下二階まですべってきたのか!
ふり向けば、コンクリのカベをえぐって幅二メートル近い穴があいてる。
ここから飛びだしてきたんだよね?
穴からは、まだ水がザバザバと流れおちてくる。
「さっき人命検索したときは、こんなのなかったよね」
「ああ。カベの向こうに、妙な音と振動は感じてたが……」
二人で身をはなしつつ、髪からしたたる水をぬぐう。
ちょっと先のほうで、楽さんが水の中から立ちあがった。
「痛てて。マメちゃんも涼馬も、無事?」
「「はいっ」」
「いったいどうして、こんなトンネルが――、」
こっちをふり返った楽さんが、あからさまに顔をこわばらせた。
あたしも床に手をついたつもりが、ぐにっと、…………みょうなカンショク。
目を下に落としたら、緑色のクッション?
ってか、
「アオムシ‼」
ぎゃああっと飛びのこうとしたトコで、
「ひぇぇぇえええええええ~~~~っ!」
背後の大きな穴から、またなにか近づいてくる!
悲鳴といっしょに、うてなにナオトさん、千早希さんに唯ちゃんが、続々とアオムシのうえに着地。
みんな、ワザとこっちに来ちゃったの⁉
「中央司令基地へ、研究チーム・六年S組の月城七海より報告です」

今度はボソッとちっちゃな声が、あたしたちの背後、車と車のあいだから聞こえた。
現れたのは、メガホンを首からさげ、無線のマイクを手にした――、お人形さんみたいにキレイな女子。
七海さんだ!
彼女はあいかわらずの無表情で、あたしたちの前に立ちどまった。
「未知の危険生物がつくったと思われるトンネルから、S組のゆくえ不明メンバー、七名を発見。彼らがアオムシ型の巨大生物をカクホしています。南エリア駐車場、中央階段ワキへ、応援をたのみます。以上」
彼女はポカンとするあたしたちを、ぐるりと見まわしたあとで。
下でのびてるアオムシを、興味ぶかそうにながめた。
「みなさん。威かく用のショッカクが出ています。ソレ、まだ生きてますよ」
いやにハッキリと聞こえた、彼女の言葉。
アオムシの脚がぐわっと広がり、地面に突きたつ!
みんな同時に、その場から飛びのいた!
***
前脚をふんばったアオムシが、頭をふり上げる。
楽さんがナイフをかまえた。
涼馬くんは消防設備から消火器を取る。
「楽さん。こいつ、ナイフの刃も立ちませんでした」
「マジで? キビしいなぁ。じゃあ一斉攻撃でタイミングつくって、逃げるしかないか」
あたしたちもそれぞれ、コンクリブロックやガレキを持ちあげる。
「……注意。ねらって、一息にいこう」
涼馬くんがキョリをはかりながら、低く言う。
アオムシがグパァッとアゴを開く!
「ゴ、」
かけ声が、来る! ――と思ったら、急に止まった。
どうしたのって聞くまでもなく、あたしも動きを止める。
すぐワキを、ふらりと人影が横ぎった。
Tシャツの背中に、「五年S組」の文字と、お団子のイラスト。
彼はおぼつかない足どりで水をかきわけ、アオムシのほうへ歩いていく。
「健太郎くん……?」
異様なようすに、声が細くなった。
千早希さんもポカンとして彼を見送る。
「なんでこんなところにいるの。さっき、急にたおれちゃって、プロのディフェンダーにあずけてきたのよ」
「ケンタロ! 待ちなって!」
うてなが彼の肩をつかむ。
ゆっくりと見返った顔は、青白い。
それに目がギラギラと、ケモノみたいに光ってる。
「……オレは、ダメだから……」
ぽつり、意味の分からないことをつぶやいた。
正気じゃない?
だけどあたし、この表情に見おぼえがあるよ。
実地訓練で大ネズミから逃げようとしてた時、うてなが変になっちゃった表情と同じだ……っ。
健太郎くんの視線のさきは、アオムシだ。
アオムシのほうも首をもたげたまま、彼を見下ろしてる。
二人の視線が、引きあうようにぶつかってる。
「――ダ、ダメッ!」
わけが分からないけどっ、とにかくダメだ!
あたしは直感だけで彼に飛びつき、頭を抱きこんで視線をさえぎる。
「マメちゃん、そのまま捕まえてて! 行くぞ!」
楽さんの合図で、みんながアオムシに武器をかまえなおす!
あたしの腕のなかで健太郎くんがもがいてる。
「オレはもう、……イバーに……れないからっ」
な、なに? 今なんて?
サバイバーになれないって言った?
とにかく、アオムシから遠いところに離したほうがいい!
「健太郎くん、行こう!」
「……やだ。もういいよ……っ。オレ、むいてないから……」
引っぱったら、彼はかくんっとその場にヒザをついちゃった。
胸まで水につかって、そのまま動いてくれない。
「しっかりしてっ。どうしたの⁉」
「オレ、むいてないから……。消えたほうがいいんだ……」

ついさっきギラギラ光ってた瞳が、今度はウツロになっていく。
なにこれっ、ホントに消えちゃいそうだよ……⁉
彼はあたしの肩ごしに、アオムシを見つめちゃってる。
「ねぇ、うてなもこうだったよね。大ネズミと視線をかわしてるうち、目から光が消えていって。
アオムシと健太郎くん、大ネズミとうてなもっ、まるでつながってるみたいじゃない……⁉」
あたしの震え声に、みんな一瞬ハッとして、こっちを見る。
けど、そんなことを考えてる場合じゃなかった。
キュイィィィィッ――――!
真上から、ぼたぼた水が落っこちてくる!
見上げたら、アオムシが半身を持ちあげ、あたしたちをツブそうとしていた。