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ものがたり

新刊発売記念!「サバイバー!!② 緊急避難! うらぎりの地下商店街」第5回 未知の巨大生物、第二弾⁉

14  いどめ、地下バトル!

「マメちゃん、いたぁ! 七海さんがねっ、『危険生物が商店街を通るかも』って、無線で情報をくれたんだ! それで、さがしにきたんだよぉ!」

「うてなちゃん、どいて!」

 楽さんがスキマから、上半身を押し入れてきた。

 彼はあたしたちとつな引きしてる巨大アオムシに、ぎょっと目を見開く。

 けれどすぐに事態を理解したのか、機械に飛びのってナイフをぬいた。

「ロープを切りはなす! 衝撃にそなえろ!」

「「了解!」」

 階段がわからも、足音とともに唯ちゃんとナオトさんが突入してきたっ。

「涼馬くん! マメちゃん!」

「水にふれるな! その電気ケーブル、生きてるぞ!」

 涼馬くんの声に、唯ちゃんがバッとしゃがむ。

 ケーブルのゴムの外皮をつかまえ、水につかった先っぽを引きあげてくれた。

 これでもう、感電はまぬかれたっ?

「マメちゃんっ、手ッ!」

 シャッターの間から、うてなが腕をのばしてくる。

 あたしたちは左右の手首を、ガシッとつかみあう。

 そのうてなの上半身を、千早希さんがうしろから抱えてふんばる。

 仲間たちが命をはって、あたしを救けようとしてくれる――っ!

 目の奥と胸がカァッと熱くなる。

ぶつっ。

 ついに、ロープが切れた!

 あたしは反動で、うてなとオデコを激突させた。

「「あぐっ!!」」

 悲鳴をあげてる場合じゃないっ!

 アオムシのほうも、もんどりうってひっくり返る。

 床に打ちつけられた巨体に、部屋中の水がハネあがった。

 大つぶの水が、豪雨みたいに降りそそぐ。

「退くぞ!」

 楽さんの号令に、あたしも涼馬くんも、水しぶきの中で体勢を立てなおす。

 だけどシャッターをくぐろうとした、その時。

 下から地響きが突きあげた!

「なに⁉」

 ぐらっと視界がかたむき、足場の機械もいっしょにたおれこむ――っ!

 上にのってたあたしたち三人は、次々に水へ落っことされた。

ぶはぁっ!

 水面に顔を出すと、しぶきのむこうで、アオムシの大きな体が不自然に下へめりこんでいく。

 床がぬけて、大穴が空いたんだ!

「うそぉ!」

 水がウズを巻き、部屋の真ん中に集まっていく。

 目をうたがう間にも、アオムシは水とともに穴へのまれた!

 楽さんも水面から姿を消し、あたしたちも――!

「マメちゃぁーんっ!」

 シャッターのむこうに響くうてなの絶叫を最後に、ガボッと水の下へ!

 水中で涼馬くんに頭を抱きこまれた。

 あたしも彼の頭を守ろうと、無我夢中で抱きしめかえすっ。

 そこからは、まるでウォータースライダーだ!

 はげしく流れる水に乗り、真っ暗な穴を、ぐんぐんナナメ下へとすべっていく。

「どわあああぁぁぁぁぁ~~っ!」

 背中をうつ、ゴツゴツした岩。

 速くて暗くてさっぱり見えないけど、これ、なんの穴だ⁉

 駐車場は南エリアの下だけで、お団子屋さんの地下って、なんにもないハズだよね⁉

 そんなことを考える間に、水の地下すべり台は、とうとつに終わった。

 イキオイよく穴から吐きだされ、ヒュッと胃が持ちあがる。

 落ちるっ!

ぼよんっ。

 おしりで着地したのは……、やわらかいクッションの上?

「な、な、な……っ?」

 目のまえに開けた景色に、アゴがかくんと落ちた。

 広くて薄暗い空間に、黒い水につかった車が整列している。

 駐車場だ!

 あたしたち、南エリアの地下二階まですべってきたのか!

 ふり向けば、コンクリのカベをえぐって幅二メートル近い穴があいてる。

 ここから飛びだしてきたんだよね?

 穴からは、まだ水がザバザバと流れおちてくる。

「さっき人命検索したときは、こんなのなかったよね」

「ああ。カベの向こうに、妙な音と振動は感じてたが……」

 二人で身をはなしつつ、髪からしたたる水をぬぐう。

 ちょっと先のほうで、楽さんが水の中から立ちあがった。

「痛てて。マメちゃんも涼馬も、無事?」

「「はいっ」」

「いったいどうして、こんなトンネルが――、」

 こっちをふり返った楽さんが、あからさまに顔をこわばらせた。

 あたしも床に手をついたつもりが、ぐにっと、…………みょうなカンショク。

 目を下に落としたら、緑色のクッション?

 ってか、

「アオムシ‼」

 ぎゃああっと飛びのこうとしたトコで、

「ひぇぇぇえええええええ~~~~っ!」

 背後の大きな穴から、またなにか近づいてくる!

 悲鳴といっしょに、うてなにナオトさん、千早希さんに唯ちゃんが、続々とアオムシのうえに着地。

 みんな、ワザとこっちに来ちゃったの⁉


「中央司令基地へ、研究チーム・六年S組の月城七海より報告です」



 今度はボソッとちっちゃな声が、あたしたちの背後、車と車のあいだから聞こえた。

 現れたのは、メガホンを首からさげ、無線のマイクを手にした――、お人形さんみたいにキレイな女子。

 七海さんだ!

 彼女はあいかわらずの無表情で、あたしたちの前に立ちどまった。

「未知の危険生物がつくったと思われるトンネルから、S組のゆくえ不明メンバー、七名を発見。彼らがアオムシ型の巨大生物をカクホしています。南エリア駐車場、中央階段ワキへ、応援をたのみます。以上」

 彼女はポカンとするあたしたちを、ぐるりと見まわしたあとで。

 下でのびてるアオムシを、興味ぶかそうにながめた。

「みなさん。威かく用のショッカクが出ています。ソレ、まだ生きてますよ」

 いやにハッキリと聞こえた、彼女の言葉。

 アオムシの脚がぐわっと広がり、地面に突きたつ!

 みんな同時に、その場から飛びのいた!


   ***


 前脚をふんばったアオムシが、頭をふり上げる。

 楽さんがナイフをかまえた。

 涼馬くんは消防設備から消火器を取る。

「楽さん。こいつ、ナイフの刃も立ちませんでした」

「マジで? キビしいなぁ。じゃあ一斉攻撃でタイミングつくって、逃げるしかないか」

 あたしたちもそれぞれ、コンクリブロックやガレキを持ちあげる。

「……注意。ねらって、一息にいこう」

 涼馬くんがキョリをはかりながら、低く言う。

 アオムシがグパァッとアゴを開く!

「ゴ、」

 かけ声が、来る! ――と思ったら、急に止まった。

 どうしたのって聞くまでもなく、あたしも動きを止める。

 すぐワキを、ふらりと人影が横ぎった。

 Tシャツの背中に、「五年S組」の文字と、お団子のイラスト。

 彼はおぼつかない足どりで水をかきわけ、アオムシのほうへ歩いていく。

「健太郎くん……?」

 異様なようすに、声が細くなった。

 千早希さんもポカンとして彼を見送る。

「なんでこんなところにいるの。さっき、急にたおれちゃって、プロのディフェンダーにあずけてきたのよ」

「ケンタロ! 待ちなって!」

 うてなが彼の肩をつかむ。

 ゆっくりと見返った顔は、青白い。

 それに目がギラギラと、ケモノみたいに光ってる。

「……オレは、ダメだから……」

 ぽつり、意味の分からないことをつぶやいた。

 正気じゃない?

 だけどあたし、この表情に見おぼえがあるよ。

 実地訓練で大ネズミから逃げようとしてた時、うてなが変になっちゃった表情と同じだ……っ。

 健太郎くんの視線のさきは、アオムシだ。

 アオムシのほうも首をもたげたまま、彼を見下ろしてる。

 二人の視線が、引きあうようにぶつかってる。

「――ダ、ダメッ!」

 わけが分からないけどっ、とにかくダメだ!

 あたしは直感だけで彼に飛びつき、頭を抱きこんで視線をさえぎる。

「マメちゃん、そのまま捕まえてて! 行くぞ!」

 楽さんの合図で、みんながアオムシに武器をかまえなおす!

 あたしの腕のなかで健太郎くんがもがいてる。

「オレはもう、……イバーに……れないからっ」

 な、なに? 今なんて?

 サバイバーになれないって言った?

 とにかく、アオムシから遠いところに離したほうがいい!

「健太郎くん、行こう!」

「……やだ。もういいよ……っ。オレ、むいてないから……」

 引っぱったら、彼はかくんっとその場にヒザをついちゃった。

 胸まで水につかって、そのまま動いてくれない。

「しっかりしてっ。どうしたの⁉」

「オレ、むいてないから……。消えたほうがいいんだ……」



 ついさっきギラギラ光ってた瞳が、今度はウツロになっていく。

 なにこれっ、ホントに消えちゃいそうだよ……⁉

 彼はあたしの肩ごしに、アオムシを見つめちゃってる。

「ねぇ、うてなもこうだったよね。大ネズミと視線をかわしてるうち、目から光が消えていって。

 アオムシと健太郎くん、大ネズミとうてなもっ、まるでつながってるみたいじゃない……⁉」

 あたしの震え声に、みんな一瞬ハッとして、こっちを見る。

 けど、そんなことを考えてる場合じゃなかった。

キュイィィィィッ――――!

 真上から、ぼたぼた水が落っこちてくる!

 見上げたら、アオムシが半身を持ちあげ、あたしたちをツブそうとしていた。


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