6 しのびよる巨大積乱雲
「すぐにでも、避難したほうがいいですって!」
「学校までもどる時間はないから、商店街のアーケードの下はどうかな」
「ゲリラ豪雨が来たら、都市型水害ってのが起こるかもしんないよっ。水があふれてズブズブになって!」
お祭り本部に駆けつけたあたしたちは、口々に避難を呼びかける。
だけど実行委員のメンバーは首をかしげるだけだ。
「今日は晴れの予報だよ。曇ってきたくらいじゃ、お祭り中断なんてムリだって」
「いやいや。ゲリラ豪雨は、予報を出すのが難しいんだよ。短い時間で雲が大きくなるから、気象庁のリアルタイムレーダーをチェックしてないと」
ナオトさんがスマホの真っ赤な画面を見せたところで、バタバタと数人が駆けよってきた。
千早希さんたちだ!
「わたしたち、六年S組です! すぐに避難の放送を! 豪雨が近づいてる!」
次々と同じことを伝えに来られて。
本部のコたちは初めてシンケンな顔で、ナオトさんのスマホに目を落とした。
『どしゃぶりの雨が近づいています。商店街のアーケード下へ避難してください。くりかえします。どしゃぶりの雨が近づいています、』
本部からの放送が、公園内に響きわたる。
空気が急に冷たくなってきた。
西の黒い雲がゴロゴロと鳴るカミナリを抱き、不穏な空気をただよわせる。
五、六年のS組全員で手わけして、お客さんや荷物の避難を手つだい、商店街に駆けこんだところで――。
しめったニオイが強くなった。
ボタッ、ドタッと重たい音を立て、大きな雨つぶが落ちてくる。
それがあっという間に、猛烈な雨のカーテンに!

「うわぁ……。間一髪だったね、マメちゃん」
「ほんと、危ないとこだったよ」
たたきつける雨の勢いに、アーケードの下でぼーぜんだ。
クラスのコたちは、カンバンや機材を、ひとまず商店街の空きスペースへと、えっちらおっちら運んでいく。
「双葉さんたち、お団子のほうヨロシクー!」
「はぁーいっ」
さすがに売り物はそこらに放置できないもんね。
あたしたち無人島メンバーは、お団子ケースを台車にのせ、ナカムラ団子へ向かう。
お店のすみっこに台車を入れさせてもらって、やっとこさの一段落だ。
裏口のドアを開けてみたら、外通りはバケツをひっくり返したどころじゃない、ナイアガラの滝レベルの雨だ。
実行委員の放送によれば、一時間後のようすで、お祭りを再開するか決めるって。
「どうなるかなぁ」
あたしのつぶやきに、横から首を出してきた唯ちゃんもタメ息だ。
「テントが壊れてなきゃね。でもすっごい雨だな」
「テントをたたむまでの時間はなかったもんねー」
ドアを閉めてふり返ると、おばあちゃんがお茶を置いてくれてた。
「ちょっと休んできなさいな。どうせ一時間後まで、待ちぼうけなんでしょ?」
あたしたちは頭をさげて、四人でテーブルをかこませてもらった。
「この商店街は、雨には強いから安心なのよ。ここらは周りよりヘコんでる窪地だから、むかしは大雨のたびに床上まで水がきちゃって。そりゃあもう、大変だったんだけどね」
「強くないじゃんっ!」
さけんだうてなといっしょに、みんなであわてて立ち上がる。
するとおばあちゃんは、手をパタパタふって笑った。
「大丈夫になったんだよ。みんなの学校を建てるとき、あのあたりに、おお~きな地下の池を作ってくれたの。よぶんな雨の水は、下水のパイプを通って、そこに流れてくようにしたって。だからこの町は安全なのよ」
……そういう設備があるなら、大丈夫、なのかな?
わたしたちは顔を見合わせ、座りなおす。
テレビは画面の上のほうに、ひっきりなしに「大雨注意報」やら「雷注意報」やらの文字が明滅してる。
万が一のときのため、避難のタイミングを見のがさないよう気をつけとかなきゃな。
サバイバーをめざすS組生徒としてっ!
キッと目に力を入れ、裏口窓のむこうの、雨の滝を見やる。
と――、
「みんな! トイレがヤバイ!」
席をはずしてた唯ちゃんが、すごいイキオイでもどってきた!
「ト、トイレが?」
さっぱり意味が分かんないけど、いそいでのぞきにいったら――。
ごぽっごぽぽっ。
……たしかに、下水管の奥から、みょうな水音がする。
「これって――」
あたしたちはそろって色を失った。
***
下水道があふれて逆流してくるときは、その予兆があるって、「帰れま1000」で覚えたよ!
おフロやトイレの下水管からゴポゴポと音が聞こえてきたら、危険信号。
だけど、なんで?
このあたりは、地下の貯水池のおかげで大丈夫って、聞いたばっかりなのに。
アワアワしてる間に、
「唯、外を見てくる!」
アタッカーらしい決断の早さで、唯ちゃんが店を飛びだしていく。
うてなと健太郎くんも動きだしだ。
二重にしたゴミぶくろに、ざぶざぶとおフロの残り湯をオケで移していく。
それをトイレやおフロ、洗濯機の排水口にのせて、下水が噴きだしてこないように重しをする。
あたしもボーッとしてらんないよっ。
地下のシャッターをしめ、ゴミぶくろをかぶせた米粉のふくろを、足もとのスキマに並べはじめた。
もし外から水が流れてきても、お店のなかへ入ってこないよう、土のうのかわりだ!
しめった重たい空気に、アセが噴きだす。
「ダメだ、避難しよう! 外、もう逆流が始まってる!」
上から唯ちゃんの声がふってきた。
あたしは最後の一つをドサッとおろし、心臓をはげしく鳴らしながら、階段を見上げた。
「サバイバー!!② 緊急避難! うらぎりの地下商店街」
第3回につづく