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ものがたり

新刊発売記念!「サバイバー!!② 緊急避難! うらぎりの地下商店街」第2回 まさかの仮免呼びだし

6  しのびよる巨大積乱雲

「すぐにでも、避難したほうがいいですって!」

「学校までもどる時間はないから、商店街のアーケードの下はどうかな」

「ゲリラ豪雨が来たら、都市型水害ってのが起こるかもしんないよっ。水があふれてズブズブになって!」

 お祭り本部に駆けつけたあたしたちは、口々に避難を呼びかける。

 だけど実行委員のメンバーは首をかしげるだけだ。

「今日は晴れの予報だよ。曇ってきたくらいじゃ、お祭り中断なんてムリだって」

「いやいや。ゲリラ豪雨は、予報を出すのが難しいんだよ。短い時間で雲が大きくなるから、気象庁のリアルタイムレーダーをチェックしてないと」

 ナオトさんがスマホの真っ赤な画面を見せたところで、バタバタと数人が駆けよってきた。

 千早希さんたちだ!

「わたしたち、六年S組です! すぐに避難の放送を! 豪雨が近づいてる!」

 次々と同じことを伝えに来られて。

 本部のコたちは初めてシンケンな顔で、ナオトさんのスマホに目を落とした。


『どしゃぶりの雨が近づいています。商店街のアーケード下へ避難してください。くりかえします。どしゃぶりの雨が近づいています、』

 本部からの放送が、公園内に響きわたる。

 空気が急に冷たくなってきた。

 西の黒い雲がゴロゴロと鳴るカミナリを抱き、不穏な空気をただよわせる。

 五、六年のS組全員で手わけして、お客さんや荷物の避難を手つだい、商店街に駆けこんだところで――。

 しめったニオイが強くなった。

 ボタッ、ドタッと重たい音を立て、大きな雨つぶが落ちてくる。

 それがあっという間に、猛烈な雨のカーテンに!



「うわぁ……。間一髪だったね、マメちゃん」

「ほんと、危ないとこだったよ」

 たたきつける雨の勢いに、アーケードの下でぼーぜんだ。

 クラスのコたちは、カンバンや機材を、ひとまず商店街の空きスペースへと、えっちらおっちら運んでいく。

「双葉さんたち、お団子のほうヨロシクー!」

「はぁーいっ」

 さすがに売り物はそこらに放置できないもんね。

 あたしたち無人島メンバーは、お団子ケースを台車にのせ、ナカムラ団子へ向かう。

 お店のすみっこに台車を入れさせてもらって、やっとこさの一段落だ。

 裏口のドアを開けてみたら、外通りはバケツをひっくり返したどころじゃない、ナイアガラの滝レベルの雨だ。

 実行委員の放送によれば、一時間後のようすで、お祭りを再開するか決めるって。

「どうなるかなぁ」

 あたしのつぶやきに、横から首を出してきた唯ちゃんもタメ息だ。

「テントが壊れてなきゃね。でもすっごい雨だな」

「テントをたたむまでの時間はなかったもんねー」

 ドアを閉めてふり返ると、おばあちゃんがお茶を置いてくれてた。

「ちょっと休んできなさいな。どうせ一時間後まで、待ちぼうけなんでしょ?」

 あたしたちは頭をさげて、四人でテーブルをかこませてもらった。

「この商店街は、雨には強いから安心なのよ。ここらは周りよりヘコんでる窪地だから、むかしは大雨のたびに床上まで水がきちゃって。そりゃあもう、大変だったんだけどね」

「強くないじゃんっ!」

 さけんだうてなといっしょに、みんなであわてて立ち上がる。

 するとおばあちゃんは、手をパタパタふって笑った。

「大丈夫になったんだよ。みんなの学校を建てるとき、あのあたりに、おお~きな地下の池を作ってくれたの。よぶんな雨の水は、下水のパイプを通って、そこに流れてくようにしたって。だからこの町は安全なのよ」

 ……そういう設備があるなら、大丈夫、なのかな?

 わたしたちは顔を見合わせ、座りなおす。

 テレビは画面の上のほうに、ひっきりなしに「大雨注意報」やら「雷注意報」やらの文字が明滅してる。

 万が一のときのため、避難のタイミングを見のがさないよう気をつけとかなきゃな。

 サバイバーをめざすS組生徒としてっ!

 キッと目に力を入れ、裏口窓のむこうの、雨の滝を見やる。

 と――、

「みんな! トイレがヤバイ!」

 席をはずしてた唯ちゃんが、すごいイキオイでもどってきた!

「ト、トイレが?」

 さっぱり意味が分かんないけど、いそいでのぞきにいったら――。

ごぽっごぽぽっ。

 ……たしかに、下水管の奥から、みょうな水音がする。

「これって――」

 あたしたちはそろって色を失った。


   ***


 下水道があふれて逆流してくるときは、その予兆があるって、「帰れま1000」で覚えたよ!

 おフロやトイレの下水管からゴポゴポと音が聞こえてきたら、危険信号。

 だけど、なんで?

 このあたりは、地下の貯水池のおかげで大丈夫って、聞いたばっかりなのに。

 アワアワしてる間に、

「唯、外を見てくる!」

 アタッカーらしい決断の早さで、唯ちゃんが店を飛びだしていく。

 うてなと健太郎くんも動きだしだ。

 二重にしたゴミぶくろに、ざぶざぶとおフロの残り湯をオケで移していく。

 それをトイレやおフロ、洗濯機の排水口にのせて、下水が噴きだしてこないように重しをする。

 あたしもボーッとしてらんないよっ。

 地下のシャッターをしめ、ゴミぶくろをかぶせた米粉のふくろを、足もとのスキマに並べはじめた。

 もし外から水が流れてきても、お店のなかへ入ってこないよう、土のうのかわりだ!

 しめった重たい空気に、アセが噴きだす。

「ダメだ、避難しよう! 外、もう逆流が始まってる!」

 上から唯ちゃんの声がふってきた。

 あたしは最後の一つをドサッとおろし、心臓をはげしく鳴らしながら、階段を見上げた。


「サバイバー!!② 緊急避難! うらぎりの地下商店街」
第3回につづく


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