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ものがたり

新刊発売記念!「サバイバー!!② 緊急避難! うらぎりの地下商店街」第2回 まさかの仮免呼びだし


この授業、恋も授業も命がけ! ぜったいおもしろい&最高にキュンとする「サバイバー!!」シリーズ。サバイバルな学校で、成績サイアクでも夢かなえます! 角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻~第3巻が、期間限定でまるごと読めちゃうよ!(公開期限:2025年6月6日(金)23:59まで)



4  まさかの仮免呼びだし


 そんなこんなで、あしたの流れはバッチリ決定!

 朝イチでお団子係三人がお店に行って、仕入れをしてくる。

 そのあいだに会場の公園では、別チームが屋台を組みたてておく。

 公園まで台車を運ぶのは、混雑する商店街メイン通りよりも、となりの外通りか、地下二階の駐車場を経由するのが近道だって。

 おばあちゃんから地元ならではの情報も教えてもらって、リアルになってきた計画に、ますます当日が楽しみだ!

 書類をかたづけてると、ピピピピッと、電子音が響いた。

「学校からだ。失礼します」

 涼馬くんがスマホを取り、電波の入りやすい上の階にのぼっていく。

 まさか、ウワサの「仮免呼びだし」ってやつ?

 小走りにもどってきた彼は、おばあちゃんに頭を下げてから、あたしたちに目をくばった。

「すまん。おれと楽さん、今からしばらく基地だ」

「「「「えええっ!」」」」

 あたしと健太郎くんのみならず、階段の上から、うてなたちの悲鳴もふってきた。

「じゃあ涼馬くん、あしたのお祭りに出られないのっ?」

「悪いがここまでだな。あとはまかせる」

 荷物を片づける彼は、もう休日モードから切りかわり、サバイバーのキリリとした横顔だ。

「涼馬、現場に入るんだ……」

 健太郎くんがつぶやくと、彼は急に目をつり上げた。

「今回入るチームの、北村サンってリーダーな。『小学生なんて使えるか』って言った、まさにその人なんだ」

「あわわ……。じゃあまたイスに座ってるだけ?」

「マメの言うとおりかもな。せっかく現場に出るチャンスなのに、ジョーダンじゃねえって」

 涼馬くんは大きな息をつき、お店を出ていっちゃった。

 残されたあたしたちは、おたがいに顔を見合わせる。

 七夕祭り、リーダーがいない出店になっちゃうのか。

 S組のメンバーは、あたしが足を引っぱりさえしなきゃ、問題ないだろうけどさ。

 涼馬くんだって実地訓練とSテストを乗りこえて、やっとごほうびのお祭りだったのに、かわいそうだ。

 でも、彼はもうプロの世界に片足つっこんでるんだよな。

 同情しつつも、まぶしくて、うらやましくなっちゃうからフクザツだ。

「あのコ、基地に働きにいったの? だけど、まだ子どもなのに」

 おばあちゃんはポツリ、震える声でつぶやいた。


 せっかくだから、帰るまえに休けいしていきなさい。

 おばあちゃんの優しさで、一階のイートインコーナーで、お団子とお茶まで出してもらっちゃった。

「リョーマは食べらんなくて、カワイソーだねー」

 うてなはお団子をもっちもっち、満面の笑みでほおばってる。

 そのほっぺたこそ、おモチみたいでかわいいなぁ。

 しかし、おばあちゃんは元気がなくなっちゃったんだ。

「おばあちゃん、涼馬くんは大丈夫ですよ」

「フタバちゃん……」

「どんな災害現場でも生きて還ってくるのが、『特命生還士』ですからっ。あたしたち、そのために毎日しっかりトレーニングしてまひゅっ! ゲホッ、ゴホッ!」

 あわてて食べたお団子がノドにツマって、かっこよく言えなかったけどっ。

「ねぇ? なんでサバイバーさんになりたいの? ありがたいお仕事って分かってるけどね、でも、危ないじゃないの。家族も心配してるでしょ」

 ますますノドがツマった。

 うてなは「気道カクホ!」ってあたしの背中をたたきながら、おばあちゃんに笑いかける。

「ボクはねぇ、自分ちが病院なんだ。だけど大災害が起きたら、病院に着くまえに死んじゃう人がいっぱい出ちゃうんだよね。だからボクがディフェンダーになれば、現場で応急処置して、命をつないで、病院まで送りとどけられるかなーって」

 すると、となりの唯ちゃんがうなずいた。

「唯は、アタッカーがかっこいいから! テレビで仮免制の特集番組をやってて、それ観て決めたの。親は反対してたけどね。唯はいったん決めたらテコでも動かないから、あきらめたみたい」

 アハッと明るく語る彼女に、おばあちゃんは「あらあ」と、さらに心配げだ。

「オレは、だれかにありがとうって言われるような人になりたくて。最前線に突入していく勇気はないけど、支えるほうなら向いてるかなぁって。だから、ディフェンダーをめざしてます」

 健太郎くんは考えながら、ゆっくりと話す。

「そうなのぉ。みんな、リッパなのねぇ」

「ほんとだぁ……」

 そういえばあたしも、みんなの志望動機は初耳だ。

 おばあちゃんといっしょに感心して、ウンウンうなずいちゃう。

 と、健太郎くんは顔をうつむけた。

「だけど、それも向いてるか、分かんなくなってきちゃってさ」

「「「向いてるよ⁉」」」

 あたしたちはいっせいに返す。

「ボクの次にだけどね!」

 ちゃっかりつけ加えたうてなに、健太郎くんは眉をさげて笑ってくれた。

 ホッとしたところで、みんなの視線が、あたしに集まってくる。

「あ、あたしはね。兄ちゃんがサバイバーで、あたしがピンチのときに救けてくれたの。それで、兄ちゃんみたいなサバイバーにあこがれて」

「うえっ⁉ マメちゃん、お兄ちゃんがサバイバーなのっ⁉ もうプロ⁉」

 うてなが竹ようじを落っことした。

 せっかくかき集めてたアンコも、ぽてっとお皿にもどっちゃう。

 だけどそのうてなより、唯ちゃんと健太郎くんのほうがギョッとしてるや。

「うてな、知らなかったの⁉」

「双葉さんのお兄さん、有名人だよっ! 二つ上の学年で、スキップ進級で仮免とって、ずっと現場に出つづけてた、S組伝説のアタッカー、」

「「双葉ノドカ!」」

 声をそろえる二人に、うてなとあたしは目をシパシパさせる。

「あら、〝ノドカくん〟ね! おばあちゃんだって知ってるよ。商店街で応援してたもの。たまに買いものに来ると、『妹が好きだから、お団子おみやげにつつんでください』って、とってもイイコで。って、まあ! その妹って、フタバちゃんかい!」

「あ、は、はい」

 あたしは頭をかきかき、変なアセがにじんでくる。

 ノドカ兄、商店街でも有名だったんだな。

 ここ、学園の地元商店街だもんね。

 ぽっかーんとしてるうてなに、あたしは苦笑いした。

 うてなと仲よくなったのは去年の遠足のあとで、ノドカ兄がゆくえ不明になったのは、その直後。

 バタバタしてるうちに、兄ちゃんのことを話すタイミングを逃しちゃったんだ。

「でも、その〝ノドカくん〟って……、いきなり逃げちゃっ、」

 おばあちゃんは、つぶやきをとちゅうで吞みこんだ。

 ――言いかけたことは、分かってる。

 学校からの発表では、ノドカ兄は、自分からすがたを消したって。

「サバイバーより、もっとおもしろいコトを見つけた。さがさないでくれ」ってメールを送って、フッといなくなっちゃったそうだ。

 だからみんな、彼を「ひどい理由で逃げた、無責任な優秀生」と思ってるんじゃないかな。

 あたしが「妹」だと知ってるコたちが、彼の話をふってこないのは……。

 たぶん、気まずいからだ。

 でもノドカ兄が、そんな理由でサバイバーの夢を投げだすはずない。

 あたしは知ってるし、信じてる。

 だけどこんな時、胸に空いたままの大きな穴に、ぴゅうっと冷たい風が吹きぬけていく。

「マメちゃん……?」

 うてながあたしのヒジをつかんだ。

 我に返ったら、みんなの空気が、ずうぅぅんっと重たくなってる!

 うてなは、深く聞いていいのかどうか、迷ってる顔だ。

 こんな顔させたくなくて、わざわざ話さなかったんだけどな。

「あー……、そろそろ学校もどんないとねっ。涼馬くんや楽さんたちにも、お団子のおみやげ買ってこうよ。お祭りに出られないの、かわいそーだからさっ」

 あたしはうてなの肩をぽんぽんっとたたき、ムリヤリ笑った。


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