
この授業、恋も授業も命がけ! ぜったいおもしろい&最高にキュンとする「サバイバー!!」シリーズ。サバイバルな学校で、成績サイアクでも夢かなえます! 角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻~第3巻が、期間限定でまるごと読めちゃうよ!(公開期限:2025年6月6日(金)23:59まで)
1 学力総確認、Sテスト!
放課後のグラウンドから響いてくる、にぎやかな声。
生徒たちがベニヤ板にヒザでのりあげ、ペンキをぬりたくってる。
雨があがったスキをねらっての、七夕祭り準備だ。
お祭り当日は、もう週末だもんなー。
「四年のときはクラスみんなで回ったねぇ。楽しかったなぁ~」
「うてな、すっごい食べまくってたよね。フランクフルトにカキ氷にわたあめに……」
「マメちゃんだって、お団子なん本食べてたっ? お団子屋のおばあちゃん、また来たの⁉ って、笑ってたじゃん」
教室の窓のさんにヒジをつき、思い出を語りあっているのは、
あたし、双葉マメ。
そしてS組クラスメイトの親友、空知うてなだ。
あたしたちは、どんな災害でも要救助者を救けて還ってくる「特命生還士」、通称サバイバーをめざす仲間なんだ。
強勇学園のS組は、そのための超ハードな特別クラス!
このまえも、ぬきうちの実地訓練があってね。
無人島で八日間もサバイバルしたんだよっ。
ガケくずれは起こるし、未知の危険生物(巨大なネズミ!)がおそってきたり、ほんっとに命がけだった(とちゅうからは、学校がわにも予想外の事件だったらしいけど)。
ケガしてたメンバーも、ようやくの本調子。
やっといつもの学園生活にもどれたトコだ。
そしたら、もう七夕祭りが近づいてるなんてなー。
毎年お祭りでは、学校と商店街が協力して出店をするんだ。
主役は小学部の五・六年で、四年までは自由参加のお客さん。
だから去年は、ゆかたで会場の公園に集まって――って、マンキツしたなぁ。
「「平和だねぇ……」」
グラウンドの楽しげな光景に、ほうっと息をつくあたしたち。
すると、
「ゲ・ン・ジ・ツを、見・ろ」
真後ろから、だれかにガッと頭をつかまれたっ⁉
この気配の圧は――っ。
「りょ、涼馬くん」
「リョーマッ」
我らがS組のエース、風見涼馬だ!
さすがのアタッカートップは、迫力のひとニラみ。
「あっ、あたしたち、ちゃんとゲンジツ見てるよ? ねー、うてな!」
「そ、そーだよっ。そんなこわい顔したら、せーっかくのイケメンがもったいないよぉっ?」
二人してアハハッと笑ってみせる。
しかし彼はさらに目をすわらせた。
「なら、あしたの学力総確認Sテストも、もちろん合格点とれるよな? 現実的に」
「「ゲンジツテキニッ……!」」
涼馬くんの体のむこうでは、
ガリガリガリッ。ベラベラベラッ。
響くエンピツの音。次々にドリルのページをめくる音。
みんないつもは訓練で疲れきってスグ帰るのに、猛烈なイキオイで居のこり勉強してる。
――実は、そ、そうなんだよ。
ふつうクラスの五・六年は、お祭りの準備中。
だけどS組は、あした特別テストがあるんだって!
「Sテスト」って呼ばれてるソレは、サバイブ科目「攻守陣」の筆記テスト。
サバイバーの三つの担当ごとに、基礎が身についてるかチェックされるんだ……!

「攻」は、災害現場で一番まえに出て働く、アタッカーについての科目。
「守」は、お医者さんや保健師さん役の、ディフェンダーの科目。
「陣」は、活動拠点を作って、資材や情報を集めるキャンパーの科目なんだ。
あたしは成績ドベで、七月に入った今も、まだ〝担当ナシ〟状態だ。
でもこのまえの実地訓練では、キャンパー(仮)をやらせてもらったの。
ってわけで、どの科目も現場に出たら超・重要!
頭にツメこんどかなきゃ、ホントに生死にかかわるゾって、無人島で学んだばっかりなんだけどさ。
「Sテストは連帯責任だ。クラス全員が合格点をこえないと、どうなる?」
「ええっと。七夕祭りは、S組だけ出店ナシ…………とか、先生言ってたかな?」
涼馬くんのブリザードな質問に、あたしは凍死すんぜんだ。
うてなもぷるぷる震えてる。
「そのとおりだ。で、おまえらが一番ヤバイのに、のんびりしてる時間があると思うか?」
「「ございまセンッ!」」
あたしもうてなも、ピュンッと自分の机に着席!
そして見えないフリしてみたゲンジツに、おそるおそる向かいあった。
科目ごとにタバになった、ぶっっ厚いドリル‼
テスト範囲、一科目だけで、厚みが一センチ以上なんだ。
S組の「S」はやっぱりサバイバーじゃなくて、スパルタの「S」⁉
はぁぁ~~っと口から魂をもらしながら、やりかけのページを開く。
――しかも近ごろのあたし、ウワの空の自覚がある。
涼馬くんが、服の下にピンクのホイッスルをさげてるのを、目撃しちゃったせいだ。
アレはまちがいなく、ゆくえ不明中のあたしの兄ちゃん、ノドカ兄のものだった。
自分の胸もとを、上からギュッとにぎりこむ。
ここにさげてるホイッスルは、水色。
ノドカ兄からお守りにもらったものだ。
そしてあたしは、「サバイバーになってみせる」って約束のしるしに、おそろいのピンクのホイッスルをノドカ兄に渡してたんだ。
なのにどうして、そのホイッスルを、涼馬くんが持ってるの?
このまえ彼は、ノドカ兄のことはよく知らないってウソをついた。
たぶんこの人は、兄ちゃんがゆくえ不明になった理由を、わざと隠してる。
今や風見涼馬はあたしにとって一番警戒すべき相手で、一番さぐらなきゃいけない相手だ。
ほかのコたちだって、涼馬くんとウラでつながってる可能性がある。
だからあたしはなんにも気づいてないふりをして、一人でコッソリさぐるしかない。
……ってさ。そんなことをグルグル考えてばっかりで。
ただでさえついていけないS組授業に、ますますおくれを取っちゃってるんだ。
「マメ、体調ワルいのか? 無人島のあとの健康診断は、問題なかったよな」
またボーッとしてたら、のぞきこんできたのは、その、ギワクの本人だ!
あたしはあわてて、首を左右にふった。
「げげげ元気だよっ! あたしはねんざだけだったから」
「そうか」
いつもまっすぐな瞳が、あきれから心配の色に変わってる。
……やっぱり涼馬くんって、悪い人とは思えないんだよな。
無人島にいたときも、命をかけて、みんなもあたしも守ってくれたもん。
なぜかあたしには、トクベツ超スパルタなんだけどさ。
疑ってかからなきゃと思いながらも、チクチク良心が痛む。
「ちょっとぉ、心配になってきたんだけど。マメとうてなのドリル、どんなかんじなの」
唯ちゃんがあたしのつむじにアゴをのっけてきた。
彼女は、五年S組で涼馬くんの後に続く、アタッカー優秀生だ。
「あ、でも二人とも、もう最後のページだね。がんばってるじゃん」
優しい言葉をかけてくれたのは、クラスのいやし系ディフェンダー、健太郎くん。
二人とも、いっしょに無人島生活を乗りこえた仲間たちだ。
「最後まで終わっても、覚えてなきゃな。ちょっと見せてみろ」
涼馬くんがヨーシャなくあたしたちのドリルをうばい、バラララッとめくる!
「ぎゃああっ、やめてぇ!」
「ひどいよぉ、リョーマッ!」
どっちのドリルも、×、×、×、×!
大量の×の残像!
あっ、でもうてなのは、とちゅうから〇ばっかりだっ。
「…………うてなの『守』以外は、終わってんな。ドリルのページがじゃなくて、テストが」
涼馬くんの苦々しいつぶやき。
お、おわっ……。あたしたち、終わってんの……?
このぶ厚いドリル、終わりが見えてきただけでも、エラいと思ってたんデスけど。
いつの間にか集まってたクラスメイトたちも、そろって顔面ソーハクだ。
『下校時刻になりました。残っている生徒は、すみやかに下校してください。寮の生徒は、いったん寮に帰ってから外出しましょう』
真のゲンジツを直視したタイミングでの、下校放送!
クラスメイトたちは、ゆっくりと顔を見合わせ。
どうにかしてって顔で、涼馬くんに視線を集中させる。
だけど彼はカバンをとって立ち上がった。
「テストはあしただぜ。もう手おくれだろ。成績ポイントぎりぎりのマメは、今度こそふつうクラスに引っこしじゃないか? な、〝担当ナシ〟」
で、出たな、塩鬼!
ひさびさの塩分マシマシな言葉に、あたしはショッパイ顔になる。
「涼馬くん、無人島から帰ってきたときには、あたしは意外とサバイバーに向いてるかもって言ってくれたじゃん!」
ピンチでも落ちついてまわりを観察できるのは、あたしのイイとこだって!
ちょっとだけこっちを見た彼は、シラッとした目だ。
「向いてる面があっても、ススメはしない。だがSテストを乗りきれないくらいなら、やっぱり向いてないのかもな。――みんな、下校時刻だぜ。おつかれさん」
ほんとに、さっさと教室を出ていってしまった。
クラスメイトたちは、まだ凍りついたままだ。
あたしはうてなと、血の気の引いた顔を見合わせる。
「と、とにかくさっ。ボクたち自宅通学組だから! 帰んなきゃねっ、マメちゃんっ!」
うてながあひゃひゃっとカラ笑いして立ち上がる。
あたしもバササッとドリルをまとめ、腕に抱く。
「でででででも、もちろん家で勉強してくるっ。みんな、心配しないで!」
あたしたちのせいで、お祭り不参加にされたら……っ。
申しわけなさすぎて、今から寒気がする。
S組からサヨナラだって、ジョーダンじゃないよっ。
Sテスト、なにがなんでもクリアせねば!
教室から駆けだそうとしたあたしたちの前に、唯ちゃんが立ちはだかった。
「ね! これからさ、寮でたっっのしいコトしようか♡」
「そうそうっ。無人島を乗りきった仲間どうしで、おつかれさまパーティとかっ、ね!」
背後からは、健太郎くんが退路をふさぐ。
とうとつな二人の満面の笑みに、
「パーティッ⁉ やったぁ!」
「こ、こんな時に?」
うてなはきらきらと瞳を輝かせ、あたしのほうはシュバババッと目をまたたいた。
