
この授業、恋も授業も命がけ! ぜったいおもしろい&最高にキュンとする「サバイバー!!」シリーズ。サバイバルな学校で、成績サイアクでも夢かなえます! 角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻~第3巻が、期間限定でまるごと読めちゃうよ!(公開期限:2025年6月6日(金)23:59まで)
12 非常事態、発生!
あたしたちの陣地、学校の一階をカンゼンにうめちゃった、大きなガケくずれ。
島じゅうをゆさぶる轟音は、やっとおさまった。
楽班もいっしょに、リュックひとつで浜べのミニバスまで逃げてきたけど。
どうしようっ。
七海班の二人、唯ちゃんと健太郎くんが見つからないんだ──!
「注意! 要救助者、二名発生! 非常事態につき、全チームで協力する!」
ビリリッとひびく、楽さんのするどい声!
「マスクとゴーグル、軍手の上からゴム手ぶくろを着用! アタッカーは要救助者をさがせ! キャンパーは補助! ディフェンダーは応急処置のしたくだ! ゴー!」
逃げだしてきたばかりの校舎へ、いっせいに駆けもどる。
七海さんの話では、二人はおそらく学校のなかだ!
──七海さんね、さっき二人に「いくらリーダーでも、なんでもだまって決めるのは、ヒドイ」って言われて。
「減点になってもよいのなら、命令をムシしたらどうですか」って、たんたんと答えたそうだ。
怒った彼らがバスから出て、学校のほうへ歩いてくのも、放っておいた。
頭が冷えたら、もどってくるだろうって。
そこに、ちょうどこの土砂くずれが……!
「わたし、リーダー失格だわ。危険生物のことが気になって、メンバーのフォローをしなかった」
七海さんの小さな声が、いつもよりハッキリ聞こえる。
彼女は思いきるように首をふると、土砂にのまれた校舎を見上げた。
その瞳は、きりりと強い。
「──ナオトさん。体調がよくなかったそうですが、動けますか?」
「問題ないです」
「ではナオトさん、マメさん。お二人は自分のチームのアタッカーについてください。わたしはうしろから、次のガケくずれが起こらないか、予兆をチェックしています」
「「了解!」」
闇にしずむ、学校の校舎。
あたしは懐中電灯のまるい光を照らして、涼馬くんの姿をさがす。
土砂にうまった、一階ぶぶん。
屋上からは木々の根っこや幹が突きだして、グラグラゆれてる。
ちょうどアタッカー二人が、学校の正面、堤防に立ちあがったのを発見した!
あたしは彼にダッシュで駆けより──、ゾッとした。
正門まえの通りが、堤防の高さまで土砂にうまってる……!
「涼馬くん!」
追いついたあたしに、彼はシッと短い音をだす。
みんな耳をすませて、なにか聞こうとしてる。
──そうか、サイレント・タイムだ。
いっせいに静かにして、生存者の反応をさぐるための時間。
あたしも続いてまぶたをおろした。
唯ちゃん、健太郎くん、ぶじでいて……!!
二人の笑顔が頭にうかぶ。
張りつめたピアノ線みたいな空気に、波の音、小さな石の転がる音、それに──、
ピィィィ………………ッ。
か細いけど、これ、ホイッスルの音!
あたしたちは目をカッと開く!
生きてる!
すぐ真下から聞こえたっ。
「生存反応! 位置は昇降口のおくだ! 上から入り口をカクホする! 千早希さんとナオトさんは、二階からルートを取れるか確認! ゴー!」
涼馬くんの指令を受け、楽班の二人が二階の窓へアタックする。
のこった涼馬くんとあたしは、ひろった木の幹で、上から土砂を掘りおこす作業だ!
「大丈夫だ! すぐに救助できるぞ!」
「もう見つけてる! 大丈夫だよ!」
あたしたちが勇気づける声に、ホイッスルの音が力なく応える。
土のなかから、コンクリのひさしが現れた。
ひしゃげたサッシ扉の上の部分、三十センチほど土をくずして、中をライトで照らす。
「昇降口の中、つぶれてないね!」
「ああ。おれが突入する。マメはここで待って、要救助者の引きあげをサポート!」
彼は残ったガラスをかかとでケリ割ると、扉のすきまに身をすべりこませた!
ドッと彼が下に着地する音。
あたしは明かりを向けながら、マスクのうらで、キンチョーで荒くなる呼吸をくり返す。
みんな、ぶじに帰ってきて──!
上からパラパラと、小さな石が落ちてくる。
ガケくずれは、二波三波が起こりやすい。
その前に、はやく逃げなきゃ。
千早希さんとナオトさんが、二階からのルートをあきらめてもどってきた。
「二階のろうかは、土砂で完全にふさがってる。階段まで入れなかった」
あたしたちはくちびるを噛みしめる。
もう、涼馬くんに賭けるしかない。
心臓が暴れる音がうるさくて、現場の音を聞きのがしちゃいそうだ。
「二名とも、発見したぞ!」
中から、彼の声!
「大きなケガはなし! これより脱出する!」
よかった……!!
ぶわっと体じゅうからアセがふきだした。
のばした手をつかんで、二人が登ってくる。
唯ちゃんも健太郎くんも、ホコリで真っ白だけど、大丈夫だっ!
ちゃんと生きてる!

あたしたちは言葉もなく、なみだ目でうなずきあう。
おしまいに、涼馬くんのつむじが見えてきた。
補助しようとして、あたしはまだ健太郎くんとつかみあったままの手をワタワタ。
一拍おくれたそのスキに、ナオトさんが涼馬くんを引っぱりあげてくれた。
ふうっと息をはいてヒザをついた、われらがリーダー。
ケガはないみたいだ。よかった……っ!
あたしが中途ハンパに出したままの手を、彼はパンッとたたいてくれた。
「ただいま、マメ」
「お、おかえり、涼馬くん。よかった、ぶじで」
「トーゼン」
ニッとくちびるのハシを持ちあげるヨユーの笑顔は、くやしいけど、カッコイイ。
涼馬くんはやっぱり、もう本物の〝サバイバー〟なんだ。
「二人とも、重力に弱いドアのまわりをさけて、すえつけのゲタ箱のわきに避難してたんだ。唯、健太郎、冷静だったな。さすがS組のメンバーだ」
涼馬くんに肩をたたかれ、二人はよけいにウルルッと瞳をうるませる。
「要救助者二名、救出を完了しました! これより撤収します!」
涼馬くんがバスのほう、楽さんに声を張った。
その声におどろいたのか、鳥の群れがけたたましく飛びたつ。
思わずそっちに目をむけると──、
雨とチリの白いかすみの向こう、くずれたガケの上に、なにか巨大なシルエットが動いた。
杉の木とほとんど同じくらいの高さだ。
ずんぐりむっくりと丸々しい、なにか。

目をうたがって、まばたきしたとたん。
ソレは後ろ足を大きくハネ上げる!
「逃げ……っ、」
涼馬くんたちがあたしをふり向くと同時、
ずどんっ!!
足もとの地面が、上下にゆれた!
ピィ──────ッ!
七海さんの警告のホイッスルがひびきわたる!
上からとどろく、大岩が転がってくる音!
来た! 土砂くずれだ!!
「真横にむかって走れ!」
涼馬くんが大声でさけんだ!
第二波は、第一波とはちがうルートで襲いかかってきた!
屋上に突きでた倒木がクッションになって、軌道を変えたんだ。
涼馬くんがルートを読んでくれたおかげで、あたしたちはうまく逃げられた。
ドロと岩と、たおれた木の根っこ、それからコンクリートの破片。
いろんなモノがころがる斜面に立ちあがって、ゾッとした。
浜べのほうが、ずっと被害が大きい!
バスが大きな岩で横だおしにされてる。
車体の下にのぞいてる、ブルーシートのはしっこ。
その前にぼうぜんと座りこんでる、うてなの背中。
すぐソバでたおれてるのって、まさか──、
楽さん!?
***
校舎から持ちだせた資材は、リュックの最低限の装備だけだ。
寝ぶくろはもちろん、干してた魚のヒモノやジャガイモの保存食も、ぜんぶ土の中。
バスから、七海班の荷物もひっぱり出してきたけど……。
イチバンたりないのは、まちがいない、医薬品だ。
松の下にブルーシートをしきなおし、そこに集めたケガ人は、五名。
楽さんは、落石からうてなを守ろうとして。
とっさに彼女を突きとばした直後に、石が頭に当たって気絶。
七海さんと千早希さんは、飛んできた石や枝をかぶり、全身に細かな切りキズ。
「うう、痛いよぉ……っ」
さっきからウメいてるのは、健太郎くんだ。
たぶん彼は、左右の手首をねんざしてる。
涼馬くんが最後の一人、唯ちゃんをおんぶしてきて、慎重にシートへおろした。
彼女も足をケガしてるみたい。
……今、まともに動けるのは、あたしたち涼馬班の三人と、キャンパーのナオトさんだけ。
のこってるディフェンダーは、うてな一人だ。
五人もケガ人がいる中で、だれから治療するのか選別しなきゃいけない……!
あたしは、ふるえて立ちつくす親友に目をやる。
まっさおだ。
見開いた瞳は血走ってる。
「うてな。動けないのなら、おれがかわりに──、」
「だっ、だめ! ボクがやる! ボクの担当だもん!」
涼馬くんの言葉を、うてなは鋭くさえぎった。
「空知さん、何してんのっ!? はやく手当てしてよぉ!」
「は、はいっ!」
健太郎くんの大声に、うてなは肩をビクッとゆらした。
くちびるをかむと、健太郎くんの前にヒザをつき、手首を確かめはじめる。
「うてなっ?」
楽さんの呼吸も、唯ちゃんの状態もチェックしてないのにっ。
きっと気が動転しちゃってるんだ……っ!
あたしはバッとほかのケガ人を見まわして、楽さんのわきに座った。
手のひらを口の前にかざし、自分で呼吸できてるのを確認。
髪をわけてケガをさがすと、大きなタンコブができてる。
ホントなら救急車を呼ぶトコだけど、ここじゃどうしようもない。
前みたいに、たおれたフリならよかったのに。
くちびるを噛み、水の入ったペットボトルを頭にあてて冷やす。
次は、唯ちゃんだ!
その時、背中がドンッとうてなにぶつかった。
「マメちゃん!? なにしてんの!?」
あたしはハズみで地面に尻もちをついた。
「えっ」
ビックリして見上げると、うてながあたしの前に、足音荒く立ちはだかった。
「ボク、なんにも指示してないでしょ! どうして勝手にやってんの!」
「ご、ごめん、でも選別の順番が……っ」
「うてな。マメの判断のほうが正しい。今のおまえは冷静じゃない」
口をはさんだ涼馬くんにも、うてなはギリッと歯を食いしばる。
「自分の担当じゃないのに、かってに手をだすのはルール違反でしょ! リーダーのリョーマならともかくっ、マメちゃんはトクイなこともないくせに、ジャマしないで!」
うてながこんな怒ってるトコ、見たことない。
彼女は毛をふくらませたケモノみたいな瞳であたしをニラみ、顔をそむける。
「ご、ごめん……。うてな」
「どいててよ」
そのまま手当てをつづける背中。
あたしは地べたに座りこんだまま、しばらく動けなかった。