
この授業、恋も授業も命がけ! ぜったいおもしろい&最高にキュンとする「サバイバー!!」シリーズ。サバイバルな学校で、成績サイアクでも夢かなえます! 角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻~第3巻が、期間限定でまるごと読めちゃうよ!(公開期限:2025年6月6日(金)23:59まで)
7 キャンパー・双葉マメ、始動!
……なーんて期待してたけど。
「みごとなオンボロっぷりだなぁ……」
さっそく、自分の選択が正しかったのか不安になってきちゃった。
どうやらココは、小学校の校舎だったらしい。
アタッカーを先頭に、ホコリまみれのゲタ箱を通りすぎる。
生徒の声もすがたもない、さびしい廊下。
割れたガラス窓から木の根っこが入ってきて、カベを自由にはいずりまわってる。
ムッと濃い緑のにおい。
学校の中なのに、林の道を歩いてるみたいだ。
「でも、コンクリートづくりだけあって、しっかりしてるね」
カベをたたいてみても、うん、ボロッとくずれたりはしない。
「マメちゃん! 廊下だけじゃなくって、教室の窓もゼンメツだよっ」
「ホントだ……。景色はサイコーだけどね」
だだっ広い教室は、ガラスのない窓から潮風がじかに吹きこんでる。
そして、廊下の水道はっ!?
──ザンネン。
蛇口をひねっても、水は一滴も落ちてこないや。
「山に入れば、川か湧き水が見つかるかなぁ。あっ、でもうてな、バケツがあるよ!」
そうじロッカーから、思わぬ便利グッズを発見だ!
「ただのバケツも、こーいう時はありがたいモンだねぇ」
うてなと二人、しみじみうなずく。
二階は、一階よりもさらに風が景気よく通りぬける、スーパー吹きっさらしだった。
しかも二つしかない教室の片ほうは、床が水たまりだらけ!
天井の角がまるごとカケちゃって、雨もりどころじゃない大穴があいちゃってたんだ。
ひととおり探検してみたとこで、あたしは大きくうなずいた。
「うんっ。涼馬班の陣地、この小学校にしようっ! 二階は寒いから、一階の教室で!」
「じゃ、片づけからだなー。ガラスの破片もすごいし、衛生カンキョー悪すぎだもん」
うてなはディフェンダーの仕事をヤル気まんまんで、ソデをまくる。
涼馬くんは、チームごとに配給された段ボール箱を、あたしに押しつけてきた。
「おれは、危険な生きものがいないか、まわりを確認してくる」
「危険生物……!? それ、学園怪事件って、ウワサになってるっ?」
「ハァ? おれが言ってんのは、クマやイノシシの話だ。ココが本当に『無人島』なのかも知っておきたいしな」
彼は手なれたようすで、ベルトにサバイバルナイフと懐中電灯をひっかける。
「安全とわかるまで、あんたたちはココを動かないでくれ」
「でもあたし、水や食べものをさがさないと」
「……なら、この周囲を百メートル以内。山へはまだ入るな」
背を向けちゃうリーダーに、あたしはあわてて「待って!」とウデをつかむ。
「なんだよ。まさか、置いてかれるのは心細いなんて言わないよな?」
「ちがうちがう。学校があるなら、人が住んでた村もあるはずだよね。ココよりいい住まいがあったら教えてほしいんだ。水道が使えたりさ。あと食べものが見つかったら、ソレもついでに」
お願いごとを並べたてるほどに、涼馬くんの目はすぅ──っと細くなっていく。
おおお……。
やっぱりお怒りです、かね。
彼はあたしの手をぺいっと払った。
「あんた、プライドが低すぎる。そんな平気でまわりの手を借りようとするヤツは、S組にはいないぞ。自分の担当に口出しされたら、イヤじゃないのか。うてなもそうだろ」
「ボク?」
いきなり話をふられたうてなは、大きな瞳をぱちぱち。
「うーん、たしかに。楽さん以外から、ディフェンダーの仕事をどうこー言われんのは、ムカッとするかも?」
「そ、そういうモノなんだぁ……」
たしかにみんな、ふだんの訓練でも、仲間ってよりライバルってムードだよな。
仲よくやってても、相談すんのもリーダーにだけ。
午後の訓練授業だって、弱音なんてゼッタイはかないもん。
あたしは段ボール箱をかかえたまま立ちつくし、仲間はずれ気分だ。
選ばれしS組の、自分の担当へのプライド。
いつかあたしにも、そういうのが芽生えてくるのかな。
──でもさ、と、あたしは涼馬くんをまっすぐに見つめかえした。
「あたしは、自分のサバイバル能力が低いのは分かってる。だから相談できることは相談して、助けてもらえるとこはお願いして……ってやんないと。うてなや涼馬くんまで、キビしい無人島生活になっちゃうもん。──だから! デキるかぎりで、ご協力おねがいしまっす!」
あたしはぺこっと頭をさげる。
半人まえのあたしは、まずはチームのために、キャンパーをやりきるのが最優先!
そしたら。
涼馬くん、だまってあたしを見つめたあとで、小さな息をついた。
「……なるほど。一理あるか。使えるモノがあったら、持って帰ってきてやるよ」
彼は今度こそ、校舎を出ていっちゃう。
どさっ。
あたしは箱をとり落とした。
「うてな。鬼が、ホトケに生まれかわった」
「やー。あれは、自分の暮らしがしんどいのがイヤなだけだよ」
「なるほど。一理あるか」
塩鬼リーダーと三人で無人島サバイバル、どうなることやらだけど。
さぁ、これからいそがしくなるぞ!
あたしたちは気合いを入れて、仕事にとりかかった。
〇チーム支給品
・ブルーシート×三枚
・応急処置キット、粉塵マスク、ゴーグル
・固形栄養バー(一食×三名分)、米(三合)、塩
・飯ごう、固形燃料、マッチ、スチールの食器
・新聞紙、ガムテープ、ビニールぶくろ(大・小)
〇各自の持ちもの
・軍手、ゴム手ぶくろ、レインウェア上下
・カラビナつきロープ、サバイバルナイフ、懐中電灯、連絡帳(日記の宿題用)、ふで箱
・寝ぶくろ、歯ブラシ、着がえ三日ぶん(女子は生理用品)、タオル大・小を一枚ずつ
まずは、使えるアイテムの確認だ。
ブルーシートに、ずらりならべた品々に──、
「えええっ。食べもの、こんだけしかないの?」
うてなが一回ぶんっきりの、固形栄養バーのちっちゃなパックをにぎりしめた。
それに米は炊かないと食べられないし、調味料は塩のみ。
たったこれだけで、このさき何日すごせばいいかわかんないって、ハードだ!
しかも、あたしはタイヘンなことに気づいてしまった。
「……水が、入ってない!」
「うぇえっ!? ってことは、お昼ごはんの時のお茶で、飲みものおわり?」
二人して、青くなった顔を見合わせた。
海の水はくみホーダイだけど、塩分が濃すぎて飲み水にはできない。
水はもっとも重要だって、「S組訓練㊙教科書」に書いてあったよっ。
人間は水を四、五日も飲めなかったら、死んじゃうんだ。
「あ、あたし、水さがしてくる!」
実地訓練が命がけって、ホントなんだ……!
水も用意してくれないって、いきなりヨーシャないな!
「た、たのんだマメちゃんっ。ボクはそのあいだ、この部屋をどうにかしとくよ。こんな汚い部屋で寝たら、体調ワルくなっちゃうもんね」
「よろしく、うてなっ。おたがいガンバろー!」
あたしたちはパンッと手をたたき合わせる。
ホントはめちゃくちゃアセってるし、心細くてしょうがないけど。
とにかく心をしずめろって、「サバイバルの五か条」に書いてあった。
これはサバイバーへの第一歩だ!
あたしはイザッと、バケツを手に校舎を飛びだした。
***
意外や意外! 涼馬班キャンパー・双葉マメ、けっこう順調じゃないっ?
あたし、校舎のまわりをぐるっと回ってみたんだけどね。
校舎のウラと山のはざま。
一人しか通れないような細い道で、古い井戸を発見したんだ!
しかもその井戸水、ニゴリも臭いもなく、しょっぱくもない!
わかして消毒すれば、飲み水にできそうだっ。
さっそく、たっぷり水をくんだバケツを両手に、いそいそと学校まで帰ってきた。
水をカクホ、超・超・超うれしいし、安心したっ。
井戸があれば飲み水はバッチリだし、学校のトイレもバケツの水で流せる。
次の問題は、夕ごはんのメニューだ。
まず米をたくにも、水をわかして消毒して──。
いや、その前に火をつけるマキがいるし、そもそも食べものをさがさなきゃ。
あああっ! やんなきゃいけないコトがありすぎるっ。
家みたいに、冷蔵庫があって、コンロがあってってのと全然ちがうよ!
「あ、マメちゃん」
校門をくぐったとこで、ちょうど楽班アタッカーの千早希さんに出くわした。
さっそうとしたステキなお姉さんってカンジの彼女は、にっこり手をふってくれる。
「うちの班も、学校を陣地にすることになったの。ヨロシクね」
「わぁっ、よろしくお願いします」
ほかの班もおなじ校舎にいてくれるなら、安心だなぁ。
なーんて、怒られそうなコトを考えちゃった。
千早希さんはあたしのバケツに目をとめて、ふぅんとつぶやく。
「あ、校舎のウラに井戸が、」
「ダメだよ。別チームと、情報のやりとりは禁止。成績ポイントにマイナスついちゃう。マメちゃんのポイント、のこりがヤバイんでしょ?」
ピッと人さし指を口にあてられた。
そうだ。そんなルールあったっけ。
彼女はあたしの口から指をはなし、心配そうに笑って、歩いていっちゃった。
井戸水は減るもんじゃないのに。
みんなで生きのこるためなら、いいじゃんって思うけど。
……でもこれは訓練で、自分の担当に責任をもつ練習だからか。
「千早希さんも、指がすごくカタかったな……」
サッシ扉のスキマをくぐりながら、あたしはポソリとつぶやく。
あたしのボロボロの手のひら。
もっともっと訓練したら、涼馬くんや千早希さんたちみたいに、ヒフが強くなるはずだ。
いっしょに訓練をスタートしたはずの唯ちゃんだって、このまえ準備体操いっしょにやったとき、やっぱり手がバンソコだらけになってたもの。
「おかえり、マメちゃん! 水あったんだ!?」
「うんっ、井戸を発見したよ! しかも校舎のすぐウラ!」
「やったぁ! すごい、すごい!」
うてなは割れた窓ガラスをかたづけてくれてたみたい。
それに吹きっさらしの窓には、ブルーシートをガムテープではりつけてある。
「うてなもありがと。楽班もココになったんだってね。今そこで、千早希さんとすれちがったよ」
「うん、二階にしたみたい。でもあっち、寒いし雨もりしてんのにね。なんでだろ」
あたしはバケツをゆかに置いた姿勢のまま、ピタッと動きを止めた。
──ホントに、なんで二階にしたんだろ。
ほかの班とキョリを取りたいからくらいで、あんな環境のワルいところを選ぶかな。
サバイバルの五か条の『バ』、『場所と状況を確かめろ』だ。
もしも二階がよくて、一階じゃダメな理由があるなら、考えなきゃ。
……だれも教えてくれないし、答えあわせもできないけど。
二階は雨もりしてて、天井のハシには大きな穴があいてた。
それにさっき、校舎を外から見たときに感じた、ビミョーな違和感。
チカッと頭のなかにキケン信号がまたたいた。
「──うてな、ごめん! 移動しよう。あたしたちも二階に!」
「えええっ、なんでぇ!」
うてなはホウキをとり落とし、一生懸命そうじしたばっかりの教室をふり返った。