
この授業、恋も授業も命がけ! ぜったいおもしろい&最高にキュンとする「サバイバー!!」シリーズ。サバイバルな学校で、成績サイアクでも夢かなえます! 角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻~第3巻が、期間限定でまるごと読めちゃうよ!(公開期限:2025年6月6日(金)23:59まで)
1 めざせ、サバイバー!
B、B、B……。
朝の会がはじまる直前。
成績表のうえに、ツツーッと指をすべらせる。
国語、算数、理科、社会。
くわえて体育、英語、音楽、図工も……ぜんぶB。
ごくりとノドをならし、一番だいじな「サバイブ科目」に指をとめた。
攻C・守C・陣C
「ぎゃっ!」
思わず悲鳴をあげちゃったよ!
成績表を渡してるとちゅうの先生も、ワイワイしてるグループも、みんながこっちを見る。
あたしはあわてて成績表をとじ、アハッと笑ってごまかした。
……タッ、タイヘンだっ。
こんなサイテー最下層の成績表、だれにも見せらんないぞ。
とくに成績が優秀なコか、なにかズバぬけたトクイがあるコばっかり集まってる、
この「S組」の生徒たちには──っ。
「わぁ、ココがS組っ? 見たかんじ、わたしたちの教室と変わんないね」
窓のむこうの廊下から、「ふつうクラス」のコたちがのぞきこんできた。
「いやいや、午前中はうちらと同じ授業だけど、午後からヤバイらしいよ」
「うん。オトナもぶったおれちゃうよーな訓練をするんだって」
「ぎゃ~、わたしにはムリッ。さすがS組、すっごいね~」
通りすぎてった彼女たちの、キョーミしんしんな会話。
教室の中のコたちは、誇らしげな目で視線をかわす。
「でもウワサだけどさ、サバイブ科目がぜんぶCなのに、S組に入ったヤツがいるってよ?」
「うっそ! そんなのとチーム組まされたら、ヤバイじゃん」
「人を救けるどころか、こっちが全滅!? カンベンだよー!」
クラスメイトたちは明るく笑う。
ヒェェェ……ッ。
わたしはますます肩をすぼめた。
そう。そのオールCのヤバイのが、あたし、双葉マメですっ!

五年生の新学期。
本日からはじまる、特命生還士の養成クラス、通称「S組」!
特命生還士っていうのは、どんな災害の現場でも、かならず生きぬき、要救助者を救けて還ってくる──そう、救助のプロ!
「サバイバー」とも呼ばれる、正和時代のヒーローなんだっ。
もちろん彼らは、五年まえの大災害でも、数えきれない命を救ってくれた。
あたしは将来、ぜったいにサバイバーになるって決めてる。
そんなコが集まったのが、このトクベツ養成クラス。
強勇学園では、五年から参加できるんだよ。
おなじ夢をもつ仲間たちとの訓練の日々が、いざ始まる──!
ってワクワクしてたのに!
進級テストの成績表には、キビしすぎる現実が……!
ほそ~く開いた成績表のすきまに見える、Cの行列。
な、なんであたし、この成績でS組に入れたんだろ?
兄ちゃんの、双葉ノドカの顔が頭にうかんでくる。
優秀なコたちの中でも、とびぬけて優秀だったらしい、ノドカ兄。
その妹が、この成績って。
先生たちもガッカリしただろうな。
ザンネンながら、妹のほうは、なんにもズバぬけたとこがないトクイなし子なんです。
「ねぇ、マメちゃん。成績表のここんとこ、どーいう意味?」
となりの席から顔をよせてきたのは、空知うてなだ。

ふわふわした髪の毛に、きゅんっとつった、子ネコみたいな大きな瞳。
彼女は四年生のクラスから、たった一人おなじS組に入った、あたしの親友なんだ。
「うてな、説明会で寝てたなー?」
「だってボク、話が長いのニガテなんだもーん」
彼女がさしだす成績表をのぞきこんで、ヒャッと身がすくんだ。
国語や算数がほとんど「C」なのは、さておきっ。
サバイブ科目が、攻C・守A・陣C!
「すごいよっ、Aがある! サバイブ科目でAをとるのって、すっごく難しいんだよっ!?」
「どゆこと?」
自分のスゴさを全然わかってないうてなに、あたしは身をのりだした。
「まずね、この三科目は……っ、」
説明会での話をくりかえそうとした時。
顔のまえに、なにかが割りこんできた。
ぶあつい教科書のたばが回ってきてる。
ありがとって自分のぶんを取り、次へ回そう……としたけど。
生徒がいっぱい集まって、にぎやかなカベができてるや。
あたしのうしろ、ずいぶんな人気者さんみたいだ。
「教科書、どぉぞー」
声をかけたら、人のカベが割れた。
まんなかでほおづえついて笑ってた男子が、こっちを向く。
「ワルい。サンキュ」
手をのばして教科書を受けとったのは、びっくりするほど涼やかなイケメンだ。
凛とした瞳のかたち。しっかりと意志の強そうな眉。
声はザラッとした低い音だった。
彼は明るい赤茶の瞳を細め、あたしに笑いかけてくれた。
同級生とは思えないオトナびた笑顔に、心臓がかってにドキッとする。
「風見涼馬だ。クラスが一緒になんのは初めてだよな。今日からヨロシクな」
彼は教科書を持ったのと反対の手で、わざわざアクシュしてくれる。
「あ、えと。こちらこそヨロシク」

にぎり返して、さらにおどろいた。
すごくカタい!
いかにも訓練してマスってカンジの手だ!
あたしもS組めざして自主トレーニングしてきたけど、このヒト、どんだけっ!?
目を見ひらいたら、つくえに広げたままの、彼の成績表が視界に入っちゃった。
攻AA・守A・陣A
「ダッ、ダブルA!? そんなのあるのっ?」
「ああ。おれ、学校内で、『攻』の成績トップなんだ」
「学校内でトップって……。六年S組もいれて? けど、まだ五年がスタートするとこなのに」
「先に四年の時から、午後の訓練だけ参加してたんだ。ちょっとズルいか?」
イタズラっぽく笑ってみせる、彼。
あたしもうてなもビックリ、ため息をつくしかないや。
「飛び級かぁ……! ぜんぜんズルくないどころか、すごすぎるよ。ねぇ、うてな」
「う、うん。マジでか」
そういえば『リョーマ』っていうすっごい天才のウワサ、聞いたことあるかもしれない。
うちの学校は一学年に三百人もいて、クラスがベツだと、ほぼ他人。
だからあたし、その『リョーマ』本人を見るのは初めてだ。
超エリートで、こんな友だちが集まっちゃうほど人望もあって、ついでにイケメン。
「天は二物をあたえず」って言うけどさ。
この人、神さまから二物も三物もあたえられちゃってるんだ。
トクイなし子のあたしに、一物くらいワケてほしいっ!
──なんて考えてたら、彼がそのきれいな顔を近づけてきた。
思わず身をひくあたしの手から、シュッとうばいとられたのは、
サイテー最弱、地の底こえてジゴクの底の成績表!
「おれの見たんだから、おまえのも見せろよ」
「ちょっ、こまるっ!」
ウワサの「オールCのヤバイの」があたしだって、バレちゃうじゃん!
あわてて取りかえそうとしたけど、涼馬くんは笑いながら紙を開いちゃう。
そのとたん──、
「……双葉マメ? なんであんたが、S組にいるんだ」

笑ってた明るい色の瞳から、サッとぬくもりがぬけ落ちた。
「へっ?」
あたしはポカンと口をあける。
なんか今の、あたしのこと、知ってたみたいな言いかただった?
「ここはあんたがいていいトコじゃない。今からでも、ふつうクラスに移してもらえ」
風見涼馬は放るようにして、成績表を返してくる。
「なっ、な……っ!?」
なんであたし、いきなり怒られてんの?
今さっきまでの、好印象さわやか男子はどこ消えた!?
「あ、あたしはっ。将来サバイバーの免許をとって、人を救えるようになりたいの」
「ムリだな。向いてない。あんたは人を救助するより、されるほうだろ」
「ででででも、向いてなくたって、あきらめないよ」
あわてて言いかえすと、彼はますます瞳を冷たくする。
「オールCのくせに? サバイバーはチームを組んで戦うんだ。こんなに能力の低いヤツが入ったら、ほかのメンバーの命にかかわるんだよ」
どすっ、ごすっ、ぼこっ!
あたしを正面からぶんなぐってくる、S組エリートのヨーシャないお言葉!
「おい、涼馬。どうしたんだよ、いきなり」
まわりのクラスメイトたちも、ざわざわし始めた。
「いいか、あんたの成績表は、サバイブ科目に○がついてない」
ぎらり強く光る瞳が、あたしをキビしく見すえてくる。
た、たしかに。
うてなのには「守」に、涼馬くんのは「攻」のところに、○がついてた。
手のひらにジワッとアセがにじんでくる。
「この○は能力が高いところ、つまり、将来の担当になる科目につくんだ。つまりあんたは、トクイがなさすぎて、担当ワケもできなかったってことだ。そんなの、今まで一度も聞いたことないぞ」
トクイがなさすぎて──。
まさに、トクイなし子って自覚のあるあたしには、一番ズキッとくる言葉だ。
……あたしは去年、サバイバーをめざすって決めて。
それからずっと、なにかトクイなことを見つけようと、がんばってきたつもりだ。
だけど努力と根性だけじゃカバーできなくて。
けっきょく、このCならびの成績……。
手にした成績表の紙が、くしゃっとゆがむ。
「マメちゃんをいじめんなっ! ボクの親友だぞ!」
うてながとなりから、涼馬くんにキバをむく。
あたしは我にかえって、うなる彼女を抱きもどした。
「で、でもさ。訓練は今日からだから。あたしはこれから、自分のトクイを見つける。それで、どれかに担当をもらうつもりだよ」
「ムダだな。はやくふつうクラスに行けよ、〝担当ナシ〟」
「変なあだなつけないでよっ」
ケンカのテンションになってきたあたしたち。
「ちょっと、やめなよ涼馬くん」
「双葉さん、涼馬、ふだんはこんなんじゃないんだよ。気にしないでね」
間に入ってきたコたちに、キョリを引きはなされちゃった。
涼馬くんはフンッと鼻をならして、イスを引く。
あたしも彼に背中をむけ、成績表をつくえの中に突っこむ。
「ほらーっ、もう朝の会を始めるぞー。みんな席つけぇ~!」
ぱんぱんっと先生がハクシュした。
みんなちりぢりに、自分の席にもどっていく。
うてなはまだガルルルルッとノドをならして、涼馬くんをイカク中。
あたしは……、突然のことに、まだ心臓がバクバクしてる。
いきなりみんなの前で、イチバン痛いとこ突いてくるなんて、ヒドくないっ?
念願のS組なのに、なんて出だしだろ。
「さぁて。今日から午後は、校庭で訓練授業だ。五・六年いっしょだが、S組には、学年のあいだで上下カンケーはない。自分の能力、つまりは成績ポイントがすべてになるから──、」
ぶっとい声で語るのは、いかにもS組の担任ってカンジの、筋肉もりもりマッチョ先生だ。
……でもさ。あたし、風見涼馬になんかした?
話したの、今日が初めてだよね?
じゃあ本気で、あたしの成績がワルすぎるから、足手まといだって怒ってるのか。
「ね、オールCって、あのコだったんだね。双葉マメちゃん?」
「こら、本人に聞こえちゃうよ。かわいそーじゃん」
ひそひそ声が、どこからかバッチリ本人まで聞こえてくる。
ずどぉぉぉん……っ。
ヘコみすぎて、おでこがつくえにくっついちゃいそうだ。
だ、だけどさ。訓練はこれからだもんね。
ノドカ兄が待ってるのに、夢のスタートラインであきらめられない。
あたしは一度落ちた顔を、なんとかグイッと持ちあげた。
やっぱ、みんなの二倍三倍がんばるしかないっ!
気合いを入れながら、手もとに目を落とし。
「S組訓練㊙教科書 ※すべて一週間以内に暗記してくること」
と書かれた、ぶあつ~い教科書に、さっそくギャッと悲鳴をあげた。