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ものがたり

新刊発売記念!「サバイバー!!② 緊急避難! うらぎりの地下商店街」第2回 まさかの仮免呼びだし

5  いざ、七夕祭り!

 青い空、白い雲!

 本日、七夕祭り当日。

 会場の公園は、生徒と地元の人たちで大にぎわいだ。

「アンコたんないよ~っ。あと一皿ー!」

「はぁーい! うてな、お団子焼けたっ?」

 手のひらを出したら、焼きアミ担当のうてながコンロの前にいない。

 と思ったら、クラスメイトにえり首をつかまれ、現場に連行されてきた。

「空知さん、お客さんが並んじゃってるよっ。はやくっ!」

「ぶえええ、アッツいよぉ~。交代まだぁ~?」

「あとちょっとだよっ。がんばって!」

 そんな会話まで楽しいなーって、あたしはニッコニコで、今度こそお団子を受けとる。

 うてながトングで盛ってくれた白団子は、ちょっとコゲぎみだ。

 その上へ、お玉いっぱいぶんのアンコをゴーカイにぶっかける。

「双葉さん、次、きなことしょうゆお願ーい!」

「はーい!」

 快晴の日ざしの下、焼きアミの近くは、どーしても暑いや。

 ようすを見にきたお団子屋のおばあちゃんも、すぐに休けい用テントへ行っちゃった。

「マメ、うてな! おまたせ~っ。交代の時間だよ!」

「遊んでおいでー!」

 唯ちゃんと健太郎くんが休けいからもどってきた。

 救世主! って手もとから顔を上げたら。

 ――二人とも水浴びしてきたみたいに、頭からズブぬれだ。

「天気雨⁉」

 思わず真っ青な空に、雨雲を探しちゃった。

「ちがうちがう! 六年S組が、すっごいのやってんのっ! あっちの芝生広場!」

「双葉さんたちも行ってきなよ。もうちょっとで今回の終わっちゃうから、いそいで!」

 近ごろあんまり元気のなかった健太郎くんも、キラキラ笑ってる。

 あたしたちはさっそく屋台の行列を走りぬけ、公園おくの、芝生のほうへ!

 ――と。

「ウォーターパーティ?」

 広場の入り口に、カンバンがドドンッとすえてある。

 中では、見なれた訓練服にTシャツのメンバーが、お客さんたちを追っかけまわしてる。

 水タンクを背おった彼らは、大型水でっぽうを発射。

 シュバアアッと音をたて、水しぶきが飛びちる!

 ひええ~っとか、キャアアッとか、広場のあっちこっちで楽しげな悲鳴があがった。

「なにこれ! マメちゃんっ、楽しそー!」

「ねーっ‼」

 ワクワクとこぶしをにぎったとたん、

「「ゆ・だ・ん・たいてきっ!」」

 真後ろに、二つ声が重なった!

   ズバババババッ!

「「ぎゃああっ!」」

 ふり向いた顔面が、水でっぽうのえじきに!

 犯人は、ナオトさんと千早希さんだ。



「…………うっわ。もっかいカケてくださいっ!」

「ボクもー! 気っ持ちいーい!」

「いやいや、ここは『キャー!』がほしかったかな?」

「たくましすぎよ」

 ぴょんぴょんハネるあたしたちに、センパイたちは半笑いでツッコんだ。


   ***


 ウォーターパーティは、楽さんのアイディアらしい。

 その本人が、まだ基地から帰ってきてないんだから残念だよなー。

 もちろん涼馬くんもだし、七海さんもやっぱり研究チームで、お祭りは不参加だそうだ。

「今日はさ、『伊地知さんいないの~?』って、女の子たちに何回聞かれたか分かんないよ」

 笑うナオトさんは、これから休けい時間だそう。

 あたしたちといっしょに、屋台をまわってくれるって!

「――あの。ナオトさんって、あたしの兄ちゃんと話したことあります?」

 警戒すべき涼馬くんがいない今は、かえって情報を集めるチャンスかもしれない。

 さりげない風をよそおって、となりをそろりと見上げてみた。

 彼は歩きながら、「ああ……」と遠い目になる。

「あいさつくらいかなー。ノドカさん、いつも基地のほうでプロにかこまれてたから。オレたちからは話しかけづらかったんだよね。今の六年S組のメンバーは、たいていそんなカンジだと思うよ」

「涼馬くんも、ですか?」

「彼はもっとだよ。去年は午後訓練しか出てなかったし。仮免をとって現場に入りはじめたのも、秋ごろだったかな? ノドカさんが逃げちゃったのと、入れかわりで――。あっ、ご、ごめん」

「いえっ。あたしが聞いたんですから」

 気まずく顔をこわばらせたナオトさんに、あたしはあわてて両手をふる。

 でも、そっか。

 涼馬くん、ウソをついてたワケじゃなくて、本当に「顔を知ってる」ていどだった?

 ……けどそれなら、あたしのホイッスルを持ってたのが説明つかないよね。

 落とし物をひろって、カワイイからもらっちゃった……なんて、まさかだし。

 新情報ゲットどころか、ますます混乱してしまった。

「あ、短冊あるよっ! 書いてこーよ!」

 先を行ってたうてなが、満面の笑みでふり返る。

 あたしも箱から一枚とった。

 のっぽの笹には、すでに大量の短冊が、わっさわっさと風にたなびいてる。


   バスケのプロ選手になれますように。

   いっぱいの人に、いっぱいの幸せを届けられますように。

   大事な人が、ずっと笑顔でいてくれますように。


 みんなの願いごとに、ほっこりしちゃうな。

 あたしたちは将来、こういう夢を守るプロになるんだ。

 みんなの願いや夢を、花みたいに咲かせた笹。

 それを見上げ、あたしたちもペンを走らせる。

 もちろん「サバイバーになれますように!」だ!

 ……でも、手早く、もう一行だけ書きそえた。

「ノドカ兄と、はやく会えますように」

 二人に気づかれないよう、ほかの短冊のカゲに結びつけながら、全力で手をあわせる。

 どうかどうか、かないますように!


 それからあとは、チョコバナナからスタートして、射的に、輪投げに、クジ引き。

 カラアゲ串、ソースせんべい、わたあめ、もちろんアンコたっぷりのお団子も!

 お財布はカラッポになっちゃったけど、もー大満足!

 四月からがんばったぶん、全力で楽しんだ~~っ‼ ってかんじ!

 ――でもさ。やっぱり涼馬くんたちとも、いっしょに遊びたかったなぁ。

 今ごろ基地でムスーッと座ってるのかな。

 フキゲンな顔を想像して、ちょっと笑っちゃった。

 ソースせんべいのルーレットなんて、アタッカートップの動体視力で百枚とか当てちゃいそうだし、射的とか輪投げとか、きっとゲーム系は最強だ。

 いっつも訓練中のキリッとした顔ばっかりだから、プライベートの顔、見てみたかったかも。

 ふつーの友だち相手だと、どんなふうなんだろ…………なんて。

 あたしは彼を警戒しなきゃいけない立場なのに、なに考えてんだろな。

 照りつける日ざしに、ぬれたTシャツも髪も、勝手にかわいてきた。

 入道雲もますます大きくなって――って、あれ?

「うてな。雲がすっごく大きくなってない?」

「うわっ、ホントだ! エリンギみたい!」

 もくもく立ちのぼる雲の、頭のほうが平らにツブれて広がってる。

 まさにうてなの言うとおり、空に浮かぶ巨大キノコだ。

 ……待てよ。

 Sテストで勉強したなりだけど、あれって豪雨をひき起こす、危険な雲では――。

「はい。これ、Sテストのごほうびね」

 いなくなってたナオトさんが、ひょいっとなにか渡してきた。

 なんと、レインボーシロップのカキ氷だ!

「やったー‼ ナオトさんっていい人だなー! ボク知ってたよっ」

「もらっていいんですか?」

「ほかのコたちにはナイショだよ」

 あたしたちは大はしゃぎでお礼を言って、花壇のブロックに腰かける。

 夏色のカキ氷にストロースプーンをさすと、シャクッと夏の音。

 ナオトさんもとなりに座って、あたしたちをにこにこ眺めてくる。

「マメちゃんの願いごと、かなうといいね」

「うえっ」

 あたしはビックリして、せっかくのカキ氷を落っことしそうになっちゃった。

 ――もしかして、さっきのあたしの短冊、見てたのかな。

 それで、はげまそうとしてくれて、カキ氷?

 あたしはきゅっとノドが細くなっちゃって、きらきら光る氷のツブに目を落とす。

 ナオトさんは、ノドカ兄のことを、まだサバイバーの仲間って思ってくれてるのかな。

「ありがとうございます……」

 あらためて言いなおすと、彼は優しい顔で笑ってくれる。

「えっ、なに? なんでマメちゃん悲しくなってんの。ナオトさん、いじめたなっ⁉」

「いやややっ、いじめてないです」

 ガルルルッと威かくするうてなに、ナオトさんは大あわてで手をふる。

 あたしが「どうどうっ」と間に入ったところで、

ずどん!

 いきなり、地面が上下にゆれた⁉

 反動でカキ氷のてっぺんがくずれて、ベシャッと地面に落っこちたっ。

「まだ食べてないのにっ!」

 悲しすぎるけど、S組生徒としてはそれどころじゃない!

 三人そろって息を殺し、ようすをうかがう。

 立って歩いてる人たちは、気がついてないみたいだ。

 だけどスニーカーの足のうらに、ビミョーな震動を感じる。

 まるで真下を、地下鉄が走っていくような……?

 遠ざかっていった震動に、あたしたちはカキ氷で手をぬらしたまま、おたがいを見つめあう。

「この下、電車通ってましたっけ?」

「駅からは近いけどね。地下鉄のルートかは、調べないと分からないな」

「ちっちゃな地震じゃないのぉ?」

 周囲を見まわしてみて、今さら気づいた。

 地震とはカンケーないけど、西の空がどんより暗くなってる。

 涼馬くんたちがいるはずの基地の鉄塔も、いつの間にか重たい雲のなかだ。


 温まった空気は上へのぼって巨大な雲をつくる。

 これが「局地的大雨」、いわゆるゲリラ豪雨をもたらすんだ。

 避難がおくれれば、要救助者がたくさん発生する、おそろしい災害につながるぞ。


「帰れま1000」のときの涼馬くんの声が、耳によみがえった。

 ナオトさんがスマホを立ち上げ、「雨雲レーダー」って検索して、地図を出す。

 現在地を拡大すると――。

 あたしたちのいる場所に、真っ赤な色がせまってる!

「これはヤバそうだぞ」

 ナオトさんがこわばった声でつぶやいた。

「マ、マメちゃん」

「うん。ゲリラ豪雨が……来る」

 まるで巨大な灰色のカベみたいな積乱雲。

 それに気づかず、にぎわっている屋台。

 あたしたちはゴクリとノドを鳴らした。


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