KADOKAWA Group
NEW ものがたり

新刊発売記念!「サバイバー!!① いじわるエースと初ミッション!」第3回 非常事態、発生!

17  おかえり、あたしたち!

 八日間の無人島実地訓練。

 しかもガケくずれの土砂災害に、未知の危険生物つき!

 だけど参加者九名、みんな生きて帰れた!

 あたしたちは病院じゃなくって、学校カンケーの研究所らしきビルに運びこまれた。

 楽さんたち負傷者は、うてなのカルテのおかげで、すぐに治療してもらえたんだ。

 あたしは全治二週間のねんざ。

 しばらくは運動も訓練もダメだって。

 でも、ひっさびさにあったかいおフロに入れたし、シャンプーを使って頭も洗えた。

 なにより肉汁たっぷりハンバーグ(ヘビ肉じゃない!)や、あっっまぁぁいケーキ(念願のおさとう)が、めっちゃめちゃおいしかった!

 家族に連絡をとることも許されて、おじさんとおばさんに「実地訓練だったけど、ぶじに帰ってこられたよ」ってだけ伝えた。

 二人ともやっぱり心配しまくってて、電話のむこうで泣かれちゃったよ。

 ほんとはイロイロ、話したいこともあるんだけどね。

 あたしが二人にすべてを話すのは、ノドカ兄を見つけてからだ。

 電話をスタッフさんに返したら、ちょうどうてなが、食堂から顔を出した。

「マメちゃーん、これから全体ミーティングだって~!」

「はーい!」

 うてな、訓練の後半はずっと顔色がワルくて、精神的にも体もしんどそうだったけど。

 今はほっぺたツヤツヤぴかぴか、いつものうてなだ。

 あたしはぶじに帰ってきたんだなぁって、あらためて嬉しくなって。

 テーピングでがっちり固められた足で、ピョンピョンとハネて、食堂へ。

「お。マメちゃん、待ってたよ」

 とびらを開けたら、にっこり笑う楽さんをはじめ、ともに実地訓練を乗りこえた仲間たち。

 みんなが、あたしを笑顔でむかえてくれた!


    ***


「──え? いなかった?」

 そろってボーゼンと、大型モニターの映像に身をのりだす。

「そうなんだよねー」

 楽さんはリモコンで次々と、写真をきりかえていく。

 まだ爆発のなごりが燃えくすぶってる、深い穴の底。

 転がってるはずの巨大ネズミの体が、カケラ一つ見当たらない。

「調査チームの報告だと、巨大ネズミの死体は、どこにも見つからなかったって。ホントにふしぎだよねぇ」

 楽さんは映像のスイッチを切り、ほおづえをつく。

「ま、まさかっ。だってあたしたち、みんな見ましたよね!?」

「楽さん。足あとは大量に見つかってるハズです。最終日、地面はぬかるんでいて、そのあと雨はふってこなかった。ちょうど足あとが残りやすい状況でした」

「うん、もちろん。今、その足あとは石膏を流しこんで、持って帰ってきてる」

「先生からも、ふたたび調べなおすと約束をもらいました。わたしもこの研究所の、調査チームに入ります。アレを、この目でモクゲキしていますから……」

 七海さんのぽそぽそしゃべりを、すかさず唯ちゃんがメガホンでサポートしてくれた。

 ──あの、巨大なネズミ。

 それに前も実地訓練に現れたって、学園怪事件のウワサになってる未知の危険生物のはなし。

 ノドカ兄がいなくなったのも、ああいうケモノが関係してたり……?

 あたしはブルブルブルっと頭を横にふった。

 ダメだ。そしたらノドカ兄が、危険生物に殺されちゃったって話になっちゃいそうだ。

「大丈夫か、マメ」

「う、うん」

 涼馬くん、すっかり「あんた」じゃなくって「マメ」って呼んでくれるようになった。

 S組の一員として認めてくれたのかなって、勝手に思ってるけど……、どうなんだろ。

 あたしがうてなと穴に落ちかけたときの、

『せっかく親とノドカさんに救けてもらった命なのに、わざわざ死ぬことないだろ』

 って、あの言葉はさ。

 つまり、あたしがノドカ兄の妹だから、わざと冷たくして、危険なS組をやめさせようとしてくれてた──ってことだったのかな。

 でもベツに涼馬くん、ノドカ兄と仲よしでもなかったんだよね?

 ……やっぱり、よくわかんないなぁ。

 じぃぃっと見つめてたら、気づかれちゃった。

 彼は眉をあげ、「集中」って、べちんとあたしの頭をレポートのたばでたたく。

「さーて、それから。みんなが気になってた、今回の実地訓練の成績ポイントについてです」

 楽さんがくるっとイスを回し、こっちを向いた。

 みんなの視線が、バッとあたしに集まる。

 そ、そうだ。ポイントがマイナスになったら、まっさきにS組から失格になるのって、〝担当ナシ〟のあたし──っ!

「今回の実地訓練は、やっぱり土砂災害までだったそーです。よって、危険生物が出てきたあとにチームを解体したのは、減点ナシになりました」

 ぱっと明るくなったみんなに、楽さんは眉を上げる。

「ただし。土砂災害の前から手を組んでた七海班と涼馬班は、みんなそれぞれ減点5ポイント。リーダーとして不安定だった七海は、さらに減点10ポイント。とちゅうでリーダーを脱落したぼくも、20ポイント減点。弱音をはきまくってた、健太郎くん、うてなちゃんも減点2ポイント。マメちゃんはたき火つけてもらうの、涼馬にやってもらったよね? あれも、一回につき減点1ポイント」

 ひええええ……っ。

 みんな絶句だ。あたしは体がわななく。

 生きて帰れてよかったねーで終わらないS組は、やっぱりスパルタの「S」……!

「ただし。今回、まったく情報のない危険生物に、それぞれの持てる技術と知識をフル活用して、メンバーが協力して切りぬけました。まさに、サバイバーの理想的なすがたでしたね。

 ──ってことで。学校から、チームポイントとして、参加者全員にプラス10点出すようにって、指示がありました!」

 あたしは瞬速でまばたきする。

「ならあたしは、えーと、」

 思わずつぶやくあたしに、みんなの視線がふたたび集中する。

 涼馬班のみならず、六年のセンパイたちや、健太郎くん、唯ちゃんまで心配な顔。

「だ、大丈夫だよね? 双葉さん」

「だってマメちゃん、あんなカツヤクしたのに」

「ま、待って。マイナス5にマイナス2たす10……で、プラス3ポイント!? S組にのこれる!!」

「や、やったぁ!」

 みんなそろっての、大歓声!

「よかったよぉぉ~~っ、マメちゃぁん!」



 がばっと抱きついてきたうてなは、自分のほうがハナをずびびっと鳴らしてる。

 唯ちゃんたちもバッとイスを立ち、こっちに駆けよろうとしてくれて──、

 だけど全員ケガ人だ。

 痛ぁっ! とそれぞれに悲鳴をあげて、その場にうずくまったのでした。


    ***


「じゃあね~っ、マメちゃん! またあした、S組でね!」

 次の日の夕方、あたしたち九人は、やっとこさで解散になった。

 校庭まで学校のヘリで送ってもらうなんて、なかなかできない体験もしちゃった。

 ひょっこひょっこ、片方の足を引きずりながら、家への道を歩いてたら、

「マメ。送る」

 となりに涼馬くんがならんだ。

「うわぁっ? い、いいよっ。涼馬くん、寮と反対の方向じゃん」

「家に帰るまでが訓練。あとちょっとって気のぬけた時は、事故を起こしやすい──だろ?」

「…………ハイ・ウォールで、うてなをケガさせそうになったのは、とっても反省してマス」

「あー、アレな」

ガッ。

 いきなり頭を横から、両手でわしづかみにされた!?

「あの時なっ。おまえ、むやみに突っこんでくから、うてなと脳天と脳天でショートツするタイミングだったんだぞっ」

「うそっ、コワい!」

「コワかったのは、おれのほうだっ。心配かけやがって、このバカ!」

 ぎりぎりぎりぎりっと頭をシメあげられ、あたしはヒイイイッと悲鳴をあげる。

「ゆるしてぇぇ~~っ。もうムチャしませんからァ!」

「ほんとか」

「ほんと!」

「双葉マメの『ムチャしない』ほど、信用できないもんはねーな」

「……うん。たしかにあたし、そこを信用してとは言いきれない、かな?」

 もしもまた「みんなで生きて帰れるかどうか」って事態になったら、どうにか全員で切りぬけられる方法を考えたいと思うし……。

 シンケンに悩みだしたあたしに、涼馬くんは──、

「しょうがないヤツ」

 声をたてて笑った。

 あたしは頭をつかまれたまま、呼吸を止めて。鼻さきで笑う彼に見入る。



 さしこむ太陽に、きらりと明るく透ける瞳。

 まるで、光のこぼれるような笑顔だ。

 まぶしくて、目をすがめた。

 彼は訓練中よりずっとゆっくり、車道がわを歩いてくれる。

 なのにあたしはなんだか落ちつかなくて、ひょこひょこ早足になってしまう。

「で。マメ、まだS組にいるつもりなのか」

「もちろんですっ!」

 ムリだとかやめろとか、冷た~い言葉が返ってくると思ったんだけど。

 涼馬くんはただ、夕陽の空を見上げた。

「マメは……、意外とサバイバーに向いてるかもな。ノドカさんが期待されてた〝リベロ〟は、どの担当になにが起こってるのか、冷静に観察して、サポートするのが仕事だ。マメには、その素質があるかもしれないと思った」

「リ、リベロッ? まさか! あたしが今回生きのこれたのは、みんながいてくれたからでっ。まずは〝担当ナシ〟を卒業することだよね!?」

 思いもよらない人に、思いもよらないホメかたをされて。

 ホメられ慣れてないあたしは、顔が真っ赤になっちゃう!

 そしたら涼馬くん、今度こそ冷ややか~に一言。

「調子にのんな。あったりまえだ。おれは可能性の話をしてるだけだ、〝担当ナシ〟」

「あたしやっぱ、涼馬くんはこのぐらいツンツンしてるほうが落ちつくや。ヘンに優しいと、ベツの人みたいだもん」

「おれはじゅーぶん優しいだろ」

 いつもの調子でそっけなくあしらいながらも、横顔が笑ってる。

 ……そうだよね。

 あたしの命を心配して「S組やめろ」って言ってくれてたなら、じつは最初からずっと、優しくしてくれてたんだ。

 自分が悪者になっても、「ノドカ兄の妹」のためにって?

 ホントにそうだったのか、今が聞いてみるチャンスかもな。

 どう切りだそうか、そわそわ考えてたら──、

「マメ!」

キキィッ!

 車があたしの目の前すれすれを横ぎってった!

 うわっ! あたし、浮かれて信号見てなかったよ!

「ご、ごめん! ──って、イタッ!」

 足をまともに地面についちゃって、よろめいた。

 だけど、すかさず涼馬くんがワキをすくって支えてくれる。

「おまえホント、家に帰るまでしっかりしてくれよ」

「ありがとうゴザイマス」

 歩道のすみで、あたしたち、抱きしめあってるみたいになっちゃった。

 あわてて離れようとしたんだけど。

 その時、かがんだ彼のパーカーの内がわで、なにかがキラッと光った。

 ネックレス? 涼馬くん、そういうのしそうにないタイプだけど。

 目をまたたいて、あたしは息をのんだ。

 彼はあたしの両肩をつかみ、ゆっくり体勢をもどしてくれる。

 近づきすぎたそのキョリで、見えてしまったんだ。


 彼が首からさげてる、ピンク色の……ホイッスル!


 あたしがノドカ兄にあげた「約束のしるし」──!?

 急に心臓がバクバク波うちはじめる。

「また足をヒネるから、慎重に動け」

「あ、ありがと……」

 身をひきながら、自分のホイッスルを服の上からにぎった。

 あたしがノドカ兄からもらったコッチは、色ちがいの水色だ。

 二つとも親がおそろいで買ってくれたもので、サバイバルのプロ用のじゃない。

 子ども用のなんて、涼馬くんがわざわざ買って身につけるはずない。

 ──じゃあ、なんで涼馬くん、ノドカ兄にあげたホイッスルを持ってるの?

 ノドカ兄とは仲よかったワケじゃないって、言ってたよね。

 でも、そういえば……、

 涼馬くん、あたしがT地区大災害の生きのこりだって知ってた。

 大ネズミに追っかけられてたときも、ノドカ兄と性格が似てるって言ってた。

 あの時はトロッコに夢中でスルーしちゃってたけど。

 ノドカ兄と深く関わってるのは、まちがいないよね?

 彼がほかの人にあげるハズない、そのホイッスルを持ってるんだもん。

 だけど、知らないフリしてるのは、なんで?

 あたしにうしろ暗いコトがあるせい……?


 涼馬くんはたぶん、なにかを知ってて、ノドカ兄のゆくえ不明にからんでる。


 カミナリみたいに体をつらぬいた確信。

 あたしはよろりと、彼から一歩はなれた。




あとがき

 初めましての方もそうじゃない方も、こんにちはっ! あさばみゆきです。

「トクイなし子」なマメと、塩鬼リーダー涼馬たちが命をかけて協力サバイバルする、このお話!

 人の命を救う「サバイバー」をめざして奮闘中のマメだけど、学校の授業は超スパルタ!

 しかも訓練では、「子どもたちだけで生きのびろ」って無人島に放りこまれちゃって!?

 個性デッコボコのS組メンバーによる、ピンチと冒険でいっぱいの毎日をお届けしま~す!

 あっ。本文での「たすける」の漢字は、お話のテーマに合わせて「救う」の「救」の字を使ってるけれど、学校では「助ける」が正解になります! 漢字テストの時は気をつけてね!


 お話のなかで、マメたちは災害に立ちむかうことになるけど、災害っていつ起こるかもわからないし、頭の中まっしろになるし、ほんっとに怖いよね。

 わたしも東日本大震災のときに東京にいたんだけど、家はぐわんぐわん揺れるし、モノはふっ飛ぶしで、人生一番怖かったのを今も思い出します。

 そして過去も今も、まさに災害でつらい思いをした(してる)読者さんがいるよね。

 主人公のマメは、小さいときに災害にあったコです。心にしんどいものを抱えつつも、童話の「ジャックと豆の木」の豆の木みたいに、力強く伸びて育っていこうとするマメ。彼女はまだちっちゃな双葉だけど、マメのがんばる姿から、みんなに元気を届けられたらなと願ってます。


 さて! 次なる②ではトキメキ♡も増量! そう、今度のサバイバルは超のつく大ピンチ!? なんとその大ピンチのなか、涼馬とマメがっ、ぐふふ……。

 ──って、背後に弓を引きしぼる、不穏な気配が!?

タンッ、タンッ、タンッ!

(あさば、頭の上と顔の両わきに突きたった矢に震えながら)おおお……っ。さすがはアタッカートップの涼馬のコントロールッ。あさばの命も大ピンチィ……ッ。

 こ、ここで語ると、仕留められちゃいそうなので、ぜひ、予告のページをご覧ください♡


 最後に謝辞を! 二人三脚でお話を作りあげて下さった編集担当の大場師匠っ。何度も何度も丁寧に相談に乗ってくださり、励ましのお言葉をありがとうございました! 大迫力のイラストの力で、ドキドキを一億倍にして下さった葛西尚先生っ! カッコよくかわいく、生き生き輝く瞳のキャラたちに、心臓大爆発です(メンバー勢揃いのイラストの、うてなのビミョーな表情に大笑いでした)。ありがとうございました……!

 この本を読んでくれたみんな! ありがとぉぉ──っ!! みんなに楽しかった~って思ってもらえてたら、超幸せです! よかったら、つばさ文庫公式HPへのコメントやお手紙で、ご感想や、「こんなサバイバルはどうっ?」ってアイディアを教えてね♡(お返事かならず出してるので、三か月くらい気長に待っててくださーい♡)

 そして、大事なことを忘れるとこだったよっ。続刊のお知らせです! 『星にねがいを!⑦』(角川つばさ文庫)は二〇二一年十月、『歴史ゴーストバスターズ②』(ポプラキミノベル)は同年十二月、『サバイバー!!②』は二〇二二年一月の予定ですっ。「星ねが」はいよいよの最終巻~っ。どうぞよろしくね☆ あっちやこっちでも、みんなに会えたらうれしいな♪

 最新情報や、各シリーズのおまけ小話は、わたしのHP(https://note.com/asabamiyuki)をチェックしてね! それでは、ここまで読んでくれて、本当にありがとぉぉ──!

 みんなもマメたちといっしょにぃっ、「注意! ゴー!」だっ!


おもに参考にした図書

『災害現場でのトリアージと応急処置 第2版』山﨑達枝著、日本看護協会出版会
『全図解 アメリカ海軍SEALのサバイバル・マニュアル 災害・アウトドア編:日常のトラブルから絶体絶命のピンチまで』クリント・エマーソン著、竹花秀春訳、三笠書房
『サバイバルノート:アメリカ陸軍サバイバル・マニュアル3』鄭仁和訳・編、朝日ソノラマ
『新 冒険手帳:災害時にも役立つ!生き残り、生きのびるための知識と技術』かざまりんぺい著、主婦と生活社


【保護者の方へ】




「サバイバー!!② 緊急避難! うらぎりの地下商店街」
第1回につづく


この記事をシェアする

ページトップへ戻る