16 カクゴを決めろ!
ガタガタガタガタッ!
あたしたちが洞くつ方面から乗りこんだトロッコは、山の斜面を一気にすべりおりていく!
うしろからは、大ネズミが体をゆさぶりながら突進してくる!
ビシッ!
涼馬くんの放った矢が、前足ではじかれた。
けど、大丈夫!
こっちを追っかけてくるように挑発してるだけだから、作戦は順調だ!
あたしは進行方向をカクニンしつつ、急ごしらえで取りつけたブレーキバーをにぎる。
正面から吹きつける風で、前が見えづらいっ。
このままレールを下って、めざすのは畑アト、きのう、あたしとうてなが落ちかけた大穴だ!
うてなとナオトさんは、あそこでスタンバイしてくれてる。
今ごろホイッスルの合図を受けて、軽油をあの穴にまいてるはずだ。
トロッコも大ネズミも、レールの金属とすれあって、静電気を帯びてる。
そんなのが、軽油の満ちた穴に近づいたら──。
そう、ドカンッと大爆発だ!
これが、あたしたちが明け方から準備した、
巨大ネズミ退治大作戦!
あたしがこのアイディアをみんなに相談したとき、ナオトさんは「軽油なんてそんなの、手に入れられないよね」って首をかしげたんだけど。
あったじゃん!
浜べに転がったまんまだった、あのミニバスの燃料タンク!
キケンな集落をさけ、山のなかの道なき道をえっちらおっちら運びあげといたんだ!
作戦がうまくいったら、あたしたちは穴の直前でブレーキをかけ、トロッコから脱出する。
……だけど。
ちょっとでも脱出のタイミングがおくれたり、引火するのが早かったりしたら。
あたしたちは、大ヤケド待ったなし。
動けるディフェンダーがうてな一人なのに、「人の命をあずかるのはコワい」っておびえてた彼女に、しんどい作戦をたのんじゃった。
でも。うてなは「わかった」って、一言。
自分の心をのりこえるんだって──そうカクゴを決めた瞳が、すっごくカッコよかった。
そして、十回目のカーブ! もう村の畑の景色だっ!
「涼馬くん、次の角でおしまいだ! 右方向、曲がるよっ!」
「了解!」
二人で体をかたむけてブレーキをきかせながら、百八十度の急カーブを曲がる!
ふんばると、ねんざの足がじくじく痛む。
ブレーキをもどすなり、ガタンッと、浮いてた右車輪がレールに着地したっ!
「よっし、成功! ハハッ。これ、ジェットコースターみたいだね!」
コワいのを通りこして、笑いがこみあげてきちゃった。
「おまえ、ほんっと、そーいうトコな!」
「なにっ?」
「ノドカさんに似てる!」
「あたし、血はつながってないってば!」
なんて、ヨユーの会話をしてる場合じゃないぞっ。
ネズミがふみきろうと体を丸めてる!
マズイ! 一気にキョリをつめられちゃう!
涼馬くんの放った矢が、近づきすぎたネズミの足に刺さった!
ぎいいいっ!
大声をあげたネズミは地面に転がったけど、ふたたび駆けてくる!
耳もとでうなる風に、油のニオイ。
「マメちゃぁーん! リョーマーッ!」
「うてなだ! ゴールだよ!」
レールの終わりが見えてきたっ!
林のなか、大穴のわきで待ってた二人が、あたしたちを見つけて、離れた木カゲへ逃げこむ。
ここまでバッチリ、計画どおりだ!
「マメ! 脱出の準備!」
「了解!」
涼馬くんが弓をすて、あたしといっしょにブレーキバーに飛びつく。
えいやっと全力でブレーキバーを引きもどした!
ガガガガガッ!!
車輪とレールがこすれあう、激しい音!
「「止ぉまれぇぇ──っ!」」
バキッ。
「「!?」」
二人して足もとに目を落とす。
ブレーキバーが、まんなかからへし折れてる!!
「うそぉ!」

もう、すぐそこに大穴だ!
大ネズミも真後ろに!
ムワッと軽油のニオイが強くなる。
台車のイキオイはぜんぜん止まらない──っ!
あたしと涼馬くんは視線をかわした。
「行くぞ!」
涼馬くんと同時に、台車のフチへ足をかける!
だけどクセでのせちゃったのは──、ねんざしてる、右足!!
ズキッと走った痛みに、踏みこみそこねる!
涼馬くんが、さきに地面を受け身で転がるのが見えた。
「マメ!?」
あたしはジャンプもできないまま、
がこんっ。
台車ごと、大穴に吸いこまれていく!
全力で突っこんできたネズミの鼻づらが、落ちていくあたしの真上をかすめた。
パチパチッと静電気のハジける音!
「マメちゃん!!」
うてなの悲鳴が聞こえた。
だけど、
「注意!」
あたしはハッと、穴のフチからさし出された手に目を向ける。
「「3、2、1ッ!」」
かけ声とともに、痛む足首なんてムシして、思いっきりトロッコをケる!
「「ゴー!」」
そして涼馬くんの手のひらへ、全力でうでを伸ばした!
***
ドウゥゥゥンッ!
真っ白な光と、たたきつける風!
全身あちこちに打ちつけ、視界がぐるぐる回転するっ。
熱いんだか痛いんだか、もう、なにがなんだか。
爆風は上に吹きあがるから、ふせの姿勢をとってれば、被害は最小限ですむ。
まさに教科書どおり──だけど。
げほげっほムセながら、あたしたちはそれぞれ身を起こす。
あたしたち、生きのこれた……!?
こんなヤバイ状況だったのに、ギリギリでっ!
「──ってか、ダメじゃん! 涼馬くん、自分の命を優先しろって怒ったくせに、なんであたしを救けてんのっ」
「おれはいいんだよ」
「ハァ!?」
首ねっこにつかみかかるあたしに、彼はススまみれの顔で、ふんっと鼻をならす。
「おれはダブルA。マメは〝担当ナシ〟。実力がちがう」
「んぐぬぬぬっ。……でもあたしっ、ハイ・ウォール、初めて成功したもんね!」
「何百本も失敗して、本番で成功かよ。おそいんだよ」
「マメちゃぁ~~ん! リョーマァッ!」
ザバッ!
「ぶえっ」
駆けつけてきたうてなに、バケツの冷たい水を思いっきりひっかぶせられた。
「………………」
「………………」
「………………あれ。ヤケドしてなかった?」
全身ずぶぬれのあたしたちに、うてなが首をかしげる。
──そして。
ぶはっ。
三人そろって、大爆笑!
いやっ、ちょうどススまみれだったし、洗えて一石二鳥だけどさぁっ!
すると、涼馬くんが、あたしたちに手のひらを出してきた。
「とにかく、生きのこった。任務カンリョーだな。涼馬班、おつかれさん。よくやったよ。マメも、うてなも」
「「リーダーも!」」
三人で、パンッと手を強くうちあわせた。
手のひらがしびれるほどの強さに、あたし、生きてるんだなって実感して。
うてなの泣き笑いと、涼馬くんの青空みたいな笑顔に、あたしは胸の底の底が、燃えるようにアツい。
「あっ、見て! 上っ!」
追いついてきたナオトさんが、上空を指さした。
上から吹きつけてくる風。
ヘリコプターだ!
校章の入った大きなヘリコプターが、上空を旋回してる。
やっと、やっとむかえが来た!
「これで実地訓練も終了だぁ……っ!!」
あたしたちはホ~ッとしたとたん、体から力がぬけて。
その場にドシャッと、あおむけに寝っころがったんだ。