KADOKAWA Group
NEW ものがたり

新刊発売記念!「サバイバー!!① いじわるエースと初ミッション!」第3回 非常事態、発生!

14  ナゾの巨大生物、あらわる!

「ウソだろ……」

 すぐうしろに、楽さんのかすれた声。

 あたしたちの懐中電灯が、何本もの光線になって──ソレを照らしだす。

 黒い影になって浮かびあがった、巨大なケモノ。

 ふさふさした毛皮。

 リスみたいにころんとして丸い顔。

 細くてするどいツメの、体にたいして、ちっちゃな手足。

 だけどほんとに、人間が見上げるような大きさだ……!

 白く光る二つの目玉が、あたしたちをまっすぐにとらえてる。

 ヂヂヂヂヂッと足もとをふるわせる、低いイカクの声。

「林でくらすハタネズミに……似ていますが。あんな巨大なのがいるはずない」

 ブルーシートのカゲから、七海さんがノドを鳴らす。

「来るぞ!」

 涼馬くんの大声!

 金しばりにあってたみんなの体も、そして巨大なケモノも、同時に動いた!

 涼馬くんがぶん投げたタイマツが、火の粉を散らして回転する!

ガッ!

 巨大ネズミの足に命中し、相手はうしろへ飛びすさった!

 そのスキに、楽さんがあたしたちをふり向く。

「注意! アタッカーは、ネズミの注意を引きつけて時間をかせげ! ほかは楽班の第二陣地へ、ケガ人を移送! 負傷中の唯にかわり、ぼくがアタッカーに入る!」

「了解!」

 注意って言葉に、一瞬で頭がきりかわって、カラダが動きだす。

 これってきっと、S組のキビしい訓練のおかげだよねっ。

 あたしは自力で歩けない唯ちゃんを、すぐさま背おった。

 ナオトさんが先頭に立つ。

「第二陣地は、村のおく、山の西にある洞くつだ! オレが案内する!」

 あたしは真夜中の闇へサッと目を走らせ、目的地をカクニンする。

 今いる浜べから山を見あげ、ナナメ左方向に、村のあと地がある。

 そこから右寄りの、頂上のほう。

 一本、背の高い木がぴょこんと突きだしてる、あのあたりか──!

「ゴー!」

 楽さんがくわわった、涼馬くんと千早希さんのアタッカー三人が、たき火からマキを引っこぬき、あたしたちを守って背後に立ってくれる。

 いったんさがった巨大ネズミは、もう次の攻撃のために、前足をふんばってる。

 あたしたちのキョリは十メートルもない。

 逃げるのに時間をかけるだけ、アタッカーの命が危なくなる!

 行こう! と駆けだしかけて、足を止めた。

「うてな!?」

 ボーゼンと立ちつくしたままの、彼女のちっちゃな背中。

 うてな、変だ。ホントにどうしちゃったの!?

「行くよ!」

 肩をつかんで、ゾッとした。

 うてなの視線の先──。

 ネズミが、立ちはだかる涼馬くんたちを飛びこえ……うてなと見つめあってる?

 うてなのギラギラしてた瞳の光が、どんどん弱くウツロになっていく。

 まるで、ネズミの光る瞳に、命を吸いとられていくみたい!

「うてな!? しっかりして!」

「……マメちゃん」

 ガクガクゆさぶって、なんとか我にかえらせる。

 そこからは無我夢中だ。

 アタッカー三人が、ぶじでありますように!

 そう祈りながら、木々をかきわけ、ひたすら夜の森を走った!


    ***


「危ないっ、ストップして!」

 トロッコ台車の中から、唯ちゃんがさけんだ。

 後ろから押してたあたしたちは、あわてて急ストップ!

 レールの先が、たわんで曲がってる。

 その真下は、大きな──隕石が落ちたアトみたいな、深い穴ボコが!

 見まわしてみたら、畑のあと地だったところに、同じような大穴があちこちにあいてる!

 あの巨大ネズミが巣を作ったんだ。

 これじゃ、トロッコが使えない!

 七海さんがロープでささっとハーネスをつくり、唯ちゃんをおんぶする。

 登ってきた道はくねくね曲がってるから、木々の向こうはなんにも見えない。

 だけど、ネズミと戦う気配が、どんどんこっちに近づいてくる。

「あたしたちを追ってきてる……?」

 つぶやいたとたん、だまってたうてながビクッと反応した。

「もっ、もうヤダ! ボクッ、こんなの、やっぱもうムリだよぉ!」

 彼女はとつぜん、穴ボコだらけの畑へ飛びだしていく!

「うてな!? な、七海さん、先に行ってて! すぐ連れもどします!」

 うてながドロのぬかるみに足をすべらせ、その場に尻もちをつく。

 あたしは駆けよって、彼女の手をつかんだ。

「うてな、落ちついてっ。楽さんはアタッカーに入ってて、健太郎くんは手を使えない! 今、ちゃんと動けるディフェンダー、うてなしかいないんだよ!」

「ボ、ボク、できない。ムリッ」

 うてなはウデを引っぱっても、立ちあがってくれない。

 アゴまで震えて、歯がガチガチ鳴ってる。

 瞳も光が消えたままで、どこを見てるかもわからない。

 うてな、いったいどうしちゃったの!?

 こんなところで時間を食ってる場合じゃない!

 涼馬くんたちが殺されちゃうかもしれないのに!

「うてなはできるよ! ディフェンダーの優秀生でしょっ? 楽さんの実習だって、いつもホメられてた! さっきだって実地訓練やりぬくって言ってたじゃん!」

「ホントはやだよっ。ギブアップしたかった! でもっ、──マメちゃんのせいだよ!」

 うてなの悲鳴みたいな声が、きんっと鼓膜を打った。

「マメちゃん、学校の訓練じゃ〝担当ナシ〟って言われてたのにっ。だからボク、実地訓練でマメちゃんを守ってあげるんだって決めてたのにっ! なのに……っ、なのに」

 バチッと視線がぶつかったとたん──。

 ぼろぼろっと、うてなの大きな瞳から、涙が落っこちた。

「ボクは自信あったのに、いざとなったら頭がまっしろになって、なんにもできなくって……っ。だってボク、自分一人っきりで、人の命なんてあずかったことないもん! コワいよ!」

「……うてな……」

「なのにマメちゃん、ボクの仕事をとっちゃったんだ。マメちゃん、トクイがないなんて言ってたのに、カツヤクしてるっ。リョーマにも認められてる。こんなのヒドイよっ! マメちゃんは攻守陣なんでも選べるけど、ボクはっ、ディフェンダーしかできないのにぃっ!」

 あたしは、土のうえにヒザを落とした。

 ……うてなが元気なくなって、ムキになっちゃってたの、あたしのせいだったの?

 あたしが追いつめてた?

 でもこっちだって、「トクイがある」うてながうらやましかった。

 一人だけ、なんにもコレってものがない自分がツラかった。

 トクイなし子のあたしは、ただ、できることを必死にやってくって、それだけで……。



 地面のドロを、ぎゅうっと指でにぎりこむ。

「マメッ、うてな! よけろ!」

 涼馬くんの声!

 二人で顔を向けたら、まっくろい巨大な影が、あたしたち目がけて突進してくる!

 ネズミの巨体が、レールと手すりの杭をふっとばした!

 その背後から、アタッカーたちが追いあげてくる。

 火のついた矢が、ドッとネズミの背中に命中した!

ギィィィィッ!

 悲鳴をあげてふりあげたシッポが、涼馬くんをねらう!

 彼は木だちの幹をけりあげ、頭上の枝に飛びついた。

 シッポが、涼馬くんの足のすぐ下をかすめる。

 続いてソレを、楽さんがしゃがんでよける!

 だけど千早希さんが巻きぞえを食って、ふっとんだ!

「千早希!」

 ドッと地面に転がった彼女のところへ、楽さんが駆けよる。

 あたしは道のさき、まだ角も曲がりきってない七海さんたちを見あげた。

 うてなはヘタりこんだままだ。

「逃げろ!」

 涼馬くんがあたしたちに全力でさけぶ!

 こっちにトツゲキしてくる、巨大ネズミの、光るふたつの眼。

 それが、うてなをヒタととらえてる。

 大ガマみたいな鋭い爪が、地面の土をえぐってふっ飛ばす。

 今、あたしが逃げたら、うてながヤラれる。そのあと七海さんたちも。

 ──おれは、双葉マメの観察力を評価しています。

 涼馬くんのさっきの言葉が耳によみがえる。

 どっどっどっと口から飛びだしそうな心臓。

 落ちつけ。そうだよ、まわりを観察して。

ガッ!

 ウデをのばし、地面に転がってた手すりの杭をつかんだ。

 いくら大きくたって、生身の動物だ! 攻撃されれば痛みを感じるハズ!

「この杭で、きっといける!」

 あたし、パパとママが死んじゃって、お別れしなきゃいけないのを知ったとき。

 二度とこんなのはイヤだって思った。

 なのに、その「二度め」も止められなかった。

 ノドカ兄が、とつぜん姿を消しちゃったときも……!


 去年の秋、冷たい雨の日だった。

 学校からいきなり「ノドカさんがゆくえ不明になりました」って電話が来たんだ。

 でも学校も警察も、ロクにさがしてくれなかった。

 彼が友だちに送ったメールに、「サバイバーより、もっとおもしろいコトを見つけた。さがさないでくれ」って書いてあったんだって。

 ……あたしはあんなメール、信じてない。

 サバイバーの仕事はたしかに大変だろうって、訓練一か月で思い知ったけど。

 ノドカ兄は、あたしとチームを組める日を、楽しみにしてるって言ってくれた。

 あたしの「約束のしるし」を受けとってくれた。

 なによりあたしは、ノドカ兄がサバイバーにあこがれる気持ちも知ってる。

 彼はたぶん、あたしの親に守られて生きのびた命を、ダレかに返さなきゃって思ってるんだ。

 そのノドカ兄が、おもしろいかどうかで、サバイバーの仕事から逃げるはずない!

 だから!

 あたしは、S組で情報を集めて、自分でノドカ兄をさがすって決めてる!

 そのためにもっ、そして、だれかがいなくなっちゃう、「三度め」を止めるためにも!

 今度こそ、全員そろって、生きて帰る!

 大ネズミに立ちむかい、重たい杭を両ウデでかかえ、足を開いてふんばる。

「マメちゃん、逃げなよ! 逃げなってばっ!」

「うてなが逃げて!」

「バカ! 逃げろ!!」

 涼馬くんのほえる声!

「イヤだ!」

 あたしは全力でリーダーの命令をハネのける!

「────もう!! マメちゃんのバカァッ!」

がしっ。

 うてなが後ろから、杭を支えてくれた!

 おかげでウデも足もしっかり踏んばれるっ。

 もう、ネズミの鼻先のヒゲまで見えるキョリ!

 大きく開いた口のなかに、二本のするどいキバが光る!

 恐怖で勝手につぶろうとするまぶたを、必死にこらえて、タイミングを待つ。

「いくよ、うてな! 3、2、1!」

「「ゴーッ!!」」



 あたしたちは呼吸をあわせ、大ネズミの上アゴめがけ、全力で杭を押しだした!

ドッ!

 重たい手ごたえ!

 とどろくような絶叫に、頭が割れそうになる。

 杭をはなそうとした瞬間、ヒュッと空気をさく音が耳をかすめた。

 続いて、全身に衝撃!

「グ……ッ!!」

 シッポでなぐられたあたしたちは、宙へふっとぶ!

 あたしはとっさにうてなの手首をつかみ、胸に引きこんだ!

 枝や葉っぱが体をかすめていく。

 歯を食いしばって痛みをこらえ、背中を地面に打ちつけた。

 止まった、と思いきや、

ぐんっ。

 右手を下に引っぱられた!

「うわっ!?」

 手をつないだままのうてなの体が、大穴の中に、すべって落っこちていく!

 さっきのネズミの巣か!

 あたしも体を持っていかれながら、トロッコのレールをつかんだ!

 うてなをぶらさげた右うでがビンッとはり、ヒジの関節がぬけそうになる!

「う……っ!」

 ダメだ、左手がレールをすべっちゃって、ずるずる穴に近づいていくっ。

 穴底に目をやって、冷やアセが噴きだした。

 折れた木の幹や杭が、こっちに切っ先をむけて突きだしてるっ!

 これ、落ちたら死ぬヤツ……!?

「マメちゃんまで落っこちちゃうよぉ!」

「うてな! あきらめちゃダメ!」

 うてなはちっちゃいけど、さすがに片手でぶらさげるなんてムリだ。

 だけど、親友を見捨てるなんて、ゼッタイにできないよ……っ!

 上から砂のツブがふってくる。手首の筋がちぎれそうだ。

ビィィィィィィィ~~~~~~ッ!

 その時、遠くでホイッスルの音!

 それも信じられないほど大きく、何倍にもひびく音が山をこだまする!

 大ネズミのさけび声のあと、あたりは急に、シンと静まりかえった。

 なにがなんだかだけどっ、そうだ、ホイッスル!

「うてな! ベルトを両手でつかんで! あたしは手をはなすけど、絶対につかんでてね!」

「マ、マメちゃぁん……っ」

 うてながぶるぶる震えながら、あたしのベルトに左手をかけ、右手もどうにか移動させる。

「逆立ちウデ立て、マジメにやっといてよかったよ……っ」

 あたしは空いた手で、胸から水色のホイッスルを抜きだした。

 そして肺のすべての空気を、ホイッスルにたたきこむ!

ピィ───────ッ!

 ノドカ兄がくれた、「ゼッタイに救けにきてくれる」約束のホイッスル。

 くちびるにホイッスルをはさんだまま、がしっと両手でレールをつかみなおす。

 しびれてカンカクのなくなった指が、また、ずるりとレールをすべる。

 も、もうっ、落ちる──っ!

 ヤダ! あきらめないっ! なにかつかむモノはっ! 助かる方法は──!?

 必死に目を走らせたとたん、

ガシッ!

 だれかが、あたしの手を捕まえてくれた!


「マメ!」


 目を見開いた。

 ずっとずっと会いたかった、あの笑顔が、そこにある!

「ノドカ兄……!」

「この、バカッ!」

 上から、思わぬ声にしかりとばされた。

「だからS組なんてやめろって言ったんだ! わざわざ死ぬことないだろ! せっかく親とノドカさんに救けてもらった命なのに!」

 上から本気でどなりつけてきたのは、

 ……ノドカ兄じゃない。

 一瞬だけ見えたマボロシが消えて、かわりに、険しい顔がしっかりと見えてくる。

 ノドカ兄より強く光るまなざし。

 あたしは大きく息をすいこみ、彼の名前を呼んだ。

「涼馬くん──!」




▶次のページへ


この記事をシェアする

ページトップへ戻る