9 涼馬班のサバイバル生活!
二日目、早朝。
涼馬リーダーによる朝の会で、今日の予定を決めたあとは、さっそく教室のすみにレンガブロックをしいて、たき火台を設置!
飯ごう炊さんにチャレンジしたんだ!
マッチからの火起こしも、めちゃくちゃ手こずったけど。
自分が苦労して炊いたごはんで、二人が喜んでくれたの、すっごくうれしかったっ。
──さぁ、腹ごしらえがすんだら、
涼馬班、いざ、「村あと地」へ冒険だ!
山道のとちゅうで、七海班が仲よく食べもの集めしてるトコとすれちがった。
彼女たちのカゴの中は、すでに野草やキノコがたっぷり。
「七海さん、これは? シメジ?」
木の根もとにいっぱい群れてる白茶のキノコを、唯ちゃんが指さす。
「それはニガクリタケです。毒キノコですね。食べれば腹痛ケイレン、手足のまひ、死亡例もあり……」
「うわっ、危なかったァ! おいしそうとか思っちゃったよっ」
「リーダー、さすがですねぇ。唯はさっきからハズレばっかじゃん」
健太郎くんと唯ちゃんがおたがいを小づきあう。
なるほど……っ。
スーパーコンピューター七海さんがいれば、毒キノコの判定もバッチリだな。
あたしも教科書の「食べられる野草」は頭にたたきこんできたけど、キノコの見わけは、初心者にはハードルが高い。
涙をのんで、マイタケに似た、おいしそーなキノコさんたちのわきを通りすぎる。
最初から七海さんみたいにはウマくできないのは、わかってるもん。
自分がさがせる安全な食べものを、根性で見つけるしかないっ!
そう決意して、ヘビみたいな細い道をくねくね登り──。
深い谷間のさきに、やっと家がポツポツあらわれはじめた。
だけどどれもこれも、土砂に押しツブされて、くずれてる。
「うわぁ、ほんとにどの家も、住めるカンジじゃないね。涼馬くんの言ってたとおりだ」
「しかもガケの谷間だもんね。おうちのすぐ後ろ、めっちゃ岩ハダじゃん」
やっぱりココに住むのはムリそうだなぁ。
坂道もだんだん険しく、ヤブの深さは歩きづらいほどになってきた。
まぶしい陽ざしの中、あたしは食べものをさがし、目を皿にする。
頭のうえの木々、足もとの草!
どっかに、写真で見たような葉っぱはありませんか~っ。
──と、クツの先に、なにか銀色のモノが光った。
鉄の棒……?
まわりの草をよけてみたら、前後にずーっと長く続いてるみたいだ。
「レールだ」
ここに電車が通ってたなんてコトないだろうし、それにしては幅がせまいよな。
そのワキに、緑色の丸い石みたいなのが落ちてる。
「ん? んんんんんっ??」
わっさりと葉っぱが伸びてるや。石じゃない。なにかの球根?
いや、この左右そろってついた葉っぱのカタチは……!
「マメちゃぁーん? 早くおいでよー! リョーマ見失っちゃうよ~っ」
「うん、ごめんっ。ちょっと待って!」
あたしはしゃがみこみ、葉っぱの根もとから引っこぬいてみる!
ずぽぉっと土からぬけたのは……、いっぱいポコポコと連なった、丸いかたまりっ!
「ジャッ、ジャッ、ジャガイモォ!」
土の上に出てたのが、緑に変色しちゃってたんだっ。
でも下のほうは、ちっちゃくても、きれいな黄土色のジャガイモさんだ!
「ジャガイモ!? マジでっ!?」
「なんだって!?」
二人が小走りにもどってくる。
しかもあたしがつかんでるのと同じ葉っぱが、そこかしこに、いっぱい生えてる!
「そっか、ここ、もともと畑だったんじゃないっ? それで野生化したジャガイモが、勝手に生えてて……! あっ、このレールは、収穫したのを運ぶためのトロッコだよ!」
「マメちゃん、えらいっ! えらすぎる!」
「このヤブの中で、よく葉を見わけたな。でかしたぞ、キャンパー!」
バンッと二人に背中をたたかれた。
これでとりあえず、腹ペコで死んじゃうことはなくなったよね!?
あたしはジャガイモを青空につきあげた。
「エネルギー源、ゲットだぁ──っ!」
***
畑からの帰り道。
堤防むこうの浜べに、楽班のメンバーが見えた。
ブルーシートで作られたイケスには、釣った魚がビチビチはねてる。
さすが楽班、ヨユーで無人島サバイバルをこなしてるなぁ。
と思ったら、
「くらえ~っ、水バクダン!」
ヨユーがありすぎて、バケツで水のかけあいっこをやってるよ!
「ぶわっ! 楽くん、チョクゲキはひどいなぁ!」
「アハハッ、楽もナオトも、ずぶぬれじゃない」
笑いあう三人は、まさにきらっきらの青春だ。
「なんか楽しそーだねぇ、マメちゃん」
「ホントだぁ。けどあたしも、この生活、ちょっと楽しくなってきちゃったかも」
訓練だからってピリピリしてたけど、今は要救助者がいるわけでもないし。
楽しめるなら、楽しんじゃってイイんだよなって。
オトナぬきの無人島で、ぜーんぶ好きに自由にどーぞ! って、けっこうスゴイよねっ。
両うでで抱いたジャガイモに、口がニッと笑っちゃう。
うん。なんだかあたし、どうにかやってけそうな気がしてきたぞっ!
陣地に帰って一段落したあたしたちは、陽ざしがあったかいうちに、井戸で服とカラダを洗っちゃおうってことになった。
女子が井戸を使ってるあいだ、涼馬くんはトロッコの台車をさがしてくるって。
そんなわけで、涼馬班はいったん解散した──んだけど。
「……なにやってんだ、あんたたち」
教室に帰ってくるなり、涼馬くんが顔をひきつらせた。
あたしとうてなは、ぴったり体をよせあい、紫色のくちびるでガクブル震えてる。
「リョーマ、大変だよっ。うちの班のマッチが不良品だったんだよっ」
「どういうコトだ?」
「たき火つけて、髪と洗濯ものを乾かそうと思ったんだけどね。マッチが全部つかないの! 朝は一本めでシュッとついたのに、一番うえの一本だけ、使えるヤツだったみたい」
彼も帰り道、体を洗ってきたらしい。
ぽたぽた髪から水をたらしながら、床にちらばったマッチをひろう。
そして、ハァ……と大きなタメ息。
「あのな。マッチは潮風でシケってるだけだ。乾いた布にはさんどけ」
「えええっ!? まだ使えるの!?」
「こすりまくってるから、もうダメになったかもしれないけどな」
彼はポケットから出した白っぽい石と、ナイフの背をシュッシュッとすり合わせる。
飛んだ火花を枯れ草にそっと包み、息を吹きこむと──、
みるみるケムリがあがり始めた!
「うっ、うそぉ……! ボクたちあんな必死にやったのにっ、もう火がついた!」
「そ、その石、ふつーに川原に転がってたヤツだよね? それで火がつくの?」
「鉄をケズれる硬さの石なら、なんでも火打ち石のかわりになるんだよ。あとは自分でやれ」
「「了解!」」
あたしたちは火種を受けとり、ビッと敬礼のポーズ!
──そうして。
大きく育てた火が、パチパチ音をたて、あったかく照らしてくれる。
おかげで冷えきってた体もぬくもったし、長い髪も乾いてきた。
うてなはコタツに入ったネコみたいに、背中を丸めてお昼寝モードになっちゃった。
涼馬くんは離れたつくえで、なにやら書きもの中だ。
まだ髪がぬれてるみたいだけど……。
もしかして、あたしたちが冷えきってたから、火の前をゆずってくれたのかな。
思わず、そっけない横顔をカンサツしちゃう。
……でも涼馬くんてさ。楽さんも言ってたけど、ほんとに「理想のサバイバー」だよね。
ずっといっしょにいて、たのもしいリーダーだよなって、ますます思う。
S組のアタッカー授業のときだって、ほかのコの相談にのってる姿を、よく見かけた。
本人がムリってあきらめないかぎりは、がんばれって、ひっぱり上げようとしてたんだよね。
……あたし以外には。
なんかさ。いくら足手まといだからって、あたしだけに塩対応なのは、不自然じゃない?
あたしに冷たくしてくるの、なにかほかに理由があるのかな。
もんもんと考えてたら、本人に気づかれちゃった。
「なんだよ」
「な、なんでもないっ。なに書いてるのかなって」
アワアワしながら、彼の手もとをのぞきこむ。
そしたら、連絡帳にこの島の地図を描いてたとこだ。
あたし、エンリョなしに近づきすぎたかな。
涼馬くんはこっちに首を向け、ふいに真顔になった。
顔の前にたれてたあたしの髪に、彼の指が、そっとふれる。
ドキッと心臓がはずんだ。
至近キョリの、シンケンな赤茶の瞳。
なにか、あたしのむこうにダレかをさがすような……そんな色?
「な、なに?」
「……いや。ヒマなら、地図に、あんたが持ってる情報を書きこんどいてくれ」
ペンを渡されて、あわてて大きくうなずく。
な、なんだったんだろ、今の。
──あ、そっか。あたしの髪が乾いたか、カクニンしてたのかな?
きっとそういうコトだよねっ。
あたしはブルルッと首をふってから、地図に自分の食材情報を書きこんでいく。
たき火の前にすわった彼は、ナイフで長い木の棒をけずりはじめた。
「なに作ってるの?」
「木ヤリ。さっき村で、イノシシの足あとを見つけた」
「捕まえて食べるのっ? お肉!?」
「ふえっ? お肉ぅ!?」
あたしの大声に、うてなまでガバッと起きあがる。
目をきらっきらに輝かせるあたしたち。
──に、涼馬くんが半眼になった。
「バァカ。襲われたときの、用心だ。猟銃もなしにイノシシと戦うなんて、リスクが高すぎんだろ。『サバイバルの五か条』、『イ』は」
「「『命を大切にせよ』です」」
「正解」
「イノシシステーキよ、さらば……」
あたしはガックリ首をうなだれる。
と、涼馬くんが急に、ゲホッ、ゴホッとムセだした。
「どうしたの? カゼっぽいなら、うてなに看てもらったら」
のぞきこんだあたしのおでこを、彼はぐいいっと手のひらで押しかえす。
おやや?
あたしは目をまんまるにして、うてなと顔を見合わせた。
これは、よもや。
「涼馬くん、笑ってるでしょ!」
「隠すのナシーッ!」
「ゲホッ、やめっ……、」
必死に顔を隠そうとするウデを、二人がかりでムリやり下げちゃう!
そしたら──、顔を真っ赤にして、どう見たって大笑いをコラえてる!
「やめろ、バカ」
くしゃくしゃのその笑顔は、思いのほかかわいらしくって。
ぶはっ。
あたしたちまでふきだして、爆笑しちゃった。
